2-14 安倍晴明(あべのせいめい)
『僕』と漢字表記が千尋で
『ボク』とカタカナ表記なのが西園寺です。
「ただいま戻りました」
龍脈を開いた光の柱から、白い狐の神使であるハッコを先頭に、山頂の神域へと顕現する
山頂の宇迦之御霊神の神域へと直接移動できるように龍脈をマークして置いたので、帰りは簡単だ。
ここ、伏見は全体が霊場なので、凄い本数の龍脈が縦横に走っている
よって、伏見であるならば、何処にでも出られるのだが……これだけの大御所だと、参拝の人間が多いため、龍脈を開く場所を選ばないと、出る処の写真をアップロードされて、SNSで拡散なんてこともあり得るから気が抜けない。
僕らの姿を見るなり、宇迦之御霊様が――――――――
「ほう! して、収穫は?」
「はい、此方かと思いまする」
神使のハッコが、西園寺さんのお土産の袋を、宇迦之御霊様へ勝手に差し出すと、すごい勢いで袋を奪取し中をあさる。
本当に、猫まっしぐらならぬ、狐まっしぐらだ。
それを見ていた淤加美様は――――――――
「まったく、ああは成りたくないものじゃ……」
やれやれと肩を竦めて残念そうな眼を向けるが、僕が見ている限りでは、淤加美様も揚芋菓子に同じ反応してるんですよ
本当に似た者同士なんだから……言うと怒られそうだから言わないけどね
「うほぉ、さすが有名店の稲荷寿司と言うだけあって、えらい美味そうやなぁ」
「どれどれ……確かに美味いですな」
横から神使のハッコが手を伸ばし、稲荷寿司を1つパクっと口に入れる
「これ! 主より先に食う奴が居るか!!」
「いえいえ、毒見ですよっと」
隙をついて、更にもう1つ口に入れてしまうハッコ
「あ~、毒見は1個で十分ではないか!」
他の子狐も集まってきて、どれどれボクもワタシもと手を伸ばす
「待て待て待て、それは妾のお稲荷さんだぁ~」
伏見中の狐が集まってくるので、神域が狐でいっぱいである
あぁ……なんかもう、モフモフがいっぱいで、撫でるには困らないけど、神域の中が……眷属の狐だらけで収拾が着かなく、凄いことになってるし
狐に集られる、宇迦之御霊神の図は壮絶だ
とりあえず背負った西園寺さんを、広くて平らな岩の上に寝かせると、ペットボトルの水を使って『浄化雨』の極小を降り掛けようとするが
先ほど龍脈を開けるときにも感じたが、思た通り……淤加美様が省エネモードを切って顕現してるせいか、神力のリソースを持っていかれてて、極小の浄化雨を創るだけでも一苦労だ
やっぱり省エネモードで居てもらった方が、色々と術の行使に負担が少ないのは、本当のようである
考えてみれば、高淤加美神と闇淤加美神の2柱……それも、神話の古龍を身体の中に宿しているのだから、仕方ないのだけどね
手のひらサイズの雨雲をなんとか創ると、寝かせた西園寺さんの頭部に浄化雨を降らせ
「これで少しは良くなるといいんだけど……」
「うむ、どうやら何かの術の後遺症みたいじゃのう、浄化雨も掛けたし、直ぐに良くなるじゃろうて」
淤加美様が、西園寺さんの額に手をやりながら、容態を探っていると、言った通り直ぐに目を覚ました
「冷たくて気持ちいい手ですね。なんだか二日酔いが抜けたような感じですよ」
「あっ! 淤加美様、目を覚ました様です」
西園寺さんが、上半身を起こしながら、淤加美様の手を握り
「お美しい……貴女のお陰で助かりました」
「まだ寝ぼけて居るのか? 妾は何もしておらんぞ、浄化したのは千尋の術じゃ」
「そうですね。加減を知らない淤加美様の浄化雨なら、この神域が水で溢れてますよ」
今は、狐で溢れてるけどね
「淤加美様って……淤加美神!? え? だって……もっと小さくありませんでしたか?」
「あぁ、えっと……今は省エネモードを切ってるらしいですよ」
「うむ! これが妾の本当の姿じゃ!」
畏れおおいじゃろ! と言いながら、ふんぞり返る
そういう処が、やっぱり大きくなっても、中身は淤加美様なんだなぁ……
でも早い処、省エネモードに戻ってくださいね。無駄に大きい胸のせいでリソース食われてますから
『無駄とはなんじゃ! これは立派にメスの武器じゃぞ』
あらら、思ったことが淤加美様へ聞こえて、念話で怒られちゃったよ
これだから、身体の共有は難しいんですよね
僕が苦笑いしていると、西園寺さんが何かを思い出したように
「そうだ! 稲荷寿司のお土産が……」
「それなら、ほれ……あの通りじゃ」
淤加美様が顎で狐達の方に視線を促すと、西園寺さんの呆れた顔が見てとれた。もともと糸目なので、よ~く見ないと分からないけどね
「稲荷寿司……足りるかな……」
「せ、誠意が伝われば……ねえ? 淤加美様」
「ふん。妾は稲荷寿司より揚芋菓子の方が良いわ」
「あ~、そちらの方は結構嵩張るので、瑞樹神社へ送って置きました。約束通り10袋、関西限定のレア物です」
「なんと! こうしては居れん! 千尋よ、すぐに帰るぞ!!」
「いやいやいや、淤加美様……龍脈移動の方が早すぎて、まだ荷物は着いていませんってば……」
「そんな……妾は荷物が来るまで、どうやって生きて行けば……」
大丈夫ですって、芋菓子食べれない程度で、龍神は死にませんから
「ほら、帰ったら地元のスーパーで買ってあげますから我慢してください」
「じゃったら、千尋の手作りの揚げ芋菓子が良いのう」
「え~、また芋ですかぁ、さすがに飽きちゃって」
「むう、駄目なら芋菓子を積んだ、配送のトラックを……」
「分かりました! 分かりましたから……配送の運転手さんが可哀想なので、止めてください」
ならば我慢しよう、と引き下がる淤加美様
大きい子供か!!
まったく、どのトラックだか分からずに、片っ端から関東行のトラックを止める。そんな淤加美様の姿が脳裏に浮かんだし
僕達が、そんなやり取りをして居ると、宇迦之御霊様が
「いや~さすがに有名店だけあって、ほんまに美味しいわぁ」
頬にご飯粒をつけながら、満足そうに食後のお茶を啜る
紙袋の稲荷寿司は、綺麗さっぱり無くなっていた。僕まだ食べてないのに……
「御口に合ったようで……ボクも買ってきた甲斐があったというものです」
「人間よ、馳走になりました。千尋殿から聞いた話だと、何やら頼みごとがあるとか?」
「はい、実は……ある狐の素性を知りたくて、狐の事なら宇迦之御霊様かと思い、お願いに参りました」
西園寺さんはそう言って、背広の内ポケットからスマホを取り出すと、宇迦之御霊様へ差し出した
「どれ……………………う~ん。見たことない顔じゃ……ハッコよ、お主はどうじゃ?」
「宇迦之御霊様に、分からない狐の顔が、分かるわけありませぬよ」
ハッコは、一応スマホの写真に目を通して、頭を振って答えた
それを聞いて、肩を落とす西園寺さんだが、僕も横から写真を覗き込んでみたら、あること気が付く
「これ狐じゃありませんよね」
「「「なっ!?」」」
其処に居る全員の声がハモり、スマホの写真に視線が集まる
「ほら、ここ……耳が4つある。今までハッコさんが、人間に変身したの見てきたけど、耳は2つでした……でも写真の方は、狐耳が2つの他に、人間の耳も2つあるんです」
「言われてみれば、そうである」
ハッコが僕の意見に同意する
「でしょ、これ誰かの変装ですよ。おそらく人間が狐に変装しているのかと」
「狐が人を化かすのは良くあることだが、人が狐を化かすとは……時代の流れとは恐ろしいのぅ」
確かに、今は変装もコスプレと言って、容認されつつあるので、昔よりは人間の変装が増えてるのは否めない
「なるほど、写って居るのが狐じゃなく、人間であるなら宇迦の専門ではないわな。良かったのぅ、タダで美味い稲荷寿司が食べれて」
あっ、また淤加美様が喧嘩売ってるし、もういい加減、大人に……
そう思っていると、西園寺さんが――――――
「本当に……写真が差し替えられえますね。背景が、スプリング8ではありませんし……しかし、この変装した狐の顔……どこかで…………あっ!! いや、まさか!! そんな……」
「西園寺さん。心当たりが?」
「ええ……自信はありませんが……7年前に行方不明になった、晴明にそっくりなんです」
「ハルアキ? お知り合いですか?」
「ボクとイチ……淳一郎とは高校の同級生と言う話はしたよね」
「ええ、高校卒業で西園寺さんは國學院へ進み、藤堂さんは防衛大へ進んだと聞きました」
「実は、高校の時。仲の良かった同級生がもう一人居たんですよ。それが安倍 晴明」
「晴明……もしかして有名な安倍晴明の?」
「そうです。子孫にあたる者で、名前を継ぐ程の陰陽道の使い手であり、ゆくゆくは家を継いで行くと思っていたのですが、卒業寸前に儀式の暴走事故にあい、それから人が変わってしまった」
儀式の暴走事故とか……ウチも他人事じゃ無いから良くわかる
突然、それまでの平和な日常が、崩れ去ってしまうのだから……
僕の場合、幸運にも、いろんな人に支えられ、沢山の人と知り合えたけどね、人だけじゃなく神様とかも
「その晴明さんは、無事だったんですか?」
「無事……と言うと無事だし、そうでないと言えばそうでない……分かったのは、それから何年も経ってからでしたし……」
西園寺さんは、スマホから視線を上げると昔を懐かしむように、話を続けた。
「儀式失敗の代償が現れたのは、40代を超えて、しばらくした頃……かな。同級生の集まりで、皆程よく歳を重ねて居たのに、晴明だけが高校時代のままだった」
「それって、もしかして……」
「ええ、病院の検査では、細胞の老化が一切見られない……との事でした」
不老……
太古の昔より、あらゆる権力者が、その権力を永遠のモノにしたくて、追い求めていた理想の形
なぜならば、如何に富や権力を得たとしても、寿命が来ればすべてが無駄になってしまうからだ
だからこそ、子を作り財力や権力を継がせようとするわけだが
中には強欲な者が居て、集めた富を我が子にも渡さず、自分が持ったまま生き永らえたいと、不老不死を求めて世界中から宝や文献をかき集めたものまでいた。
しかし、結果はどうか……あの有名な吸血鬼でさえ、不老には至ったが、不死には至らなかった
再生力は人間のそれを遥かに凌駕してはいたけれど……
その吸血鬼だって、人間の血液を摂取しなければならないと言う、代償まで払っていたのだ
中には太陽光に強い者も居たらしいが、その殆んどが日光に弱くなったとも聞いている
時の権力者が手に入れたがっている「不老」が其処に居れば、そのメカニズムを解明して自分たちに使いたいと思うだろう
「じゃあ、病院の検査で晴明さんは、不老だと?」
「ええ、そのように検査結果が出たと聞いています。しかし……その検査というのが問題でして……検査とは名ばかりの、モルモットとして扱われたと……当時の病院の資料には、そう記してありました」
酷い……僕もそういうのに捕まれば、モルモットにされかねない
そう思うと、まるっきり他人事ではないのだ
まあ、僕や元龍神のセイの場合は、淤加美様と違って思念体ではないので、長命ではあるが、不老不死ではないのだけどね
「しかし、モルモットですか……それなら人間に復讐する為に、オロチの封印を解いて回ってるのも頷けますね」
「いや、かつての同級生……晴明のことを良く知っていますが、そんな事をするようなヤツでは……それに、まだオロチの封印を解いて回っている奴と、同一人物とは決まってません。分かっているのは『沼田とその助手』を助けたと言うことです」
え~、この前はオロチの封印を解いている輩と、同一人物かもって言ってたのに……まあ、証拠もないし、今のところ推測であって確定じゃないけどね
それに、元同級生の仲が良い友人なら、庇いたくもなるか……西園寺さんの心境としては、間違いであって欲しいって処なのかな?
「凄腕のクローン技術を持つ、沼田とその助手を助けて居る……遺伝子技術か……もしかして、自分の不老を治そうと、しているのでしょうか?」
「さあ、どうでしょうか……本人以外は知る由もないですね。まあ、本音を聞きたくても、その晴明自身、7年前にモルモット同然にされていた病院を抜け出して、今は行方不明です」
「実家とか、親戚の処にも行っていないのですか?」
「どちらにも、音沙汰は無いそうです…………ボクがもっと早くに、病院の実態に気が付いて、晴明を助け出せていたら……こんな事には……」
西園寺さんは悔しそうに拳を握りしめる
そこへ淤加美様が
「しかし、先ほど微睡みの術を掛けられておった様じゃし、その時に『すまほ』とやらの写真を弄られたとしたら、思ったより近場に居るやも知れぬぞ」
「なるほど、この京の都のどこかに潜んでいると言うことですね」
日本のどこかから、1都市に限定されたのだから、凄い進展である
「ならば、やることは決まっています。今度こそ何かしでかす前に、晴明を助け出し止めて見せます」
「人間よ、よう言うた。稲荷寿司の礼に、妾が京の都に霊狐を放ち、その者を見つける手伝いをしてやろう」
あ、さっき淤加美様が『タダで稲荷寿司を食った』と言ったのを、気にして強調しているし
本当にこの方々は……意地っ張りなんだから
「ありがとうございます。ボクの方も捜索隊を組織して、片っ端から当たらせます」
そう言ってお辞儀をする西園寺さん
と、なると。僕ら龍神組はどうしようかなぁ
「千尋よ、我々は一度、北関東へ引くぞ」
「え? このままにして行くの?」
「うむ。お主は学業があるじゃろ、東北行きの件もあるし。なにより、京の都に土地勘の無いお主が居ても、仕方がなかろう」
「それはそうだけど……」
なんか、僕だけ帰るとか、言える雰囲気じゃないんですよ
「千尋君、捜索はこちらでやるから、発見した時は、突入に力を貸して貰えるかな」
そう助け船を出してくれた、西園寺さんの御言葉に甘えて
「はい。そう言うことでしたら、いつでも連絡ください。龍脈移動があるので、直ぐに駆け付けます」
僕は西園寺さんに力を貸す約束をして、龍脈移動で北関東に帰るのだった。




