2-13 お茶屋でパニック
今回前半部分が京都勢の狐巫女『お玉』の視点で書いてます。
後半、◇で区切った場所以降は、主人公の『千尋』視点へ戻りますので、お気を付けください。
(今回の前半は、狐巫女のお玉視線です)
K都府某所
スプリング8から夜通しで帰ったので、屋敷のセキュリティを加具土命に任せて寝ていたのだが
狐巫女は、日課の早朝散歩をしていないので、なんだかさっぱり調子が悪い。
目をつぶって無理にでも寝ようとするが、どうやら駄目みたいだ……
1日1度は御狐の霊山である、伏見稲荷へ行かないと調子が出ないなぁ
加具土命に、散歩へ出かけることを伝え、主人たちの事を頼んで外へ出でた
「う~ん。やっぱり伏見稲荷の霊力を貰わないと、調子が出ないわ」
固まった身体をほぐす様に伸びると、伏見稲荷へ向かって歩く
一応耳と尻尾は不可視の術を掛けてあるが、たとえ霊力持の人間に見えたとしても、現代では『コスプレ』と勘違いされるだけで、さほど騒ぎにならない。良い時代になったものである
伏見稲荷の頂上まではいかないが、麓を通るだけでかなり元気を貰えるので、入り口付近の茶屋を回って帰るのが、狐巫女お玉の日課なのだ。
「オッチャン、いつものね」
メニューを持った女性店員を待つまでもなく、店の奥で雀を焼いている、この店の店主のオジサンに直接注文を告げた。
「あいよ! だけど姉さん『すずめ焼き』好きだねえ」
「生でも行けるけど、ここの七味焼きが絶品で好きなんです」
「生ぁ!? 生は味以外で色々マズイよ」
しまった! 狐感覚で生と言っちゃったわ
「あ、いや……生ビールと合うって……」
「ああぁ、そっちの生か。オッチャン勘違いしちゃったよ」
やあねぇ、はははははっと笑って誤魔化したが、ちょっと危なかった
まあ、狐が田畑の害鳥といえる雀を食べることから、田畑を守る霊獣として重宝されるようになったという言い伝えがあり、それが穀物の神の神使の一因になっているという
神様や神使の狐が食べるモノだから、人間もご相伴にあずかろうと言うのが雀焼きであるが……
(諸説あり)
おそらく、昔はタンパク質を摂取出来る食べ物が少なかったから、雀を捕って食べた名残じゃないかと思う。
そこは、何でも神様と紐づけしたがる人間の性って、事で仕方ないのかもね
雀も、現代では稲穂を啄む害鳥と言うだけでなく、稲につく害虫を食べてくれるので、害鳥であり益鳥でもあるっていうのが、現代の認識である
まあ、蘊蓄は良いとして、狐としては雀焼きは、絶対外せない逸品であるのだ
稲荷寿司も良いけどね。それは狐個人の好みの差であると私は考え、一口頬張ってはお茶で流し込む
「う~ん。幸せ」
焼いて貰った雀を頬張りながら、人の流れを縫う様に歩いていく、霊狐たちを目で追っていると――――――――――――
「すみません。お茶とお団子を……」
店に現れた人間に、思わず雀の串を落としそうになる
確かこいつ……西園寺とか言ったわね……晴明様の天敵じゃない!!
この辺りを、うろついているって事は……まさか!? もう拠点がバレた?
急に、雀焼きの味が分からなくなり、激しく動揺するものの、出来るだけ平静を装うと努める
早く食べて、逃げなくちゃ! そう思っていると
女性店員がお茶を持ってきながら――――――
「お兄さんも、これからお参りどすぇ?」
「ええ。山頂の宇迦之御霊様へ、お目通りに」
「それは、ごくろうさまですなぁ。頂上まで1時間弱は掛かりますから、しっかりと休んで行きなはれ」
「ありがとうございます。いや~この歳になると、上りの参道は堪えますからね」
「そんな、まだまだお若いのに……」
「はっはっは。気持ちは若いのですがね、さすがに身体が悲鳴を上げる次第で」
「無理はせぇへん事ですなぁ」
「本当に……。あ、そうそう……この写真なんですがね。この娘、どこかで見掛けませんでしたか?」
「あら、可愛いお狐様」
「詳しくは話せませんが、昨晩ある施設に忍び込んだ、輩の一人なんです」
その話を聞いて、ぶーっとお茶を噴く
ヤバイ、二人の視線がこっちを向いているし
出来るだけ顔を隠す様にして、やり過ごすが――――――――――――
写真って何よ!? 気になるじゃない
私はさらに、聞き耳を立てる
「さぁて……本職の巫女の御方は、こんな狐耳のコスプレせえへんですし。見かけませんなぁ」
よっしゃ! 狐耳に掛けた不可視の術がちゃんと効いてるわね
「そうですか……これは狐に詳しい宇迦之御霊様に見てもらうしか……」
再度、ぶーっとお茶を噴く私
マズイマズイマズイ。お茶は美味しいけど、事態がマズイわ
さすがに、宇迦之御霊様では、一発で何処の狐かバレちゃうじゃないのよ!
どうにかしないと……
「いやですわぁ、お客さん。宇迦之御霊様は、伏見のご本尊でありますけど、実際に神様に逢える訳おまへんわ」
「確かに、でも願掛けに一応……ね」
そう言いながら笑う二人
笑い事じゃ無いじゃない! その西園寺は元神社庁の職員。宇迦之御霊神に逢う方法も、心得ているはず
マズイわね……あのスマホの写真をなんとかしないと……
どうしようかと、思案していると、ある事に気が付く
自分のスマホの中に、晴明様が悪ふざけで狐巫女のコスプレした写真があるのだ
これを差し替えれば……狐でない晴明様なら、宇迦之御霊様にもバレないはず
問題は、どうやって差し替えるか……
それでは、ごゆっくり、と言いながら他の客へ注文を取りに行く女性定員
これは、チャンス到来かも
残りの串焼きを一気に頬張ると、店舗の陰に隠れて、狐お得意の『変化の術』を行使する
よく、日本の昔話で、人間を化かしたり悪戯するものだが、今回に至っては悪戯ではない
先ほどの女性定員に化け、西園寺に――――――
「お客はん、お茶の御代わり要りまへんか? 季節の上では秋とはいえ、9月下旬の陽気としてはまだまだ暑うございます」
「そうですね、水分は多めに取りますか。これから山頂まで頑張らねば、なりませんしね」
そう言っている西園寺に、お玉特性の利尿作用の入り、特製茶を飲ませる
お茶を嚥下したのを見て、私は思わずニヤリと微笑みが漏れて……我! ことなれり!!
あとはスマホを置いてトイレに――――――――――――
え? 持ってちゃうの!?
しまったぁ、そこまで考えていなかったわ……どうしよう……
ええい! 仕方ないわ!
もう一度、店舗の陰で『変化』を行使する。今度は店主のオッチャンだ!
そのまま店内の奥にあるトイレに向かうが、途中で焼き物をしている、店主のオッチャンと目が合う
「いらっしゃい!! 俺…………俺ぇええ!? 疲れてるのかな……」
店主が、目を押さえて頭を振っている間に、そそくさと男子トイレに入る
うぁ、女子トイレより綺麗だし
ん!? 何あれ? 男ってどうやって用を足してるのよ
壁に便器がくっ付いてるじゃないの! あんなのどうやって……
人間男性の、トイレの仕方に興味は尽きないけど……取り合えず、西園寺のスマホをどうにかしないと
用を足し終わった西園寺が、丁度、手を洗いに鏡の前に来る
手を洗ってる間、スマホを洗面台の上に仮置きしているし、私に運が向いてるじゃない!!
私の術を使い、特性のピコピコハンマー(だいたい50%の気絶)を出して――――――
ピコハーン、チャーンス!!
後頭部にピコっと一撃をかますと、そのまま崩れ落ちる西園寺
今のうちね!!
西園寺は、メールを打ってる途中だったらしく、パスワードロックが外れている
えっと……捏造用の晴明様コスプレ画像を転送っと、それで、私の画像は削除っと……
よし!!
後は変化の術を解いて逃げ帰るだけ
速やかに、男子トイレより撤退を開始するが――――――
ドアを開けると、店主のオッチャンが居た
「おっと! 姉さんこっちは男子トイレですよ」
「おほほほほ、間違えちゃいました」
舌を出しながら外に出るお玉に
「あっと、そうだ! 姉さん、俺を見なかったか!?」
「見ましたよ、目の前に居ますし」
「あ、ああぁ。そうだよな……昨日飲みすぎたかな……」
そう言ってトイレに入っていった。
ごめんね、オッチャン。また食べに来るから
御代をレジの横に置いて、店を去るお玉の背中に――――――
「ちょっ!! 糸目の旦那! 大丈夫ですかい!?」
と、オッチャンの困惑の聞きながら、店を逃げるように後にするのだった。
西園寺の方も、多少ピコピコハンマーの後遺症で、頭がぼーっとするかもね
さてと帰りに、お昼の材料を、スーパーで買って行こっと。
あと、機械の目は騙せる~とか言った、晴明様に文句言わなきゃ! 私の姿がバッチリ写ってたし
自分だけ、大事をとって覆面して居るなんてズルイんですからね!
主に言うはずの罵詈雑言を考えながら、京の都の道を、帰りに向かうお玉だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そのころ……
処変わって、山頂の瑞樹千尋は、ウチの淤加美様と宇迦之御霊様の、子供のような喧嘩を溜息をつきながら、ずっと見させられていた
さっきから、1時間近く……まだやってるよ
いい加減、うんざりした僕に、白い狐の神使ハッコが
「瑞樹の龍神よ、お茶のおかわりはどうか?」
「あ、うん。僕もうお腹がチャプチャプだし、慎んで遠慮します」
お茶のブレスが何発も撃てそうな程、お腹がお茶でいっぱいである
「そうか……我もいい加減、固形物が食べたいと思っていた処だ」
そんな時、僕のスマホが鳴り始めた
相手は……西園寺さん!?
ようやく着いたのかな? そう思いながら、回りにも聞こえる様にスピーカーに切り替えて電話に出ると
『千尋君? 西園寺だけど』
「あ、はい聞こえています。もう山頂に着きますか?」
『それが、麓のお茶屋のトイレで貧血を起こしたらしくて、出来れば龍脈で迎えに来てくれないかな?』
「構いませんよ、山頂に龍脈をマークしたので、次から直接来れますし」
『じゃあ、入り口付近のお茶屋に居ますから、お願いします。お土産の稲荷寿司が崩れ無くて良かった』
「なぬ? 稲荷寿司ですって!?」
淤加美様と喧嘩中の宇迦之御霊様が、突然声を上げる
『今の声の方は?』
「妾は宇迦之御霊神、そんなことより、稲荷寿司と聞こえました」
『あ、はい……来る前に大阪に寄ったので、有名店の稲荷寿司を買ってきました』
「誠か!? 千尋殿!! 早う迎えに行ってあげるが良い!」
すごく大興奮の宇迦之御霊様を他所に、龍脈を開くと――――――
「あ~、麓で人気のない処あります? 龍脈から出る処を見られると、騒ぎになるので」
「ならば、我が先導しよう」
そう言って人型から、狐の姿に戻る白狐のハッコ
「うむ、頼むぞハッコ」
お任せを! と僕の腕に抱かれるので、そのままハッコを抱いて龍脈に飛び込んだ
ハッコの誘導で、西園寺さんが居るといったお茶屋のトイレに、龍脈がつながったのだが
出たところは、僕も男の時に使っていた男子トイレ、実に懐かしい
しかし、そこへ入って来た、店主のオジサンと目が合ったのだ
「「あっ!!」」
僕とオジサンの声が重なる
「ごめんよ嬢ちゃん……今日の俺どうかしてるわ……女子トイレに入っちゃうなんて……」
うな垂れる様に、トイレから出ていくオジサンの背中に、どことなく哀愁が漂う
背中越しに、今日はもう店終いするか……そんな呟きが聞こえていた
オッチャン……いったい、何があった……
僕も其の後を追う様に、男子トイレの外に出ると、オッチャンはそのまま隣の女子トイレに入って行く
そっちは女子トイレなのに……僕が巫女の格好で男子トイレに居たので、逆側が男子トイレと勘違いしたのだろう……
すぐさま、キャーっと女性店員が飛び出して来たのだ
その後ゆっくりと、扉を開けて……オッチャンが姿を現す
頬に大きな紅葉マークを付け、女子トイレから出てくると――――――
「決めた!! 今日はもう店を閉めて、ウチに帰って迎え酒だ!!」
オッチャン……それ根本的な解決になってませんから
臨時休業の看板を出し、椅子を店舗にしまい始めるオッチャンを他所に
一人……やっぱりポツンと寂しそうに座る、西園寺さんを発見し声をかける
「おまたせしました。山頂で宇迦之御霊様が、お待ちかねです」
あ、うん……と気のない返事をする西園寺さん
さっきのオッチャンといい、西園寺さんといい、何があったのか?
まるで、狐に化かされた人間のように、心ここにあらず状態だ。
店主のオジサンの方も、言動がオカシイし、どうなってるの?
この事態を把握したいのは山々だが、先ほどから狐の専用念話で、宇迦之御霊様が、神使のハッコを呼んでいるらしく
仕方なく荷物ごと西園寺さんを背負うと、店の裏手で龍脈を開き、マークした山頂へ移動するのだった。
今日は、千本鳥居で狐に化かされたり、本当にカオスな一日だわ。




