3-16 瑞樹の神達に休息を
他の蜂達が大きいと思ったら、更に輪をかけて巨大な女王蜂。
そのお腹に粘液でくっ付いた尊さんが、攻撃するのに邪魔である。
術で張った光の衣のお陰で、いまだ無事に済んでいる尊さん……誰だよ! 灯の代わりだなんて言ったヤツ。
しっかり役に立ってるじゃないか! 光術は、地味な術が多いので、目立たないだけなんだよね。
でも……尊さんが櫛で女体化して疑似神格を得ているのは良いが、それで使用できる草薙剣は何処に?
周りを見渡すと、先程網目の水糸で倒した魔物の残骸の中に、雷を纏った剣が落ちているのが見て取れた。
「もしかして、建御雷様が中にいます?」
落ちている草薙剣に話しかけてみると――――――
『おお、千尋殿か? 見ての通り、部屋に魔物がいっぱいでな。奥義で吹っ飛ばそうとしたら、尊の奴が捕まってしまって……儂も大百足に呑まれて、酷い目にあった』
「数の暴力の前では、仕方ないですよ……ん? 今、奥義で吹っ飛ばすって、言いませんでした?」
『言ったが?』
「やめてください! 廃鉱が崩れますから」
ただでさえ、オーク擬き共が、坑道を支えている柱を引っこ抜いて、脆く成ってるのに
奥義なんか撃ったら、即! 生き埋め決定である。
『しかし、あの数では……お? だいぶ減ったではないか』
「ええ、格子状に組んだ細い水刃の網を仕掛けて倒しましたから」
『なら残りも全部……あぁ、尊の奴か』
「そうです。一緒に切り刻むわけには、行きませんからね」
女王蜂のお腹にくっついてる、尊さんをどうにかしないと、こちらは手が出せない。
僕は建御雷様入りの草薙剣を拾い上げると、まだ敵対の意思が在ると理解したのか、女王蜂を護るように他の働き蜂が前面に出る。
あぁ……やべえ……
その前面に出た巨大蜂たちが尻の針をこちらに向けて狙いを定めると、一斉に緑色の毒液を噴射したのだ。
僕はそのまま射線軸から横に転がり避けて、神器の力を借りて、回収した水の浄化を進める。
本来草薙剣は、天照大御神の末裔である皇族か、神格持ちの神以外は、扱えないのだが
正式に、国津神となった僕にも、草薙剣を扱うことも可能なのだ。
剣士では無いので、術を行使する時の杖代わりとしてだけどね。
「うぁ、処理速度が速い!!」
『術のサポートとして、剣を使うのは初めて見たが……さすがは神器だな、中に居る儂が千尋殿と同じ水系の御霊だったら、もっと違ったかも知れぬな』
「いいえ建御雷様。雷属性でも神器は神器ですから、それに……これからやる事は雷の方が良いかも」
次から次へと、撃って来る毒液を走って避けながら、浄化の終わった水を闇に変換して行く。勿論、尊さんに掛けた光術の衣はそのままで……
『千尋? 大丈夫かや?』
念話で心配そうに聞いてくる淤加美様へ
『今は神器のサポートがありますからね、頭痛も吐き気も全然ありません』
そう言いながら、変換した闇を、建御雷様の入った神器に付与して行く。
『千尋殿! 真っ暗で何も見えなくなってしまったぞ』
「すみません。闇で刀身をコーティングしているので、少しだけ我慢してください」
刀身全体へ闇がいきわたると、今度は雷と融合を始める。
『元は妾の闇淤加美神の術なのに、禍々しいのう……』
「ふぅ…………出来ました……全てを飲み込む刃……黒雷刃草薙」
黒い闇の刃なのに、稲妻のように脈打つ黒雷。
それを下段斜めに構え……女王蜂を見据えるが、他の蜂達が壁となって立ちはだかる。
『千尋よ、それで全てを切り落とすと言うのかや?』
淤加美様の念話に、ビックリした建御雷様が
『ちょ、ちょっと待ってくだされ千尋殿。尊の奴はどうなるのだ?』
2柱の念話に答えるよう、僕も念話に切り替え
『お二方、大丈夫ですよ。僕は剣士ではありませんからね。これから使うのは、術であって技ではありません。なので切り落としはないです』
『切り落としが無ければ良いと言う訳でも……』
かなり心配そうに言う建御雷様。
余程、尊さんが気にいったと見える
『尊さんには、僕が掛けた光の衣があります。過去のクローンオロチ戦で、光の衣を味方へ掛けたら、漆黒で融けなかった実績がありますので、これから行う術も平気なはず』
実際に防いだのは、漆黒だけであり。黒雷まで通さないかどうかは、今回初めての事なので分からないのだが……
『しかし、どうやって当てるのじゃ? 相手は空中に居るのじゃぞ』
淤加美様が心配そうに聞いてくるが、それを今から御見せする。
下段の刃をそのまま振り上げると同時に、黒雷を刃から解き放つ――――――
「黒雷球……」
解き放たれた黒雷はだんだん球に形を変え、異形部屋の空中……高い位置で止まると、そこから部屋中……全方向に向けて黒雷を噴出しだした。
その黒雷に触れた蜂達は、まるで死神に魂を抜かれたかの様に、すぐさま絶命し床へ墜ちる。
黒雷は死神の鎌の様であり、僕ら以外の全ての命を一瞬で奪っていった。
闇を水へと戻し、女王蜂と一緒に墜ちた尊さんの元へ駆け付けると――――――
「蜂野郎……よくもやりやがったな」
そう言いながら女王蜂の腹の下から這い出てくる尊さん。
「女王蜂なので、蜂野郎じゃありませんけどね。まっ無事でよかったです」
そう言いながら手を貸して、女王蜂の死骸の下から引っ張り上げたら
「無事なもんかよ! 昆虫の餌にされる処だったんだぞ」
と、減らす口を叩く尊さん。それだけ元気なら大丈夫でしょう。
僕は尊さんに神器を返すと、魔物によって広い空間にされた部屋の中を、緋緋色金がないかと探索する。
「やっぱり、紅い鉱石……緋緋色金はありませんね」
『千尋よ、あっちに魔物が開けた穴が、続いて居るぞ』
淤加美様の指摘された方を見ると、確かに横穴が口を開けていた。
魔物が開けたものか……人間が掘ったものか……廃鉱山内がすでに魔改造されていて、どちらが造ったのか分からない。
もしかすると、人間が掘った上を魔物が魔改造したという、両者の仕業って事も考えられる。
魔物の手が入っていると言う事は……穴の先に、また魔物の巣がある可能性が高いだろうな。
沼田教授め……厄介なものを、放り込んでくれたものだ。
取り合えず、上層部のセイ達と合流すべく、戻ろうかと考えて居ると、上層部への穴から皆がやって来た。
「おう、千尋。牛を討ち取ったぞ」
「大きすぎるので、上層の広間に置いてきました。千尋さん後で焼いてください」
セイと赤城の龍神さんが先勝報告をしてくる
沼田教授の、改造の手が入った牛なんて、食べられないってば……
セイ達の後ろから、香住と肩に乗った淵名さん。それと小鳥遊先輩が顔を出す。
「やっぱり全開で技を掛けれるのは良いわね。千尋が相手だと手加減しちゃうし……」
香住さん……あれで僕に手加減とか……本気で怖いんですが?
「不動明王の火炎術では、相性が悪いのかしら……」
そう不満そうに呟く先輩
ミノタウロスは、ギリシャ神話だと雷光の牛なのですが……
沼田教授が牛をベースに、どんな遺伝子を掛け合わせたかに寄っても、属性の効きが悪くなりますからね。神話をあてにし過ぎても、上手くいかないかも知れません。
でも、高速再生を押し切って倒したんだろうけど……光の衣があるとはいえ、全員無傷で倒して来るのだから、凄いことである。
「で、どうすんだ? まだ奥へ行くのか?」
「あのな今回の目的は……」
「緋緋色金を見つける事だろ? 分かってるけどさ、いい加減腹減ったぞ。さっきの牛食って良い?」
「良くないよ! 調理器具も持って来なかったし。あの牛は、危険だからダメ」
「じゃあ、そこにある蜂の巣から蜂蜜を……」
セイがそこまで言い掛けて固まる。
何故なら、巣から垂れて居るのは蜜などではなく、毒々しい緑色の液体であるからだ。
「あんなの食べる気? 胃に穴が開いても知らないぞ」
「蜂蜜はやっぱり要らん……でも腹減った!」
子供か!?
でも、セイがこう言いだしたら、聞かないのは分かっているので――――――
「仕方がない、ここに龍脈のチェックポイントを設定して、一旦戻りましょう」
僕はそう言って、チェックポイントを設定してから、瑞樹神社への龍脈を開く
龍脈を通り境内へ出ると、慌てて神使の桔梗さんがやって来て
「千尋様、今お戻……り…………」
あっ、また裸だよって顔されてる。
「これは違うから、今回裸なのは闇術で融けたんじゃなくて、自分で脱いだんだから!!」
……あれ?
勢いで言っちゃったけど、自分で脱いだ方が酷くね?
「大丈夫です。主がどんな性癖でも、私は気にしませんから」
ちげええ!
「桔梗さん! 先に言って置くけど、露出狂じゃ無いからね! 今回たまたま融けなかっただけで……」
「千尋様。人間の西園寺とかいう方から電話がありまして、千尋様が戻られたら折り返し電話が欲しいと」
……言い訳は、させて貰えなかった。
しかし、西園寺さんから電話ってことは、また厄介事かな?
桔梗さんに、お礼を言ってから、着替えと電話を掛けに、玄関へ入って行く――――――すると
廃鉱探検装備を外した香住が、昼ご飯つくるねとエプロンを付けて台所へ入って行く後ろで
香住の後を追おうとしている小鳥遊先輩を、ラグビーのスクラムを組んで、死ぬ気でブロックしている龍達と、先輩の兄である尊さんが見てとれる。
余程、小鳥遊先輩の味噌汁が効いたらしい。
台所への入り口から、どういう意味よ!! と先輩の怒鳴り声が聞こえるが、こればかりは僕も先輩を止める方に票を投じたい。
僕は電話の在る廊下で、持って行ったリュックから着替え用の巫女装束を出し、白衣に袖を通しながら、呼び出し音を聞きいて相手が出るのを待って居ると
『はい。西園寺です……千尋君かな?』
「ええっ、千尋です。京都の晴明さんの屋敷突入以来ですかね?」
『そうか……もうかなり昔のように感じるけど、ついこの間なんだね』
「それだけ、お互いに忙しかったと言う事でしょうか……あっ、桔梗さんに聞いたのですが、何やら用事があるそうで?」
『実はね。日本各地の鉱山や廃坑で、魔物? というか、普通なら存在しない様な、異形なモノが溢れていると言う報告がありまして』
「各地で!? 僕らが行った、G阜県、神岡町の廃鉱山でも、相当な異形が湧いていましたよ」
『そうですか……すでに千尋君たちも遭遇済みか……では、日本の神様関係では無いのですね?』
「だと思いますよ。異形の中に巨牛の異形が居たのですが、どう見てもオロチの高速再生を持っていましたから」
『オロチの高速再生!? じゃあ今回の事も?』
「ええ、沼田教授と、沼田教授を脱獄させた晴明さんが、一枚かんでいるかと思われます」
『ならば各地の異形の件は、人間が起こした事ですから、我々人間の手で片付けねばなりませんね』
なるほど……神の仕業なら僕に頼む気だったのかな?
もっとも、オロチ他神々が相手では、通常兵器も役に立たないって言ってましたしね
今回もK都同様、神々関係の案件なら、通常兵器が使えないので、確認を取った訳か……
「僕も元人間ですから、出来るだけのお手伝いはしますよ」
『千尋君……瑞樹の神佑地以外の事で、いつも申し訳ない』
「いえいえ、助けられてるのは此方も同じですからね。それから、ちょっと前にメールにも書きましたが、伍頭目のオロチをどうして良いのやら、困って居まして」
『それは、先ほども話したように、異形の件で一杯一杯なんですよ。もう少しそちらで、オロチの事をお願いしたい』
だと思いました。
セイが五月蠅いので聞いてみただけだし、一応僕は聞くだけは聞いたとセイに説明できるので、本気で受け入れて貰えるとは思っていなかったしね。
それに、狼の荒神である、ハロちゃんに様子を聞いたところ、伍頭目のオロチは、食事時以外ほとんど眠って居て、無害だって言うから大丈夫でしょう。
そんな時、電話の途中だと言うのに、居間の方から男共の悲鳴が木霊する。小鳥遊先輩が使う帝釈天の雷が落ちたようだ。
何やってるんだか……
僕は後ろの雑音? が入らないように、受話器を抑えながら――――――
「了解です。僕達は遅いお昼を食べたら、もう一度廃鉱へ潜ってみますね」
『じゃあ、G阜県の魔物はお願いします。あっ、それから……これから話すことは、オフレコでお願いします……実は草薙剣が紛失しまして……』
「え!? 草薙剣なら尊さんが……」
『いえ、その草薙剣ではなく、紛失したのは、もう二振りの内の一振りなのです』
マジか!?
「マズイじゃないですか!!」
『あ、あまり大きな声で話さないでください、宝剣が紛失なんて国家の一大事ですから』
だろうね……三種の神器の一つだもの、紛失が発覚したら、神様だって神諮りに掛けられるわ
「手掛かりは無いんでしょうか?」
『それがまったく……監視カメラにも、赤外線センサーにも、引っ掛かってませんからね。儀式で使う時に空箱とすり替えられたとしか……』
「では内部の犯行かと?」
『まだ詳細は分かりません。何しろ、犯人探しをする間もなく、魔物騒ぎですから』
なんか上手く行き過ぎてる気がする。
同一犯の犯行だったりして?
「じゃあ、宝剣を見つけたら回収し、連絡しますね」
『そうして貰えると助かります。念の為、もう一度言いますが、この件はオフレコで……』
分かってますって……
どうやら、何処かの廃鉱前で、対異形の指示をしているらしく、電話の向こう側で『通常兵器が使えそうだ!』等と騒がしい声が聞こえていた。
余程忙しいのか? もう一度、この件は内密に……と念を押された後に、お願いします。とだけ言って電話を切ってしまった。
西園寺さんも、心配性だな。
まあ、オロチの尻尾から出て来た宝剣だし、宝剣が反応するオロチの心臓が在れば捜索も……
あれ?
オロチの心臓……まだ返してもらってないし!!
参ったな……僕達は学園祭の振り替え休日で休みだけど、小百合ちゃんは学校だろうし……
受話器を置いて、廊下でどうしたモノかと悩んでいると――――――
「あっ、そうそう千尋ちゃん。小百合にコレ預かって来たわよ」
小鳥遊先輩がそう言って、オロチの心臓が入った龍鱗の勾玉を僕に渡して来る。
「先輩、どうして?」
「台所に入れて貰えそうにないから……」
「いやいやいや、その事じゃ無くて、この勾玉……」
「ああ、それね。小百合から預かってたんだけど、昨日からドタバタしていて、渡すのを忘れていたのよ」
確かに、味噌汁気絶事件から、鍛冶屋の神。雷獣戦に廃鉱でミノタウロス擬き戦と巨大蜂……
もう今日は、寝てしまいたいぐらいだ。
「先輩、今日はもう探索止めにして明日にしません?」
僕が弱音を吐くと、先輩が――――――
「そうも行かないみたいね。千尋ちゃん、お客さんよ」
先輩の言う通り、玄関から『ごめんください』と、声がする。
どうやら、まだ休ませて貰えない様だ。




