2-25 あぁ松島へ
空に浮かべた光の珠は、少しずつ燃えるように調整したとはいえ、数分で燃え尽きてしまった。
水素と酸素が燃え尽きれば、火種が自体が無くなってしまうので、仕方がないのだけどね
しかし応用すれば、目くらましのフラッシュとして使えそうだな
問題は、着火時間の長さをどうするか……それさえクリア出来れば、目潰しとして実用化可能である。
創った光が消えて、真っ暗闇になってしまったカッパ淵に全員集合し。これからの作戦を決めようと思って、全員の意見を求めた。
「なあ……俺と高月は邪魔じゃね? 居ても戦うすべが無いし、却って足手纏いになっている気が……」
と、ちゃっかり座敷童のお陰で、傷どころか土汚れすらしてない正哉が言ってくる。
「斎藤君が離脱するなら、私も斎藤君と行きますわ」
そう宣う鴻上さんは、正哉と対照的に全身泥だらけで、どこの巣穴に潜ったんだ? と言わんばかりに、泥で汚れていた。
どうも座敷童に、恋敵として狙われてるんじゃないかと思うほど、正哉へ行く筈の不幸を、全身で受け止めさせられている様だ。
だって、今も……折れ掛けてた木の枝が、正哉目掛けて落ちて来るのだけれど、突然強風が吹いて、枝の軌道が変わり、鴻上さんの頭へ直撃してるし……
でも流石はオロチ。頭部に当たった枝の方が、裂けて足元へ落ちるのだから、思ったより硬いんだな……傷を負ったとしても、オロチの高速再生持ちだしね。
人間の正哉はともかく、そんなに強い鴻上さんには、一緒に戦ってくれると、心強いのだけど……
無理だろうなぁ、鴻上さんの行動理念は、正哉ありき……だものねぇ
先程の、頭部に直撃した枝の件で、座敷童ちゃんに絡む鴻上さんを他所に、香住達はどうするのか意見を聞くと――――――
「私は勿論行くわよ」
「ちょっ! 香住。さっきの話聞いてなかったの?」
「聞いてたわよ。私達に巨人の妖を嗾けた、あの執事をぶん殴りに行くんでしょ?」
「聞いてたなら、危ないのが分かるでしょうが! 香住達は、ここで待機して居た方が……」
「嫌よ! 相手の執事は人間なんでしょ? じゃあ、シュミット式バックブリーカーで、倒してあげるわ」
「確かに、執事からは妖氣も霊氣も神氣も感じなかったし、人間だとは思うけど……シュミットは、背骨とか腰骨が折れるから止めて」
相手が普通の人間なら、救急車モノだからね……
香住はやる気満々で、ストレッチを始めているが、気になる事が一つ
それはタダの人間が、大太坊を操れるのか? という事。
肉体的には人間でも、もしかしたら呪術戦に長けている可能性が大いにある為。やっぱり危険である事には、変わりはないのだ。
香住を心配そうに見守る僕に、淵名の龍神さんが
「なーに、千尋殿。香住殿のことは、儂に任せておかれよ。香住殿には、色々と世話になっておるからな。責任を持って護ってみせるぞ」
淵名さんに、そう言ってもらえると凄く助かるけど、香住は待ってた方が良いって……
どうやって香住を説得しようか考えていると――――――――――
「なあ、千尋……さすがに裸は……その……目のやり場に困るんだけど」
正哉が赤い顔で、チラチラこっちを見てきている。
「昔は裸に成って、一緒に川で泳いだろ。何をいまさら……」
女の子の身体にも、だいぶ慣れたから……別に気にも止めなかったわ
銭湯等で他の女性の身体を見るのは、まだ慣れないけどね。
「千尋の言う昔って、小学校上がりたての頃じゃんか!! そのころと違うからな!! その……身体つき……とか……」
「そうかな? (性格)変わらないと思うけど……」
「変わってるって! 特に胸とかが、俺好みの巨乳だし!!」
このオッパイ星人め!!
「あら~、斎藤君。 胸の大きい娘が好みなんだ」
あっ! 目の笑ってない香住が、正哉の後ろに……
「勿論っ!! 男だったら、その大きい胸に埋もれたいね!」
そう豪語する正哉の周りに、3人の魔女が迫り、幽世の里にて、正哉の悲鳴が木霊した。
ほんと馬鹿だな、香住の居る処で胸の話は禁句なのに……
というか、座敷ちゃんも怒ってたな……まあ、子供体系だし仕方ないと思うけど、何で鴻上さんまで?
前に学園で、身体測定があった時には、それなりの大きさだったはず。
「他の女に鼻の下を伸ばすのは、許しませんわ!!」
そう言いながら、正哉の身体を締め上げる鴻上さん。さすが蛇だけあって、巻き付くように絞めるのね。
「ギブゥ、ギブだってば!」
鴻上さんの腕をポンポンと叩いて、どうにか絞めを解いて貰うと、ゼエゼエ荒い息を吐いて呼吸を整えていた。
正哉、大変な蛇に好かれちゃったねぇ
まあしかし、正哉の言う通り。融けた服の代わりを探さないと、いつ香住の矛先がこちらに向くとも限らないし……
ん~、闇の衣である漆黒の代わりに、光の衣を創ったらどうだろうか?
僕は、カッパ淵の小川の水を使い、高淤加美神の光術で光の衣を創り出し、それを纏う。
「うぁ、淡い光とはいえ、暗闇で目立ち過ぎですわ」
「よくお笑い芸人が着ている、電飾スーツみたいな感じね」
「俺も知ってるぜ、この前テレビでやってた、空飛ぶ円盤から出てくる宇宙人が、そんな感じだったな」
こんにゃろめ、皆言いたい放題だな……泣くぞこの
だが、機能性は良いんだよね。防御力は上がってるし、呪いの浄化や傷の再生も付くし……
あれ? でもそれ……龍神の僕には、元からパッシブスキルで持ってるから、意味ないじゃん!
いざという時に、水に戻せるぐらいしか、メリット無いし
だからと言って、闇の衣の漆黒だと、近くの仲間まで融かしかねないから、仕方が無いのだ
どのみちペットボトルが紛失している為、こうやって光の衣にして運ぶしかないのだが、恥ずかしいなコレ……
僕は一定水量を光の衣にすると、龍脈で松島へ向かおうとするのだが――――――
「なんだこれ!! 龍脈が滅茶苦茶だ!」
「やっぱりのう、ここは幽世じゃから、普通には行かぬと思っていたが……」
僕の中から出てきた淤加美様が、僕の開けた龍脈の龍穴に手を当てて、頭を振っていた。
「じゃあ、走って追うしかないって事だろ? 益々、俺と高月には無理じゃんか。高月、俺と一緒に大人しく待とうぜ」
正哉が、一人で待つのが寂しいのか、香住も残れと言わんばかりに、しつこく残ろうぜと連呼する。
大丈夫だよ正哉、鴻上さんが絶対離れないから、一人には成らないって……
「御主等、ちょっと待つのじゃ。今から地上を追っても、間に合うかどうか分からんじゃろ? どうせなら、封印の解放は諦めて、オロチの心臓を狙って瑞樹神社に来るのを待ち構え、準備万端で討つのはどうじゃ?」
「淤加美様の意見も一理ありますけど……すみませんが、それは出来ません」
「なぜじゃ、奴らオロチの狙いは心臓じゃろうが? なら心臓のある瑞樹神社で待ち構えて居った方が……」
「実は……ないんです。瑞樹神社にも、僕も持ってないんですよ」
「なんじゃと!? では今どこに」
「前に漆黒を使って首紐が融けてしまった時に、小鳥遊 小百合ちゃんに拾って貰って、そのままだったり……」
僕が顔を引き攣らせて説明していると、鴻上さんが
「確かに、心臓の探知ではこの東北の……現在地……数キロ以内にあるようですわ。最も、細かくは探知できませんが」
「北関東じゃなく、ここ東北にあるって事は……」
「やっぱり小百合ちゃんが、封印の勾玉を肌身離さず持ってるのね」
「おいおいおい、それって同室に泊まってる、妹の紗香も危ないって事じゃねーか!!」
そうなるわな。危ないのは他の生徒もだけどね。
「千尋! 気が変わった。俺も松島へ行くぞ!!」
「正哉は、大人しく待ってるんじゃないのかよ」
「妹が危険だと聞いて、じっとして居られるか!」
その辺の折れた枝を持って、振り回し始める
その木の棒で倒せれば、苦労しないぞ正哉。闇の衣である漆黒を展開するのに、出来るだけ人数はいない方が良いんだけどね。術に巻き込んじゃうし
兎に角、用意を済ませ、松島へ向かおうとしていたら、現世に居るはずのセイから念話が入った
『千尋? どこ行っちゃったんだよ。帰ってきたら居ないし』
『お前な! 晩御飯行くなら誘えよな!』
『おっ! 居た居た。念話が通じるって事は、北関東に帰った訳じゃないんだな? 何処に居んの?』
こんにゃろめ、聞いちゃいねぇ
『こっちは幽世に居るんだ。お前が居ない間に色々あって、こっちは大変だったんだぞ』
まだ終わってないけどね
『そうなのか? 俺は、5時間ほど飲み食いしてただけだぞ。締めに屋台でラーメン食って来たんだが、そこのオヤジがいい人間でさ、つい話し込んじゃったよ』
ラーメンの事は、後で問い詰めるとして……
5時間!? こっちは30分ちょっとしか経って無いはず。
これが淤加美様の言っていた、現世と幽世では時間の流れが違うってヤツか
ならば、上手くすれば、まだ間に合うはず。
カッパ淵から松島まで、直線距離で約40キロ以上。山の上り下りも入れれば、フルマラソン以上の距離になる
南下している執事が、人間である以上。人間の速度以上は出せないので、世界新記録のタイムを超えられないだろう
ましてや、この幽世は古い世界観の様であるし、道も整備されていなければ、街灯も無いのだ
そんな状況で、世界新記録を塗り替える走りは出来まい。
更に、現世と幽世の時間の流れ方の違いを利用する
先ず現世に出る、現世なら龍脈が使える為、そこで龍脈を使い松島へ
幽世の30分が現世の5時間だと言うなら、現世で1時間かけても幽世では6分しか経っていない
おそらく、幽世を2時間掛けて走っているであろう、執事のセルジュを、余裕で松島で待てるのだ
問題は、幽世と現世の出入りをどうするか……
それを考えて居ると――――――
座敷童ちゃんが、掌を前に突き出し、力を込めていくと、その掌の向こう側が、歪んで来ていた
「もしかして、現世へ繋げたの?」
僕が座敷ちゃんに聞いてみると、コクンと頷いて見せたのだ。
試しに、僕が歪んだ空間に頭を入れてみると、向こう側はやっぱりカッパ淵であるが、遠くに街灯の灯っぽいのも、見えているので、どうやら現世らしい。
「ほら千尋、出るなら早く出てよ。後ろがつっかえてるでしょ」
ちょっと、香住さん? 一応安全確認してからじゃないと、何もない亜空間だったら、どうするつもりですか?
本当に怖いもの知らずというか、出たとこ勝負なんだから!
僕は押されるように、現世側のカッパ淵に降り立つと、セイに念話を送る
『カッパ淵ぃ? 何でそんなところに……まあいいや。千尋に客が来ているから、今から連れていくわ』
セイがそう言った直後に、龍脈移動の龍穴が開き、中から出てきたのは……
「よう、雨女」
「小鳥遊 尊さん!? 戸隠で修業中なんじゃ?」
「へへ、九頭龍の爺さんに送って貰ったんだ。実は、修業が終わって山を下りたら、スマホにメールと不在着信がどっさり入っててよ。慌てて西園寺の旦那に電話したら、もう用事は済んだって言われてな」
「あぁ、火之加具土命の件ね……」
西園寺さんが、尊さんに連絡つかないって言ってたヤツだ。
「そうそれ、火之加具土命よ! 俺様が行っていれば、逃がさなかったのにな」
本当かよ……五行で行けば、雷系は木の属性なのに、木で火には勝てないってば
しかも、尊さんお得意の『雷神剣草薙』は、前方へ扇状に広がる広範囲貫通型の殲滅技だし、京の都を消し飛ばす気ですか貴方は?
まあ、一角を吹っ飛ばした、僕が言うのもなんだけどね。
「ほう、テレビのニュースじゃ、小さい隕石が大気圏で燃え尽ききれずに、京の街へ落ちたって言ってたぞ」
ワンセグテレビを見ながら、そう言ってくるセイ
どうやら、情報操作がされているようだ。まあ、水神と火神が戦ってた、なんて報道できる訳がないしね。
しかも、結界のお陰で、綺麗に屋敷だけ消し飛んでて、塀から外側が無傷だったし
専門家じゃなくても、隕石の仕業じゃないと気が付くはず。
「まあ、また雨女に手柄を持ってかれたって訳だ。このままじゃ、何の為に修業してるか分からないからよ。東北に居るって聞いたオロチの伍頭目は、俺が頂くぜ」
そう言って親指を立て格好をつける尊さん
もうこのまま任せちゃおうかな……
僕は、連戦で疲れているし。尊さんのテンションの高さも面倒くさい
「では概要を説明します。目標である人間の執事が一人で南下中です。その執事は幽世側の松島に伍頭目のオロチの封印が在ると言っていました。なので、第一目標は、その執事を封印に近付ける前に倒す事」
「よし! 人間相手なら簡単じゃねーか! 行くぜ建のオッサン」
草薙剣に入っているであろう建御雷様に、そう声を掛けると、走って南下を始める尊さん。
「人間にも居たよ……話を最後まで聞かない脳筋が……」
30分以上先に走って逃げている者を、走って追いかけてどうするんだよ
まあ、厳密に言えば、時間の流れが違うから30分差は無いんだけどね
しかし、現世側で松島に着いた後。どうやって幽世側の松島に入るつもりなんだろう
入り口開けられる、座敷ちゃんはここに居るのに……
少しだけ待ってみたが、尊さんが戻ってくる様子も無いので、現世側で龍脈に龍穴をあけて松島へ移動する。
さすがに現世側だけはあって、遠くに街灯はあるものの、海の上の島は、真っ暗であった。
だからこそ、光の衣が滅茶苦茶目立つ。
「今どきのアニメで在りがちな、裸体を隠す不思議な光みたいに成ってるな」
「アニメ好きのセイの事だから、絶対言うと思ったよ」
恥ずかしいから、あまり追及するなと釘を刺し
「では、幽世側へ行くとしますか。座敷ちゃんお願いできる?」
そう尋ねると、座敷童ちゃんがまた空間を歪めて、入り口を創ってくれたのだ。
僕達は、伍頭目のオロチの封印解除を阻止するべく、座敷ちゃんの開けてくれた穴から、幽世側へと移動するのだった。




