3-15 異形化のダンジョン(廃鉱)
ミノタウロスは、本来ギリシャ神話の怪物ですが
ここの物語に出てくるのは、『ミノタウロス擬き』です
あくまで、沼田教授が子供の頃にやった、ゲームを元に遺伝子操作で創ったモノであり
ギリシャ神話のミノタウロスとは違うのでご了承ください。
廃鉱の中でも広い空間なはずが、大きな二足歩行の巨牛がいるだけで、逆に狭く感じる。
奥から来ているトロッコの線路が、ここで途切れているのは
採掘した土砂を、ダンプトラックへと、ここで積み替えていたからであろう。
それで、ここだけ広くなってるのかと推測される。
「よし行くか! 赤城の!」
「今日は、牛肉尽くしだな」
僕の頭の上にいたセイと赤城さんが、飛び降りながら人型の大きさに戻って、ミノタウロス擬きへ向かって歩いていく
「ちょっと! 二人とも落盤させないようにね!」
一応注意はしたが、聞かないだろうな……アホ龍だし
「そうね……あれなら、朴葉味噌につけて食べるのも良いかも」
拳をボキバキ鳴らしながら、ミノタウロス擬きを見据える香住
ちょっ! 香住さん、貴女もですか?
香住は本当に、大食いの時と食べないダイエットの日とで、差がありすぎぃ!
だいたい、このミノタウロス擬きは、肉質が筋ばかりで、美味しくなさそうだし
普通に、お店で食べようよ……
そう思いながら、魔物の戦闘力を測って見て居ると、ミノタウロス擬きの持ったトロッコが、手からすっぽ抜けて飛んでくる。
「おわああ! 今、頭をかすめて飛んでった!!」
「千尋! 危ねーぞ! もっと下がってろ」
セイ……気持ちは嬉しいけど、パーティーで2番目ぐらいに戦闘力が高めの僕が、見ているだけってどうよ?
とはいえ、なんか皆やる気だし。仕方がない……今回は支援に回ろう
リュックサックからペットボトルの大を取り出すと、高淤加美神の光術を使い、全員に光の薄い衣を纏わせる。
「明るくなったわ、さすが千尋ちゃん」
「千尋のお陰で、LEDライトも要らないわね」
そう言って、猫耳ヘルメットに付いているヘッドライトを消す香住
「灯りの代わりじゃないから! 防御力アップで掛けたんだからね!」
タダの灯り扱いだし……闇術に対して光術って、あまり凄いイメージ無いよね。
ミノタウロス擬きは、他のトロッコを拾い上げると、また振り回し始めた。
どうやら、知能は高くないらしい。
小鳥遊先輩が、不動明王の火炎を纏わせた鞭で、ミノタウロス擬きの胸部を切り裂くのだが、傷が瞬く間に戻っていく。
「あれは! オロチの高速再生!?」
他の雑魚魔物は、元の体力と防御力が少なかったせいか、ほとんど一撃で倒しているので気が付かなかったが、あの再生の速さは紛れもなくオロチのそれであった。
『どうやら、この魔物を創った奴が、分かってきたのぅ』
ミノタウロス擬きの再生を見て、淤加美様がそう念話を飛ばしてくる。
『ええ、遺伝子物理学の権威、沼田教授の顔が浮かびました』
そうなると、相手の再生を超えたダメージが必要になるので
僕も参戦するか迷っていると、廃鉱の奥から弦を弾いたような、羽音が聞こえてくる――――――
「おい! 雨女! 奥からでっかい蜂が出てきたぞ! しかも大量にな!」
「何で!? もう、こんな時に……」
おそらく、先ほどのミノタウロス擬きが、振り回して飛んで行ったトロッコの残骸の衝撃で、下の層の巨大蜂どもが騒ぎ始めたのだろう。
巨大蜂は、一匹当たりの大きさが、中型犬程度なら掴んで飛んで行きそうなぐらい、大きい蜂である。
となると、下の層に相当デカイ蜂の巣があるに違いない。
みんなが、ミノタウロス擬きとの戦闘に夢中なので、僕が巨大蜂の撃退へ向かうと判断する。
他のメンバーは光の衣を着せてるし、今ならダンプトラックに轢かれても、かすり傷程度で済むだろう。
それに、僕は個人で動いた方が、闇の衣の漆黒に、他人を巻き込まなくて良いしね。
僕はリュックサックから、もう一本のペットボトルを出し、水を用意すると服を脱ぎ始める。
「急に脱ぎ始めて露出狂かよ!」
「違うから! 漆黒で服が融けちゃうと勿体無いので、脱いでるだけだから!」
こっち見るな! と尊さんへ叫びながら、急いで服を脱ぎ、リュックサックへしまう。この服、買ったばかりなんだもの、融かすのは勿体無いよ。
この間の東北では、正哉の前へ裸で出ても、大丈夫だったと言われるかも知れないが
何というか……男性の視線に敏感なんだよね。
会話する時に、胸ばかり見てるとか、直ぐに分かるし。
いくら尊さんが、神器を使うために櫛名田比売の櫛で女体化してても、やっぱ中身は男子なんだよね。胸に視線が来てるもの。
正哉の場合、向こうが顔を赤らめて、視線外してくれたけど
他の男どもは胸に視線が集中して、こっちが恥ずかしい。
まっ、一番スケベなのは、ウチのセイだと言うのは間違いないだろう。
僕はペットボトルを取り出すと、蓋を開けて極少量の水を手の平へ出し、闇へ変換が可能か試してみることにする。
そう、神器のサポートが無い状態での、光術と闇術の同時使用は危ないと言われているからだ。
闇淤加美神の闇術で水を闇へと変換して行くが、ものすごい頭痛に襲われて、吐き気を催す。
『だから神器なしでは、無茶だと言うたであろう』
『淤加美様の言う通り、あきらかに水術から闇術への変換処理が、足りていませんね……』
『どうしても、両方を使いたいなら、神器のサポートを得るか、千尋自身の術レベルを上げることじゃな』
『それって、どうやったら上がります?』
『知れたこと……何度も使って熟練度を上げる以外に、ないじゃろうな』
ですよねー
仕方がない。術反射を持たないパーティーメンバー全員を闇の衣にして、融かす訳にいかないし。
僕が光の衣に合わせるしかないな……
せっかく闇術の為に、服を脱いだんだけどね
さっきから後ろで、尊さんが早くしろー! と騒いでいるので、このまま残りの水を変換して、光の衣を纏う。
これはこれで、逆光で色々な部分が見えなくなるので、衣の下が裸であっても大丈夫だ。
武器は、とりあえず光の薙刀にして置く。
というのも、この場所が広い空間なので、長物でも振り回せるからである。
空を飛ぶ蜂を墜とすのに、刀では短すぎる、と言うのもあるけどね。
僕は近くの蜂を切り落とすと、巨大蜂墜としに頑張っている、尊さんと建御雷様の元へ向かう
建御雷様が電気ショックの術を使い、巨大蜂を麻痺させて墜とし
その地面に落とした巨大蜂へ、御霊無しの草薙剣で、とどめを刺す尊さん。
あれなら楽勝じゃないか!
でも巨大蜂個体の戦闘力は弱いが、数が多すぎる
なにより、尻から出ている針の先から、毒液を飛ばして来るので油断ならない
この蜂も沼田教授の創ったモノだとしたら、ただの毒液であろう筈がないだろうしね
その証拠に、先ほどから地面に垂れた毒液が、ジューっと音を立てて消えずに残っている
塩素系かな? 身体に良いモノじゃ無い事は確かだ。
取り合えず、効率を重視するならば、僕も建御雷様の処へ合流し、麻痺した蜂を減らすだけの作戦にした方が良いと考える
そう思って合流を急いでいると――――――
僕の目の前を、巨大な牛が左方向から右方向へとすっ飛んでいく
「千尋、ごめ~ん。あんなに飛ぶなんて思わなかった」
香住……なんだよ、そのゴルフクラブの宣伝文句みたいなの……何か凄い大きい肉塊が飛んで行きましたが?
「ちょっと待って香住、今の質量をどうやって投げた?」
「どうやってって……足を掴んで、ジャイアントスイング……」
おかしいだろ! 足を持ったところで、巨牛の体重で潰されるわ!
牛が飛んでった先の壁にめり込むと、他のメンバーが追撃している
「うぁ……タコ殴りだな……」
「仕方ないだろ、攻撃止めると直ぐに回復するんだから」
セイの言う事も、もっともだが……ちょっと可哀想かも
だって皆、昼飯! て言いながら、叩いてるんだもの、もう焼肉としてしか見てないよね。
肉は叩くと繊維が切れて、柔らかくなるけどさ……沼田教授が創った時点で、どんな副作用が在るか分からんし、ノーサンキューだわ。
まっ、だからと言って放置すれば、近隣の町を襲い兼ねないので、ミノタウロス擬きは倒してしまう他はない。
このまま、ミノタウロス擬きは香住達に任せて、僕は尊さんと蜂退治に勤しむ
しかし、雷獣の時もそうだったけど、空を飛ぶ敵に対しての対処方法が、今の処まるで無いと言う現状に、かなり頭が痛い。
どうにかならぬモノか……
この羽音を聞いてるだけでも、嫌な気分になって来るし
羽音……羽音ねぇ……
そうか! うるさい羽音で、顔とか身体に纏わりつくハエを落とすのに、最適な武器と言えば――――――
ハエ叩き!!
僕は薙刀状になっている光の武器を、大きなハエ叩きに変えると、試しに近くを飛んでいる巨大蜂を叩いてみる
蜂は光のハエ叩きに、ぶっ飛ばされて飛んで行き、壁へ叩きつけられ、潰れてオブジェになった
すげぇ、上手くすれば数匹纏めて倒せるし
「なんだよそれ! 雨女、俺にも創ってくれよ」
墜ちた巨大蜂にとどめを刺しながら、そう言ってくる尊さん
「残念ながら、形状を維持しないと成らないから、尊さんには無理かな」
一応簡単そうに見えるが、これでも全員分の光の衣を維持しながら、光のハエ叩きも制御しているので、かなり高度な事をやっているらしい(淤加美様談)
普通なら、呪文やら、印やら、護符などを使って術を行使するのに対し。
僕は想像だけで術を創り出して、行使しているので、使うのはオリジナルの術も良い処。水系と水光と水闇に限るけどね
それこそ神の御業だと言うのだが、僕としては最初からこのスタイルで来ているので、特別な事をして居るとは思わない。
特に、僕の術の使い方は特殊な方らしく、人間どころか古神である淤加美様でも再現は難しいと言われているから、櫛名田比売の櫛で疑似神格を得た尊さんでも、無理だと思う。
まあ、尊さんには日本最高の神器、草薙剣があるでしょうに、それで十分だと思いますよ。
尊さんは、ちぇ! と残念そうに吐き捨てると、とどめを刺す作業にもどるが
下層からどんどん上がって来るので、少しも数が減らず……
それ処か、だんだん増えているような?
「あ~も~。切りがねえ!! 下層からの坑道を崩して埋めるか!?」
「やめて! 魔物を倒すことが目的じゃなく、緋緋色金を探さなきゃならないんですから、崩した後に掘り返す手間が増えるだけですよ」
「……そうだった……クソ! 如何にかなんねーのかよ」
「元から絶たないと無理でしょうね」
「元からってーと……巣か?」
僕と尊さんの視線が、下層への入口を見据える。
「丁度、とどめを刺す作業に、飽きてきたところだ。建のオッサン、下層へ行こうぜ!」
「儂は構わんが、ここはどうするんだ?」
「そこは、雨女に任せて置けばいい」
おいっ!!
「尊さん! 片付けてけよ、コンニャロメ!」
尊さんに向かって叫んでみたが、すでに姿は下層への坑道の中へと消えていた
仕方がないので、残った巨大蜂を地道に潰して行くと――――――
それ以上、下層から飛んでくる蜂が消えたお陰で、どうにか駆除し終わったのだ。
下層から上がってこない理由は二つ
尊さんが巣を破壊したか……もしくは、尊さんが下層で巨大蜂のモンスターハウスに呑まれているか……
時間的に破壊するのは早すぎる為、後者の可能性が高い。
僕は、香住たちの戦闘を確認しつつ、大丈夫だと判断し、尊さんの後を追って下層の坑道へ入る
坑道の中で、かなりの数の巨大蜂の死骸がずっと奥まで続いているのを確認し、尊さんとの合流を急ぐ
そもそも、剣が届かない位置に巣があったら、どうするんだよ
僕が走る速度を上げると、再び広い空間に出る。
上層のソレと違うところは、人工に掘削された空間でないということだ。
モンスターが掘削した?
木などで坑内を支える支保工が造られておらず、粘り強い粘液が吹き付けられて、壁が補強してあるみたいだ。
では、尊さんはどこに?
空間内を見回していると、何やら上のほうで、カサカサ音がしている
僕はそっと天井を見上げてみると、巨大蜂の巣とその後ろから首を出す巨大百足と目が合った。
刹那! 僕へ向かって飛び掛かる百足
そのまま横に飛んで避けると同時に、ハエ叩きをカウンターでお見舞いするが、硬い皮に阻まれてダメージを与えられない
ハエ叩きじゃ無理か……
形状を長刀に変えて、次はすれ違い様に固い皮を切り崩す!
カウンターを待っていると、巣から巨大蜂が出てきて邪魔をしてきたのだ。
巨大百足と共存関係にあるのか? ええい! 面倒くさい!
前に赤紙青紙の妖怪と学校のトイレで戦った時に、水で無数の刃を創ったが
あれを使って蜂を全部串刺しにしようかと思ったけど、尊さんの場所が確認出来ない内は、一緒に穴だらけにするわけにいかず
使うのを躊躇った。
飲み物を呑むと、尊さんの身体にあいた穴から、飲み物が噴き出す体質に成った場合、可哀想だしね
『いや、そうはならんじゃろう』
淤加美様から念話でツッコミを頂く
かといって、威力の大きい術だと、廃鉱が崩れて生き埋めだしねぇ
とにかく巨大蜂がウザイ!
建御雷様の雷撃が在れば違うのだが、刀だけで落とすには、動きが機敏過ぎる
ハエ叩きにすると巨大百足が倒せないし……
『二兎を追わずに一兎に絞るのじゃな』
淤加美様……御もっともな意見だけど、魔物同志、共存しているらしく。片方狙うと、もう片方が助けに来るんだよね。
仕方がない、アレをやるか――――――
僕は、光の武器を水に戻すと、ぱっと見そこへ存在するか分からないぐらい細い糸状にし、格子型に組み上げて部屋中に張り巡らせる
鋭い刃のように細い水糸だ、当然蜂たちはソレに気が付かず、触れた途端に粉々になってしまった。
勿論、巨大百足も然り
同じく心太を作るように、格子状に切り刻まれる。
『凄まじいのぅ』
『細い分、水がすぐに穢れてしまい、使い物に成らなくなるので。水の量に限りがある時は、あまり使いたくないんですけどね』
光糸とか闇糸なら穢れないのだが、透明な水と違い、視認性が良すぎるのが玉に瑕である
『浄化し直せば使えるじゃろうて』
淤加美様は簡単に言うけど、それには少し時間が掛かるんですよ
しかし、全滅すると思っていた巨大蜂たちが、突然巣の中へ退避すると
なんと! 中からさらに巨大な蜂が出て来たではないか!?
『他より大きいし、女王蜂じゃな』
『淤加美様、あの女王蜂のお腹の処……』
そう、僕は気が付いてしまったのだ。女王蜂のお腹の処に、尊さんが粘液でくっ付いているのを……
『人質ってわけじゃな……厄介な!』
『もしかしたら、餌として回収されたのかも知れませんね』
尊さんに、光の衣が付いたままだと言う事は、衣が功をなして餌として解体出来なかったのか?
僕は慌てて、部屋中に張った水の糸を回収すると、直ぐに浄化へ入る。
あのまま張っていたら、女王蜂と一緒に尊さんまで切り刻んでしまうからだ。
どうすれば、尊さんへ攻撃を当てずに、巨大女王蜂だけ倒せるのか……
それが問題であった。




