2-28 神器2刀の技
真・雷神剣草薙の、余波エネルギーだけで吹っ飛ばされ、上も下も分からないぐらい、揉みくちゃにされながら、砂浜に刺さる僕たち。
口に入った砂を吐き出しながら、状況を確認する為に頭を上げ振り返ると――――――
なんと!! そこには、巨大な入り江が出来ているではないか!!
まったく……少しは加減しろ! 馬鹿!
幸い、幽世だから人的被害が無いものの……これが現世だったらと思うと……考えただけでも恐ろしい。
「どうよ? 俺様の新技の一つ、すげえだろ」
一人だけ、技の発生源にいた為に、無傷でいる小鳥遊 尊さんが、胸を張って高笑いをしていた。
「尊さん! 貴方はアホですか!? 地形がすっかり変わっちゃったでしょうに!!」
巻き上がった砂埃に視界が遮られて、入り江の規模が分からないけど……推測で、松島から仙台市郊外ぐらいまで削れてるんじゃなかろうか?
人の居ない幽世で本当に良かった。
そう言えば、皆は?
僕は周りを見渡すと、砂から脚だけ生えた状態のセイが、僕のすぐ後ろに居た。
他にも少し離れた場所に、同じ様に脚だけ生えた状態が3人分
ズボンが正哉で、着物が座敷ちゃんで、スカートなのでパンツ見えてるのが鴻上さんか……
流石の鴻上さんも、あの衝撃では踏ん張り切れなかった様だな
そう思って様子を見ていると、砂に刺さった鴻上さんが、突然砂浜に手を置いて頭を引き抜いた。
おー、流石神話のオロチの一部。頑丈だなぁ。
鴻上さんは、立ち上がって直ぐ、正哉と座敷ちゃんを砂から引き抜いて救出を始めたので、彼方は任せておいて良さそうだった。
僕の方は取り敢えず、近場に埋まっているセイの脚を掴むと、そのまま引き上げる――――――
見事、口の中一杯に砂が詰まっていた。まあ、ブレス中で大口開けていたから仕方がないかな……
僕は漆黒を水に変えようとしたが、先程の衝撃で全部吹き飛んでしまったらしく、闇の残滓は見当たらなかった。
「ごめんセイ、海水しかないけど我慢して」
僕はセイの脚を掴んだまま海へ入ると、暫くしてセイが復活し、海面に顔を出した。
「ぷはぁ、砂が喉に詰まって死ぬかと思ったぞ」
「水中で呼吸出来るのに、砂だと駄目とか変な感じ」
「そうか? 水龍だと常識だけどな」
セイとそんなやり取りをしていると、鴻上さんに砂の中から助けられた。正哉と座敷ちゃんの姿が目に入る
砂に噎せる二人と対照的に、鴻上さんは何事もなかったかの様に、二人の背中を叩いてあげていた。
「さすが鴻上さん、オロチだけあって強いね」
「水属性の我らが水で息ができるように、オロチは土属性持ちだから、土で呼吸が出来るのかもな」
セイの言葉に、土に潜って冬眠する蛇の姿が、脳裏に浮かんだ……
浮かぶ……浮……え? なにこれ
「セイ、海の中から、なんか浮いてきたよ」
「俺は屁なんかしてないぞ」
「誰が、すかしっ屁の話をしているか! アホー」
「これ、穂高見命じゃないか?」
「え? 穂高見様!? まさか溺れた?」
僕は慌てて穂高見命を仰向けにひっくり返すと、セイが――――――
「いやいやいや、穂高見命は、海神である豊玉姫の弟で、同じく海神だぞ。海神が溺れるとか、なんの冗談だよ……技の衝撃で目を回して居るだけだろ?」
それなら良いんだけど……
本当に、大丈夫なのかな? 穂高見様を心配して顔を覗き込むと、突然目を開いてと思うと起き上がった。
「うわ! 生き返った!!」
お化けでも見るように、穂高見様から飛び退くと、僕はセイに抱き着いた
「あの……すみません。勝手に殺さないでください…………はっ!? そうだ!! 姉上の槍……海神の槍は!?」
技の衝撃でボーっとしていた頭が、冷たい海水でスッキリしたのか、急に思い出した様に周りを見渡していた。
「穂高見命よ、あんたの探し物は、あの舞い上がった砂埃の中だぜ」
セイが、少しずつ晴れて来ている砂埃を指差して、そう言った。
「えっ?……ぶ、無事なんでしょうか?」
「「…………」」
僕とセイが、穂高見様の問いに沈黙する
海神の槍が幾ら神器とはいえ、ダークブレスと真・雷神剣草薙の二重撃を受けたのだ。
ただでは済まないだろうな……
「お二人とも、不安になるので黙らないで下さいよ」
お願いだから無事だと言って、と涙目で懇願されるが、こればかりは海神の槍の耐久値に、賭けるしかなかった。
そうこうしている内に、だいぶ砂埃が収まって来ているので、向こう岸が……遠すぎて見えないし。
僕が、最初に推測したように、かなり大型の湾が出来てしまっていた。
本当に現世へ影響が無いんだろうな? 心配になってきたぞ……
そう思って居ると、龍に成った淵名さんの背に乗った香住が空から滑空して現れて――――――
「千尋! 上よ、上!」
上? 言われたように視線を上へ向げると――――――
砂埃の中に、人影が見えるではないか!
「まさか、あの合わせ技を受けて……あれ本当に人間なの?」
「失礼なお嬢さんだ。こう見えても龍神の貴女と違って、ちょっとした事で直ぐに死ぬ、か弱い人間ですよ」
駆け出しとはいえ、龍神相手に近接戦闘で圧倒し、地形が変わる程の大技を受けて、尚ピンピンしている奴が、『か弱い』とか平気で口にしますか?
挙句、僕だって淤加美様の力添え無しでは、空を飛べないって言うのに、あの執事は宙に浮いているし。
「本当に、あんた何者だよ!」
「あぁ、さっきのを受けて、死んでないのに驚いているんですね? 答えは簡単ですよ。何せ……受けてないんですから」
「はい? 受け無いって……幻影でも見せたんですか? 僕がやったように……」
「いいえ、このセルジュ。接近戦の格闘術には長けて居ますが、我が主の様に術者ではありませぬ故、幻術は使えませんよ」
「嘘つきー、今だって宙に浮いてるじゃないか!」
「あぁ、これですか? 此れは我が主から、1度きりの『浮遊の札』を頂いていたので、急遽それを使い。技が炸裂するインパクトの瞬間に上空へ逃て、事無きを得たと言う訳です。まぁ……全くの無傷とは、行きませんでしたがね」
セルジュ自身が言った様に、巻き上がった土砂が当たったのか、脚の所々が血で滲んでいた。
あれではもう、走ったり蹴ったりも出来ないだろうし、近接戦闘の能力も半減以下だろう……
「セルジュさん、さすがに観念したらどうです?」
「そうだ!! 観念しろ!! そして姉上の槍を置いて、去れ人間!!」
と、僕の尻馬に乗って、騒ぎ始める穂高見命
そんな僕達を馬鹿にするような目で、空から見降ろすセルジュが
「ふっ、そうですね。目的の要石は手に入りましたし、槍はお返ししましょうか……」
槍を持つ手とは逆の手に、要石の石柱を持ち。僕達に言い放つ
「いつの間に要石を……」
「これさえ手に入れば、槍は用済みですからね。さて……最後の仕事ですよ海神の槍さん」
―――――――――――― 存分に暴れて、すべてを破壊せよ ――――――――――――
そう最後の命令を与えた、海神の槍を海へ投げ落した。
「なっ!! そんな事をしたら……」
「ええ、槍は暴走し、幽世は消滅するでしょう。コインの裏側が無くなっても、表が存在できるのか? 少し興味がありますのでね……それではまた、生きていたら逢いましょう。希少種のお嬢さん」
セルジュは捨て台詞を吐いた後、燕尾服から一枚の札を出すと、それを使って空間に歪みを創り、そこに飛び込んでしまった。
たぶん、現世側へ逃げたのだと思う。
「あんにゃろ……」
一方、海に沈んだ海神の槍は、大渦を創りながら暴走を始めていた
「どうするんです! どうすんだよ! どうしたら良い!?」
穂高見命とセイと香住から、矢継早に聞かれるが
「どうして、いつも僕に聞くんだよ! そんなに良い作戦が、ポンポン思いつく筈ないでしょが!」
そう言いながらも、何か良い作戦は無いかと考えを巡らせる。
今回、水は海水が沢山あるけれど、相手が海神の槍では、水属性は効果ないだろう。かと言って神器である為に、漆黒もすり抜けてしまうのだ
他に、効きそうな術としては、太陽光を圧縮した揺炎だろうけど……幽世側は時差の関係でまだ日が昇って居ないし、そうなると太陽光が集められないから揺炎は使用不能
光の珠で水素爆発を試しても良いが、どこまで効くやら……
このまま、暴走する海神の槍を放置して、現世へ逃げるって手も考えたが、セルジュが去り際に気になる事を言っていた。
『コインの裏が無くなっても、表が存在できるのか?』と言うヤツだ。
裏が無くなったコインは、コインとしての存在が無くなるのだから、表も無くなるんじゃ?
そう思ってしまうと、怖くて放置は出来なかった。
「だったら、俺の新技で槍を黙らせてやろうか?」
尊さんが、そう提案してくるが
「ん~、真・雷神剣草薙かぁ……」
確かに現状では、最強の威力を誇る技であるが……
「おいおい、雨女。俺の新技が真・雷神剣草薙だけだと、誰が決めたよ」
「え? 違うの?」
「あぁ、真・雷神剣草薙は、雷神剣草薙の無駄をなくして収束した、所謂改良版にすぎねーんだ。新しい技はちゃんと他にある」
マジか!?
『尊よ、アレをやるのか?』
草薙剣の中に入った、建御雷様がそう言ってくる
「ああ、建のオッサン。いよいよ本番で使えるぜ」
『分かった。今剣を出す』
建御雷様の言葉で、尊さんの左手にもう一振りの剣が現れた。
「2刀流!?」
「おうよ。建のオッサンが持っていた剣でな、名を『布都御魂』って言うらしいだ……元々二振りあったと言うんだが、一振りは……ほれ、偽オロチ騒ぎの時に立ち寄った……苗場山の神社の……」
「伊米神社の事?」
「そそ、そこの高倉下って神様にあげたらしいんだが、もう一振りをオッサンが持っててよ。そいつを借りたってわけさ、すげえだろう?」
……何が凄いかって? 古神の剣神である建御雷様を、オッサンって呼ぶ方がすげえわ……
『草薙剣の中に居る時は、帯刀していても仕方が無いのでな、尊に貸してやったのだが……神器2振りを扱えるように成るまでには、そうとう苦労したぞ』
「苦労したのは俺だっつーの! オッサン、俺を殺す気で修業してくるし」
『お陰で、雷神剣草薙なら3発は撃てるように成ったではないか』
「ああ、実際に何度か、黄泉の入り口に立たされた、甲斐はあったな」
黄泉の入り口まで行ったんだ……
「えっと……それで、2刀でどうするの?」
「どうするって? 新技はな、2刀でぶちかますのよ」
おお!! 神器2振りも使って放つ大技とか……すごく興味がある
三種の神器の1つである草薙剣に、建御雷神の御霊を入れて刀身に雷を纏った剣と
刀身を振る時の音で、魔を祓うとされし神剣の布都御魂。
2振りの神器で放つ技とか、見たい! 見た過ぎるよ!!
「あの!! 僕に手伝えることありますか!?」
神器2刀の技を見たいあまりに、アシスタントを志願すると
草薙剣の中の建御雷様が――――――
『そうじゃな……ならば、あの大渦を何とか出来るか? 目標の槍が海の中だから、技を放っても海水がクッションに成ってしまうんじゃ』
海水かぁ、水系は海神の槍の方が、操作権が上なんだよなぁ
水が操れれば、簡単に海を割って、槍を剝き出しに出来るのに……
ダークブレスでは、範囲が単一過ぎて、周りの海水を飛ばすには不向きであるし
やっぱ、カッパ淵で使った、疑似太陽改め『水素照明弾』の混合気の比率を変えて、水素爆破するしかないか……
小学校の理科の実験で、水を電気分解し、水素を取り出して試験管でポンっと破裂させた、アレの大型版です。(※個人では、水を電気分解する時の電気で、水素に火が着き、爆発の恐れがありますので、絶対やらない様に!)
「一瞬だけど、水を吹き飛ばす手があります」
「よし! やってくれ!! 海水が飛んで槍が見えたら、大技をぶちかます!!」
尊さんは、2刀を構えると、大渦の中心を見据えた。
「他の人は、座敷ちゃんに現世への穴を開けて貰って、退避した方が……」
「嫌だ! 俺も新技見てみたいし」
「斎藤君が残るなら私も残りますわ」
鴻上さんは兎も角、正哉……人間なのに無茶するなぁ。
もう一人の人間の香住も
「もちろん残るわよ、私は淵名さんの背中に乗って、上空に居るから大丈夫よ」
「……と言う事は、セイも?」
「人間達が残るのに、龍の俺が逃げる訳に行くまい」
誰も退避しねえし! また砂浜に、頭から突き刺さっても知らないからな!
「じゃあ行きますよ」
「おう、そちらのタイミングに任せるぜ」
海水を光に変換して……と、思ったら。水素を操るのに、やはり塩分が強すぎる。
塩を抜く所から行かなきゃ、駄目みたいだ。
本来、高淤加美神も闇淤加美神も、光と闇から水が生れるって言い伝えなのに、僕が逆工程をやってるので、不純物が入れば入るほど、変換が難しくなるのだ。
最初の工程で水を創り、それを元に光の珠を創り宙に浮かべる。
その光の珠を水素分解し、槍があるであろう大渦の中心に落としていく
完全に海水につかると着火しにくいので、海面すれすれで止めて――――――
「圧縮着火!!」
何度か圧縮を繰り返すと、着火点に達したのか、突然! 光の珠が炎を上げて弾けた!!
音速を超える衝撃波が空気を振動させ、海神の槍周りの海水が衝撃で吹き飛び、槍が剥き出しになる。
そして、後から遅れて爆発音が来る時には、既に尊さんが槍の懐に入っていた
「早い!!」
「行くぜ!! 神剣2刀流奥義! 魔祓雷神逆十字!!」
先ず、左手で逆手に持った布都御魂で下から縦に斬り上げた処に、右手に持った、草薙剣で左から右へ向かって真横へ一線を入れた
丁度、両方の刃が十字の形に重なって、炸裂する処まで見えたが……炸裂した後は、雷光が強すぎて何も見えなかった。
毎度おなじみに、技の余波で吹っ飛ばされるギャラリー達
「ちょっと!! 海神の槍は無事なんでしょうねええぇぇぇぇ」
穂高見様の叫びが聞こえたが、どこかに飛ばされて行ったようだ
勿論、僕も吹っ飛ばされましたよ。前回よりも、かなり遠くにね。
元々、僕とセイと穂高見様は、海の中に居たので、飛ばされた先も海の中であった。
だいぶ沖に飛ばされたようで、遠くに爆風で巻き上がった砂埃が見える
そんな僕の隣に、セイが海中から顔を出して――――――
「おっかねえ技だな……」
「確かに、敵に回したくはないよね」
僕たちは、遠くに巻き上がる砂埃を眺めながら、改めて神器の威力に畏怖の念を抱くのだった。




