3-05 龍の乗り手
3龍の一人称は、セイが俺、赤城さんが我、淵名さんが儂です。
時刻はすでに、16時を超えようとしていた。
一般人が入場して居られるのは、16時半までなので
注文の殆どが、教員からの緑茶や、早めに出し物が売り切れて、暇になった生徒が注文するぐらいで、出るのは飲み物系が主である。
そんなに時間が経っているとは、思わなかったが。保健室にて、養護教員にチカちゃんの無事を確かめてもらうのに、時間が掛かっていたらしい。
ちゃんと無事だと分かって良かったけどね。分からないままだと、心配で仕方ないし。
僕は淵名の龍神さんと、飲み物係を交代すると、3龍達にも緑茶を淹れてあげる。
忙しさのピークを過ぎたため、みんな休憩モードに入っているところ
香住が、先ほどの衣装直しの話を、詳しく説明してきた。
香住の話をまとめると、演劇部の午後の出し物をやっている最中、主役が急に演劇用の剣でセットを壊し始めたのだという。
直ぐに幕が降ろされ、部員全員で取り押さえるも、凄い力で跳ね除けられ、尚も暴れ回ったのだと言うが……
最後は体育系の教員に、寝技で関節固められて、病院へ搬送されたらしい。
結構な数の演劇部員に、怪我人が出たため、即日退院出来たとしても、謹慎処分だろうとの話だった。
「別に劇を中止してしまえば良かろう?」
と、セイの言葉に僕は
「そうも行かないんだよ。毎回、演劇部の出し物は結構な人気でね、チケットの売上が大きいんだってさ」
「騒ぎがあった、今日の午後のチケットは、払い戻しされたんだけど……明日も午前と、午後の、2回の公演ができないと、前回の売り上げを超えることは、まず無理になるわね」
そう僕の説明に、補足をする香住。
つまり、明日の公演が出来ないと、水曜の振替休日が、無くなってしまうと言うことだ。
香住は、元々家庭科部の部員であり、夏休み前半の殆どは、演劇部の衣装造りを担当し通っているほど精通している為か、代役用の寸法に、衣装の直しの依頼が来たのだ。
「この忙しい学園祭開催の真っ只中で、衣装直しの依頼なんて……」
「その忙しい最中に、妖追いかけてったのは誰よ!」
「……誰だっけ?」
僕が、教員へのデリバリー用の緑茶を淹れながら、すっ惚けると――――――
「あんたよ! あんた! 健忘症かああああ!」
香住は、僕の手から急須を奪い、割れないようにテーブルに置く
そして僕を持ち上げ、頭を下にして椅子の上から飛び降りた!
そのまま床へ、脳天を打ち付ける技であるが――――――
「ふっふっふ、パイルドライバーとは甘いな香住さん。僕には角があるから、頭まで打付けられないし!」
「良いけど、千尋のパンツ丸見えよ」
しまった! 昔と違ってズボンじゃなく、スカートだった!!
早く立ち上がらねば……
「あれ? 香住……香住さん? 角が床に刺さって、抜けないんですけど……ちょ! 誰かぁ~手を貸してよ」
「まったく……仕方ねーな。だから嬢ちゃんは、負のオーラが出てるって言っただろう」
そう言って引っ張り上げてくれるセイ。
「セイ、ありがとう。でも、どうするの? 持ち帰って徹夜で直す?」
「それがね、今日の演劇部の惨状を見た先生達が、演劇部とその関係者に限り、居残り作業を許してくれたのよ」
つまりは、劇のセットを直すために、体育館とミシンの使える家庭科室に限り、居残りが許可されたのだと言う
因みに19時以降、職員室のある南校舎は、貴重品等の管理があるため、セキュリティー観点からカメラやセンサーの電源が入れられ、出入りは不可能となるらしい。
まあ、家庭科室は北校舎なので関係はないし、龍脈で出入り出来るよう、床に穴も空いてるしね。
「ある意味、これはチャンスじゃない? 普通の生徒なら、南校舎を閉じられた時点で、翌日の用意は出来ないけど、僕らは北校舎で用意出来る」
「まさか、千尋も泊まり込むの?」
「うん。今日の流れで、ケーキ類が沢山出るのが分かったからね。家庭科室なら業務用の大型オーブンもあるし、一気に作れて楽でしょ」
大型冷蔵庫もあるしね。
そんな話をして居ると、もう一人の料理担当の富岡さんが
「あの……泊まり込みは、お父さんに聞いてみないと……」
あ~、まだ16歳の女子学生だものね、親も心配するわな。
ウチと違って御両親が居れば、年頃の娘は夜に出さないよね。
「富岡さん、無理しなくも良いよ。香住のところは、御両親……大丈夫なの?」
「ん? ダメって言われたら、自宅で夜通し、ミシンの音をさせるわよって脅すわ」
脅すんだ……
「瑞樹君の処は大丈夫なんですか?」
富岡さんが心配そうに聞いてくる
「僕の場合は……ほら、男の子じゃない? 女子とは夜歩きの危険度が違うからね」
「でも、身体が女性なら、襲われる事もあるんじゃ?」
龍神を襲うモノが居るとしたら、余程の実力者……この前戦った、セルジュとか言う執事みたいな強い奴か、大物の妖ぐらいだから。
「ん~、余程のモノ好きじゃないと、襲われないから大丈夫だと思う」
そんな富岡さんとの会話を聞きながら、香住と正哉が
「あの二人、会話の内容が微妙に噛み合ってないわね」
「二人の言ってる、『襲われるモノ』が変質者か妖かの違いだな」
とか話している
まあ、どちらが来ても、水が在れば負けは無いでしょ
そう思っていると、廊下からマイちゃんとチカちゃんが現れる。
「チカちゃんが気が付いたんだ!? 良かったね」
「あの……本当にありがとうございました。重かった肩のあたりが、凄く軽くなって……」
ペコリとお辞儀をするチカちゃん。
「それは良かった。オレンジジュース飲む? あまり出ないんで、沢山あるん……ぶほぉ!!」
二人にオレンジジュースを出してあげようと、冷蔵庫を漁って居るところに、マイちゃん恒例のタックルを貰って吹っ飛ぶ。
「尻尾のおねーさん! 友達を救ってくれてありがとう」
「ど……どう……いたしまして……」
吹っ飛ばされて、掃除用具入れに衝突し、めり込んだ顔を引き抜きながら、そう言って返す僕。
「もう、千尋ったら。扉が曲がっちゃったじゃないの」
曲がったのは、僕のせいじゃ無いし。それより香住、少しは僕の心配もしてよ
打ち付けた赤い鼻を擦りながら――――――
「ごめんねマイちゃん。本当は学園祭を案内したかったんだけど、もう一般入場者の時間は終わっちゃうんだ」
申し訳なさそうに言うと、マイちゃんは頭を振りながら。
「久しぶりに、尻尾のおねーさんのに逢えたから、楽しかったよ」
マイちゃん、良い子だなぁ
これで、ラグビーの選手顔負けのタックルが無ければ、言う事ないんだが……
その後……注文が途切れた為、全員片付けに入り、他のクラスメイトが居なくなるのを見計らい。龍脈で瑞樹神社へ移動する。
「本当に家まで送らなくも良かったの?」
マイちゃんとチカちゃんにそう話すと
「ウチは住宅街だから、人目につかない処が無いの……」
どうやら、龍脈移動に気を使ってくれたらしい。
神社の石段下にあるバス停から、ウチまで帰ると言う事だが、凄く名残惜しそう。
「あ! ハロちゃんだ! 久しぶり~」
『む、マイ殿か? 夏のラジオ体操以来だな。元気していたか?』
境内の隅っこで丸くなっていた、荒神狼のハロちゃんが、尻尾を振りながらマイちゃんに駆け寄った。
ハロちゃん……もう野生の欠片もないな……
マイちゃんと話している姿を見たチカちゃんが――――――
「い……犬が……喋ってる!!」
「あ~、ちかっちは、初めてだっけ? この子はハロちゃんって言う、神社の守り神様なんだって」
「へぇ。神様なんだ……だから、喋れるんだね」
二人でハロちゃんを、わしゃわしゃと撫でまわす。
正確には婆ちゃん以外、みんな人外なんだよね。
龍だけじゃなく、狼とか、狐とか、蟹とか、蛇までいるし……統一性の無い神社だな……本当。
賑やかでいいけどね
その後バスの時間になったので、東北のお土産を持たせて、二人の乗ったバスを見送る
「またおいでよ~」
手を振って見送った後、香住と買い出しに出るのだが……その用意をしようと玄関を開けると、ウチの中から、あの鴻上さんが出てくる
「鴻上さん!? 何でウチに?」
そう言えば、今日学園で見ていないな
「あの日本人形は何処ですの!?」
すごい剣幕で捲し立てる。
「日本人形?」
「東北から着いて来た、和服の妖ですわ!」
「あ~、座敷童ちゃんの事か、正哉と一緒に帰ったけど……」
正哉の妹の紗香ちゃんが、修学旅行から帰って来る日だからね。龍脈から降りて、真っ先に帰ったわさ。
「なんですって!? なぜ止めないのです! 危険極まりない!」
「そんな大げさな……幸せと幸運を呼ぶ妖なのに」
「前にも言いましたが、幸運は前借しているだけですわ! そのうち……一気に不幸の清算が来ましてよ!」
それは、鴻上さんが肩代わりして居るみたいだし、正哉は大丈夫じゃないかな……
「だいたい、鴻上さん。何でウチに居るの?」
「それは……話すと長いのですわ、よろしくて?」
「……どうぞ」
「話は、今朝の事ですわ……朝の目覚ましが鳴らずに、遅刻寸前でバス停へ向かっていましたの……」
「寸前ならまだ良いじゃない」
「最後まで聞きなさい瑞樹千尋!! バス停まで数十メートルって所で、マンションから鉢植えが降ってきましたの」
「うあ……それが直撃して気を失ったと?」
「だから、ちゃんと最後まで聞きなさいって! そんな鉢植えなど、オロチの動体視力の前では止まって見えますのよ! ちゃんと避けましたわ」
「避けたなら、バスに乗れたんじゃ?」
「横に跳んだ先の地面……マンホールが開いてましたの……」
「ひでぇ……」
正哉の不幸の借金は、ちゃんと返済されているようだ。
「その後も、マンホールから顔を出したら、トラックに轢かれそうになり、商店街の看板は頭に落ちてくる……おまけに鳩のフンまで……」
ウンが付いたわけか……
「で、でも。酷い目にあった割に、汚れてないじゃない?」
「バスに乗り遅れ、歩いて学園へ向かってましたら、貴女のお婆さんに神社入り口で逢いまして……死相が出ているから、寄って禊をして行けと……」
なるほど、風呂で綺麗になって、汚れていない訳だな
「服が乾くまで、巫女をさせられたんでしょ?」
「な! 何でそれが分かりますの!?」
「婆ちゃんの事だからな……良く分かる」
使えるモノなら、神でも酷き使う人だから
「お陰で、斎藤君との時間が、殆どありませんでしたわ! あの日本人形……今度会ったら一呑みに……」
「待て待て待て、まだ座敷ちゃんの仕業と決まった訳じゃ……」
今の処、僕らが勝手に、そう思ってるだけだしね。
「ふん、あの性悪日本人形の仕業に、間違いありませんわ」
確証はなく、偶然だと思うけど……座敷ちゃんが正哉に憑いてから、鴻上さんに不幸が重なり過ぎだだから、疑いたくなるのも分かる。
でもさ、仮説が本当だとして、鴻上さんには悪いが、正哉がマンホールに落ちたり、看板が直撃したら死んじゃうけど。オロチの鴻上さんだからこそ、死なずに済んでるんだし。本当に不幸の肩代わりしているなら、少し我慢してもらおう。
「正哉への愛の為に、不幸を肩代わりする鴻上さんには、本当に頭が下がるわ」
と、持ち上げてみる。
「そんな……愛の為だなんて……照れますわ」
チョロイ奴。
でも、いずれは決着を付けますわ! と座敷ちゃんに闘志を燃やす鴻上さんは、マイちゃん達が乗った次のバスで帰って行った。
来るとき、そこまで不幸だったのに……無事に帰れるのかな……
その後、香住と買い物を済ませると
夜の学園で、徹夜の作業に追われるのだが――――――
「なんでセイ達まで居るんだよ」
料理も作れない、昼間と同じ3龍が、一緒に着いて来たのだ。
「なんでって!? 瑞樹神社には、まだ伍頭目のオロチが居るじゃねーか! 人間へ引き取りの電話もしてねーし!」
「したけど留守番電話なんだよ! たぶん、昨日の月光で出て来た妖の対処に追われてるんじゃないのかな?」
「お前が帰らないなら、俺も帰らん」
そう言って、お茶を啜るセイ。
怖がりさんめ。
「我は、千尋さんに逢いに来たんですから、お構いなく」
と赤城の龍神さん。
その隣で淵名の龍神さんが
「儂は香住殿に着いて来たのでな……」
「なんだ淵名、嬢ちゃんに惚れたか?」
セイが淵名さんを茶化すと
「ん? 興味はある。なぜか香住殿が背中に乗ると、力が増しているような……そんな気がしてな」
「人間を背中に乗せるとか、我には考えられん」
3龍がそれぞれ雑談に興じていると、僕の中から淤加美様が出て来て
「もしかしたら、『龍の乗り手』の素質があるのかも知れんのう」
「「「 龍の乗り手? 」」」
3龍の声がハモる
「うむ、人間の中には不思議な力を持った者が居っての、龍の背に乗せるだけで、龍の力が増すと言う事があったのじゃ」
「大婆様、初めて聞きますが?」
「妾を、御主らの様に生まれたての小僧と一緒にするでない。長く生きて居ると、そういった事にも出くわすのじゃ」
そう言って、買い出しの袋の中から揚芋菓子を出すと、パリパリと音を立てて食べだした。
「淤加美様……私物を買うときは、別会計にしてくださいよ。後々面倒ですから」
まったく……いつの間に、買い物籠に入れたのやら……
しかし、龍の乗り手……ドラゴンライダーって事か……恰好が良いな。
「ちょっとセイ、僕を背負ってみてよ」
「はぁ? 龍が龍を背負ってどうするんだよ……大婆様が、乗せるのは人間って言ったの、聞いてなかったのか?」
「そうか……じゃあ駄目だね……残念」
「千尋さん、我なら乗られても良いですよ。我が上に乗っても良いし」
「赤城……お前、言い方が嫌らしいぞ」
「ば、馬鹿。そういう意味で言ったのでは……」
龍同士では、ドラゴンライダーに成れないって、話してたばかりなのに、何を言ってるのだか……
そんな馬鹿話をして居ると、ちょうどオーブンで、ケーキのスポンジ部分が焼き上がった。
「なんか、いつも見ているケーキと違うな。新作か?」
「まだ未完成だからね、ここから粗熱を取って、クリームを塗ったり、デコレ―ションするんだよ。セイ……食うなよな」
「ん~、今は甘いものより、普通の夕飯が食いたいな」
そう言いながら腹を鳴らすセイ
夕ご飯まだだっけか……
「じゃあ、出前取ろうか? 皆来ると思わなかったから、学園祭への出し物以外の食料、買ってないんだよね。みんなピザ好きだし、ピザで良い?」
「「「 異議なし!! 」」」
変な処で、意見が一致する龍達。
香住もピザで構わないと言うので、香住のスマホを借りて、出前を取る事に……
さて、出前が来る前にっと――――――
「千尋? どこ行くんだよ?」
「花摘みだよ! 言わせんな!」
何だ厠か……と、デリカシーの欠片もないセイを他所に、トイレに向かう僕。
う~、夜の校舎って、どうしてこう不気味なんだろう
消火栓の赤いランプの反射光も、血の様に見えるし。
男子トイレは……下の階か……面倒だし女子トイレにしちゃおう
身体は女子なんだから良いよね。この時間は他に誰も居ないし
自分を正当化しながら、女子トイレに入って用を足すと――――――
紙がねえ!!
何で誰も補充して置かないの!!
「誰かぁ!! 紙ちょうだい!!」
そう叫んでみるが、セイ達に聞こえないか……
仕方がない、念話で呼ぼうかと思っていると――――――
『赤い紙と、青い紙……どちらが欲しい』
そう声がしたのだ。




