3-14 飛騨ミノタウロス
O阪府、春明のアジトにて
晴明は執事のセルジュを送り出した後、沼田教授のクローンラボへと視察に来ていた。
「これはこれは晴明様。ご依頼の魔物の件は進んでおりますぞ」
沼田教授は、眼鏡を押し上げながら嬉しそうに言った。
今から少し前の事。瑞樹の龍神達が、緋緋色金を取りに行くであろう鉱山内へ魔物を放てるように、依頼していたのだ。
水氣の龍神にとって水が少なく、土氣と金氣ばかりの鉱山内で何処までやれるか……少しだけ楽しみである。
本当は邪魔者なので、生き埋めが一番良いのだが……剥き出しの地面から、龍脈移動も可能であろうし、その気になれば、いつでも脱出できよう。
人工のコンクリートにでも囲まれていれば、退路を断った状態になり、また違っていたであろうがな。
しかし――――――――――――
「なんか……昔ゲームに出て来た様な、魔物が居るのだが……」
晴明は、培養カプセルの中身を見ながらそう答える。
「それもその筈です。現代の日本に置いて、妖怪や悪霊の類は居ても、魔物なんてモノは、実際には居りませぬからな。実在しないものを創る訳ですから見本が必要でした」
「その見本が、ゲームに出て来た魔物だと?」
「はい、私は人付き合いが苦手なもので、当時ゲームで流行った、ロールプレイングゲームとか言うファンタジーが好きでしたので、そこから再現してみました」
当時って……海外の飛び級制度を利用して、学位は持っていても、沼田教授の実際の歳は二十歳そこそこだろう……
そう言う晴明自身も、儀式事故で不老になり、見た目は18歳の姿のままなのだが、此方の中身は50近いオッサンである。
両者、見た目の年齢は似通っていても、幼少期のズレはどうしても否めない。
「なあ、教授。培養液のカプセルに、スライムや蝙蝠とかコボルトなんかが居ないのだが?」
「何を仰せられますか? 初期の魔物と言ったらゴブリンでしょう? それにスライムは初期に出る魔物ではありません」
そうなのか? 初期に出ると言ったら、笑顔の水色スライムではないのか?
う~む、世代間のズレ……ジェネレーションギャップを感じる。
「しかし、まだ培養液につかっているとなると、間に合わないかも知れぬな。少し前に瑞樹の龍神がG阜県の関市へ現れたと報告があったばかりだ」
「心配は御無用です。既にかなりの数の魔を、日本各地の鉱山へ解き放っています」
「なんと!? 日本中のか?」
「ええ、瑞樹の龍神が、何処の鉱山へ入るとハッキリ断言出来ませんでしたから」
沼田教授の言う通り……龍神には龍脈移動がある為。距離の上では、日本中どこでも等しくゼロ距離と同等。
で、あるならば、例え北の大地への距離であろうと、お隣さんの家へ回覧板を回すぐらいの感覚で移動してしまうのだから、予測を立てる方も大変なのだ。
まあ、関係ない鉱山だったら、西園寺たちが魔物の駆除に駆け回るだろうし、それはそれで攪乱にはなる。
「すでに、鉱山へ解き放った後だと言うのに、今培養液に入っている魔物はどうするのだ?」
「そちらは、少し頭を良くして敵味方を区別できるようにしてあります故、ここの警備にしようかと?」
「なるほど、もし出来上がったら、アジト内へ解き放つ前に報告を頼む」
見方の顔を覚えて貰わないと、自分らが襲われかねない。
そんな話をして居ると、狐巫女のお玉が、沼田教授のラボへ入ってくる。
「晴明様、使い魔の雷獣が戻ってまいりました」
両手で抱える様にして、雷獣を抱いたままであるが
見た目は、狐娘が犬を抱いているような感じである。
雷獣は、だいたい60センチぐらいの大きさで、後ろ足が4本あるのが特徴なだけであり。それ以外だと犬や狼と変わらない外見だ。
「ちゃんと、追跡の札が付いていないか、確かめたんだろうな?」
「勿論です! この子も、追跡の札を付けられそうだったけど、自慢の脚で逃げて来たと言ってますし。私自身もちゃんと確かめました」
「そうか……ポンコツお玉の目は節穴だが、雷獣がそう言うなら大丈夫だろう」
「む~、私の目は節穴じゃありませんよ!! ちゃんとこう裏返してお腹の方まで…………あっ!!」
「あっ! てなんだ!? やっぱり節穴か?」
「いえ、この子……雄ですね」
雷獣の尻尾を持ち上げて、そう言うお玉
その刹那、怒った雷獣が電撃を走らせ――――――
「もぎゃぎゃぎゃぎゃ」
こんがりキツネ色……いや真っ黒になっていた。
「面白い悲鳴だったから75点やろう」
「……採点……辛口過ぎませんか?」
床に突っ伏して、プスプス煙を上げているお玉を他所に
晴明は培養カプセルに手を置き
「今は少しでも時間稼ぎがしたい」
そう呟く。
陸頭目のオロチの封印を解き、要石を手に入れるまで……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一方、穴に落ちた千尋たち、一行は――――――
「このままじゃ、真っ暗で何も見えないわね」
香住が、持参のリュックサックから、LEDのハンドライトを出して洞窟を照らす。
僕たちの龍族は、龍眼で暗視できているため、暗さに無頓着であったが
人間である香住や小鳥遊兄妹には、真っ暗で何も見えなかったんだね。失念していた
「あら、高月さん。用意が良いのね」
「そりゃあ、誰かさんと違って、千尋と付き合いが長いですからね。こんなのも必要かと思いまして、持ってきました」
本当に用意が良い。
香住のリュックは、どこぞの未来から来たロボットの、三日月型のポケットの様だ。
他に、猫耳とヘッドライトの付いたヘルメットを出して頭に被り、イボ付きの軍手をするが、元のスカート姿にヘルメットは凄くミスマッチである。
用意が整ったところで奥へ進もうとするが――――――
「何やってるの千尋。あんたは一番後ろよ」
「はい? ちょっと待って香住。僕の方が龍眼で暗視が聞くし、先頭の方が良いと思うんだけど」
「それじゃあ、LEDライトの意味が無いじゃない。夜目の利かない人が先頭でライト持たなきゃ仕方ないでしょ」
「確かに、それはそうだけど……じゃあ隊列が長く成らないよう、龍達は小さく成って、頭の上に乗ってよ」
それだけで、8人編成が5人に減るので、有事の際に前衛と後衛の入れ替えが簡単にできる。
僕の言葉に納得したのか、龍達が手のひらサイズへと小さく成り、香住の肩の上に淵名の龍神さん。僕の頭の上にセイと赤城の龍神さんが乗っかる
なぜ、僕の上に2龍も乗るのかと言うと、人間嫌いの赤城の龍神さんが、小鳥遊先輩の上に乗りたがらないので仕方がないのだ。
「尊よ、儂も草薙剣に入ろうか?」
「建のオッサンは、まだ良いんじゃね? あまり早く入られても、俺の体力が持たないだろうし」
そう言って隊列が決まった。
先頭を小柄の香住と小鳥遊先輩。ギリギリ二人並んで通れるので、問題は無いだろう
中間に、尊さんと建御雷様。この二人は、女子チームと違い小柄じゃないため、横並びではない。
そして、一番殿を行くのが、僕と頭の上に居るセイと赤城さん。
そんな隊列で、上ったり下りたり、曲がりくねった道を奥へ進む。
どうやら単調な道に飽きて来たのか、小鳥遊先輩が急に話を切り出す。
「ねえ、高月さん。貴女……千尋ちゃんを諦めたって割に、私と千尋ちゃんの邪魔をするわね」
うぁ、僕が話題かよ……香住は後が怖いから、変なこと言うのは止めて欲しい。
「諦めたって言うのは、セイさんと千尋の婚約をですよ。恋敵は元神様だし、千尋は女の子になっちゃうし……仕方がないでしょ。でも、他の方との恋愛は認めてませんから」
「貴女の許可が居るって? 千尋ちゃんのお母さんじゃないでしょ」
「いいえ! 私達が小さい時から、千尋の母親代わりです!」
何か、すごい恥ずかし話してるんですけど……
「千尋、お前モテモテで大変だな」
「誰のせいだ誰の! だいたい、セイだって恋敵だと思われてるじゃないか」
「我も千尋さんの事が大好きですよ。さっさと婚約破棄して、ウチの赤城神社へ嫁いで来ませんか?」
「おまっ! 赤城!! 俺の嫁を口説くな」
収拾が着かねえ……
「尊さんは、喫茶店の彼女……鞠菜さんと、どうなんです?」
「てめえ! 雨女! こっちに話題を振るなよ」
「そうね……将来、義姉になるかもしれないし、私も聞きたいわ」
先輩が兄である尊さんに問い詰める。
「そ、そんな事はどうでも良いだろ! それより見ろ! 洞窟の壁が、自然で出来た感じでは、無くなって来たぞ」
尊さんめ、上手く話を逸らしたな
でも、確かに尊さんの言う通り、辺りの様子が変わった。
明らかに自然に出来た洞窟で無く、人の手で掘ったような感じなのだ。
進むにつれて、洞窟の高さや幅も大きくなっていく。
どうも、何処かの廃鉱に繋がったみたい。最後には洞窟の広さも、ダンプトラックが入れるくらい広くなっていた。
「どこかの鉱山かな?」
「設備の灯は点灯しないみたいだし、電源ボックスの埃の積もり方から、廃鉱かもね」
小鳥遊先輩が、壁についている電源ボックスをライトで照らしながら、そう答える
取り合えず、此処へ来るまでに紅い色の鉱石が無かったので、在るとしたらもっと下の層だろう。
「ここが人工で掘られた廃鉱なら、何処かに出口があるはず、香住と小鳥遊先輩は外へ……て、聞いてねえし!」
二人は、どんどん下り坂に成ってる方へ、歩いて行ってしまう
自分たちが、普通の人間だって分かってるのかな……
僕もすぐさま、二人の後を追い掛けると――――――
前方に、肌が緑色で子供ぐらいの大きさをした生き物がいる。
あれって――――――
「ゴブリン!?」
「ちょっと千尋ちゃん。ゲームのやりすぎよ」
「そうよ! いくらなんでも、現代の日本でゴブリンなんて居るわけ無いでしょ。ファンタジーじゃあるまいし」
……ファンタジーな存在ですみません。
二人とも、龍の存在は信じてるのに、ゴブリンは信じないのか?
まあ、気持ちは分かるが……
僕が、自分の存在が否定されたようで、悲しんでいると、此方に気が付いたゴブリン? が包丁を片手に突進してくる。
武器は現代風なのね……どうみても100円均一の包丁だし
そのゴブリンへ、小鳥遊先輩が腰に付けた鞭を外して、打ち付ける
が――――――動きが早い!
先輩の鞭をひらりと避けると、ゴブリン擬きはそのまま突進してくる
マズイ! 鞭を引き戻してる時間が無い!
先輩が接近戦用の独鈷杵へと、切り替えようとしていると、香住が先輩とゴブリン擬きの間に割って入る。
「高月さん! 貴女じゃ無理よ!」
先輩の叫び声に、僕は急いで駆け付けるが、そこで見たものは――――――
香住がゴブリンの首に足を引っかけて、回転して地面に叩きつける処だった。
フランケンシュタイナー!!
すげえ……一撃だし
そこに淤加美様が現れて、カウント3を数えるが……どうなってるの?
「どうやら、香住嬢ちゃんは、ドラゴンライダーの素質を順調に開花させているようじゃの」
「淤加美様、だって香住は龍に乗ってませんよ?」
「肩に乗って居るではないか?」
そりゃあ、肩に淵名の龍神さんが乗ってるけど……
「あれは乗られてるであって、乗って居るじゃありませんて」
「言ったであろう、龍と人間が心を通じさせると、力が増すのだと」
「……確かに言いました。じゃあ、なんですか? 心さえ通じて居れば、乗っても乗られても力が増すんですか?」
「そうであったろう? たった今、自分の眼で見たではないか?」
確かに、ゴブリンの速さ以上に、香住の速さが上回っていて。ジャンプ力も、足で首をねじる力も数段上だった。いつも技を受けてる、僕が言うのだから間違いない。
こんなもんね。と、立ち上がる香住に――――――
「やるじゃないの高月さん。次は私が貰うわ」
小鳥遊先輩が、不動明王の火炎術を唱え、鞭を炎の鞭にすると、そのライバル心にも火がともる。
戦闘では、一般人に負けるはずが無いと思っていたのに、実戦経験のない香住に初戦を持って行かれたのだから、その悔しさもあるのだろう。
二人は、そのまま廃鉱の奥へと駆けていく。
もう……魔物をどれだけ倒せるかじゃなく、緋緋色金を見つけるのが目的なのに、二人ともすっかり忘れてるよ。
やれやれと言う顔で、すぐ後を追う尊さんと建御雷様。
まあ……先頭の二人があれだけ強ければ、やられることも無いだろう。尊さん達も居るしね
僕は、目的の緋緋色金を探しながら、ゆっくり後を追うと、嘗てゴブリン擬きだったであろう残骸が山のように転がっていた
凄まじいな……
「おい、千尋。みんな倒されちまってて、面白くねーぞ」
「あのなぁセイ。緋緋色金を見つけるのが目的なのに、無駄な事してどうすんだよ」
だいたい、ウチらは戦闘神ではなく、五穀豊穣の神なんだぞ
約1柱、建御雷様は剣神だけどさ。あとは命を育む系の神なのに、どうして皆戦闘民族みたいな感じなんだろう
僕はため息をつきながら、奥へ進むと死骸が大きい個体に変わってきている
中には豚の様に大きい魔物も居た。
「これもゲームに出て来た、オークっぽいな」
でも、ゲームみたいに大斧とか大槌が用意できなかったのか、丸太を持って振り回していたらしい
死骸と一緒に、床に転がる丸太……この廃鉱を支えている、支保工の丸太じゃないよね?
下手すると、落盤にあうぞ
僕は、先に行った香住達が心配になり、駆け足で追い掛ける。
勿論、緋緋色金の鉱石も探しながらね
だいぶ進んだところで、かなり開けた場所に出ると、香住達と何者かが戦っていた
「おいおい……冗談だろ……」
僕がその大きさに驚愕していると、セイが――――――
「大きい飛騨牛!!」
「ちげーし!! 飛騨牛が二足歩行で、トロッコの残骸振り回すわけ無いだろ!! あれはミノタウロスだ!!」
とんでないモノが出て来たな、おい……
だいたい、どうして現代日本に、ゴブリンだのオークだの……おまけにミノタウロスとか出てくるわけ?
分けわからないよ!
果たして、生き埋めに成らない様に気を付けながら、こいつを倒すことが出来るのだろうか……




