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龍神の花嫁 八俣遠呂智編(ヤマタノオロチ)  作者: 霜月 如(リハビリ中)
3章 もう一つの月 神器修復
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3-22 守る気持ちは同じ


自衛隊、富士の演習場近くにて


日が落ちた樹海に、急遽(きゅうきょ)できた富士の風穴(ふうけつ)へ向けて、それを包囲するように兵士が集まっていた。



『本部どうぞ!』


無線から斥候(せっこう)で潜っていた兵士の声が本部に届く。


「こちら本部。入り口は包囲している。異形が見え次第火炎放射を行う故。外に出たら合図を送れ」


『了解!』


無線を置き入り口へ注視すると――――――


「ジン! どんな塩梅だ?」


そう言って迷彩服姿の藤堂(とうどう) 淳一郎(じゅんいちろう)が、仮設で造られた本部の中に入ってくる。


仮設本部には、ジンと呼ばれた糸目の男……西園寺(さいおんじ) 兼仁(かねひと)が指揮を臨時で取っていた。


今回は異形(いぎょう)が相手なので、異形(いぎょう)の事に詳しい者が指揮に当たった方が良いと、八荒坊(やこうぼう)との合同戦闘となったので、指揮所に西園寺(さいおんじ)が詰めていたのだ。


「ん? イチか……今、斥候(せっこう)が戻って来る所だ。 どうも硬い皮に覆われた、節足甲虫(せっそくこうちゅう)(ダンゴムシ)の異形(いぎょう)らしく、徹甲弾(てっこうだん)のアーマーピアッシングをも弾くとの事だったから、外まで引きずり出して丸焼きにしようと作戦を変えたんだ」


「それで火炎放射か……戦車砲でも抜けぬのか?」


「いや、入り口が崩れても面倒だろ? やはり内部の異形(いぎょう)まで全部駆除せねば、住民が安眠出来ないからね」


「そうだな……自衛隊は国防の要だからな。国と民のために頑張らねば」


「ああ、自衛隊の皆さんの頑張りには、本当に頭が下がるよ」


国を守るという事ならば、いわば人間版の国津神(くにつかみ)と言っても過言ではない。


何しろ、やっている事は日本の神々と同じ、日本国の防衛なのだから……


そんな時、少し本部が揺れて、用意された水が倒れそうになるのを、間一髪キャッチした。


「地震か?」


イチが隣の兵に尋ねると――――――


「はっ! 震源は飛騨方面で、震度5だそうです」


飛騨地方というと……千尋君かな?


ちょうど、千尋(ちひろ)君と行動を共にしている、小鳥遊尊(たかなしたける)君から飛騨地方の異形は片付いたとメールが来たので、おそらくそうであろう。


さすが、就任直後とはいえ龍神なだけはある。


「これは、此方(こちら)も負けて居られませんね」


そう言ってメールを開いている画面を、イチへと見せると、文面を読んだ後――――――


「ふふっ、やるな少年。此方も踏ん張らねば」


「ああ……異形相手に人の力がどこまで迫れるか……」


『本部どうぞ!』


「こちら、異形対策本部」


『異形体を連れて、出口まで約30秒』


「了解! 照明弾の逆光に備えよ」


『了解!』


再び無線を置くと、現場が慌ただしくなる。



「ジンよ、照明弾に驚いて、異形が引っ込まないか?」


「ええ、だからギリギリまで待ちます」


それから、火炎放射で焼いて終わりである。


相手が異形であろうと、虫であるなら炎に弱いはずだから……



本当なら風穴の中で焼いてしまいたかったが、兵が酸欠になっては逆に大惨事である為


こうして外まで異形を引っ張っては、焼く作戦に切り替えたのだ。


その前の巨大な牛と、巨大な蜂は銃で片付いたのだが、このダンゴ虫は硬すぎる。


「これで終われば良いのだがな……ジン、お前……最近寝てないだろ?」


「分かりますか?」


「普段、糸目で表情の無いお前から、疲れの色が見えるからな。聞く処によると、ずっと晴明の動向を探るので、監視カメラと睨めっこだそうじゃないか?」


「……仕方ありません。晴明を止めるのは、親友だったボクの責務ですから」


「おいおい、お前にとって親友かもしれんが、俺にとっても晴明は親友なんだぞ。そんなに何でも一人で抱え込むな」


「そうでしたね……また三人で……いや、四人で笑えれば……良いですね」


今はもう居ない、霧積弥生(きりずみやよい)の姿を思い浮かべ、古き良き時代を思い出す。


その時、辺りが昼間の様に明るく成り、現実に引き戻された。


照明弾と共に、富士の風穴から避難を終えた兵士に続き、巨大なダンゴ虫が出て来る。


それに火炎放射を浴びせ、燃やし尽くすのだが――――――


『本部ー!!』


「どうした!?」


『風穴から他の異形が出てきます!!』


双眼鏡を使い入り口を見ると、そこには巨大なカマド馬と、巨大な蜘蛛がわらわらと出て来るのが見てとれた。


「どうやら、まだ休む訳には行きませんね」


「ちょうどいい、リハビリで俺が出る」


夏に大怪我を負い、K都でも良い処が無かったので、元自衛官のイチこと藤堂淳一郎が、装備を整えて本部を出ていく。


その背中は、まだまだ現役だと物語って居り、頼もしい限りである。


さて、日付が変わる前には、片付けてしまいましょう。


西園寺は、出て行った淳一郎をサポートするべく。無線を手に、対異形の指揮をとるのだった。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





処変わって、北関東の瑞樹神社にて


こちらは既に異形を片付け、夕ご飯に成ろうとしていた。


「おい!! 千尋!! 千尋は何処だ!!」


ドンドンと足を踏み鳴らしながら廊下を歩いてくるセイが怒声を上げている


「なんだよセイ。丁度、夕ご飯の用意が出来たと、呼びに行こうとしてたところだったのに」


「なんだじゃねー!! お前がこの前言った事、嘘だったじゃねーか!!」


嘘? はて……



「僕が嘘つきとか、人聞きの悪い……何か言ったっけ?」


「言っただろ!! テレビで裸祭りやるって!! 大きな胸が一杯だって!!」


「覚えが無いな……僕そんなこと言ったかなぁ?」


「前に録画しておいたのを、今再生したら……相撲だったじゃねーか!!」


あ~、思い出した。セイが、胸、胸うるさいので、相撲をやってるって教えたんだった。


「なんだ……そんな事か……嘘は言って無いだろ? 裸祭り(秋場所)で、大きい胸だった筈」


「ざけんな! 誰が好き好んで、雄の胸なんか見るか!! 俺が見たいのは雌の胸!!」


本当にスケベな奴。


そこに、建御雷様が――――――


「なに? 相撲とな? あれは良い!! 儂は大好きだぞ。そこの若い龍も相撲好きなのか?」


「あ~セイは相撲より、関取が好きなんですよ」


特に録画するほど胸が……


「ちげーし!!」


「そうか、相撲に興味があるのか!? どれ、儂と相撲を取らぬか?」


「俺なんかが、敵う訳ないでしょ!」


だろうねぇ。


建御雷様は、生粋の武神であり剣神だもの、勝てるわけ無いわさ。


「まあ、相撲は後にして、桔梗さんの夕ご飯を頂きましょう」


「食った後も、相撲はしないぞ!!」


「なんと……ざんねんだのぅ」


僕らは居間へ入って行くと、既に子狐を膝に乗せた小鳥遊先輩と、隣に兄の尊さんが座っていた。


その反対側に赤城の龍神さんと、逃がさぬ様に横に座る赤城の龍の巫女、神木先輩が陣取っている


赤城の龍神さんは、すごく嫌そうな顔だ。


淵名の龍神さんは、香住を待って居るのか? 玄関の方を頻繁に気にしているし、何とも分かりやすい。


ひょっとして、香住に惚れたな?


分からないでもないけどね。料理が出来て世話好きだし


香住は、ぐいぐい引っ張っていくタイプなので、のんびり屋の淵名さんには、お似合かも


プロレス技を練習に掛けてくるのが玉に瑕ではあるが、それ以外はかなり家庭的と言えよう


その香住は、まだ表れていない様だが……


「桔梗さん。香住はまだ?」


「はい、師匠は戻られていません」


料理の師と仰ぐ桔梗さんだが、人間だからと見下したりしない処が凄い。


まあ、仕えて貰ってる僕が元人間なので、そこは寛容なのかな?


じゃあ、香住が戻るまでにっと――――――


千尋(ちひろ)様、何方(どちら)へ?」


香住(かすみ)が来るまで、頂きますしないだろうし。ちょっと、オロチの伍頭目ちゃんの様子を見てきますね」


そういって、伍頭目ちゃんの部屋に行くと――――――


疲労して人型にも成れないのか、蛇の姿のままで布団に寝かされていた。


「今回は、僕の落ち度で、可哀想な事をしてしまったな」


僕は起こさぬ様に小さく呟きながら、そっと頭を撫でてやる。



『やはり、オロチの心臓は危ないのぅ。西園寺とか言う人間に渡してしまった方が良いのではないか?』


僕の中の淤加美様が、念話で話しかけてくる


『ん~、向こうにも、参頭目と肆頭目のオロチが居ますからねえ。危険なのはかわりませんて……』


寧ろ、伍頭目ちゃんの方が、自分から心臓を求めない分、安全かもしれない。


弐頭目である鴻上さんも、正哉の事で頭がいっぱいらしく、心臓には興味なさそうだしね。


あとは壱郎君だが……人間の生活を謳歌してる感じなのに、本当に元のオロチに戻ろうとしているのかが分からない。


少し様子見かな?


そんな事を考えて居ると、丁度香住が部屋に入ってくる


「オロチちゃんの様子はどう?」


「無理が祟って、寝ちゃってるみたい」


「もう、今回は千尋のせいなんだから、オロチちゃんが起きたら、ちゃんと謝りなさいよ」


「了解」


返す言葉もございません。


「じゃあ、ご飯にしましょう。みんな待ってるから」


そう言って踵を返す香住の背中に――――――


「ちょっと待った! 香住……リュック持ってきた?」


「リュック? あぁ。緋緋色金の原石ね? あれね……実は余程慌ててたのか……リュックの口が開いていて、落っことしたらしくてね。一個しか持って来れなかったのよ」


マジか!


一個……で、足りるのかな?


鍛冶の事はさっぱりなので、必要数が分からないけど、無いモノは仕方がない。


あの廃鉱も、対消滅で崩れちゃったし、もう一度取りに行く訳にも行かないしね。



「おーい、千尋の唐揚げ無くなるぞ」


居間の方から、セイの声がするので、慌てて駆け付ける。


「馬鹿セイ! お前と言うヤツは……」



まあ、明日の朝一番で、天津麻羅様の所に行って見よう……


そこで足りなかった時は、また考えればいい。



「ちょっと、私の唐揚げはレモン掛けてよね」


「あぁ! 香住! 全部に掛けないでよ! 一人五個までだからね」


「おいおい雨女、唐揚げ五個とか、ケチケチするなよ」


「尊さんは、少し遠慮をしてください」


「あ、そうそう。今日も泊まってくぜ」


「実家へ帰らなくて、良いんですか?」


「息子に、男のお見合い写真持ってくるような、おかしな親の所へ帰れるかよ!」


あぁ、そんな事もありましたね……


「二人とも帰らないと、お父さんが心配するので、私が帰って説明するわね」


明日も朝に来るからと、小鳥遊先輩は続けた。


それを見て、また来るのかと嫌な顔をする香住。本当に仲が悪いんだから……


でも、小鳥遊先輩が泊まらないなら、香住も安心して家に帰るだろう。


あと赤城さんは、神木先輩が連れて帰るだろうし


そうなると、用意するお布団は、尊さんのだけで良いね。


建御雷様と淤加美様は、いつも通り寝ないで徹夜だろうから。



「あー、神木先輩! マヨネーズ掛けちゃったし」


「え? 美味しいですよ?」


「そういうのは、取り皿にとって掛けよ! ウチの龍の巫女が申し訳ない」



みんな好みが違うので、仕方がない。


こんな癖のある連中を纏めるのは、本当に一苦労である。



そんなこんなで、相変わらず騒がしい夕食をしながら、瑞樹の龍神達の一日が、終わるのだった。



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