3-03 学園祭開始
学園祭初日が理事長のあいさつで始まり。
僕ら生徒は、一般入場開始時間まで、準備に追われていたのだが
一般入場の開始と共に、セイ達3龍は小型化の術を解き、一般人として遊びに行ってしまった。
羨ましい限りである。
僕は、今までの準備やリハーサルをサボった罪悪感から、休み時間も返上し、女子の制服にエプロンと言う姿で、飲み物を主に担当していた。
「千尋! オーダー来たよ! アイスコーヒー8、ホットコーヒー2、紅茶4、緑茶が20……にじゅう!? これ間違いじゃないの?」
オーダーを読み上げた香住が、尋常じゃない注文数に大声をあげると、メイド役のクラスの女子が
「ああそれ、職員室の先生方から、デリバリーのオーダーなのよ」
「教員!? 職員室まで持ってってられないっての! どれだけ時間のロスだと思ってるのよ! まったく、飲みに来なさいよね」
香住が文句を言うが、相手が教員では従う他はない。教員なんだからタダで……とか言わず、お金を払ってくれる分、まだ良い方である。
「仕方ないわよ、瑞樹君の煎れる飲み物は、専門店で買うモノ以上だって、口コミで広がってるんだもの……」
クラスの女子がそう言って、スマホでSNSの書き込みを見せてきた。
確かに書き込みは、イイネが沢山付いていて、近くの会社員まで買いに来ると、書き込んでいる始末。
ヤバイ……出来心で、ちょっと水神の力を使ってドリップしたら、えらい騒ぎになってしまった。
しかも口コミで広がるとは……どおりで、市販のオレンジジュースを注ぐだけのオーダーが、出ないわけだ。
「ねえ! エスプレッソも出来ないか聞かれたんだけど?」
他のメイド女子が、廊下から顔を出し、此方に聞いてくる
それは専用の、蒸気で圧力をかけてドリップする機械が無いと、さすがに無理だろう……
でも待てよ……機械に出来るんだ。水を使うモノに対して、水神が出来ないのは、沽券に関わる。
機械で水蒸気圧をかける所を、水神の力で水蒸気圧をかけ抽出すれば……熱々のエスプレッソが……出来るはず?
細かめに挽いた豆に、上手く水蒸気圧を掛けながら、コーヒーを抽出して行くと、少量の濃いコーヒーが出来上がった。
「よし! 出来たよエスプレッソ」
「嘘!? やるじゃない瑞樹君!」
僕が褒められて照れていると、香住が僕の胸倉をつかんで
「ちょっと、千尋! 自分で仕事増やしてどうすんのよ!」
「だって水神の沽券が……いえ、何でもないです」
香住に睨まれて、直ぐに反論は止めた。だって怒らせたら、ジャイアントスイングで、窓の外へ飛ばされそうだし。
「千尋……大体なんで、そんなに張り切っているのよ」
「そりゃあ今朝の開会式で、学園の理事長がいった言葉が……『この土日の学園祭で、前回の売り上げを上回ったら、月曜から水曜までの3日間の休みをあげましょう』て言ったからね!! 頑張らなきゃ」
「はぁ……あのね千尋。この土曜と日曜の2日分の休みを、月曜と火曜に振り替えて与えるよう、教育員会から横槍が入ったのよ。だから振替休日になるだけで、休日は増えてないの、分かる?」
マジか!?
「でも、3日目の水曜日は増えるのでは?」
「完全に騙されてるわね……月曜日に学園来たでしょ、アレ祝日なのよ」
「…………はっ!? 秋分の日!!」
「そうよ、だから3日休みを貰っても、ちっとも増えていないのよ」
やられた……これがブラック教育か!
「くっ、騙された……」
「まあ、頑張るのは程々にしてね。メイドの女子たちが、参ってしまうから」
成程、お客が増えれば、負担は教室まで運ぶ女子にも及ぶって事か
「了解した。ほどほどに不味くする」
「不味くはしなくて良いと思うけど、エスプレッソみたいな、メニューにないオーダーは禁止ね。値段も決めてないし」
「分かった、カフェラテだけに……」
「カフェラテは、エスプレッソにスチームミルク入れる奴じゃないの!! エスプレッソは駄目って言ったの……全然分かってないじゃない!! あんたは、脳ミソもトカゲ並みか!? この~」
プロレス技のブレーン・クローで、鷲掴みにされた僕の頭に、香住の指がコメカミへと、めり込んでいく。
「痛たたたたたた、ギブ! ギブう~」
香住の手を叩き、ようやく放してもらうが、僕はすでに涙目である。
「次やったら折るわよ」
何を!?
これ以上香住を怒らせるとマズイので、持ち場に戻り、ひたすら茶葉や豆から抽出をする。
お茶は、宇迦之御霊様の所の、神使である白狐のハッコさんに頼んで、宇治茶の良い処を貰って来たし
コーヒー豆は、小鳥遊 尊さんの彼女がやっている喫茶店から、賞味期限ギリギリの奴を分けてもらって来たのだ。
紅茶は、鴻上さんが持ってきてくれたのだが、良い所のお嬢様をやっているのか、高そうな箱に入った茶葉を頂いた。
尚、売上の経費引いた利益分は、学園の部活動の部費に回されるのだから、実質生徒に還元されるのと同じだし、頑張るのは良い事だと思う。
だが頑張り過ぎて、水神の力を使ったが為に、先ほどの口コミのせいで、僕達は窮地に追い込まれていた。
それは、飲み物と一緒にケーキ類がよく出たため、ケーキ類が先に終わってしまいそうなのだ。
逆に、お昼ごろから売れると予想していた、軽食類があまり出ずに、担当の香住が暇そうにしている始末
どうも、野球部が出したタコ焼きと焼きそばが、評判が良いらしく、お客さんがそっちへ行ってしまってるとの事。
そして、ちょっとずつ女子から、不満の声が上り始める。
「ビラ配りの男子は何やってるのよ」
「遊んでたら承知しないんだから!」
ん~、元男子としては、肩身が狭い。
そんな女子たちに、休憩を勧める香住。息抜きすれば、気持ちも少しは違うでしょ、との事。
とは言え、料理担当の3人に、休みは無い。
「ケーキのクリームが終わっちゃいそう」
ケーキ担当の富岡さんが、泣きそうな顔で訴えてくる。
作り置きはすでに無く、富岡さんが追加を作っているのだが、はっきり言って間に合っていない
「ごめんよぉ富岡さん。僕がそっちを手伝えたら良いんだけど……」
「え? 瑞樹君の方こそ、すごい量だよ。右手で紅茶を注いで、左手でコーヒーを注ぐなんて芸当できないよ、種類で温度も変えてるし、芸術の域だよ」
それは言い過ぎだ。水を司る水神だから成せる技……いや術かな?
因みに忙し過ぎて、コーヒーカップに紅茶を注いだのは内緒だ。
「こちらも問題が……今日も暑いでしょ? だからアイスコーヒーが沢山出るんだけど……氷が間に合わないんだ」
そう言った僕の言葉に、香住が――――――
「ちょっと! どうして早く言わないのよ!」
器用にオムライスの玉子を返しながら、怒鳴ってくる
「いやぁ、最初は凍ってたんだけど、冷凍庫の開け閉めを頻繁にするんで、凍らなくなってきたんだ……ねえ香住、雪女の知り合い居ない?」
「居るわけないでしょ! 千尋の方こそ、神様方面で知り合い居ないの?」
知り合いには、居ないんだなぁ、それが……
そもそも氷の神様って居るのかな? (※昔は高級品とされた、天然氷を貯蔵する為の氷室の神様がおられます)
僕達が忙しくオーダーを熟していると――――――
「千尋ちゃん、緑茶のお代わりを頂けるかしら」
何時の間にか家庭科室の椅子に座ってくつろいでいた、小鳥遊 緑先輩がお代わりを要求してくる
「先輩……仕事増やさないでくださいよ。だいたい、ご自分のクラスの出し物は、放っておいて良いんですか?」
「ダメよ! 全然駄目だわ。あれでお化け屋敷とか、祓い屋として許せないのよ」
それ、この前も聞いたし。先輩はどうしても、ヤラセのお化けが気に入らないようだ。
だいたい本物なんて使ったら、下手をすると本当に魂抜かれるし、危険すぎる。
「ほら、みんな頑張っているんだし、先輩もたまには協調性を……」
「協調性? 千尋ちゃん、ソレ美味しいの?」
駄目だこの人……
「いい? 千尋ちゃん。本当に死ぬかも? て言う恐怖体験が、ゾクゾクするような、必死の叫び声をあげるのよ。それを無くして、何がお化け屋敷よ」
相変わらず、超サディストな先輩。
確かに本物を使えば、声が枯れそうな程、悲鳴が上がるけど、精魂も枯れそうだ
僕は緑茶のお代わりを注ぎながら――――――
「先輩、暇なら氷買って来てくださいよ」
「あら、私を使いっぱしりにするとは、良い度胸ね千尋ちゃん。プロの祓い屋は高いのよ」
小鳥遊先輩は、スマホの電卓を叩いて、数字をこちらに向ける。
「……それ、僕が巫女の助勤した時の、一週間分なんですけど……先輩、一日で取りすぎです」
「何を言っているの千尋ちゃん。これ1時間分よ」
「高っ!! 無理です。払えないので帰ってください」
「あ、でも……千尋ちゃんが、今夜一晩身体を貸してくれるって言うなら、タダで氷買って来てあげる」
え!? それって……どういう……
僕がドギマギしていると、香住が
「ちょっとそこ! 昼間っから如何わしい話をしない! 千尋も女の子なんだから、変に意識しないの!」
香住がサンドイッチを作りながら、怒声を飛ばしてくる
「あら、高月さん。如何わしい話って何の事かしら? 私は千尋ちゃんに、御祓いの手伝いで、身体を貸してって言ったのよ」
「言い方が間際らしいんです! ウチの千尋に変な事教えないでください!」
なんだ、御祓いか……女の子同士で、何をするのかと思っちゃった。
小鳥遊先輩に頼むのは後の請求が怖いので、家庭科室の隅で俯いている正哉に、声を掛けた。
「正哉、大丈夫か?」
「…………駄目だ……こうしている間にも、妹の紗香に悪い虫が着くんじゃないかと、心配で心配で……」
「そっちか!? 僕は、てっきり母親に絞られて、俯いて居るのかと思った」
「ウチのオカンは大丈夫だったぞ。怒っていたけど……何故か説教に入ると、直ぐ電話が掛かって来たり、隣の家のオバさんがやって来て、世間話を始めたりで、有耶無耶になったからな」
マジか!? 凄いな座敷童ちゃん。
相変わらず正哉の腰にしがみつき、こちらに向かってブイサインをする座敷ちゃんだが、本当にご利益あるんだな……
僕も婆のちゃんの説教を受ける時、座敷ちゃんの力に、あやかりたいものだ。
「正哉、暇なら氷買って来てよ」
「なんだ? 間に合わないのか?」
「うん、家庭科室の業務用冷凍庫も、許容量超えみたい」
「買って来るのは構わねーけどよ、炎天下の中を歩いて帰るまでに、氷が溶けそうだぞ」
「ん~、じゃあセイに龍脈で送らせるから」
セイは、神格失ってから人工物の中で、術の制限が掛かるらしいが、この前床に穴開けて地面を剥き出しにしたから、そこからなら直接龍脈で移動できるはず。
まさか人間嫌いの赤城の龍神さんに頼むわけに行かないし、淵名の龍神さんは人間に友好的だけど、隣町の龍神様なので、龍脈移動先のお店を知らないしね。
やっぱりセイに行って貰おう。
僕は、学園祭を満喫中のセイに、念話を飛ばす。
『セイ? 聞こえる?』
『千尋か? 休憩にでもなったか?』
『ならないよ! それより正哉と一緒に、お使い頼まれてくれないかな?』
『あん? 別に良いけど、お前に人間の客が来ているぞ』
僕に客って……誰だろう? ほとんどの知り合いは学園に来てるし、しかも人間の客?
小百合ちゃんや正哉の妹の紗香ちゃん達中学生組は、今日の夕方まで修学旅行のバスの中だろうし……
一体誰?
『誰だろう……とりあえず連れてきてよ』
『おう、もう目の前なんで着くがな』
そう言うと同時に、家庭科室に入ってくる3龍と少女――――――
あれは……マイちゃん?
夏休みに何度か瑞樹神社へ遊びに来た、隣町の子である。
マイちゃんは、普通の人には見えない、霊的なものが見えてしまうと言う体質なので、周りから虚言癖があると思われてしまって居て、それ以来見えていても見えない振りをしていたらしい。
瑞樹神社では、神様とか神使とかいっぱい居るからね。マイちゃんも見えない振りをしなくて良いと、遊びに来ていたのだが……住んでいるのが隣町なので、学校が終わってからだと時間的に厳しいものがあり、暫らく逢う事が出来なかったのだ。
「あっ!! 居た!! 尻尾のおねーさん!」
僕の姿を見付けるなり、おなじみの様に、突進してくるマイちゃんだが――――――
「マイちゃんストーップ!! 熱々のコーヒー入れてるから!!」
僕の静止の声で、マイちゃんは目の前で止まった……あぶねー、大火傷させちゃう所だよ
そんな僕の気も知らずに、マイちゃんは笑顔を見せてくる。
「こんにちは、おねーさん」
「はい、こんにちは。 マイちゃん、今日はご両親に連れて来てもらったの?」
「違うよ、友達とバスに乗って来たの」
「友達と? よく降りる所間違わなかったね、エライぞ」
「えへへ。今日はね、尻尾のおねーさんに、友達の事で相談があって来たんだ」
「相談? 何かあったの?」
マイちゃんは廊下に向かって
「ちかっち! このおねーさんだよ」
ちかっちと呼ばれた女の子が、申し訳なさそうに顔を出すと、ゆっくり入ってくるが――――――
何だアレ……
女の子の背中に、凄い怨念を撒き散らす妖が憑いていた。
その姿は、落ち武者を何体もくっ付けてる様な感じで、色々な処があり得ない曲がり方をしたり、取れかかったり……色々見えちゃイケない様な断面が見えてしまって居た。
その子は、ゆっくりと僕の方へ歩いてくると
「初めまして、チカです。館林チカと言います」
マイちゃんと違って、歳の割に物静かな感じで、自己紹介をするチカちゃん。
僕は、その背後に居るモノに圧倒されながら
「は、初めまして……千尋です……よろしく」
如何にか挨拶を切り出すと、背中のモノと目が合わないように、目線を下げる。
そこに、僕の中の淤加美様が
『何をビビって居る千尋、あんなの雑魚ではないか!』
『いやいやいやいや、妖の強さの問題ではなく、ビジュアル的に無理ですって、色々体液が垂れてるし……』
『たぶんこ奴も、昨日の月光で出た妖じゃぞ』
『え? だって浄化雨で消えたはずじゃ?』
『雨が当たらなければ、浄化できぬからのぅ……丁度、軒下などに入っていて、雨に当たらなかったのじゃろうて』
運のいい奴と言う事か……
「ちかっち、大丈夫だよ。尻尾のおねーさんが直ぐに祓ってくれるから」
マイちゃん……キミは見えてるんだよね? こんなの見た目が怖すぎて、僕には無理そうなんですが……
そこに、小鳥遊先輩が
「ちょっと貴女……面白そうなモノ連れてるわね。ソレ貰って良いかしら?」
そうだよ! 本職の祓い屋が居るんじゃないか!! 何も心配することは…………貰う?
「小鳥遊先輩……今、祓うじゃなく、貰うって言いませんでした?」
「言ったわよ? それがどうしたの?」
「その妖を何に使うのかなぁと……少し興味がありまして」
「そんなの決まってるでしょ! ウチのクラスのお化け屋敷に使うのよ!」
「止めてくださいよ! お化け屋敷で、死人が出ますって!!」
「大丈夫。現にこの憑かれてる子、死んで無いじゃないの」
先輩のその言葉にチカちゃんが――――――
「ひっ!! し、死ぬって!?」
いやああああ!! と叫び声をあげて、家庭科室を出て行ってしまった。
「マズイ!! 妖を背負ったままだし!!」
僕はお湯の入ったヤカンを持ったまま走り出す。熱いけど水が無いよりましだ。
「ちょっと千尋! どこ行くのよ!」
「今の子を放って置けないから、追いかけて妖を何とかする! ドリップは、同じ水神の淵名の龍神さんに頼んで、すぐ戻るから!!」
そう香住に告げて駆けだす僕に、小鳥遊先輩が一緒に着いてくる。
「マズったわね……彼女、気が動転しているわ」
「先輩は、もう少しデリカシーを持ってください」
「千尋ちゃんが話題を振ったんでしょ!」
「先輩、お叱りは後です。とにかく今は追いかけて、妖をどうにかしましょう」
文化祭初日が、いきなり妖を追う羽目に成るのだった。




