2-19 東へ西へ
日常部分がマンネリ化が過ぎるので、後半差し替えました
9月下旬とはいえ、場所が北に移動したためか、吹く風も些かながら穏やかな気がする
風に潮の香りが混じるのも、海辺ならではの土地柄だろう
「やはり、獲れ立ての魚介類は、内陸では味わえぬな」
目の前で、元龍神のセイが網焼されたホタテに舌鼓を打つ
現在、M城県の海辺にある、魚介を出すお店でブランチを楽しむ4人。
「着いて真っ先に、食べ物店へ行くのが、実にセイらしいよ……」
「そう言いながら、千尋も魚介のっけ丼頼んでるじゃねーか」
「せっかく魚介の美味しい東北へ行くとなったんだし、僕は朝ごはん抜いてきたからね。セイは、朝もちゃんと食べてた癖に、時間も経ってなくて……よく胃袋に入るな……」
「ふん、軟弱な胃袋め。魚介は別腹って言うだろ」
言わねーよ……
だいたい別腹って……牛の様に、胃袋が複数あってたまるか!
「なあ、龍の夫婦。おもいっきり観光楽しんでないか?」
隣の席に座っている、正哉から嫌味が飛ぶが――――――
「斎藤く~ん。焼けましたわよ~」
そう言って焼けた魚介を正哉の口に突っ込む鴻上さん
「誰が観光楽しんでるって? 楽しんでるのは斎藤ご夫妻じゃね?」
「はいほうごふはいっへひうは」
「食ってから喋れよ! 何言ってるか分からんし」
正哉は水をもって、口の中身を胃へ流し込むと
「斎藤ご夫妻って言うな! だいたいこんな事してないで、バスを追わなくていいのかよ」
「まあ待て正哉よ。腹が減っては戦は出来ぬと言うだろ」
「セイの旦那……戦はしないぞ。バスを追うって言って……むぐ」
正哉が喋ろうと大口を開けたところに、鴻上さんが魚介を放り込む
餌付けかな?
「でも、セイの言う通りだよ。修学旅行の旅のしおりにもある通り、午前中はバス移動でほぼ潰れるから、本格的な観光は午後になるだろ? どうせ移動中のバスへは龍脈移動が出来ないからね。到着までは待つしかないよ」
「それはそうだが……」
だから、午後からでも良いって言ったのに……食いしん坊の龍とストーカーの兄貴が、早く行きたがるから時間を持て余す。
それでも、居ても立ってもいられないと言うような、そぶりを見せる正哉に
「正哉、分かったから落ち着ついて。食べ終わったら中学校のバスが観光する、I手県の観光スポットへ移動しよう」
直ぐに妹を追いたがる正哉の為に、そう言って落ち着かせる。
「最初はどこだっけ? 平泉の中尊寺?」
「金色堂は翌日。1日目の午前はバス移動、東北自動車道を降りて、宮沢記念館、遠野物語の館とか、遠野市内の博物館関係を見て回って、遠野で一泊と予定表がなってるよ」
「そういえば、去年俺らも行ったな」
正哉……何のために旅のしおりが有るんだよ……
「うむ。まことに美味い! 海水棲みの神族が羨ましいぞ」
「セイ……下関の時の様に、食べ過ぎるなよ。それと、海水棲みは陸移動が辛いみたいだよ」
豊玉比売の遣いで来た半魚人は、干乾びる寸前だったし
水を浴びても淡水では、一時的には潤っても、体力回復するまは効果が薄いみたいだった。
そういう意味では、陸での行動が制限されるって言うのも納得である。なにせ陸上で海水を用意するのは、なかなか辛いだろうしね
あの姿で、お店に入って塩を買えれば別だけど……
そんな時、ふっと視界の隅に『執事風の男』が目に入る
え、なに!? 店員さんじゃないみたいだし……コスプレでもしてるのかな?
僕の視線に気が付いたのか、軽く会釈をすると食べ終わった器を返却口に置いて、出て行ってしまったのだ。
余りジロジロ見ちゃって失礼だったかな? それにしても、レベルの高いコスプレだったよ、まるで本物みたいな完成度だった。
僕は自分の丼に視線を戻すと――――――
セイが僕の丼の中の刺身を奪おうとしていた。
「おまっ!! 自分の食えよな」
「いや、俺の方は網焼きばっかなんで、刺身はどうかな~って」
にゃろめ! 網にのせなきゃ、生で食えるでしょうに! 僕のは丼の魚介類持ってかれたら、ご飯だけになっちゃうでしょが!
セイの喉に向かって、あの香住直伝の地獄突きを打ち込むが――――――
「なに!?」
顎を引いて、僕の地獄突きを顎の下で挟んで止めたのだ
「ふっ、甘いな千尋。喉は龍の逆鱗がある場所、そう簡単に食らわぬわ」
「くっ……地獄突きを顎で止めるとは、なんて器用な真似を……」
「この際だから言って置こう。瑞樹神社は、かかあ天下と言われる北関東であるが、俺は尻に敷かれんぞ」
「…………どうでも良いんだが、お前の網焼きのエビ……焦げてるぞ」
「なに!? うおおお炭になるうぅ!」
アホな奴め
僕は、セイとの騒ぎで落としてしまった、割り箸を拾おうとして、テーブルの下に屈みこむ
床に落ちて、汚れてしまったが、ちゃんと片付けないとね。
割り箸を持って、視線を上げると――――――
隣に座った正哉の腹回りに、下半身だけ蛇に戻った鴻上さんの尻尾が巻き付いているのが見える
うぁ……
こっちは、尻に敷かれ……いや、腰を巻かれてるし
それで、正哉は顔色が悪く、早く行こうを繰り返していたのか……
正哉の様子を見ていると、ギューッと尻尾で締め付けられては、悲鳴を上げようと口を開け、その口に焼けた魚介類を放り込まれるを繰り返している
フォアグラか!?
なんか強制に餌を放り込まれる、ガチョウを見ているようで、一気に食欲がなくなった
「セイ、食べ掛けで良かったら、僕のも食べちゃってよ」
「え? 良いのか? 俺のエビ真っ黒になっちゃったからさ、遠慮なくいただくぞ」
そう言って、魚介のっけ丼を美味そうに掻き込むセイ
知らないって、幸せだなぁ
ご飯を食べ終わり、席を立つ時に鴻上さんの足元を見たら、どういう原理だか不明ではあるが、尻尾はちゃんと人間の両足に戻っていた。
お店の中に、お土産コーナーがあるので、ちゃんと香住達へのお土産も忘れずに買おうと見て歩いていると、何だか不穏な噂を耳にする
なんでも、この東北地方で神社仏閣の蔵を狙った強盗が、頻発していると言うのだ。
それが、不思議なことに、仏像や法具などの金目のものは、一切、手を付けておらず。何故か古い文献ばかりが閲覧されているのだと言う
宗教マニアの仕業? もしくは自称民俗学者とか?
まぁ、金品が目的で無いとはいえ、神社仏閣を狙うなんて、罰当たりな者も居たものだ。
そんな噂話を聞き流しながら、順調にお土産を選んでいると――――――
僕のスマホに、一本電話が掛かて来た。
表示の名前は……桔梗さん? 直ぐさま電話に出ると
『千尋様、お忙しい処すみません』
「あ、いえ。今お土産を選んでいた処なんで大丈夫ですよ。どうかしましたか?」
『それが……コンペイちゃん達に、連絡が来たらしいのです』
例の御狐ネットワークか!?
「じゃあ、宇迦之御霊様からかな」
『はい。それで、千尋様に西園寺と言う人間へ、急ぎ電話を頂きたいとの事です』
「ありがとうございます。すぐに電話してみますね」
お狐ネットワークを使うって事は、例の写真の男……見つかったのかな?
一旦、桔梗さんとの電話を切り、西園寺さんへ掛け直す――――――
『千尋君? 直接電話を掛ければ良かったんだが……授業中だと申し訳ないと思って、宇迦之御霊様に、連絡をお願いしたんだ』
「大丈夫ですよ。今……野暮用があって東北に居ますから」
『東北!? なんでまた……いや、込み入っているなら、八荒坊と宇迦之御霊神の霊狐だけで突入しますが?』
「あ、いえ。大丈夫ですよ。僕の方は大した用事じゃないので……この前言っていた、晴明って人の件ですね」
『ああ、今ちょうど屋敷を特定し。包囲しているんだが……中の様子を見て来た、霊狐の話だと、どうも日本神話級の神が、向こう側に居るらしいんだ』
「神話級の神!?」
もしかして、先月に淤加美様と建御雷様が言っていた『京に現れた神』と言うやつかな
『彼方も霊的阻害の結界を張っているらしく、詳しくは分からないとの事なんだ』
「分かりました。向こうに古神が居られるなら、もう片方の淤加美様と合流して、すぐに向かいます」
そう言ってスマホを切ると、僕の内側に居る淤加美様に
『と言うわけなんで、淤加美様、力を貸してください』
『仕方ないのぅ、瑞樹神社に残ってる妾も一緒に行ってやろう。たぶん妾の分霊も、片方だけでは一筋縄にはいかぬであろうし』
『じゃあ、相手の事が分かってるんですか?』
『まあ、確信が無い故。憶測でしかないが……妾の父、火之加具土命かも知れぬ』
『火之加具土命がお父さん!? じゃあ……戦いづらいですよね。もしなんなら、今回は僕だけで……』
『戯け!! 本物なら妾達が生れる時に、消え去ったはずじゃ。なにせ妾達は火之加具土命の躯や血から生まれたのだからの。じゃからこそ、火之加具土命という確証が無いのじゃ』
火之加具土命が生きていれば、淤加美様達が生れていない。つまり、偽物である可能性も……いや、火之加具土命ですらない可能性もあるって事か……
『取り合えず、私服から巫女装束に着替えたいし。一度、瑞樹神社に戻りますよ』
そう淤加美様に告げてから、セイへ事情を話す。
「なに!? 俺だけ残していくのか?」
「仕方ないでしょ。終わったらすぐに戻って来るからさ。正哉の事お願いね」
「だって、鴻上が居るんだぞ!」
「大丈夫だってば、鴻上さんは、正哉にベッタリだし、下手に手を出さなきゃ大丈夫だよ。じゃ、行ってくるよ」
何やら喚き散らすセイを残して、龍脈移動で瑞樹神社へ戻ると、直ぐに巫女装束へ着替える。
「今お帰りになられたのに、もう出立されるのですか?」
心配そうに、声を掛けてくれる神使の桔梗さんに
「あ、これさっき東北で買ったお土産だから。冷蔵庫へお願いします。さて、今度は関西ですよ」
「本当に……東へ西へ、大忙しですね」
まったくだ。
僕は多めにペットボトルを用意して。水を汲み上げると、淤加美様に声を掛ける
「漆黒を使った場合の着替えも持ったし……僕の用意は良いですよ」
「うむ、では行くとするかの」
僕は龍脈を開けると……コンタとコンペイが
「龍のねーちゃんだけじゃ不安だから、俺らも行ってやる」
「どうやら、向こうは人間の避難誘導も終わってるみたいだぜ」
「避難誘導が終わってるなら、直接現地へ龍脈移動しても平気かな。じゃあ、行くよ」
2龍と2狐は龍脈へ飛び込むと、京の都へ直接移動したのだった。
◇◇◇◇◇◇ K都府へ ◇◇◇◇◇◇
K都府に着くと、古い屋敷を包囲する、八荒坊? だか、自衛隊の人達が規制線を敷いていた。
「おっと君! ここから先は入らないように!」
「えっと……西園寺さんに呼ばれてきた。瑞樹千尋です」
「君のような子供が? ちょっと待って」
無線で何処かに確認をしているようだが……子狐ちゃんズは、待ちきれないとばかりに、足元をするりと抜けて規制線の中へ入って行ってしまったのだ。
子狐ちゃんズ……大丈夫かなぁ
やがて、規制線の中から懐かしい顔が現れる。
「藤堂さん!? もう怪我の方は良いんですか?」
「中学の同級生だった晴明が現れたとなっては、休んでなんて要られんさ」
まったく、無茶をする。確か、あばら骨や色々な処に罅が入っていたはず
怪我を負ったクローンオロチ日から、1ヶ月半の月日が経つとはいえ、本当に大丈夫なんだろうか……
でも、そうか……西園寺さんにとって同級生なら、藤堂さんにとっても同じく同級生なんだな
止めたいって気持ちは、一緒なのだろう
僕は藤堂さんに連れられて、屋敷正面に仮設された、臨時の司令部へと入って行くと、中に居る西園寺さんに歓迎された。
「千尋君、淤加美神。来てくれましたか。相手側に古神が居る様なので、本当に助かります」
「ふん。千尋に死なれては、妾も現世に顕現できなくて困るからのぅ。それに、宇迦の奴が参加するのに、妾だけ参加せぬ訳にはいかぬ」
仮設司令部の奥に座って、お茶を飲む宇迦之御霊様へ向かって、そう言う淤加美様。
わざわざ喧嘩売らなくも良いのに……まったくこの方は……
「ほう、淤加美も来たのかえ? 怖気づいて尻尾を巻いてはるかと思いましたのに……」
こっちも買い言葉に売り言葉だし。どうして仲良く出来ないかな……
「と、とにかく。自衛隊の協力も得て、府民は避難していただき。規制線も張っています。屋敷は我々で包囲しているので、踏み込むなら今がチャンスかと」
西園寺さんが、喧嘩で長くなりそうな2柱の話を切って、先に進める。
そこへ――――――
「中は異界化しててヤバイよ」
「ああ、霊的阻害の結界で方向感覚も滅茶苦茶だったしな」
コンタとコンペイが現れてそう言う
「ちょっ! 子狐ちゃんズ。どこかに行って居ないと思ったら、中を見てきたの?」
「うん。なんか黒い変なのが、ワシャワシャしてた」
「黒いの? もしかすると、沼田教授の置き土産かも知れません」
例の技や術を真似をする、黒スライムか?
あれは御霊入りでなければ、神器すらコピーする厄介な奴だった。
尊さんも、御霊なしでは苦戦してたし
「そういえば、今回尊さんは?」
「それがスマホに繋がらなくて……どこか電波すら遮断するような場所に居るのかも知れません」
あ~。じゃあ、まだ戸隠山かな……九頭龍大神の結界で繋がらないのかも……
と言う事は、今回は神器無か……まあ京の街中で、大技をぶっ放すわけにもいかないしね
「じゃあ、このメンバーで突入って事ですか?」
「ええ。そのつもりですが……千尋君、問題ありますか?」
「ならば妾から一つ、人間は耐火装備した方が良いかもしれぬぞ」
「耐火ですか? 淤加美様。相手に火を使うものが居るとでも? 消防士の服を借りられれば、何とかなりそうですが……」
「うむ、備えあれば憂いなしじゃ。まだ絶対という確証はないがのぅ。それと、宇迦は非戦闘員なのじゃから、ここで待機じゃぞ」
「はいはい、邪魔はせーへんよ、連絡係にハッコ。着いてっておやり」
「御意!」
これで突入班は決定した。
龍族から僕と淤加美様。霊狐からハッコさん。人間側から西園寺さんと藤堂さん。の5名である
子狐ちゃんズは、申し訳ないが、今回は留守番と言う事で
はてさて、本当に火之加具土命が居るのやら……
僕らは意を決して、屋敷の敷地へと足を踏み入れるのであった。
次回は加具土命戦です




