3-01 異変
O阪府の地下を走る、鉄道の隙間に出来た新アジトにて
晴明は、腹心の部下であるセルジュの脚へ癒しの術をかける。
「晴明様、申し訳ございません。我が主に……この様な、無様な姿を晒してしまい……本来ならば自害して果てる処でありますが、要石だけはお届けせねばと思い、生き恥を曝して戻って参りました」
「気にするでない。駆け出しとは言え、相手は龍神なのだぞ。よく生きて戻って来てくれた。お前が居てくれなければ、要石が3つも集まらなかったであろう。兎に角今は傷を治す事だけ考えるのだ」
良く休むように言いつけ、セルジュの部屋を出ると、狐巫女のお玉が竹槍を持ち鉢巻をして、地下通路の奥から歩いてくるのが目に留まった。
「今日は仮装行列か、何かがあるのか?」
「違いますよ! これは今は亡き、セルジュさんの敵討ちです」
「腹心の部下を勝手に殺すな」
「腹心!? それ、私も含まれますよね?」
「…………」
「どうして、黙って目をそらすんですか!」
自分の胸に聞いてみろ
「そ、それより。竹槍で龍神に挑もうとしているのか?」
「ふふん、よくぞ聞いてくれました。これは大戦時に戦闘機を落とすと言われた伝説の槍なのです」
たぶんそれ、やり投げのメダリストでも戦闘機までは届かんぞ
「まあ、その……頑張ってな……」
「ちょ! 晴明様。やられっ放しで悔しくないのですか?」
「ふっ……お玉には、やられっ放しと見えるのか? やられっ放し処か、寧ろ着々と計画は進んでいるぞ」
要石もあと1つの処まで来たしな
「私は納得行きません! あの瑞樹の龍神に一泡吹か……」
「外出は構わんが、今度アジトが見つかる様な失敗をしたら……油揚げを数年は抜きだからな」
「ええええ! ちょっとそれは酷過ぎです。せめて3日にまけてください」
「それでは仕置きにならん、それとも一生禁止に……」
「数年で良いです」
その前に、見つからないと言う努力をしろ!
「で、晴明様はこれから何方に?」
「沼田教授のクローンラボへ行ってくる。八荒坊に潜入中の部下から、面白い情報を貰ったのでな」
「面白い情報ですか?」
「うむ、神器である海神の槍が折れたと言う情報を聞いたのだ。神器が折れたのだから、当然修復をしようとするだろ? その為にはヒヒイロカネが必要だ」
「ヒヒイロカネ? 新しい日本銀行券ですか?」
「戯け! 日本のお金が伝説の金属でできていたら、世界各国が血眼になって集めるわ! カネはカネでもお金ではない!」
「お金じゃないなら、夕ご飯のオカズも買えないじゃないですか」
「このアホ狐! 店ごと買っても、お釣りが用意できぬわ!」
「ほへ~、食べられないなら要りません。それで、沼田教授と何か関係が?」
食べられないから要らないだと? こやつには猫に小判ならぬ、狐にヒヒイロカネだな
「まあ、当然龍神どもは掘り出しに行くだろう、その鉱山に沼田教授の技術で創った、異形のモンスターを放って置いたら、面白いと思わんか?」
「あ、晴明様。悪そうな顔してる~」
面が割れ、顔認証システムにデータが残って居る、我々では身動きが取れないため。
どうにか、セルジュが動けるようになるまでの時間を稼ぎをして、陸頭目のオロチの封印を解いて貰わねばならないのだ。
セルジュはまだ龍神たちに顔を見られただけで、顔認証のデータベースには載せられていないので、公共交通機関が使えるからな、傷が癒え次第、頑張って貰う必要がある。
そして、4つ目の要石をどうにか手に入れねば……
更にもう一つ試して置きたい事がある。
それは要石で本当に『繋げて反転させる事が出来るか』と言う事だ。
石は3つしか無いが、試しにやってみようではないか――――――
少しずつ計画の完了へ向かっている事に、晴明は喜びを隠しきれず笑みが溢れたまま、先ずは沼田教授のラボへ向かうのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一方、北関東の瑞樹神社では――――――
客間で寝ているはずの小鳥遊 尊さんの敷き布団の前で、僕は剥いだ掛け布団を持ち、立ちつくしていた。
居ねぇし……
「あら、千尋様。布団なら私が片付けますよ」
そう言って現れる神使の桔梗さんに
「いやいやいや、ここで寝て居るはずの尊さんを知りませんか?」
「寝て居た人間なら、実家へ帰りましたよ。なんでも2カ月近く帰ってないので、捜索願? とやらを出される前に、家人へ顔を出しておくとかで……」
あぁ……なるほど
ずっと帰って居なかったものね、親御さんも心配しているだろうし、仕方ないか……
そうなると、神剣砥師はまたの機会かな?
砥師の場所も、尊さんのスマホへと送くられちゃったしね。
僕は取り合えず、セイの部屋へ行き、お腹の具合はどうか確かめることに――――――
「セイ~。入るぞ」
声を掛けてから部屋の襖を開けると、相変わらずの通販ダンボールで、壁が出来ていた。
未開封のダンボールを踏まないように部屋に入って行くが、セイの姿は見当たらない。トイレでも行ったかな?
そんな時、部屋の机の上に置かれたフィギュアに目が行く。アイツ本当に手先が器用だよな? こういうスキル、どこで習得するんだか……
色の塗られたフィギュアを見ながら、何のキャラクターだっけ? と思い出しながら眺めていると――――――
「それはまだ、乾ききってないから触るなよ」
部屋の主が帰って来きて注意を受ける
「セイ……お前、ダンボールを片付ける気が無いだろう?」
「いやいやいや、そんなことは無いぞ。片付けるより溜まるスピードが速いだけだ」
「発注すなよ!!」
「それは無理な相談だ!! それよりどうした? 俺に何か用か?」
「あ、そうそう。昼間お腹が痛そうだったから、大丈夫かなって……」
見た感じ大丈夫そうだな。心配して損したわ
「あの程度の腹痛など……て、おーい。無言で去っていくな」
「なんだよ、元気なら別に良いから」
「いやいやいや、まだ俺の用件が残っている」
「なんだよ用件って」
「千尋は透明な鱗を持ってないか?」
「透明な鱗? 鱗って色が着いてるものじゃ無いの?」
「龍もな、成長の過程で脱皮というか、脱鱗するんだ」
ほう、初めて聞いたわ
何でも、古い鱗が薄皮ならぬ、薄鱗となって剥げ落ちるらしい。
「そんなモノどうすんの?」
「いやな、前に千尋の幼馴染の嬢ちゃんに、霊とか見える様になる眼鏡を創ってやっただろ?」
「ああ、香住のしているアレ。今も愛用してるよね」
「眼鏡のレンズ部分の材料が、透明な鱗なんだよ」
「アレ! 龍の鱗だったの?」
「うむ。正哉の奴が座敷童に憑かれていただろう? やっぱり見えないと色々不便かと思ってな。正哉の奴にも創ってやろうと思って……嬢ちゃんに創った眼鏡は、俺の龍鱗を使ったんだが……最近は成長が止まったのか、さっぱり取れなくてな……」
それで、龍に成り立ての僕に聞いて来たのか、正哉にも見える様に成る眼鏡を創ろうとしているなら、協力も吝かでもない。
「そういう事なら、僕も協力するよ。2枚剥げばいいのかな?」
尻尾を掴んで鱗に爪を立てる、ちょっと痛そうだけど……親友の正哉の為に……
「お前は話を聞いていたのか? 無理やり剥いだ鱗じゃなく、自然に脱鱗した透明な鱗じゃなきゃ意味がないんだぞ。眼帯を創る訳じゃないんだから」
成る程、無理やり取っても、透明には成らないのか……
「いつ頃脱鱗するの?」
「それは個人差があるからな、ただ若い龍程、成長期に脱鱗があるのは確かだ」
透明な鱗か……どっかで…………あっ!
僕は自分の部屋へ移動して、机の引き出しの中へしまってあった、透明な丸いガラス板の様なレンズを取り出すと、セイに見せる。
「もしかして、これかな? ちょっと前に部屋の掃除をしていて見つけたんだよ。上手く太陽光にかざすと、七色に光って綺麗だったからさ、机の引き出しの中に取って置いたんだ」
「おお!! これこれ! まさしく透明な龍鱗だ!」
ほう、これが脱鱗した龍鱗か……捨てなくて良かった。
「でも、一つしか無かったよ?」
「それは仕方あるまい。無理やり剥いでも透明には成らないからな。自然に鱗が落ちるまで、片眼鏡で我慢してもらおう」
片方だけでも、座敷ちゃんが見えるなら、生活も全然変わるだろうしね
僕は、セイへ透明な鱗を渡して、正哉の為に作成のお願いをすると――――――
「千尋にお願いされるまでもなく、正哉とは雌の胸の大きさで議論する仲だからな、ちゃんと心を込めて創ってやるぞ」
碌でもない仲だった。
「じゃあ頼んだけど、夕ご飯には呼びに来るからな」
そう言って去ろうとすると――――――
「まてーい! お前、伍頭目のオロチの幼体の事、西園寺とか言う人間に電話したのか?」
「あっ! 忘れてた!!」
わざとじゃなく、本気で忘れていたわ。だって昨日から今日にかけて、色々起こり過ぎてて……神剣砥師とか晴明さんの事しか話してないや。
「忘れてたじゃねーだろ! どうすんだよ!」
「ん~、学園から帰って来て、オロチの寝て居る部屋を覗いて見たけど、まだ目を覚まさなそうだったから、大丈夫じゃないの?」
「寝てるところ食われるとか、俺は嫌だぞ!!」
夜は徹夜でアニメを観てるくせに、そもそも昼間に寝てて、夜は寝ないだろ?
「分かった、分かった。明日連絡するから、もうちょっとだけ我慢してよ」
絶対だぞーと叫ぶセイを他所に、穂高見様の寝床を作りに行きながら、もう一度、伍頭目のオロチが寝て居る部屋を確認すると
あれ!? 布団の中が空だ!!
どこ行った? 部屋をキョロキョロと見回してオロチを探す――――――
「ウチを助けたのは、お前かや?」
どこからか声が……どこだ?
視界に入らないので、氣を探ってみると――――――
上か!!
そう読んで、跳ぼうとした瞬間、顔の前に何かが落ちて来て、くっ付かれた!
「むぐぅ」
「落ち着け、ウチは命の恩人を食ったりはしない」
僕は顔に張り付いてるのが、伍頭目のオロチと気が付くと、両手で脇腹をつかんで畳の上へおろす。
「さっきから、ウチって……君は女の子!?」
「そうだぞ、こんな美しい雄が居るわけ無かろう」
いや、美しいと言うより、可愛らしいと言う感じなんですが?
コンタとコンペイと同じぐらいの年恰好で、幼稚園の年長さんから、おおめに見て小学校1年生ぐらいかな?
まあ、霊狐も目の前のオロチも、見た目と違って何百年……いや下手をすれば千年以上も生きて居るわけだから、容姿で判断は出来ないんだけどね。
でもまさか、女の子だったなんて……背中に背負ってたから気が付かなかったよ。
帰って来てからも、荷物運んだり電話したり買い出しに行ったりで忙しかったし
服も、いつの間にか神使の桔梗さんが着せてくれてたから、本当に気が付かなかった。
「ごめんごめん、僕は千尋。ここの神社で、巫女兼龍神をしているんだ」
「巫女兼龍神?」
「言いたい事は分かるよ。龍神に成った時点で、巫女はやめるべきなんだろうけど……婆ちゃんが怖いんだよ。それに、手伝わないと助勤代が入らないし」
「……色々大変じゃな、ウチは……名前は無い。それに何かする事が……あった筈なんだが……なんだっけ?」
「僕に聞かれても分からないよ。もしかして、記憶が無いの?」
「……う~、なんだっけ? 何か重要な事が……」
そこへ僕の中の淤加美様が念話で
『おそらく、オロチの心臓じゃろうな』
『やっぱり? 淤加美様もそう思います?』
今まで逢ったオロチは、全員心臓を探す事だけに邁進してきた
だとすれば、彼女の目的もオロチの心臓だろう。
『結構無茶な封印がしてあったみたいじゃからの、その後遺症じゃろうて』
『じゃあ、身体が小さくなってるのも、その封印のせいなんでしょうか?』
『それは分からん。まあ記憶が無いなら、暴れられずに済むし良かったではないか』
『思い出したらどうするんです?』
『その前に、どうにかするしか無かろう』
どうにかって……どうしろと?
そう思っていると、突然空気が張り詰めた。
これは……妖氣!?
『千尋! 外じゃ!!』
淤加美様の叫びを他所に、廊下を駆け玄関の外へ躍り出ると――――――
妖氣は、外全体からしている
いや――――――月明かり自体が妖氣を発していた。
「馬鹿な!! 月が……満月に」
9月中旬に、十五夜の満月を終えたばかりなのに、下旬の今夜では、まだ満月に成る訳が無い。寧ろ月は欠けて、新月に近いはず。
『淤加美様、これは一体……』
『高天原の月読に何かあったか!?』
『でも、月光が妖氣を纏っているのは変ですよ』
いくら月詠様でも、神氣ならともかく、妖氣を発するなんて、そんな事は……
そんな中、社の影から何やらユラユラ揺れる影が出てくる
『あいつの仕業でしょうか?』
『いや違うな。あれは妖光に照らされて、猛って出て来た中級程度の妖じゃ』
目の前の妖が原因ではないとはいえ、ここはウチの神佑地内。放って置くわけにいかない。
僕は、手水舎の方に手を突き出し、水を呼ぶ。
ここ瑞樹神社内なら、自分のテリトリーなので、多少の無茶も出来るのだ
呼んだ水で、水の長刀を創る。
『珍しいのぅ。漆黒の刀にすると思うたのに』
『相手が闇みたいですからね。闇で闇は斬れないと思いまして……それに、新しい術を試してみたくて水の刀にしました』
僕は、水で出来た刀を正眼に構え。ユラユラ揺れる闇の人型と対峙する。
さて……まだ理論に過ぎないから、上手く行くかどうか……




