3-12 二振り目の宝剣
O阪府、晴明達のアジトにて
晴明は沼田教授が管理する、クローンラボの視察に向かって廊下を歩いていた。
その背中を追うように、執事風の男が追い掛けてくる。
「晴明様! 急ぎご報告が……」
「セルジュ!? もう足の怪我は良いのか?」
「はい、御心配をおかけしましたが、晴明様の治癒術ですっかり良くなりました」
「そうか……よく戻ったな……本当ならもっと休みをくれたい処だが、国津神との戦闘にも後れを取らない人材は、そうは居ないのでな。済まんが、もう少し頑張って貰いたい」
晴明はそう言って部下に頭を下げた
かなり無茶をさせている為、もう辞めたいです。と言われても仕方が無いのに、セルジュは良くやってくれている。その部下に対して頭を下げることしかできない自分が情けない。
「そんな! 晴明様。頭をお上げください。晴明様と弥生様の境遇に胸をうたれ、必ずお二人を引き合わせて見せると、先代の御主人様に誓ったのです。荒事は全て、このセルジュにお任せください」
「……本当に済まんな……事が終わったら、長期休暇を取らせるので、踏ん張ってくれ」
「お任せください。あと、先ほどの急ぎの報告ですが……密偵との情報運びに使役している『雷獣』が、瑞樹の龍神と交戦中です。援護を送りますか?」
「雷獣と龍神か……いや、データを取るチャンスだ。瑞樹の龍神が水属性である以上、木属性の雷獣が一方的にやられる事はあるまい」
元の戦闘能力が違いすぎるので、勝つことは出来ないと思うが……
「では、このまま戦闘を?」
「……そうだな……いくら属性的に有利であっても、相手は国津神。どう足掻いても、雷獣では敵う訳がない。切りの良い処で引き上げさせるさ。捕まったりして密偵がバレてもマズイしな」
「かしこまりました。 では、陸頭目のオロチを探しに行って参ります」
そう言って頭を垂れるセルジュに――――――
「セルジュ、待つがよい。御主に渡したいものが……」
晴明は、こっちだ。とアジトの中を進み、ある部屋へセルジュを連れて入ると、台座の上にある布を外す。
「こ、これは!? 宝剣ではありませぬか!」
「出所は聞くなよ。この宝剣は3振りある中の1振りだ」
「凄いですね……しかし、これは扱えませぬ」
「だろうな、この神器が他の神器と違う点は、唯一神格を必要とする神器だということだ。だからこそ、盗み出した所で紙すら斬れぬ鈍らに成るので、誰も盗もうとは思わない」
「でしょうな……担い手が居ない場合、見ただけで目が潰れる可能性も……はっ!?」
「ふふっ、気が付いたようだな。担い手が居ない状態で、なぜ我々が無事なのか?」
「担い手機能がキャンセルされている?」
「うむ、これと同じものを西園寺の手飼いの若者が持っているが、そいつは櫛名田比売の櫛を使い、疑似神格を得て宝剣を使いこなしている」
「お待ちください。このセルジュに女体化する櫛を刺せと? それはあまりにも……」
「待て待て、そんな事をしなくも、現に我々は無事でいるではないか」
「確かに……しかし、何故にございます?」
晴明は不敵な笑みを浮かべると、懐から3センチ真四角のサイコロの様な石を取り出す。
「こいつのお陰さ。これはな、沼田教授がオロチのDNAから造り出したモノでな、内容は良く分からんが、これが神格無しでも宝剣を大人しくさせている秘密だ」
元々、宝剣草薙剣は、八俣遠呂智の尻尾の中にあったが為。持ち主をオロチだと誤認させることで、宝剣の担い手機能を止めて居るのだと言うが……
沼田教授の説明に、専門用語が多すぎて分からないため、大体そんな感じだと簡単に解釈している。
「では、これがあれば宝剣が使えると?」
「沼田教授の話だと、そうらしい。だがコレには西園寺の手飼いが持つ宝剣同様に、御霊が入って居らぬ」
そう、3振りある宝剣の内1振りだけが御霊入りなのだ
日本の神器は、分身体を生み出す為、どんどん増えるのだが……中身の御霊のコピーだけは、どうにも成らない。
西園寺の手飼いは、その御霊なしの宝剣に、建御雷神の御霊を入れることで、雷神剣として使用している。
ならば御霊なしでは、勝てるはずがない。
晴明はそのオロチキューブを渡しながら、もう片方の手を懐へやり、直径数センチの紅い宝玉を取り出した。
「そこで、この分御霊だ」
「この燃える様に紅い珠は……まさか!? 火之加具土!?」
「うむ、サーバールームの熱を吸い上げて、ようやく回復傾向にあったのだが、無理をして分御霊を出してくれた」
お陰で、加具土命の身体が、また小さく成ってしまったがな
「この二つがあれば、瑞樹側の宝剣使いと、互角以上の戦いが出来ますね」
「だが気を付けよ、属性的に雷は木属性に入り、火属性の方へ有利に働くが、瑞樹の龍神は水属性。火属性には相克になり不利になるぞ」
それに、分御霊は使いどころを間違えると、どんどん体力を持って行かれる
西園寺の手飼いの小僧は、建御雷神が相棒になって、出力配分を上手く調整しているのだろうが
こちらの加具土命の分御霊は、加具土命本人の身体が不調な状態で創り出した為。意志を持っていない。
なので、建御雷神の様に、出力配分をしてくれる訳ではないので、自分で使用のタイミングを計る必要があるのだ。
「その程度なら、小僧に丁度良いハンディになりましょう」
「セルジュ……こんなモノでしか、支援できなくて申し訳ない」
「何を仰せられます。これだけのモノを揃えていただいたのです。まさに鬼に金棒ですな」
そう言って笑うセルジュに
「良いか、必ず生きて生還せよ」
「御意!!」
そう言葉を残し、陸頭目のオロチ捜索に去っていくセルジュの背中を見つめ
必ず生き残れよと、もう一度呟くのだった
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一方、雷獣と交戦中の瑞樹千尋達は――――――
「ちょっと! なんで当たらないのよ!」
水で創ったバリスタを使い、雷獣へ狙いをつける小鳥遊先輩が、苛ついて声を上げる
「先輩、もっとちゃんと狙ってくださいよ……弦を巻くのは手動なんですからね。外れる度に弦を巻かされる僕の身にもなって下さい」
「じゃあ、ウチの兄様……」
「尊さんは、先輩が外した弾の処理に行ってます」
流れ弾が一般人に当たる可能性もあるので、外れ弾を切り飛ばしに行ってるのだ。
「だいたい、あの空に浮かんだ獣が、雲の中へ隠れたりして、人を馬鹿にしてるのよ!」
「雷の化身だけあって速いですよね。こちらの弾にしている刀が着弾するまでのタイムラグで、避けられてしまいますし」
本当に雲から雲へと凄いスピードで飛び回り、時々尻を出しては撃ってみろと挑発するので、普段は冷静な小鳥遊先輩が、もはや怒髪天を衝く状態……分かりやすく言うとブチ切れて居るのだ。
「ムキ―、ちょっと! 地上へ降りてきなさいよ!!」
先輩……地上戦が出来れば、尊さんの雷なし草薙剣を使い、金属製の一撃で、真っ二つにして終わりますってば。
本当、僕らは空中戦に弱いな。
メンバーの中で飛べるのは、僕以外の龍だけだしね。
その龍達も、天津麻羅様を運んでいて不在だし。
現れたとしても、天津麻羅様を掴んで居れば、両手が使えないしね。属性も水で此方の不利
さっさと、闇淤加美神の闇術を弾に使って、撃ち落とそうとも考えたが――――――
其れが出来ない理由があった。
『千尋、あの二人が見えているか?』
淤加美様に念話で注意を貰う
『ええ、龍眼の望遠モードでバッチリです』
『どうやら、此方の戦力を測っているようじゃのぅ』
そう……信一さんの家から、かなり離れた路地に2人組の人間が、戦闘の様子を見ているのだ
敵味方分からない状態で、手の内を晒す訳に行かず。僕も闇術の使用をして良いのか、決め倦ねていた。
でも、味方なら。西園寺さんから何やら連絡があるはずだし……
『見方じゃないですよね?』
『妾に言われても知らんぞ。気になるなら、一発かましてやれば良かろう』
『だ、駄目ですよ。味方だった場合、言い訳できませんてば』
『そんなもの、偶然流れ弾が飛んでった! で済ませばよい』
それじゃ済まないよなぁ、絶対……
「あ~もう外れた! 次の弾!!」
双眼鏡を片手に、指示を出す小鳥遊先輩へ信一さんが
「あのな……もう無いんだけど」
「なければ早く作って!」
失敗作を造れとか、無茶を言う。
「小鳥遊先輩、冷静にお願いします。あと、外れ弾を処理中の尊さんに、スマホで連絡とって貰えます? 尊さん人間だから、念話が通じなくて……」
「良いけど、なんて伝えるの?」
「次の弾は闇術の矢を使いますので、離れた場所で見ている二人組の気を逸らしてくださいって……あっ! あくまで気を逸らすだけで、傷つけない様にって念を押してくださいね。出来るだけ穏便にお願いします」
味方だった場合、関係が複雑に成りますから
小鳥遊先輩が、兄である尊さんに連絡を取り終わると、僕はバリスタを創る時に余った水で漆黒の矢を創り出す
「それでは説明します。今回は水のバリスタにセットした、漆黒の矢を使って雷獣を撃ちますが、矢から伸びている闇の線があるので、これを使って僕が有線コントロールが出来ます」
「と言う事は、誘導弾になる訳ね」
「そうです。避けても闇線が切れない限り追っていきます」
闇線が切れる程の距離まで逃げられた場合は、雷獣の勝ちになりますが……あとはスピード勝負です。
小鳥遊先輩の指示により、バリスタの角度を合わせていく。
「もうちょい右……そそ、あ~行き過ぎ」
「先輩……だいたいで良いんですよ、あとは誘導で追いますから」
「それだと、私の気が収まらないのよストーップ。そのまま……」
はぁ……今頃、龍の背中に乗って居る、大食いの誰かさんと同じで、負けず嫌いなんだから
僕は、先輩のゴーサインを待つ――――――
「今よ!!」
その声で、引き絞られた弦が外れ、カタパルトの様に漆黒の矢を撃ち放つ。
漆黒の矢は勢いよく、雷獣を目指し一直線に飛んで行くが、雷の様に速い雷獣が余裕の笑みを浮かべて雲の中へダイブする
だが……今回は有線誘導付きなのだ
僕の念じるままに、漆黒の矢は軌道を変えて、雲の中へと突き進む
その矢の誘導に驚いたのか、雷獣が雲から飛び出して、丸裸になった。
チャンスだ!
そのまま誘導し、雷獣を撃ちぬこうとするが……横から長くて太い槍が飛んできて
運の悪い事に、僕らが放った漆黒の矢とぶつかってしまう
それを目の前で見た雷獣は、今まで以上のスピードで雲に飛び込むと、雲から雲へ渡りながら、西の方へ逃げて行ったのだ。
「何よあれ! もう少しだったのに、逃げられちゃったじゃない!!」
小鳥遊先輩は、相当にご立腹で、階段をダンダンと音を立てて降りていき、文句を言うために二人組の処へ向かって行った。
『淤加美様、今の見ました?』
僕は部屋の水のバリスタを片付けながら、淤加美様へそう念話を送る。
『うむ、奴ら雷獣をわざと逃がそうとして、我々の邪魔をした様じゃな』
『ええ……泳がせて、黒幕を突き止めようとしているみたいですね。それに、漆黒の矢を弾くほどの槍を、術で創るなんて……』
『少なくとも、強度は神器クラスに届いて居るな……直ぐに消えたがのぅ』
でしょうね
人間で神器クラスを創り出すなんて、一瞬でも再現出来ただけで凄い。
それも、ちゃんと鍛冶で造ったのなら兎も角、術で創るなんて……
信一さんの家に残った僕らが、片付けを終わるころになると
小鳥遊兄妹に連れられて、路地から覗いていた二人を連行されてくる。
「聞いて千尋ちゃん! こいつら邪魔をしておいて、謝るどころか訴えるって言ってるのよ」
「訴えるって……邪魔して置いてそんな……」
僕が、どうなってるのか分からずに居ると、スーツを着た二人組の背の高い方が前に出る。
「初めまして。私は安倍晴明の子孫で、晴明の名を受け継ぐ次期候補。華千院 重道と申します。以後お見知りおきを」
このキザな感じ……晴明さんの甥子である有村君にそっくりだ。
ただし、こっちは中身がなんか……腹黒そうな感じ。
それに……安倍晴明だって? と言う事は、雷獣は晴明さんの使い魔かも?
「はあ、ご丁寧にどうも……瑞樹千尋です」
とりあえず、向こうに名乗られたので、名乗り返しておくと
僕の嫌だという気持ちを察して、淤加美様から念話で――――――
『千尋……本当に嫌そうじゃのぅ、良い男じゃないかへ?』
淤加美様……人間、見た目だけじゃ無いんですよ
それに、何だか胡散臭いし
今度は、もう一人の背が低めで小太り男が前に出て
「俺様は、同じく次期候補の御堂 進。訴えると言うのは、俺様に刃を向けた馬鹿の事だ!」
そう言って尊さんを指さした。
「尊さん……穏便にって言ったのに……」
「違げえ! こいつが、何か術を行使しようと、札を出してたんで、止めただけだ」
そう言って、御堂進という男に指をさし返した。
お互い指差し合って、子供か!!
「貴様……他人を指差すとは……育ちが悪いな。お前が邪魔しなければ、今頃追跡の……」
そこまで言いかけて、最初に名乗った華千院という男に
「御堂!!」
と大声で遮られてしまう。
あぁ、そう言う事か……
二人とも安倍晴明の次期候補と言う事は、晴明さんを追っているのかな?
それで、追跡用の術をかけた雷獣をわざと逃がし、アジトを突き止めようとしている訳か……
益々気に入らない。
僕達に、雷獣を散々攻撃させておいて、弱った隙を狙って、追跡の札か何かを付けようとした
つまり、危険な処は他人にやらせ、オイシイ手柄だけ持って行く人間……
やっぱり気に入らない!
結局は、晴明さんを亡き者にして、自分が後釜に納まる……お家騒動じゃないか!
なんか、面倒事に巻き込まれたくないな……そう思うのだが、果たして




