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4-01 華千院


時期は10月最初の日曜日、瑞樹の龍神との貴船の一件より、5日後の事。


場所はK都府、華千院(かせんいん)本家。


その奥之院にて、華千院(かせんいん) 重道(しげみち)は正座をし、本家の現当主……祖父直中(ただなか)への報告をする為に、独り、お出ましに成られるのを待っていた。


左右に分家のお偉方が座って並ぶ中で、静かに目を閉じ、待って居るのだが


その中で、瑞樹の龍神との報告をせねばならないと思うと、かなり気が重い。


だが、その『重い気』も、ただ気持ちの問題だけではなく、その場の空気が一気に重くなる。


当主……直中(ただなか)が現れたからだ。



その場に居る分家のお偉方が一斉にお辞儀をし、重道も正座のまま畳に額を擦り付ける様に、深くお辞儀をする。


「重道よ、面を上げよ」


「はっ。御爺様に至られましては、益々の御清祥のことと……」


「世辞など良い! して……瑞樹の龍神の返答は如何様に?」


「…………単刀直入に申し上げますと……交渉決裂でございます」


一気に騒がしくなる分家のお偉方。



「マズイ事に成りましたな……」


「神と事を構えるなど……」


「こちらに無礼があったのではないか……」


みんな言いたい放題である。



「みなの者、静ずまられよ!! また味方に成らないと決まっただけで、敵に成ると言われたわけではあるまい」


当主の声で一気にざわつきが収まり、水を打ったように静かになる


「そうですね、敵対するとは言われませんでした」


「ならば、龍神を刺激せぬ様、事を進めねばならぬ。元人間とはいえ国津神……国を護ろうとする事が優先されるであろうから、出来るだけ一般人に被害が出ぬ様にすれば、龍神も動くまい」


「はい、もう少し経てば、旧暦の神無月に入ります故、出雲へ軟禁状態になります。そうなれば龍神だけでなく八百万の神々からの邪魔は入らないかと」


「うむ。瑞樹の龍神の方は。それで良いとして……晴明の行方は掴めそうか?」


「ヤツの使役している雷獣に、追跡を掛けようとしましたが、瑞樹の龍神に阻止されてしまいまして……それ以降、目立った動きがありません」


「所在さえつかめればな……新組織、八荒坊の情報はどうじゃ?」


「そちらも、所在は掴めていないようです」


そもそも八荒坊は、日本各地で湧いて出た異形を退治するために、自衛隊と合同で出払っていて、晴明どころの騒ぎでは無いのだ。


「誰か、晴明を引き摺り出す、良い案はないか?」


当主の言葉に、分家の方々が困った顔で首を垂れる。



「少し荒事になっても良ろしいなら、この重道に案がございます」


「採用するかどうかは兎も角、申してみよ」


「はっ。私の案は、先祖安倍晴明(あべのせいめい)の置き土産を使い、京の都の結界を強化するのです」


「なに? 結界とな?」


「はい。ここ京には、晴明(せいめい)神社がございます。そこから晴明の名を継いだ者へ、霊氣が流れて行っているのは御存じですよね」


「うむ、此処に居る者は、みな晴明の子孫であるからな。それは知っておる」


「その氣の流れを止めたら、今使役している火之加具土命を維持することは出来ないでしょう」


火之加具土命……あまりこの名は出したくなかった。


なぜなら――――――



「なんと!! 火之加具土命!?」


「神を使役しているというのか!?」


「何という罰当たりな!」


「それより、神を使役できるほどの霊力が恐ろしい……」



ほらな……分家の方々の士気が、だだ下がりに……


だが、そんな騒めき声を、当主直中の一喝で黙らせ、続けよとの言葉で話を続ける。


「分家の方々のご懸念は、ごもっともです。しかしながら、使役するのが神と言っても不完全な紛い物。本物であるなら神話の『神産み』は無かった事に、成ってしまいますからな」



「言われてみれば……」


「確かにそうじゃな……」


「重道殿の言われるように紛いの神かも……」


分家の方々の、意見の流れが変わって来た。もう一押し――――――



「紛いの神であるなら、恐れるに足りません。あとは霊氣の流れを遮断すれば、自然と消滅いたしましょう」


「重道よ、大言壮語な事を吐くが、どうやってそれを成し遂げる」


「はっ。それは…………お耳を拝借して、よろしいでしょうか? どこに患者が潜んで居るやもしれませぬゆえ」


「うむ、近う寄れ」


「では……」


今回の概要を祖父直中へ耳打ちすると――――――


「……面白い、やってみるがよい! 良い報告を待っておるぞ」


「はっ、お任せください」


当主、直中の許可を得られた重道は、祖父に向かい深くお辞儀をすると、そのまま奥の院を後にしたのだった。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




一方、同刻。


北関東の瑞樹神社にて、龍神達による神社の修繕が行われていた。


「すみません棟梁。お休みの処、手伝って貰っちゃて……」


「いやなに、千尋ちゃん達だけで修繕してるって聞いてな。丁度、1棟仕上げて手が空いたばっかでよ。暇だったし、何もしないのも身体が鈍っちまうから……よっと」


「本当に助かります。この前の休みの水曜と土曜で頑張ってたんですが、なかなか進まなくて……」


「素人じゃ仕方ねーさ。俺だって普通の大工であって、宮大工じゃねーからな……おぅ、そこの兄ちゃん。もうちっと削ってくれや」


棟梁が、梯子の下で眺めていた尊さんに指示を出す。


「あん? なんで俺が……だいたい、ぶっ壊したのは建のオッサンと天津のオッサンだろうが!」


「はいそこ、文句言わない。セイと建御雷様は柱支えてるんだから。手が空いてるのは尊さんだけなの、僕も梁を支えてるんだしね」



尊さんの嫌そうな言葉を聞いて、建御雷様が申し訳なさそうに――――――


「すまんな尊。儂が酔った勢いで、相撲を始めたから……」


「あぁ、オッサン、みなまで言うなよ。分かった……分かったから、そんなガッカリした顔はやめてくれ。止められなかった俺にも、責任があるし……で? どのぐらい削んだ?」


尊さんは棟梁の指示で削りながら、何度も叱られていた。


さすが職人。容赦ねえ……



「みんな、そろそろ10時回るし、お茶にしない?」


香住が巫女装束姿で、お茶をお盆に乗せて持ってくる。


「おう、高月の嬢ちゃんありがとよ」


「じゃあ、梁はつっかえ棒しときますか?」



仮のつっかえ棒をして、香住のお茶を頂くことにすると――――――


「こいつは、この辺の菓子じゃねえな? どこか旅行でも行ってきたのかい?」


「実は学園祭の振り替え休日に、K都の方へ行ってまして……そこで知り合った方の御勧めで買ってみました」


知り合い……あぁ、貴船の龍の巫女。小川伊織さんの事か


なるほど、あの後も何度か、淵名の龍神さんに龍脈を開けて貰っては、京野菜やらお菓子やら買いに行ってたしね。


と言う事は、このお茶も宇治茶かな?


手に持てる程度の荷物なら、龍脈は移動に便利だわな。


大きすぎると、つっかえてしまい、通らないけどね。



「千尋、そういえばさ。信一さんから連絡はないの?」


棟梁が居るので、神器の事は伏せながら、僕に聞いてくる。


「んー。そういえば、もう5日目だね」


神器は普通の鍛冶より、さらに手間が掛かるって天津麻羅様が言っていたが、人間の信一さんは神様とは違うので、倒れて無きゃ良いけど……


何度か電話しようとは思ったけど、集中している処に電話鳴らすのも悪いと思って、向こうからの電話待ちの状態なのだ。


外で待って居るはずの、神器修復の依頼主である穂高見様へ連絡したくも、穂高見様はスマホ持って無いしね。


直接見に行きたくても、僕たち水神の龍は、水氣が強すぎるから、絶対入るな! と、止められてるし……


仕方なく、ただ待つだけなのであるが……流石に、ちょっと心配である。


今日、修繕が仕上がったら、様子を見に行ってみるか、過労で倒れてたら嫌だし。



「このお茶も、この辺で売ってるお茶じゃねーな?」


「さすが棟梁、お目が高い。それもK都で仕入れたんですよ」


やっぱり宇治茶か、宇迦之御霊様の処へ行けば、神使のハッコさんが厳選の茶葉をくれるのだ。


そういえば、学園祭で使った茶葉のお礼に、関東の稲荷寿司を持って行ったきり、逢って無いな。


何かあれば、御狐ネットワークで、人間化け学の修業に来ている、コンタかコンペイに連絡来るし。


便りが無いのは、元気な証拠と言うしね。


そのコンタとコンペイは、社務所で婆ちゃんと、神使の桔梗さんの膝の上で、撫でられている。


何故なら、社務所が瑞樹神社で一番の、人間とのやり取りがある場所なので、会話のやり取りを見て人間観察をして居るらしい。


化ける修業は、社務所が閉じた夕方以降に、荒神狼のハロちゃんに見て貰ってるらしいが……


この前は、山で生意気な熊を倒したとか言ってたし。人間への化ける修業というより、野生の修業をしているようだ……ワイルドフォックスに成ったりして?



「そう言えば棟梁、お昼は何が良いですか?」


「なんでぇ、昼なんかウチで食ってくらーな」


「いやいやいや、タダで手伝って貰ってるのに悪いですって。せめて、ご飯ぐらいは出させてください」


香住も落ち葉が凄くて、それを箒で掃くのに忙しそうだし。


この時期に成ると、掃いた傍から、また落ちてくるからね。毎年大変なのである。



「じゃあ、お寿司が良いな。関西で肉系メインだったし」


セイが知れっとお寿司を推して来る。


川床で鮎の塩焼き食ってたくせに……コンニャロメ


「兄ちゃん、寿司が食いてえのか? じゃあ、最近若いのが握る寿司屋で良いか?」


棟梁には霊力が無いみたいで、セイの角は見えていない。


なので龍でなく、普通の兄ちゃんって認識である。もちろん僕の角と尻尾も見えていない。


しかし……若いの? なんか嫌な予感。


「棟梁、その若いのって……金髪で赤い(蛇)眼じゃありません?」


「なんでぇ、千尋ちゃん知ってるのか? いやなに……この間、店に寄らして貰ったらよ。修業中の身だって言うんだが、結構美味くてな。話もおもしれえし、将来が楽しみなんだ」


左様で……やっぱりオロチの壱郎君か……世間は狭いな。



セイは嫌な顔をしていたが、棟梁の勧めで壱郎君の勤め先である、お寿司屋さんに決定した。


その後も、お昼の時報まで修繕は続き、お昼になると寿司の出前を持って、壱郎君が現れる。


「なぁ……何時からこの神社は、龍水神じゃなく、建物の神に鞍替えしたんだ?」


「鞍替えはしてないよ! 今迄も、此れからも、水神を祀る神社だよ!」


祀る神様を鞍替えだなんて、淤加美様が聞いたら怒られるぞ。


その淤加美様も、ウチの中で揚芋食べながら、ゲームやってるだろうけどね。


本当は、淤加美様飛べるので、梁を押さえるのを手伝って欲しいけど……棟梁の手前、見せる訳に行かないから仕方がない。



壱郎君は、大工仕事をしている僕らを、不思議そうに見ながら――――――


「まあいいや、おや大工の棟梁さん。妙な所で逢いますね」


「おう、今日はここの手伝いをしてるのさ。また夜にでも飲みに寄らせてもらうぜ」


「ええお待ちしてます。そうそう、大将が例の酒が入ったって言ってましたよ」


「そうかい! そりゃあ楽しみだ」



壱郎君……すっかり店員が板に着いちゃって、ちゃんと接客しているし


本当に、オロチは順応力が凄いな。弐頭目のオロチである鴻上さんも、女子高生やってるしね。


香住が壱郎君から寿司桶を受け取ると、ウチの中へ入って行く。香住から、お味噌汁良い匂いがするし、例の伊織さんに教わった、京風の味噌汁かな?


本当に助かります。



「じゃあ、俺はいくぜ」


「ちょっと、壱郎君。一緒に食べていかないの?」


「最近注文が増えて、出前の配達が忙しくてな……嬉しい悲鳴よ。そう言う事なんで、空の桶はその辺にでも置いといてくれ、夕方取りに来るからよ」


壱郎君は、そう言って鳥居をくぐり、石段を下りて行った。


もうこのまま人間として暮らせよ……その方が平和だし。



去って行った鳥居を見詰めながら、そう思っていると、オロチの壱郎君と入れ違いに、見た顔が現れたのだ。



あれは……神木先輩?


赤城の龍の巫女の神木先輩が、深々とお辞儀をしながら歩いて来た。


今日は巫女装束ではなく、学園の制服で現れたので、久々に神木先輩の制服姿を見た気がする。


学年が違うと、なかなか顔を合わせないしね。あっ、2年の小鳥遊先輩は例外ですから


あの人は休み時間とかになると、自分から僕の居る1年の教室へ遊びに来るので、顔を合わせない時の方が少ないぐらいである。


小鳥遊先輩の同学年に、友達が居ないのかが心配だけど、まあ……祓い屋なんかやってる異能者だと、普通の人と付き合い辛いのかもね。見えなくて良いモノも見えちゃうし……



さて、話は神木先輩の方に戻るが、また赤城の龍神さんが脱走したのかな? そう思ったのだが、赤城の龍神さんは小さく成って、神木先輩の肩に乗ったままだった。


棟梁が香住に呼ばれウチに入った処で、二人に話しかける。


「どうかなさったんですか? 見た処、赤城さんは肩に居るし、赤城さんの捜索って訳じゃ、ないですよね」


「実は……お願いがあって参ったのです」


何か込み入った話がありそうなので、ウチの中へ……と思ったが、棟梁が居るのか……じゃあ別室へ案内して、お寿司は取り分けて貰って持って行く事に――――――


別室にて、一通り食事が終わり、食後のお茶をお出しすると、神木先輩がお願いとやらを切り出す。


「私は、明日から修学旅行でK都とN良県へ行くのですが、その間……赤城の龍神様をお願いしたいのです」


「はい? ちょっと待ってください。先輩は居なくも、御両親が居られるでしょう」


僕の問いに、赤城の龍神さんが――――――


「志穂の両親は、神社の事を良くやってくれているのですが、我の事は見えないんですよ」


「はい。赤城で私以外では、龍神様のお姿を見れる者は居りませぬ」


そうか……龍の血筋は大戦で亡くなられて、神社庁によって外から派遣されたんですよね。


と言う事は、お姿が見えないのも仕方ないのか?



そもそも神族は、神側から人化して、人間に見えるよう仕向けない限り、普通の人には見えないのだけどね。


だったら赤城さんも、ウチに遊びに来ている時みたいに、龍から人化して、御自分の社で神木先輩の御両親の宮司さん達に、御世話してもらえば良いと思うのだが――――――


赤城さん……人間嫌いだしなぁ……


自分から姿を見せて、人間に世話をしろ! とは、言わないだろう。


その辺、唯一の人間でも、多少心を許しているのが、龍の巫女である神木先輩と言う事か。



「成程、話がよめました。神木先輩の留守中に、赤城の龍神さんを、御世話をすればいいんですね?」


「なんなら我を、千尋さんの婿に貰ってください」


「龍神様、それは駄目です。赤城が無神状態になってしまいます」


「すぐ隣ではないか、重なった神佑地もあるぐらいだし、良いではないか」


「駄目です」


「はいはい、喧嘩しないでください。ウチは別に構いませんよ。どうせ、同じ水神系の神社ですし、僕も入れれば、龍がすでに3匹も居ますからね」


淤加美様を入れれば4匹か……まあ淤加美様は、分霊であり僕と同化してるみたいなモノだから、あえて数にいれなかった。


「やった! よろしく頼みますよ千尋さん。あっ、お布団は一つで良いので」


「そんな気を使わなくも、ウチは部屋が余ってますから。赤城さんの心配はご無用ですよ」


「そうじゃないのに…………」


「千尋様が、鈍くて良かったです」



明日から、神木先輩は修学旅行か……秋のK都は、紅葉が良い塩梅かな?


こうして、赤城の龍神さんを、神木先輩が修学旅行をしている、4日間の間だけ預かる事に成った、瑞樹神社だが――――――


まさか、この後のK都で、華千院の陰陽師達により、大変な事態が起きるとは、思ってもみなかったのである。



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