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龍神の花嫁 八俣遠呂智編(ヤマタノオロチ)  作者: 霜月 如(リハビリ中)
1章 夏休み クローンオロチ
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5 浄化雨

巨大体の黒狼から、振り落とされた参頭目のオロチを、小鳥遊(たかなし) (たける)さんに任せ。


僕は、武甲山の西側にある、浦山ダムを目指す。


水神の龍神である僕にとって、水はあれば在るだけ、力となるからだ。



もう1つ試したい事━━━━



それは、本来の龍神の能力である『浄化』を使ってみたいのだ。


水神の龍神は、『恵みの雨』と『五穀豊穣』の二つの他に、水流にて『穢れを洗い流す』と言うのがある。


病や悪い憑き物……不浄を洗う『浄化』。


この能力で、暴れ回る荒神の黒狼を浄化し、鎮めようと言うのだ。


浄化を掛けるには、それなりの水量が必要になるので、ダムまで引っ張って行こうとしている訳だが……


厄介なのは、炎のブレス。


触れても居ないのに、水の武器が少しずつ蒸発しているのだ。


もう既に、水の長槍は半分ぐらいの長さに成っていた。


黒狼の爪を、素手で受ける度胸はないし。━━━━どうにかダムまで欲しい。


爪は受け流しブレスは避けるを繰り返す━━━が


避けたブレスの先に、仔猫が居たのだ。僕は咄嗟に水槍を飛ばし、猫の前で水を広げ炎を退ける。


たちまち、蒸発して消える水だが、仔猫は無事に逃げていった。


『まったく、御主と言うヤツは……最後の水を、全部使い切ってしまうとは』

そう、淤加美(おかみ)様からお叱りが飛ぶ


「僕に、猫ちゃんを見捨てる事なんて、出来ません」


そう言って、ブレスを避けながら、ダムへ向かうが、やはり爪を弾け無くなったのは辛い。


爪とブレスの猛襲に、少しずつ体勢を崩されていき━━━━


遂に避けきれず、爪にかすって吹っ飛ばされてしまう。


しまった! そう思ったときには、ブレスの追撃を吹こうと口を開けている。


その時━━━━━━━━



白い巨大な狼が、黒狼の首元へ噛み付いたのだ。


『瑞樹の龍神よ。この三峰の神佑地で、事を構えるなら、一言挨拶に来ぬか!』


うわぁ、お怒りだ。


でも、そりゃあそうか……他所の神佑地で暴れてるんだものな。


「すみません。挨拶に伺うべきでしたね。」


『うむ、分かればよい』

白狼はそう言うと、喉元に噛み付かれ、暴れる黒狼から牙を抜き、僕のとなりへ移動する。


「三峰の神使ですね? 僕は龍神の千尋です」


『よろしくな。この黒狼は荒神か? 流石に神殺はしたくないぞ』


「それなんですが、龍神の『浄化の雨』を使って、鎮められればと思っています」


そう、何らかの不浄や穢れで、一時的に荒ぶって居るなら、それを流してしまえば良い。


『龍神の浄化か……良い考えだが、何故に直ぐ遣らぬ?』


「それが……僕はまだ、龍神に就任して間もないので、空気中からの水分は、沢山創れ無いんですよ。なので、この先の浦山ダムまで行ければ、その水を利用出来ます」


申し訳ないと、困った顔で答えたら、白狼が僕の襟首を咥え


『だったら、急ぐぞ』

そう言って咥えたまま走り出す。


流石その巨体だけあって、1歩で進む距離が大きい。


周りの風景が、みるみる後ろへ流れる。


━━━━━━が


些か酔った……もう少し、運び方を選んで欲しいものだ。背に乗せるとかね……


後ろを見ると、黒狼も同じスピードで追ってくる。


このままダムまで着いて来てくれれば、却って好都合だ。


僕は、淤加美様に、力を貸して貰えるよう、頼んでおく。


「出来れば、浄化の力が増す。『光』側の高淤加美(たかおかみ)様の方で、お願いします」


『良かろう、その代わり、帰ったらスラッシュシスターズの対戦相手をせよ』


…………本当に、填まってるのね。


神様達って、人間の娯楽が好きだなぁ。


まあ、数千年も暇してたら、そうなるのも、仕方ないのかもね。


そうこうしている内に、ダムへ到着し、咥えられてた僕をダムの中へ振り飛ばす。


マジか!? 容赦無いですね白狼さん。


だが、僕だって水神の端くれ。何時もなら、水の中へダイブする処だが、水の浮力を操り、水の上へ浮かぶように着地する。


一応修行の成果もあり、内側の淤加美様と交代しなくも、力を借りる事が出来るように成ったので、直ぐに高淤加美(たかおかみ)様(光水)の力を引き出すと。


水の上で、両手で印を結び、尻尾を使って水面を叩く。


すると叩かれた水面が盛り上がり、空へ向かって伸びていく。


ダムの水を空へ全部浮かせ━━━━


「行きます! 『(Purifi)(cation) (Rain)』」

そう叫び、空の水溜まりから、浄化の豪雨を降らせる。


『もうちょっと、良い技の名前は無かったのかや?』

淤加美様の呆れたような声が掛かる。


「えー、格好いいと思いますけど?」

ご先祖の淤加美様と、そんなやり取りをしている間も、浄化雨によって、黒狼の身体から黒っぽい影が、洗われ消えていく。


と同時に、鋭く血走った眼が、優しい眼に変わった。



「どうにか、成功したようですね」


『当たり前じゃ! 妾が助力して出来ぬのなら、出来の悪い子孫じゃと嘆いて居る』


「なら、御期待に添えて良かったです」


『うむ。帰ったら……』


「ゲームの相手でしょ? 分かってますって」

そう、僕の中に居る淤加美様に伝えると、満足げに『良し良し』と言っていた。


さてと、広域で雨を降らせたので、ブレスによる山火事も消え。


一件落着かな?



『むむ……伊邪那岐(イザナギ)様と伊邪那美(イザナミ)様の神佑地である三峰が、だいぶ荒れてしまった』


そう言って、白狼の神使が項垂れる。


可哀想な事をしてしまった。山火事は、僕の仕業じゃないとはいえ、断りもなく戦闘した罪悪感もあって、どうにか成らないかと、思案する。


『それなら、問題は無い。妾の水は浄化だけでなく、草木や作物を育てる、恵みの雨なのじゃぞ。日が昇る頃には、新芽が出ていよう』


そう淤加美様から声が掛かる。


成る程。そう言えば、水神の龍神は『恵みの雨』と『五穀豊穣』の神でしたね。


淤加美様の言葉を白狼に伝えると、それは助かる、ありがとう瑞樹の龍神よ、とお礼を言っていた。


滅茶苦茶にしたの僕達なんで、戻して行けーと言われても仕方ないのに。それで赦して貰って、助かるのは此方だし。


さて。後は、暴れた当事者の黒狼の処遇だが……穢れが浄化されて、灰色狼になっていたのだ。


『我を忘れて暴れてしまい、済まぬ! 三峰の白狼よ。そして、目を覚まさせてくれた、瑞樹の龍神よ。ありがとう』


そう言って頭を下げる灰色狼。


『本来なら、この三峰で暴れた罪を償わせる処だが、神殺しは目覚めが悪い。ここは瑞樹の龍神に処遇を委せよう』

と、三峰の神使の白狼さんが言う。


「僕は別に……元々、西園寺さんに頼まれて来ただけだし、オロチの事も……」


はっ!? オロチと尊さんの事忘れてた!


動き回ってる時に、外れた無線機のイヤホンをすると、イヤホンの向こうから西園寺さんの声がする。


『千尋君! 千尋君どうぞ……』


「あ、えっと……千尋です。すみません……イヤホン外れちゃってたみたいで……」


『そうか……無事かね?』


「僕は大丈夫です。そちらは大丈夫ですか? 参頭目のオロチはどうなりました? あと、山火事は消えてますか?」

矢継ぎ早に質問する。


『まず、此方は全員無事で、オロチには逃げられた。あと、この展望台から見る限り、火は全部消えたみたいだ』


全員雨に濡れたがね。と笑っていた。


すみません。それ、僕が降らせたんです……ダムの水を使って……


お陰で、ダムが干上がってしまったが、降った雨が川に流れて、戻って来れば元通りだし。


唯一、心残りなのは、参頭目のオロチの行方である。


オロチの心臓は僕が持ってるので、遅かれ早かれ、瑞樹神社(ウチ)へやって来るのは、間違いないだろう。


僕は、オロチ以外すべて片付いた事を、白と灰色の狼達に伝えた。


『ならば、我を連れて行ってくれ瑞樹の龍神よ。オロチに借りを返してやらねば、気が済まぬ』

と、言う灰色狼だが━━━━大きすぎる。


流石に、参拝者が逃げ出すぞ……夏祭りも近いし、不味いってば……


そう言って断ろうとすると、なんと━━━━


小さい犬と変わらない位、縮んだのだ。


『此れで文句有るまい。今後ともよろしく』


いや……もう、なんと言うか……断る口実が無くなってしまった。


その後、白狼さんは、改めて挨拶に来るよう言って去っていく。


事後処理が、大変だったんですけどね。上手く逃げられた感じだ。


淤加美様の言うとおり、朝日が昇る頃には、焼け跡から新芽が出ていて、直ぐに森も元に戻るだろう。


いくら龍神の『恵みの雨』とは言え、竹の子並みだな……無茶苦茶だ。


オロチと対峙していた尊さんは、逃がした事が悔しかったのか、地団駄をふんでいた。


なんと言うか……櫛を差したままなので、少女の姿で地団駄踏んでるのは、ちょっと可愛いらしい。


此れで、言葉使いが女の子っぽければ、尚良しなんだけどね。


え? 元男の子の僕が言うなって?


まぁ、僕の方は、元に戻れないので、諦めたけど。尊さんは、櫛を外せば戻れるのだから、羨ましい限りだ。


結局、事後処理が終わり。県道封鎖が解ける頃には、朝9時を回っていた。


何時もなら、朝食の用意やら、昼食どうしよう……なんて考えるのだが、今は神使の桔梗さんが居てくれるので……


あれ? 桔梗さん料理出来るのかな?


昨日も、夕食前に出動要請があったんで、桔梗さんの料理の腕前は、分からずしまいだった。


僕は、龍脈を開き神社へ移動する。


西園寺さんは、もう少し処理があるからと残り、尊さんは龍脈に酔うからと、龍脈移動を断られたので、移動したのは小さく成った、灰色狼さんと僕の二人きりだ。


あ、淤加美様は、僕の中に居ますよ、念のため。



神社の境内に着くと、元龍神セイの悲鳴があがっている。


「おわああ! やめろー」


「まったく……徹夜明けで、帰って見れば……騒がしい」


「千尋か!? おい、この蟹女を止めろ!」

そう言うセイの、服の所々が、切れて居るではないか。


セイを追いかけて来る、桔梗(ききょう)さんの右手が、大きな蟹のハサミに成っている。


「セイ……桔梗さんに、何したんだよ」


「何って、サークル参加する同人誌即売会に、出品する同人誌が出来たんで、内容チェックしていたら、急に怒りだして━━━━━━」


僕は、桔梗さんの怒った原因を探るべく、セイの持っている薄い本の中身をチェックする。


中身は別にエッチでも何んでもない、日曜の朝にやってるアニメの水着本だった。


ん~。と言うことは、内容に怒ったのかな?


例えば、『蟹を食べてる』とかのシーンが━━━━無いな。


最も蟹を食べるなら、冬とか鍋でやるよね。


あぁ、でも。今年からは、蟹鍋禁止だな。桔梗さん激怒するだろうし。


じゃあ、何に怒ったんだろう……本人も目の前に居るし、聞いてみるか━━━━


「あのさ、内容チェックしたんだけど、別に不適切なモノは無いと思うよ」


再度、ペラペラ捲って確認したけど、魔法少女達が、水着姿でビーチバレーやるだけの本だった。


「いいえ千尋様。姿がいかがわし過ぎます!!」


「え!?」


桔梗さんは、薄い本の該当ページを開くと、水着の少女を指差して━━━━


「こんな少女が、人前で肌を晒すなんて、不謹慎です! 露出過剰です!」


ちょっ……普通の水着で露出過剰とか……それだと、同人誌即売会で参加する殆どのサークルが、発売禁止になっちゃうよ。


流石、約450年前の安土桃山時代の人。


どうやら、肌の露出の基準が違うらしい。



「えっと……さ。桔梗さんの時代は、駄目だったかも知れないけど。今の時代で水着は普通だから」


「そうなのですか?」


「うん、水着で商店街を歩くのは、さすがに吃驚するけど、本の中身は海辺なので問題ないよ」


そう指摘してやる。


ちゃんと、教えて置かないと。今日から8月に入って、夏真っ盛りなのに、薄着で参拝する女性へ、襲い掛かり兼ねない。


セイのタブレットPCを借りると、使い方を教えて水着の通販サイトを開いて見せる。


だいたい、モデルさんが着ているからね。今の水着の基準は、こんな感じだと言うのを教えてやった。


「成る程……此れは普段着では無く、沐浴用の御召し物なのですね」


沐浴と言うと、穢れを落とす感じが強いが。ビキニの水着は、どちらかと言えば、レジャーだからな。


その辺りを、上手く伝えたつもりだが、桔梗さんは、分かったような分からんような……微妙な顔をしていた。


同じ日本人でも、生きた時代でここまでギャップがあるとは━━━


現代でも、中年の方々が、10代の女子高生の言葉が、時々分からんと言うのを、テレビ番組で目にするが


数十年の差で、ギャップが出るんだし。桔梗さんなんて、数百年も差があるのだから、浦島太郎も良い処だろう。


ま、今はインターネットと言う、現代文化を知るのに、丁度良い教科書があるからね。それで勉強してもらうとして━━━━


セイの様に、極端な方向へ行かないことを祈りつつ……タブレットPCに夢中な桔梗さんへ社務所を任せ


僕は徹夜明けなので、仮眠をとろうとしたが、淤加美様に約束が違うと怒鳴られた。


「あのぅ、淤加美様? 仮眠後じゃ駄目ですか?」


『駄目じゃ! 妾をどれだけ待たせる気じゃ! 馬鹿者め!』


「そうは仰せられてもですね……正直、戦闘の疲れで、寝オチ寸前なんですよ」


『寝たら、御主の内側で、罵り続けてやるぞ』


うぁ、悪夢見そうだな。


この方、龍神じゃなく鬼なんじゃね? 日本神話間違ってませんか?


「セイとか、暇そうな奴とじゃ、駄目なんですか?」


『アヤツはアニメ専門で、ゲームは下手でいかん』


そうなんだ。


「じゃあ、御自分の光である『高淤加美神(たかおかみのかみ)』と、闇の『闇淤加美神(くらおかみのかみ)』で対戦なさったらどうです? 折角、2属性神で1柱なのですから」


(たわ)け! 自分と対戦しても、動きが読めて面白く無いわ!』


淤加美様の話だと、なんでも対戦開始と同時に、動きが読みきれるので、動くと負け状態になり、膠着して終ったらしい。


と言うか、試したんですか?


本当に暇な方々だな、ウチの神様達。


結局約束だからと、寝オチするまで、ゲームに付き合わされてしまった。



僕が、ゆっくり寝られるのは、何時になる事やら……



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