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龍神の花嫁 八俣遠呂智編(ヤマタノオロチ)  作者: 霜月 如(リハビリ中)
2章 2学期開始 東奔西走
46/328

2-17 正体

龍神の花嫁修業のセイルートの続編になりますので

ネタバレが出てきますので、ネタバレが嫌な方は、お気を付けください。

北校舎の使われてない……倉庫と化した教室に、鴻上(こうがみ)さんの後を追うように入る


鴻上(こうがみ)さんは、背を向けたまま教室の中央……積み上げられた椅子や机の壁の真ん中に立ち


指で目から何かを外すような仕草をすると、ゆっくりと振り返る――――――



その両目は、赤く鋭い酸漿(かがち)の眼であった。



鴻上(こうがみ)さん? その眼は……」


「……もう分かりましたでしょ……私があなた達の言う、弐頭目(にとうめ)のオロチよ。眼はカラーコンタクトで、誤魔化していましたの」


マジか……


鬼が出たのじゃなく、蛇が出ちゃったよ……


僕は咄嗟(とっさ)に水のペットボトルに手を掛けるが――――――


「そんなに警戒しなくも、大丈夫ですわ。先ほども言いましたが、敵意はありませんもの」


確かに、鴻上さんからは殺意は微塵も感じられない


しかし、危険なオロチであることには変わりないので、水のペットボトルに手を掛けたまま話を続ける。



「なぜ、今になって正体を明かすの? 何の狙いが……」


「狙いなんてありませんわ、強いて言うなら……本気で人間を愛してしまった……と言う事でしょうか」


愛に夢見る少女の顔で、恥ずかしげもなく言い切る鴻上(こうがみ)さんに



「ごめんなさい。僕には無理です」


「誰が貴女と言いました!! そもそも瑞樹(みずき)さん、角と尻尾があるし……貴女人間じゃないでしょ!!」


やっぱり角と尻尾が見えていたか……さすがオロチ……



「いやいやいや、こんな人気のない処に呼びだしたから、愛の告白かなぁって……まさか、僕を食べようと、しているとか?」


「違うわよ! もう! 謝ろうとしていたのが、馬鹿らしくなるじゃないの!」


「謝るって……金属バットで頭をカチ割ろうとしたこと? それとも椅子で頭をカチ割ろうとしたことかな? そんなに僕の頭って、スイカみたいなのか……」


「スイカほど、中身が詰まってないじゃない!」


酷い言われようだ……


「だいたい鴻上(こうがみ)さん、謝ろうとしている態度に見えないけど?」


「貴女がアホな事ばかり言うから……はぁ……本当に貴女と話していると疲れるわね」


さっきから失礼な蛇だなコンニャロメ


「それで、何を謝るんです? 他に何かされたかな……」


「それは……貴女のフィアンセの事です……」


「セイの?」


あんにゃろぅ……昨日僕の代わりに学園へ来て、何かやらかしたのか?



「ごめん! ウチの馬鹿(セイ)が何かやらかしたのなら、本当にごめんなさい」


「あ、いえ…………なんで貴女が謝りますの?」


深々と頭を下げる僕に、呆れた顔で溜息をつく鴻上(こうがみ)さん


「え?」


「私が弐頭目(にとうめ)のオロチって聞いて、気が付きませんの?」


はて? 何かあったっけ? 口元に手を当てて考えるが、何のことやら……



「ごめん、本当に分からないや」


「貴女……やっぱりスイカみたいに詰まってないじゃないの……ほら、約4ヶ月前、思い出してご覧なさい」


4ヶ月前……………………


「あっ! 壱頭目(いっとうめ)のオロチの壱郎(いちろう)君と龍神たちが、お酒の呑み勝負してたな」



あの時は参った。オロチの癖に、壱郎(いちろう)君があんなにお酒に強いと思わなかったし


日本神話では、オロチはお酒に弱い印象だったから、なかなか酔わないので、正直焦ったわ


3龍神の内、淵名(ふちな)の龍神さんは即酔い潰れちゃうし、赤城(あかぎ)の竜神さんとウチのセイだけで頑張ってたけど、それも劣勢で危うく負ける処だった。


だけど、突然起きた龍神湖の決壊騒ぎで、有耶無耶(うやむや)になったんだっけ……


「ん? 龍神湖の決壊……まさか?」


「やっと、そこに至りましたの? そうよ……龍神湖の決壊や大岩の軌道を変えて、あなた達の真上に落としたのも私よ」



そうか……大岩を落として決壊部分を塞ごうとした時、僕らの上に落ちる様にしたのは、鴻上(こうがみ)さんだったか……


結局、大岩の下敷きになる寸前で、セイが僕を突き飛ばし、僕は助かったのだが


代わりにセイが、大岩を背中に受けてしまった。


すでに生命力が尽き掛けていたセイは、傷の再生ができずに、日に日に弱っていく


それをどうにかするために、龍脈の底に溜まる濃い澱氣を汲み上げ『龍玉(りゅうぎょく)』を完成させた後、その龍玉(りゅうぎょく)を使い、セイの命を救ったのだ


代償として、セイの神格は失てしまったが、生きていてくれるので


僕としては、今更目くじらを立てるものでも無いと思っている


現にすっかり忘れていて、そんな事もあったなぁ、ぐらいにしか思ってないし



「ん~、あの時は色々と焦ったけど、お陰で幼い時の約束を思い出せたから」


「……それだけ……ですの? 私はフィアンセを殺し掛けたのですよ?」


「あくまで『かけた』だけでしょ。実際は死んで無いし、結果的に龍玉で寿命も延びたしねぇ」


セイの寿命が延びたことで、焦って世継ぎの龍の神子を産むこともないので、祝言も卒業まで待ってもらえてるし、何も問題は無い。


まぁ、死にかけたセイ自身が何て言うかは分からないけど……


僕の気にしてないよって言葉に、すっかり拍子抜けした鴻上(こうがみ)さんは


「あなた達が良いと言うなら別に……心配しちゃって損をしたわ」


そう言って、肩を(すぼ)める



「要件はそれだけかな? 僕はこれから文化祭の打ち合わせがあるんだけど」


「まって! 貴女にお願いがありますの!」


「オロチの心臓を渡せ! と言う事以外なら、良いですよ」


とりあえず聞くだけで、成り立て龍神の僕に、願いを叶えられるかは分からないけどね


「心臓の事は……もう良いの……」


「良いって、欲しくないの?」


「ええ……最初は、八本の頭で、一つの身体だったので、不自由な暮らしだったわ……だからこそ、頭がそれぞれに、身体を独り占め出来たら……そう思って、出し抜くことしか考えていませんでしたの」


「まあ壱頭目(いっとうめ)のオロチの壱郎(いちろう)君も、それは難儀だって言ってたよ。だからこそ、皆が我先にって血眼になって探してるってね」


「そうでしょうね……でもそれは、身体を独り占めできても、必ずしも幸せとは限らないって……私は、そう思えたから……」


そうか……鴻上(こうがみ)さんは、元の大きなオロチに戻る事より、正哉(まさや)と一緒に居ることを望んだんだな


自分の自由より、正哉(まさや)との愛を選んだわけか……


正哉(まさや)は何て?」


斎藤(さいとう)君は……妹さんを山中に置き去りにしてしまった、過去の罪悪感から、今はまだ妹さんを大事にする事しか考えられないって……」


「紗香ちゃんを山中に置き去り!? そんな事があったのか……」


「ええ、だから妹さんの事が片付いたら、ちゃんと返事をくれるって約束したの……あと、貴女の事も、親友だから絶対に手を出すなって……」


正哉(まさや)……アイツめ……」


はっきり親友と言われると、うれしい反面……くすぐったいと言うか……何というか……ねえ



「貴女に少し妬けましたわ。でも、恋愛対象じゃなく、親友なだけっていう斎藤(さいとう)君の言葉を信じたから、私は待つ事にしましたの」



話を聞いていると、途中までが、まるで『今昔物語』に出てくる、安珍(あんちん)清姫(きよひめ)の前半部分だな




安珍(あんちん)清姫(きよひめ)

928年の夏に、今でいう和歌山県の熊野に参詣した安珍(あんちん)に、一目惚れをした清姫(きよひめ)が夜這いを迫ったのだが、参拝前に世の穢れを持ち込みたくないから、参拝が終わったら逢いましょうと約束をする。


その後、参拝が終わっても、安珍(あんちん)清姫(きよひめ)と逢わずに、約束を破って逃げてしまい、高僧の居るお寺に逃げ込んで助けを求めた。


それを知った清姫(きよひめ)が、蛇の姿に戻って激怒し、安珍(あんちん)を追いかけ行き、お寺の鐘の中に隠れた安珍(あんちん)を、鐘ごと熱して蒸し焼きにしてしまうと言う、昔話であるが……



前半の約束まで、そっくりじゃないのよ!


配役も人間とオロチ(蛇)だし


正哉(まさや)……出来れば、約束は破るなよ……あと寺の鐘には近づくな~



「えっと、それで……まだ願いとやらの事を聞いてないけど……オロチの心臓が要らないなら、僕に何の用事が?」


「お願いと言うのは……私も斎藤(さいとう)君と一緒に、東北へ送って欲しいの」


「へ? 一緒に東北って……ちょっと待って……正哉(まさや)は妹の紗香(さやか)ちゃんを見守りに行くだけだよ」


ストーカーとも言うけど……


斎藤(さいとう)君の……彼の役に立ちたいの。お願い……龍脈を使えるのは、龍族だけの特権だから、私には無理なのよ」


そう言って深々と頭を下げる鴻上(こうがみ)さんだが、やっぱり色々問題が……女の子だし外泊を親が許すのか……というか、人間としての親が居るのかな?


鴻上(こうがみ)さんの正哉(まさや)を想う気持ちは分かったけど……人間としての親は、許可出してくれるの? 普通なら人間の女の子に、親が異性同伴の外泊なんて、許可しないと思うけど」


「それは大丈夫ですわ。術で刷り込みを掛けて、娘と思わせているだけですから、外泊も上手く記憶を操って許可してもらいますから」


記憶操作とか、何気に凄い事してるな……



「じゃあ、あと一つ。僕は学園で、正哉(まさや)が授業に出ているよう見せかける用意をしてきたけど、流石に鴻上(こうがみ)さんと正哉(まさや)の、2人同時の術は無理があるんだ」


短時間であるなら、多人数の光屈折で像を誤魔化す事も可能だろうけど、明日半日もの間、術を続けるとなると……ねぇ


もし、居ないのがバレた場合、親のところへ連絡が行ってしまう


「それなら心配は無用ですわ、私は最初から病欠にしてしまうので、大丈夫ですの」



そうか、正哉(まさや)と違って問題児じゃないから、先生方も疑わないわな


正哉(まさや)の場合、前科がありすぎて、サボリじゃないか? と即座に実家へ、電話の確認が行くだろうけど、鴻上(こうがみ)さんなら大丈夫か



「ならば、僕に止める理由は無いよ。正哉が何て言うか分からないけど、後は正哉(まさや)鴻上(こうがみ)さん……二人の問題だからね」


ありがとう、と再び頭を下げる鴻上(こうがみ)さんに、中学校の修学旅行日程のコピーを渡すことを伝えて、北校舎の中を、家庭科室へ向かい移動する。



そうか……鴻上(こうがみ)さんが弐頭目(にとうめ)のオロチかぁ


今まで見てきた、金属バットを曲げるほどの怪力も、納得である。


しかし、好きな人間の為に、元の姿をあきらめるとは……


「愛だねぇ……」



僕は、お昼をだいぶ過ぎてしまった事に気が付き、急いで家庭科室へ向かうと――――――



「遅い!!」


ご立腹の香住(かすみ)ともう一人の料理担当……富島(とみじま)さん? に謝りながら席に着く


「で、どこまで話したっけ?」


千尋(ちひろ)、あんた昨日もミーティング出なかったし、全然話が進んでないじゃない!」


そうでした。


「あの……取り合えず、材料の買い出しは金曜日の夕方で良いと思います。あまり早く仕入れても、新鮮さが失われてしまいますので……」


「じゃあ、昨日サボった僕が材料買い出しに行くよ。富河(とみかわ)さん達は必要なモノを紙にでも書き込んで置いて」


「私、富岡(とみおか)……」


「メニューの方は、この間ずいぶん削ったから、これで大丈夫なはず。問題は、ここ北校舎から教室のある南校舎までのタイムラグね。昨日、富城(とみじょう)さんと一緒に南校舎までの時間を測ったんだけど、早歩きでも5分以上は掛かるわ」


「だから私、富岡(とみおか)……」


「ということは、注文を受けたメイド女子が注文を持ってくるのに5分、調理に数分、料理を教室まで運ぶのに5分……動きずらいメイド服と言う事も考慮すると、15分以上待たせるのか……」


こればかりは、龍脈移動を使うわけにはいかないしなぁ


「一応私の方で、この家庭科室でカフェが出来ないかを、担任の先生へ相談してみたんだけど……」


香住(かすみ)のその顔だと、駄目だった?」


「ええ、家庭科室の調理器具は、他のクラスでも使うらしくて……私たちに許可されたのは、この一角のコンロと、他のクラスと共有の大型冷蔵庫とレンジだけよ」


となると、やっぱり南校舎の教室まで運ぶことになるのか……


何か時間短縮の良い方法は無いかと、思案していると――――――



「あの……私から一ついいでしょうか?」


恐る恐る手をあげて、こちらの動向を(うかが)富長(とみなが)? さん


「「どうぞ」」


僕と香住(かすみ)が同時に促すと――――――


「注文を受けたら、携帯のメールとかで、注文内容を即送ってもらうんです。そうすれば調理時間とメイド女子の移動時間が同時に出来て、待ち時間が少しだけ短縮できます。あと私は富岡(とみおか)です!」


「お、おう……」


名前覚えられなくてゴメンよ、富岡(とみおか)さん。



「それ良いアイデアじゃない! 注文来てから作るより、ずっと短縮できるわ!」


それでも、所要時間は10分か……


でも、これ以上の時間短縮は、調理担当の僕らには、どうにもできない問題だしね。


移動時間は、メイド担当の女子に頑張って貰うしかない。


だからと言って、慌てて走り、料理をぶちまけたりしたら、元も子もないのだ。



その後も、料理のアイデアを出し合いながら、ミーティングをして居ると、時間はあっという間に過ぎた。


「さて、暗くなってきたし。今日はここまでにしましょう」


香住(かすみ)の言葉で、ミーティングは終わる


「ふう、お疲れ~」


「お疲れ様で~す」


そう言って、帰る方向が違う富岡(とみおか)さんと別れたのだが


香住(かすみ)と二人きりで帰るのも、久しぶりな気がする。


ここの処、香住(かすみ)は部活で忙しかったし、僕もオロチや神様関係で色々あって、擦れ違いが多かった為、なかなか一緒に帰れずにいたのだ。



「何だか久しぶりだね。千尋(ちひろ)と一緒に帰るの」


「そうだっけ? 1学期は一緒に帰ってたじゃん」


なんだか、わざとらしく、(とぼ)けてしまった


「うん……お互い、忙しかったもんね」


かたや人間として、かたや龍として、微妙に違う道へ進んでいるのが、少し寂しい気分になる……


たぶん……香住(かすみ)も同じ気持ちなんだろうな……


何とも言えない、無言の空気を破ったのは――――――



瑞樹千尋(みずきちひろ)、待って居ましたわ」


鴻上(こうがみ)さんか……どうしたの? バスでも乗り損ねたとか?」


「違うわよ! 旅行の日程表のコピーくれるって約束でしょ」


「あ~あれね。帰りにコンビニでコピーしようと思ってて、まだしてないや」


急に睨みを効かせる鴻上(こうがみ)さん。カラーコンタクトで赤い目は隠していても、さすがはオロチ、おっかないわ。蛙が蛇に(にら)まれて動けなくなるのも、合点がいく


「ちょっと、旅行の日程ってもしかして?」


「そっ、正哉(まさや)に着いていくんだって」


「ええ!? ちょっと、大丈夫なの?」


さあ? と肩を(すぼ)める僕に


瑞樹千尋(みずきちひろ)! 余計なことを言って、一般人を巻き込んでも責任は取りませんわよ」


そう忠告をする鴻上(こうがみ)さん


鴻上(こうがみ)さん。お言葉ですがね、千尋(ちひろ)の事はホクロの位置から、染み一つに至るまで知り尽くしているんですから、所謂(いわゆる)保護者みたいなものです!」


ちょ!? 何恥ずかしい事を、言ってらっしゃるんですか香住(かすみ)さん!



「私は、タダの人間に関わって貰いたくないだけですわ」


バチバチと火花を散らす二人に挟まれる僕


何で、こうなるかなぁ


でも、香住(かすみ)と二人きりで無言だった時より、少しだけ助かったと思う反面


これから神社(ウチ)まで、このまま険悪ムードで行くと思うと、どっと疲れるのであった。



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