3-10 鍛冶屋の神
G阜県の関市にある、貴船神社へと龍脈を開ける。
近くに春日大社もあるみたいだけど、そちらに龍脈を繋いだら、淤加美様がキレるだろうから止めておいた。
「ほう、関の貴船神社に出るとは、千尋もやるではないか」
「ここなら高淤加美神が祀られてますからね。それに、水神の龍族だと相性がいいですし」
「相性なんかどーでも良いから、飯にしようぜ。朝飯食えなかったから腹減って……」
セイ! 腹が減った気持ちは分かるが、もう少し空気を読め!
「どーでもよいとは何じゃ! どーでもよいとは! 神格を失ったとは言えども、御主も水龍であろうが!」
「痛ててて、大婆様。俺の頭は、仏道の木魚じゃ無いですから、叩かないでください」
僕は見かねて、ポカポカとセイの頭を叩く、淤加美様を羽交い締めにして止めると
「まあまあ、淤加美様落ち着いて、揚芋菓子を買いますからお許しを……あと町に出るので、僕の中に戻ってくださいね」
「千尋……お主も存在じゃの」
さすがに浮いているのを見られたら、新型のドローンだと言い訳しても、無理がありそうなので、戻って貰った。
龍達の角は、見える人にしか見えないから良いとして……
他に問題なのは、布を巻いているとはいえ、抜き身の神器を持っている尊さんと、穂高見様。
あとは日本鎧を着ている建御雷様。
僕の方の武器は、普段の状態が水のペットボトルなので、こういう時に便利なのだが、3人はどうしよう……
尊さんと穂高見様は、絶対に神器に巻いた布を取らせないようにしなきゃ。神様が銃刀法違反とか洒落にならん。
問題は建御雷様の鎧だが、どうしたものか……
「建御雷様、一度草薙剣に入って貰うというのは?」
「別に儂は構わんが、刀身が雷で包まれるから、そんな巻いている布など、燃えてしまうぞ」
ですよねー
SF映画に出るような、ビームソードみたいに光っていては、逆に目立って仕方ないし
「どうしたものか……」
「安心せい、儂の鎧は龍族の角と一緒で、霊力の強い人間にしか見えんからな」
おお、そうなんだ……
「ん? ちょっと待って!! 建御雷様、鎧が見えないって事は……」
「もちろん、鎧の下に隠れた儂の肉体美が、人間達に披露されて居る」
「ただの露出狂じゃないですか!!」
迂闊だった。まだ鎧が見えた方が、コスプレとか戦国ドラマの撮影とか、言い訳が出来たのに……
裸に見えていたら、言い訳も何もなく、猥褻物なんちゃら罪で逮捕されるわ!
香住の方に、目で合図を送ると、嫌そうに見える眼鏡を外す。
直ぐに顔が赤くなり、眼鏡を掛け直すところを見ると、やはり鎧の下が見えてしまっているようだ
「建御雷様は小さくなったり、人の目を誤魔化すような術は?」
「生憎だが、儂は剣神であるが為に、術系は雷による攻撃の術が専門でな、後は雷光で目眩ましするぐらいしか持っておらぬ」
だと思いました。
よく、I城県から歩いてくるのに、止められ無かったものだ
「仕方がありません。取り敢えず建御雷様のお姿を消しましょう」
僕は貴船神社の手水舎から水を手元に引き寄せると、霧状にして像を暈す。
ウチの神社と同じく、水神である淤加美神が祀られているだけあって、敷地内なら自由に水が操れるので楽だ。
霧をさらに細かく……大気に馴染ませ、そのまま乱反射させて……と
「おお、建のオッサンが消えた」
「視覚光を反射して、消えた様に見せているのですね」
尊さんと赤城の龍神さんが驚きの声を上げる。
赤城さんが正解。存在が消えている訳でなく、消えたように見えているだけなのだ。
「そう言えば、御二人には見せてませんでしたものね。上手くすると自分の偽物も創れます。外見だけですけど」
実戦で使ったのは、東北のセルジュ戦が初めてですが、尊さんは最後に現れたので、知らないのも仕方がないかな
まぁ、あの時は尊さんに一番オイシイ所を、持って行かれましたがね。
「この術の汎用性が高い所は、直接本人にも掛けれるが、空間に掛けて……分身の幻影を創れるところです。その、空間投影方式だと、術反射にも掛からないので、僕自身にも使えて便利なんですよ」
この術に弱点があるとしたら、この間の犬神のように臭いで追うタイプや、氣を探って戦うタイプには効かない所かな。
さて、砥師さんの処へ行きましょうかと言ったら、セイが
「先に飯食って行こうぜ! この飛騨牛が美味そうだ」
そう言って、タブレット端末で調べた、ご当地の名物紹介を見せる。
「あのな……この大食い四天王がいる状態で飛騨牛とか……牛一頭、丸々食べる気だろ?」
「わ、私はそんなに食べないわよ!」
香住が慌てて言い訳するが
「高月さん……貴女は、自覚が無いのね」
小鳥遊先輩がそう煽る
「なんですって!」
「もう、二人とも喧嘩しないの。兎に角、砥師さんの所へ行こうよ。神器持って歩くのも怖いし、建御雷様に服着せちゃえば姿消さずに済むしね。ご飯はその後でも……」
建御雷様が消えたままお店に入ったら、お箸や御飯が宙に浮いて見えるし
それはそれで、騒ぎになるから、やっぱり着替えた方が良い。
僕の言葉に皆渋々納得し、西園寺さんに送って貰った地図を、尊さんのスマホにナビさせながら歩いていくと、ある一軒のお店に到着した。
「ここか? なんか思ってたのと違って、普通の店なんだが……」
スマホを持って先導していた尊さんが、何度も地図を確認している。
「根小屋刃物店?」
僕が店の看板を読み上げていると、店の中から若い兄ちゃんが出てきた。
見た目は五分刈り頭で、歳は推定20代半ばって所かな?
「あんたらか? 北関東から来るっちゅう客は……俺は鍛冶見習の根小屋 信一、よろしくな」
店の入り口で仁王立ちして腕を組む姿は、こだわりの在るラーメン屋の店主のようだ。
見習いって事は、未来の鍛冶職人さんだし、なかなか様になっている。
「あの……西園寺さんの紹介で来ました。瑞樹千尋です」
「ああ、聞いてるぜ……だけど、間が悪かったな」
「え? 間が悪いって?」
「オレはよ、まだ修行中の身なんだが、ウチの爺さんが腰をやっちまってなぁ」
あちゃ~、そりゃあ間が悪いわ
「あの……大変失礼ですが、お父さんは? もしよろしければ、お父さんに打って頂けたりは?」
香住が横から話を挟む
「親父か……難しいだろうな……まっ、立ち話もなんだし、中へ入ってくれ」
そう言われて中へ通されると、奥の座敷からお爺さんが這って出てくる
「ええ!? 寝て居なくて平気なんですか!?」
「なんのこれしき……腰痛ごときで寝ていては、北関東からお越し下さる神様たちに失礼じゃ」
「いや、無理しないでください。僕ら水神でも、腰痛は治せませんから」
「じーちゃん……這って出てくる方が失礼だぜ。奥で寝てろって……」
「痛たたた、無念じゃ……」
そのままお孫さんに背負われて、奥の座敷に連れていかれてしまった。
なるほど……あの腰じゃあ、鍛冶場で槌を振るうのは無理だわな
「すんません。じーちゃん頑固なもので……」
「お気になさらず、お大事にお伝えください」
僕らはさっそく、依頼として持ってきた、折れた神器である、海神の槍を巻いた布を解いて広げて見せると――――――
「これは……オレでは修復は無理っすね。前回の宝剣は、錆落としだけだったので、修復は上手く行きましたが……折れている以上は、打ち直しが必要です。神器の類を打ち直しできる人間は、今のこの現代で居るかどうか……」
「あらら、先ほどの話の御父上でも、無理なんですか?」
「親父……ですか…………知っての通り、刀は特別な事以外での所持が出来ない事になっています。特別と言うのは、コレクションとして美術品の許可を取ったモノ。真剣術……真剣道で使用する場合などを除いては、所持や使用が禁止されています」
「破ると銃刀法違反って事に成っちゃうわけですね」
「えぇ、そうなると買い求める人は少なく……我々刀鍛冶職人も、仙人の様に霞を食べて生きる訳には行かないものですから、どうしても生活の為に、刀以外を売って食べるしか、ありませんでした」
「話が読めました。先ほどのお爺さんが、刀だけに専念しろと言うのと、生活の為に刀以外をと言う、お父さんとぶつかった訳ですね」
「そうなんです。親父はその技術で包丁を打ち。その切れ味に惚れた料理職人さん達が、包丁を買って行ってくれる事で生活を支えてくれました。なので、親父には感謝しています。でも……刀を打つのは、親父では無理かと……」
なるほどねぇ、しかし困ったな……
僕がどうしようかと思案していると、僕の中の淤加美様が念話で
『ならば、鍛冶屋の神に頼んでみるのはどうじゃ?』
『鍛冶屋の神様? 日本神話に居ましたっけ?』
『うむ、古事記に名前だけ出て来て、目立った話もなく印象が薄いのじゃが、天津麻羅という鍛冶屋の神が居る。他にも3種の神器の一つである、八咫鏡を創った伊斯許理度売命などが古神では有名じゃな』
『結構日本にも、鍛冶屋の神って居られるんですね』
『そりゃあそうじゃ、ここは火山の島国じゃしのぅ。鍛冶や竈に使う火と、作物を育てる水は、昔から崇められておる』
『なるほど』
『この近くじゃと、南に40~50キロほど行った場所に、金山神社があるのじゃが……そこに祀られて居る』
関市から50キロ南って言うと、Ⅰ知県、名古屋市のど真ん中か
また戦闘になった場合、被害が出るであろう厄介な場所にあるなぁ
できれば、晴明さんもオロチも出ないで欲しいものだ。
僕達が大事な話をしていると言うのに、背後がやけに騒がしい
「ちょっと! 大事な話の途中で、何を……」
そう言いながら、背後を振り返ると、建御雷様の鎧を皆で脱がしている所であった
「何って……このままじゃ、外を歩けないって言うから、鎧を脱がしているんだよ」
セイの奴。早く着替えさせて、ご飯に行きたいんだな……
「建のオッサン動くなよ、コメ結びになっちまうだろ!」
尊さん。コメ結びは北関東の方言ですよ。カタ結びが標準語です。
「そうは言うがな尊……そっちの布は、引っ張られると褌が脱げてしまうのでな、引っ張るのを止めてくれぬか?」
建御雷様に指示を受けながら、初めての日本鎧に四苦八苦しながら脱がす、尊さんに向かって
「あのねぇ、脱がしたところで、着せる服が無いでしょうが」
僕の言葉に、ハッと我に返って冷静になる二人
そこに、鍛冶見習の信一さんが――――――
「えっと、オレの古着で良かったら、在りますけど……」
「構いません! むしろ大歓迎です!」
裸で外を歩かれるより、はるかに良いからだ。
信一さんは、一度奥に引っ込むと、神様に古着とか申し訳ないと言いながら、幾つかの服を見繕って出してくれた。
古着でも、たぶん大丈夫ですよ。
瑞樹神社なんか水神の関係で、五穀豊穣の恵の雨を降らせるモノですから、ご飯粒1つにでも大切にしなさい! と、モノを大切にする事を婆ちゃんに叩き込まれましたからね。
すぐに捨ててしまうより遥かに良いです。
まぁ、瑞樹神社の理屈が、建御雷様に通じるか? と言うのもありますが……建御雷様は度量の広い方ですから、余程の失礼がない限り大丈夫でしょう。
それに、建御雷様本人が選ぶのですから……もし、気に入った服が無ければ、買いに行こうと思ってましたしね。
しかし、その服の山の中から、建御雷様が選んだのは――――――
「うむ、これが良い」
「ちょ!? 建御雷様、それジャージですよ!?」
「動きやすいし、気に入った」
マジか……
そりゃあ、動きやすいだろうけど、お出掛けするには……ねぇ
「建のオッサン、この草履を履いてみて」
尊さん……わざとやってるだろ?
もう完全に、近所を散歩する、タダの緑のジャージを着たオジサンだし
「うむ、鎧と違って防御力に不安が残るが、動きやすい分、回避に定評がありそうだ」
そりゃあ、鎧に比べれば、どんな服もそうなりますよ。
でも、甚く気に入ってるし、他の服にしてくれないよなぁ
「仕方ない、普段着で入れるような……ドレスコードに拘らないお店ってあります? 出来れば飛騨牛が食べられれば、良いんですけど……」
龍たちの方を、チラッと見ながらそう言うと、頭が取れるんじゃないかと思うほど、ものすごい勢いで頷いていた。
「普段着で飛騨牛ですか? 知り合いの店で、やってますけど」
是非案内してください! と信一さんまで引っ張り出し、遅めの朝食になったのは良いが……
3龍たちプラス香住の大食い四天王により、店の牛肉は全部食べられてしまい。牛肉を使った料理は、全部売り切れになってしまった。
「さ、さすがは龍神ですね。人間とは胃袋の大きさも違う……」
ちょっと引き気味に言う鍛冶見習の信一さんに
「若干一名、人間も混ざっているわよ」
と、小鳥遊 緑先輩が訂正をする
「……嘘……冗談ですよね?」
冗談じゃ無いんだなぁ、これが……
よくあれだけ食べて、体を細身のまま維持していると、正直感心する。
食事の後、来た時と同じように、貴船神社の人氣の無い場所から龍脈を開く。
「この地面から、光の柱が出てますけど!?」
初めて見たらしく、信一さんが光の柱に恐々と触れている
「龍脈に穴を開けているからね、早くしないと勝手に閉じるから急いで」
「急げって言われても……」
初々しいなぁ。ウチの関係者は、みんな龍脈に慣れちゃって、こんなリアクション無いし
他のメンバーが、光の柱に入って消えていくのを見て、目を丸くしている
「雨女、先行くぜ。これ酔うんで嫌なんだよなぁ」
尊さんがそう言って龍脈に入る
「今、酔うって?」
「あぁ、彼は氣に酔うんですよ。中に高密度の氣が流れてますからね。たまに酔ってしまう人が、居るみたいです」
信一さんは、ゴクリと唾を飲み込むと、意を決して龍脈に飛び込んだ。
そのあとを追うように、龍脈を閉じながら最後に入る僕。
着いた先は、鍛冶屋の神様を祀る、金山神社であった。
「すごい! 本当に金山神社だ!!」
信一さんの感動も初々しい。
後ろを見ると、手水舎の処で座り込んで、水を煽る尊さん
やっぱり氣酔いは治ってないか……ご飯を食べた直後だから、余計に気持ち悪いのかもね。
「じゃあ残ったメンバーで、鍛冶屋の神様である、天津麻羅様を探しましょうか」
境内の真ん中で、手分けをして探そうとしていると、本殿の中から――――――
「なんだお前らは? 鍛冶の神である儂に何か用か?」
そう声がして、ゆっくり扉が開くと、そこには大男が大槌を肩に掛けて現れたのだ。
こ、この方が天津麻羅様!?
はてさて、折れた神器の修復を、請け負って貰えるだろうか……




