3-18 最下層へ
硬すぎて宝剣でも斬れない、巨大なダンゴ虫を前に、策を考える。
「雨女! 早くしろ!! そろそろ麻痺が解けるし、こんなのに倒されたなんて、末代までの恥だぞ!」
もう、うるさいな……尊さんも少しは考えてくれれば良いのに……
まあでも、末代までの恥って言うのは、確かに一理あるかな。
東北で戦った、大太坊にやられたって言うならインパクトはあるが、ダンゴ虫に潰されました、では笑い話にしかならない。
「千尋、あのワラジ虫……身を捩っているぞ」
「あのなセイ。ワラジ虫は丸まらないの、丸まるのはダンゴ虫で良いんだよ」
小さく成って、頭の上に居るセイの言葉を訂正してやるが、確かに微妙に震えている。
最初は、雷神剣の麻痺効果で、動けずに震えているのかと思ったが、どうも違うらしい。
一応、どんな攻撃が来ても良いように、構だけは解かず、注視していると――――――
突然! ダンゴ虫が緑色のガスを放出しだしたのだ!
「なんだコイツ! 放屁しやがった」
いやいやいや、それは違うだろう尊さん。だいたい、色付きの屁なんて初めて見るし
それに、この色……巨大蜂や巨大百足の毒の体液と同じく緑色だ。
創ったのが同じ沼田教授なら、今までの異形同様に毒である可能性は高い。
「尊さん! 離れて!」
そう叫びながら僕自身もバックステップで距離をとる
普通のダンゴ虫なら益虫だが、毒を撒き散らすとか……どう見ても益虫じゃないわな。
「これでは近付く事も出来んな」
悔しいがセイの言う通りである。
だからと言って、水ブレスは硬い皮に弾かれたばかりだし。せめて、セイとの合わせ技である貫通型ダークブレスを使えたら……
その為には、メンバー全員に掛かっている光の衣を解いてしまわねばならない。
僕ら龍はそれでも良いが、背後で巨大カマド馬と戦っている、香住や小鳥遊先輩は生身の人間なのだ。
二人の戦闘を見れば、トリッキーな動きで翻弄されているし
今、光の衣を解くのは得策と思えない。
となると、尊さんの宝剣……草薙剣を借りるか?
僕がそう考えて居ると――――――
突然! 持ってきたリュックサックが、もぞもぞ動き出したのだ。
「キモ!! おい、雨女。リュックが動いてるぞ」
「いやいやいや、動くようなものは、詰めてこなかった筈なんですが……」
地面に下ろしてチャックを開けると、中から出て来たのは小さい蛇だった
『ふう、やっと出られた』
「「「なっ!?」」」
僕達3名は、同時に驚きの声を上げる。
「蛇が喋ったぞ!?」
「尊さん。ツッコミ処は其処じゃないでしょう」
喋るだけならば、ウチの神社に龍も狼も狐も蟹もいるしね。
「そいつ、伍頭目のオロチじゃないか?」
セイの言葉に蛇が――――――
『ご名答! 変な封印のされ方をして居ったせいで、中々疲れが抜けなくて……』
蛇の癖に、身体を伸ばすような仕草をする
まるで、軽いストレッチでもしているかのようだ。
「寝てなくて平気なの?」
『たまたま目が覚めたら、命の恩人殿が出ていくのが見えたので、蛇になって潜り込んで来たのじゃ』
「あ~、恩人殿は照れるからやめてよ。千尋で良いから」
そもそも、砂浜で伸びて居たのを、連れて来ただけだしね。
『分かった。それより、先程から苦戦しておる様じゃが?』
「あぁ、あのダンゴ虫が硬いんだよ。どうして良いモノだか分からなくて……」
僕が、困った顔で肩を竦めると――――――
『硬いのは背中の皮の部分か……ならば、それ以外の場所を狙うまで!』
伍頭目のオロチは、何やらブツブツ唱えると、突然! ダンゴ虫の下の地面が円錐状に持ち上がり、岩の錐に成ってその硬い身体を貫いたのだ!
なるほど、オロチは川神と山神の性質を持つ為、水属性と土属性の持ち主だったのを忘れていた。
その土属性の術を使って、地面を鋭く錐状にして隆起させたらしい。
「弱点は腹か!?」
尊さんがそう叫び、貫き持ち上げられている巨大なダンゴ虫の腹を斬りつけ、とどめを刺す。
「やるじゃないの! 伍頭目ちゃん!」
ん~、なんか伍頭目ちゃんでは、呼び辛いな……
ご……伍と、蛇だから巳で、伍巳じゃ可哀想だし、オロチ……大蛇……
大伍丸!!
『いやいや、それは無いじゃろう! 雌に丸はないと思うぞ』
僕の中に居る淤加美様から、念話でツッコミを貰う。
とはいえ、全然関係ない名前にするのもなぁ。
僕が伍頭目ちゃんの名前を考えて居ると――――――
『うみゅ……力を使ったら……また眠く成って来た。済まぬが、荷物入れの中で寝させてもらう』
伍頭目ちゃんは、眠そうに欠伸をしながらそう言って、リュックの僕の着替えにくるまって、寝てしまった。
やはりまだ、本調子ではない様だ。
出来ればこのまま記憶も戻らず、オロチの心臓を諦めてくれたら、平和で良いんだけどね。
「ふんっ! どうせなら、ここに置いてって埋めちまおうぜ」
「セイ、そんな意地悪言わないの。さっきの戦闘だって、伍頭目ちゃんのお陰で倒せたんだし」
オロチに殺され掛けたから、余計に嫌うんだろうけど……
そもそも、セイを殺そうとしたのは、弐頭目のオロチである鴻上さんだしね。
伍頭目ちゃんは、関係ないのに可哀想すぎる。
まっ、伍頭目ちゃんの名前は、追々考えるとして――――――
さて……僕らの後ろで、カマド馬と戦う女子高生二人だが、此方の戦闘も佳境を迎えていた。
壁から壁に跳ね回っていたカマド馬が、天井の壁を蹴って加速して落ちてくる。
それを香住の肩に乗った淵名の龍神さんが、水ブレスを吹いて落下の勢いを殺して行く。
こちらもダンゴ虫同様、硬い皮のせいで、ブレス貫通までには至らないが、勢いがかなり弱まった。
そのお陰が、今まで動きが速すぎて当たっていなかった、小鳥遊先輩の帝釈天の雷撃が、カマド馬の横っ面へ直撃したのだ。
「やっと当たったわね」
満足そうに呟く先輩。
しかも、雷撃の麻痺効果が発動したらしく、自由落下で墜ちてくる。
カマド馬の落下に合わせてジャンプする香住だが――――――
「なにこれ! 首が無いじゃない!」
どうやら、香住お得意の、首に足をかけフランケンシュタイナーを決めようとしたのに、カマド馬の構造状……首が付身体に埋まる感じなので、不発に終わる。
というか巨大カマド馬に、足を掛けようとする女子高生は、貴女ぐらいですよ。
他に技を掛けようとするも、その巨大さゆえに攻め倦んでいた。
ミノタウロス擬きのように、手も足も……首もあれば違うのに……と悔しそうに呟き
香住は、空中で何もできずに着地することになる。
そのせいでストレスが溜まったのか、雷撃の麻痺で動けないカマド馬を、助走をつけてドロップキックで吹っ飛ばした。
香住が、ドラゴンライダーとして、身体能力向上している状態でドロップキックをしたものだから、尋常じゃない吹っ飛び方をするカマド馬。
おっかねー
ドラゴンライダー覚醒中は、香住に近寄らないで置こう……
壁に叩き付けられたカマド馬へ、更に追撃する女子二人。
こうなると、もう一方的である。
普通の生物なら見逃してもいいが、沼田教授の改造生物である以上、放置は町が襲われるので、きっちりとトドメは刺して置く。
「ふう、やっと倒せたわね」
「もう! どうせなら人型の異形を出してよね!」
小鳥遊先輩と香住がそれぞれ愚痴……いや、戦勝報告をする。
香住さん。人型は人型で、トドメを刺し辛いですよ。技は掛け易いかもだけどね。
「二人共、お疲れ様。怪我とか大丈夫? 辛そうなら龍脈でウチまで送るけど?」
「はぁ? 千尋……このまま帰ったら、不完全燃焼で私……どうなるか分からないわよ」
香住さん。さらっと怖いこと言わないでください。
「私も大丈夫よ。祓い屋でもない一般人の高月さんに、負ける訳には行かないもの」
こっちもこっちで負けず嫌い発動だし、先輩も年上なんだからさぁ、もうちょっと大人になろうよ……
二人の意地の張り合いに溜息を付きながら休憩に入ると、空気と化している神木先輩へ声を掛ける。
「神木先輩、大丈夫ですか? 辛かったら言ってくださいね」
「ご配慮くださりありがとうございます。しかし……まさか異形との戦闘が、こんなに凄まじいとは……」
まだ良い方だけどね。
クローンオロチ戦とか、東北の幽世戦はもっと酷かった。
まあ、今回の戦いが地味な方なのは、場所が崩れ易い廃鉱と言うのもあって、大技や大術使いである、尊さんと僕が本気モードになれないって言うのもあるが
神木先輩にとっては、これが初めての戦闘なので、驚くのも無理がない。
みんな帰る気も無さそうなので、今度は僕と尊さんが先頭になり、更に廃鉱の奥へ探索を続ける。
「戦う事ばかりで忘れているみたいだから、もう一度言うけど、目的は緋緋色金を見つけるだからね! 分かってる?」
僕の問いかけに、全員が気の無い返事をする。
コイツラ……
戦闘にしか興味なさそうってどういう事!? 宇宙の果てからやって来た、戦闘民族か!!
僕達は、周囲に警戒をしながら、更に下層へと続く坑道を下っていく。
すると、今迄で一番広い空間へと辿り着いたのだ。
「ここが最下層かな?」
そう呟いて、僕はあることに気が付いた。
広い空間の入り口から、龍眼の暗視望遠モードで探しても、どこにも異形が見当たらないのだ。
上の層で倒した、蜂や百足の残骸を引き摺った跡が、この部屋で途切れているし……
ここへ、残骸が運ばれたのは、まず間違いないだろう。
で、あるなら。その残骸は何処に行った?
先ほど倒した、ダンゴ虫とカマド馬……その2匹の部屋だったとしても、2匹で食べ尽くすには、些か数が多すぎて、俄かには信じがたい。
そう思いながら、空間に足を踏み入れた刹那、足に何かが触れた。
これは……糸!?
その糸を目で追っていくと、糸は壁を伝って天井へ――――――
糸の先は、天井に張られた大きな巣へと続いていて、その巣の中央に構えた、巨大な蜘蛛女がこちらを見ていたのだ。
ヤバイ! 蜘蛛女と目が合った!!
蜘蛛女は声に成らない奇声を上げると、その背後から沢山の子蜘蛛が飛び出して来る。
そうか! 上の層の残骸が無いのは、この蜘蛛たちの餌にされたのか!?
「香住と小鳥遊先輩は、神木先輩を連れて通路へ逃げて! 最悪の場合、淵名の龍神さんか、赤城の龍神さんに、龍脈を開けて貰って逃げてください! 僕と尊さんは通路の入り口で子蜘蛛を何とかします!」
「よっしゃ、さっきのダンゴ虫戦は、ほとんど何もしていなかったからな。体力有り余ってるぜ」
「尊さん、頼もしいお言葉ですが、生き埋めになる様な大技は……」
「分かってるって!」
本当かなぁ……
わらわらと出て来る子蜘蛛を、通路の入り口で待ち伏せて斬り伏せる。
子蜘蛛と言っても、巨大なモノであり。その一匹一匹が、普通乗用車ぐらいの大きさが在るのだ。
唯一助かるのは、相手が子蜘蛛なせいか、硬さが柔らか目なので、刃が通る事だが――――――――――
「雨女! 数が多すぎるぞ!!」
尊さんが泣き言を言ってくる。それもその筈、広範囲技である雷神剣草薙が使えないのだ。
あの技は、威力もありすぎるからね。
仕方がなく1匹づつ切り伏せて居るのだが、何しろ数が多すぎる。
そんな中、尊さんだけでなく、僕の頭上に居るセイからも、泣き言が出始めた。
「俺もブレスの吹き過ぎで、顎が疲れてきたし」
「そう言わないでよ。セイのブレスが、一番蜘蛛を倒してるんだから」
水圧を圧縮したブレスは、直線的ではあるが貫通力に長け、前方5~6匹はいっぺんに串刺しに出来るのだ。
数が多すぎるので、焼け石に水と言う感じだが、複数を倒せるという時点で、現状で一番使える戦力である。
僕も水で創った薙刀を振り回しているが、範囲内で倒せるのは、たかが知れているし、なにより子蜘蛛が糸を吹掛けて来るので、ネバ付いて本当に邪魔だ!
この糸……粘性が異常に高く。下手に巻きつかれたら、身動きが取れずミイラ男ならぬ、ミイラ雌龍にされてしまう。
「千尋ちゃん。背後から不動明王の火炎術で援護しようか?」
小鳥遊先輩が、心配そうに声を掛けてくれるのだが、火炎術か……
「火炎術は、これだけの糸を燃やすと、空間の酸素がなくなるかも知れません」
そうなったら、僕ら全員も酸欠である。
良く燃えそうだけどね。
「でもよぉ、もう長く持たねえかも」
珍しく弱音を吐く尊さんの足元が、光の衣の上から、糸で巻かれ始めていた。
「仕方がない。小鳥遊先輩、背中のリュックから水のペットボトルを出してもらえますか? 一つ試してみたい術があるので」
「分かったわ」
先輩は、そう言ってペットボトルを出し、蓋を取って足元に置いてくれた。
さて、どれだけ効果があるか……




