2-27 真・雷神剣草薙
作中に出てくる神様の名前で、古事記の明記『宇都志日金拆命』ですが……
名前が長すぎてルビが振れないため、もう一つの名前の『穂高見命』で行きますので、ご了承ください。
因みに、穂高見命は海の神『豊玉姫』の弟神にあたります。
「あぁ、気持ち悪り~」
木に寄りかかるようにして呟くセイ
「呑み過ぎなんだよ馬鹿!」
「千尋……コンビニで、酒酔いに効く薬……買って来てくれ」
「戦闘中で、そんな事している場合か! そもそも、龍に人間の薬が効くわけ無いだろ! しかも、ここは幽世側だから、コンビニなんかねーし!」
ツッコミどころが在りすぎて困るセイの頬を、しっかりしろとペチペチ叩くが、気持ち悪そうに青い顔をしていて話にならない。
そこに淤加美様が出て来て
「駄目じゃな……完全に悪酔いしておる」
「それじゃ困るんですよ」
僕は自分で水を生成できないから、ブレスを使いたくても水がない
残った漆黒を水に変えて、口に含んでブレスにしても、変換に通す漆黒が用意できないのだ。
え? 漆黒をまんま口に含めって?
それは淤加美様が僕の中に顕現してから、真っ先に試したんだ
だって、闇淤加美神の闇の力を使って、ダークブレスとか……格好良いじゃないか!
でも……漆黒のブレスは吐けなかった。
口からブレスとして吐こうとした黒い漆黒が、煙突から出る煙のように上がるだけで、前方に飛ばなかったのだ。
やっぱり水神龍に、水以外のブレスは無理なのか……と諦めていたら――――――――
先程セイの水ブレスが、漆黒の闇を纏ってダークブレスに変換されたのを見て、二人の合わせ技なら出来る! と思ったのに……
肝心の相方が、酔っ払ってグロッキーじゃあ……ねえ……
「セイ! さっきのもう一回やってよ!」
「うぷっ……揺らすると出そう……」
「もうこの際、人様に見せられない、リバースブレスでも良いから、ブレス吐けよぉ」
僕はそう言って、セイの白衣の襟を持って揺らすが、力なく頭が垂れるだけで、正気にならない。
見兼ねた淤加美様が――――――
「のう千尋や。若龍の『酔い』という悪い状態を、浄化雨で治してしまうのじゃ」
「え? 浄化雨って酔いも治るんですか?」
「術者の技量次第で、なんでも治せるぞ、腰痛とか痔もな」
腰痛は良いけど、痔は……患部を診るのがちょっと……一応、今は十代の女子だし
取り敢えず、淤加美様から言われた通りに、漆黒の一部を水に戻し、浄化雨へと変えて、セイに口へ雨を降らせて飲ませた。
淤加美様が正しければ、これで悪酔いも消えるだろう
そう思っていると――――――――――
「悪いけど、旦那の雄龍が回復するのを、待ってやるほど甘くない」
セルジュが、いつの間にか突進して来ていて、海神の槍を突きだして来たのだ
僕はその槍を薙刀で往なしながら、バックステップを踏んで距離を取るが、セルジュは直ぐに踵を返して追撃してくる
一瞬、グロッキーで動けないセイが狙われるたら、どうしようかと思ったが、どうやら僕だけを重点的に狙う算段のようだ
考えてみれば闇術が使えるのは僕だけだし、他の龍達は水しか使え無いので、海神の槍で無力化できる
つまり、僕さえ倒してしまえば、その時点で抗う術が無くなるので負け確定なのだ。
セルジュが突進して来て、槍と武術の連携でこちらを圧倒してくる
僕に接近戦の技術がない以上、龍神の身体能力だけで見切って避けるのだが、正直怖すぎだ
セルジュの持つ武器は、その辺のナイフや刀と違い、神器の槍なのだから、幾ら固い龍神の皮膚とはいえ、神器を受ければ致命傷は免れない。
だからこそ、必死で避けている――――――が
たまに織り交ぜてくる、足技が嫌らしい。
致命傷になる槍ばかりに気を取られるので、蹴りは何発も貰ってしまっていた。
「ほう、人間なら骨が確実に折れているか、内臓破裂でもおかしくない、氣を練った蹴りなのに、痣だけで済むのですか?」
「ふんっ! こんなの痒いだけさ」
滅茶苦茶痛いけど、強がってみせる。龍神の再生が発動しているので、痣も直ぐに消えるだろうが……
正直、こちらに攻撃手段が無いのが辛すぎる。
武器の形状を変えて不意を突くのは、一度見せた後だと、まず二度目は引っ掛からない
僕がセルジュの次の攻撃に備えていると――――――
「ふむ、その厄介な再生が追い付かない程、連続で叩き込んであげましょう」
セルジュが、そう言った直後。急に視界から消えた!
どこだ……龍が龍脈を感じ取るのに使う氣を追う能力で、セルジュの氣を探す…………
……下だ! 地面擦れ擦れを滑るように滑走してきたのだ
しかも、気が付いた時には間合いが詰められていて、長い薙刀ではどうにもできない
海神の槍の間合いより近い……と言う事は、接近戦……武術で来る気だ!
こちらは、武器を短く変換している時間もなさそうだし、他に手は…………あった!!
僕は、急遽体を捻って半回転し、遠心力をプラスして尾撃をお見舞いした。
流石のセルジュも、尻尾が来るとは思わなかったらしく、不意をつかれてモロに鳩尾へ入ったのだ!
蹴りの何倍もの威力がある、尾撃を人間に当てると、セルジュが死んでしまうか心配だったが、当たった瞬間、大型トラックのタイヤを打撃するような重い反動があったので、特別な受け身でも取ったのか?
尾撃を受けて、そのまま堪えきれず、砂浜にめり込むように吹っ飛ぶセルジュだが、少し咳き込んだ後、何とか立ち上がった。
「僕の痛みが分かったか! コノヤロウ」
「……咄嗟に、丹田へ氣を込めて、受け身を取りましたが……モロに入ったら内臓破裂……いや、身体が千切れていたかも知れません」
「あの瞬間で、受け身とか……化け物か!」
「化け物は貴女の方でしょう、防御に徹すると読んでいたのに、尻尾で反撃とは……人の姿をしているので、尻尾の存在を、すっかり忘れていましたよ。しかし……もう二度と、不意はつかれません」
セルジュはそう言って、姿勢を低くして海神の槍を構え、突撃の構えをとる
ヤバイ……もう不意をつく手が――――――
あるじゃん!
僕も腰を落とし、セルジュの槍突きに備えると
ほぼ同時に、相手は低い姿勢のまま突進をしてくる
早い!!
今迄で一番早い槍突きだ! しかも突撃軌道を、直線ではなく左右に振って突進してくるので、気を抜くと視界に捉え切れず消えたようにさえ見える。
そんなセルジュの動きを読みながら、漆黒の薙刀をふるうが――――――
間合いギリギリでフェイントを掛けられ、姿を見失った!
「どうやら、実戦経験の差と言うやつですね」
セルジュの声と同時に、僕の腹へと海神の槍を突き立てられた
刹那――――――――――――
僕の姿が消えて霧となり飛散した。
例の「光屈折」を使った幻影の術である
「なっ!! 幻術!?」
驚愕の声を上げるセルジュの背中へ僕の薙刀が迫るが――――――
さすが百戦錬磨。砂浜の砂を蹴り上げて、僕の視界を奪う
目潰しを受けた僕の薙刀は、むなしく宙を切り裂いただけであった
「う~、ペッ! ペッ! 口にも砂が……じゃりじゃりする」
僕が目と口を漱いでいると、追撃してくると思ったセルジュは距離を取って様子を窺っていた
「まだ……何か隠し玉が、在るんじゃないでしょうね?」
なるほど、何度も奇策を使われて疑心暗鬼に成っているのか
「さぁて……どうかな? 奇策が在るとしても、種明かしをしたら奇を衒った策に成らないでしょ」
「確かに……しかし、貴女のデータには幻術など無かった筈ですがね」
そりゃそうだ、出来るようになったの2日前だし
でも、幻術を連発する訳に行かない。何しろこちらの水は有限なのだ
動きの少ない……又は、動きの無い静止画に近い幻術なら、空気中の水分操作だけで行けるのだが、動きが在る幻術や数の多い分身の幻術などは、どうしても空気中の水分だけでは足りなくて、自分の水を使うしかなくなる
水が減って行くのに、ダメージが与えられないので、頻繁に使うと水が無くなり、此方の首が絞まる結果に成りかねない
だが、セルジュに『まだ何か奇策が在るかも』という、疑心を生じさせる事に成功したから、いきなり海神の槍で突撃なんて事は無いだろう
後は、セイの回復が間に合えば……そう思っていると――――――
セルジュが、何やら視線を海に向けては戻すを繰り返しているのに気が付く
一体何を……
そう思っていると、海の中から人影が上がって来るではないか
新手か!? 僕がセルジュから目を離さずに、海から来た者へ氣だけ探っていると、淤加美様が現れて
「まて千尋、あれは敵ではない。宇都志日金拆命じゃぞ」
(別名、穂高見命。古事記では、宇都志日金拆命なのですが、名前が長すぎるので、本編では穂高見命で行きます)
「え? それって……豊玉姫の弟神じゃ?」
「うむ、しかし何で幽世なんぞに……」
不思議そうに穂高見命を見ていると
「人間よ、約束通り『要石』は取って来たぞ。姉上の槍を返してくれ」
そう言って、杭の様な形の角柱の石を掲げて見せた。
「ちょっと! 要石って……伍頭目のオロチが解き放たれたんじゃ?」
「オロチ? そんなモノはどうでも良いです。ボクには海神の槍を取り戻す方が重要ですから」
穂高見命は、どうやら槍を取引材料に使われて、要石を持って来させられたようだ。
「穂高見命よ、今ならまだ再封印が間に合うやも知れぬ、その要石を渡すのじゃ」
「どこかで見た顔だと思ったら、陸の水神、淤加美神か……悪いがこの要石は渡せぬ」
「お主、何をしているか分かって居るのか? このままでは幽世だけでなく、現世の海もタダでは済まぬぞ!」
「オロチなど、海神の槍さえあれば抑え込めます。海では無敵ですから」
「お主は分かって居らぬ! 抑え込めるのは水属性だけじゃ! オロチは土属性も持っておるのじゃぞ」
「それでも、騙されて槍を持ちだしたのは、ボクの失態ですから、ボク自身で取り戻さなければなりません」
なるほど、それで繋がった。
海の底にある竜宮へ、どうやって人間のセルジュが潜入し、海神の槍を持ち出して来れたのか不思議だったが……
穂高見命を言葉巧みに騙し操って、姉の寝ている隙に、海神の槍を持ち出させたのだろう
「穂高見命よ、海神の槍を返して欲しければ、その要石を渡すのだ!」
セルジュはそう言って、ゆっくりと穂高見命へ歩みを進める
どうにかして、止めなければならないが、あの海神の槍がセルジュの手から離れないうちは、悔しいけど、こちらの攻撃手段が何もないのだ。
何か策は……そう考えて居ると――――――
「嫁よ、待たせたな」
「セイ!? この野郎~待たせ過ぎだ!! 気分は?」
「腹減った。 胃が空っぽになったしな」
「ふふっ。じゃあ、さっさと片付けて、帰ってご飯にしよう」
「了解! お前の用意する闇に向かってブレスを吐けば良いんだろ?」
「そうなんだけど、対角線上に目標が居る様にしないと……試しにやってみよう」
僕は、ブレスの当たり判定が大きくなるように、漆黒の闇を丸いお盆のような形にする
「よし行くぞ!!」
セイは掛け声とともに、頬を膨らませて水のブレスを溜め、一気に放出した!
その水のブレスは、僕の用意したお盆の闇を通過すると、闇を纏ったダークブレスに変換されると、セルジュへと迫る
セルジュは真っ向から海神の槍でダークブレスを受け止めると――――――
「くっ! やはり闇の水は操作が出来ぬか!!」
セルジュの手にある海神の槍で、ダークブレスを受け止めてはいるが、そのまま受けるだけで精一杯の様子で、操作権は奪われていないようだ。
「セイ! パワーアップ!!」
「へきふええほ!!」
ブレスで口が塞がっていて何言ってるか分からん。
『出来ねーよ! だいたい胃の中が空っぽで、腹も減って力が出ねえ』
念話で来たし。しかもご丁寧に、胃が空腹を訴える音までしている。
空腹か!! あと少し力強ければ、持っている槍を弾き飛ばせるのに……
そう思っていると、海の方から正哉と座敷ちゃんを抱えた鴻上さんが跳んで浜に戻って来た。
「海が大荒れで何かすごい事に成ってるぞ!」
到着一番に正哉がそう答えると、次に鴻上さんが
「兄弟首の氣が感じられますわ」
でしょうね。だって封印していた要石を抜かれちゃったし、状況が悪くなる一方だ
そんな時、座敷ちゃんが掌を突き出して、空間を歪め始めた
現世に逃げようって? たぶん現世まで追ってきますよ。だったら、幽世側で何とかした方が、東北の住民に被害が出ない分、良いと思うけど……
だが、座敷ちゃんが逃げるために現世と繋げた訳ではないと、直ぐに分かる事になる
それは――――――――――――
「ふはははは! やっと幽世への入り口が開いたぞ!! 現世はもう朝に成ってて、待ち草臥れたぞ!!」
そう言って現れたのは、話を聞かずに勝手に走って行った、小鳥遊 尊さんだった
髪に櫛名田比売の櫛を差し、女体化してはいるが、神器の草薙剣を操るには、疑似的に櫛名田比売に成らなければならず、仕方がないのだ。
「尊さん、良い処に来た! あのダークブレスを止めている槍を何とかして!」
「え~、もっと大物はいねーのかよ」
「あの槍を持っているのが、今回の首謀者なんですよ!!」
「なぬ? あれがボスか?」
残念そうな顔で、指をさす
「言って置きますが、僕が全然歯が立たなかったんですよ。尊さんでも、ガチでやったら負けるかも」
「はあ? 巫山戯るなよ雨女。あんなのに負けるかよ! 大技行くぜ建のオッサン!」
そう草薙剣に話しかけると、既に中に居る建御雷神が
『おうよ! 修業の成果見せてみよ』
尊さんは草薙剣を上段に構えると、その刀身に纏った雷がどんどん増えていく
雷が刀身全体にいきわたり、黄金色に包まれると――――――――――
「真・雷神剣草薙!!」
そう叫び、振り下ろされたのだ!
一瞬で、昼間の様に明るくなると同時に、刀身から雷を纏った巨大なエネルギーが直進して飛んでいく
なるほど……前の雷神剣草薙は扇状に広がって直進する貫通型の雷だったのに
この真・雷神剣草薙は扇状に広がらない分、完全に前方だけへと収束された雷なので、範囲は狭まるが、威力は数倍に成っているようだ。
しかも、今はダークブレスも当たっているので、相乗効果は単体で放つ雷神剣草薙の時の何十倍にも成るだろう
執事のセルジュさん……蒸発しちゃうんじゃ?
神ですら消し飛びかねない、膨大なエネルギーの奔流に呑まれ、吹っ飛ばされる僕達
まるで太陽でも落ちたかのように、何処も彼処も真っ白になったのだった。




