2-11 伏見稲荷大社へ
新しいパソコンにしたら、変換がまだ慣れません
このパソコンだと『龗』と一発で出るし……でも、いまさら淤加美を龗にするのも変なので、淤加美のままで行きますね。
翌早朝、日課である境内の掃除をしていると、新調したばかりのスマホに、1本の電話が掛かってくる。
表示画面には、『西園寺さん』と出ていた。
「おはようございます西園寺さん。どうかしました?」
だいたいの察しは着くけど、西園寺さんからの電話はオロチ関連の事が多いし、たぶんこの電話もそうであろう。
『やあ、千尋君おはよう。こんなに朝早くから、すまないね』
「大丈夫ですよ。毎朝の日課で、遅くても5時には起きていますから。それより西園寺さんからの電話って事は、伍頭目のオロチか沼田関連ですよね」
『いやまあ、後者かな……昨晩遅くにスプリング8で罠を張っていたんだけど、取り逃がしちゃってね……監視カメラの画像を復旧させたら、覆面男と狐巫女が映っていたんだ』
「狐巫女!? ということは、相手は普通の人間じゃないって事ですか?」
『まあ、オロチの封印を解いている連中だから、呪術戦に長けて居ると踏んでいたんだけど……機械にも強かったのは誤算だったよ』
「でも狐巫女かぁ、お狐様は日本でも数の多い社持ですから。それだけで探すのは大変かと……」
『そうなんだよ……そこで千尋君にお願いがあるんだ。こちらの写真を、お狐様の総取り纏め神である、宇迦之御霊神へ見ていただいて、どこの狐だか教えていただきたいんだ』
「つまり、僕に宇迦之御霊様へ、橋渡しを頼みたいと?」
『お願いできるかな? 相手がお狐様では、人間の顔認証のデーターベースに載ってませんからねぇ』
宇迦之御霊神かぁ。うーん、僕も面識ないしなぁ。
「淤加美様、今の聞いてました?」
僕の中に居る淤加美様に問いかけてみたら、僕の頭上に現れて――――――
「うむ。宇迦とは、同じ京の都で祀られておるからの、須佐之男命の後妻との間に出来た『大年神』と結婚しておる」
須佐之男命の前妻である『櫛名田比売』との孫が、淤加美様の娘『日河比売』と結婚しているから、知らない仲でもないって事か
龍神も狐神も人外同志だし、片方は恵みの雨による五穀豊穣の神、もう片方は飢えを防止する食料保存の穀物の神
両方とも食料に関する神様だ
稲荷というと油揚げを連想するが、本来は稲を荷う神の像から稲荷と字が当てられた、田んぼと保食の神様である。
日本で祀る神社が多いのは、古の日本で飢饉が多かった名残であるろう
今は、冷蔵庫の普及や品種改良で、冷害に強い稲が採れるからね。飢えが無いのも、農家さんや品種改良した人たちの功績といえる。
僕はスマホを淤加美様にも聞こえる様にスピーカーにすると
「淤加美様が、宇迦之御霊様と面識あるそうですよ」
『そうなんですか!? ならば是非お願いしたい』
「それは構わぬが、妾は千尋から離れられんからのぅ……どうしたものかのぅ」
あー、嘘ばっか言ってる。
高淤加美神(光)か闇淤加美神(闇)のどちらか一方が僕の中に残って居れば、もう片方は自由に外出してるのに……
『そこを、なんとか……揚芋菓子をお供えしますから』
「誠か!? 揚芋菓子10袋と千尋が一緒に行くなら手を打とう」
ちょっ! 揚芋菓子で動く神様とか安すぎ!!
あと僕を巻き込まないで欲しいんですけど、淤加美様の片方が行けば、良いじゃないですかね?
「淤加美様、僕は学園があるんですよ。来月出雲行きもあるんだし、あまり休むのは不味いですってば」
「だったら尚更じゃ。どうせ出雲で顔を合わせるなら、今のうちに知り合っておいた方が良いぞ」
確かに、それも一理ある
新参者の僕が、古参の神々の中に入っていくのも、気後れするし
神様の知り合いは多い方が、気は楽である
問題は学園をどうするか……
そう考えていると――――――
「じゃあ、俺が千尋に変身して学園に行ってやろう」
そう言って現れたのは、元龍神のセイであるが……嫌な予感しかしない
「お前は女子更衣室で、女子高生の生着替えが見たいだけだろ? 残念ながら僕は、男女ともに更衣室は使わず、人通りのない屋上階段の踊り場で着替えてるんだ」
「それは知っている。正哉との東北行き約束もあるし、その打ち合わせもあるのでな。代わりに登校しておいてやる」
うわぁ、胡散臭い。帰ったら知らぬ間に、痴女認定なんてされてたら泣くぞ
『あの……千尋君? ボクの頼みはどうなったのでしょう?』
おおっと。スマホ放置で、西園寺さんの事忘れてたよ
「人間よ心配するでない。今、千尋の旦那の若龍が、代わりに学園行くと決定したのでの、待ち合わせの時刻を申すがよい」
淤加美様、僕はまだ承諾してませんけど?
まったく、本当に強引なんだから
セイが学園で馬鹿しないように、香住に見張ってもらわないとな
さて、待ち合わせの時間だが、此方は伏見稲荷大社へ龍脈移動で直接いけるので、いつでもオッケーではあるんだけど
出来れば、龍脈から出るところを他人に見られたくないので、人の少ない早朝の方が都合が良い。見られると騒ぎになるしね
『ん~。こちらはスプリング8からの帰りで、今大阪なんですよ』
「なるほど、じゃあ現地で待ち合わせで良いです。僕は龍脈移動で先に行ってますから」
『わかりました。こちらも、出来るだけ急ぎますので、お願いしますね』
そういうと、電話を切る西園寺さん
さてと……
「セイ、試しにここで変身してみてよ」
「構わぬぞ、小さくなったり変わり身したりは簡単な術なんで、あらよっと……」
あっという間に、僕の姿に変身するが
「ちょっとセイ、胸盛りすぎだって」
「そうか? お前いつもサラシ巻いてるだろ? 素だとこんなモノだと思うんだが……」
「うむ、見事。寸分たがわぬではないか」
淤加美様まで一緒になって……と言うことは、マジですか?
確かに最近、制服の胸の部分がきつく成ってきていると思ったが、本当に育ってたのね
どんどん大きくなって、重力に負けて歩けなくなったり、しないよね……
僕が健気に育つ胸を見てへこんで居ると、香住が現れて――――――
「まったく、千尋ったらまだ制服着てないの?」
「それが……」
「今日は、俺が千尋の代わりに登校してやる」
「元龍神様が!? そういえば千尋そっくりだし。違うところと言ったら、喋り方と尻尾が無い処かな」
「尻尾はどうせ普通には見えんし、邪魔であろう?」
くっ、尻尾を引っ込められるのが羨ましい。僕には出来ないのに……
そもそも、尻尾が無ければスカートで行かなくも良いんだけどね。男子のズボンだった頃が懐かしいわ
僕はため息をつくと、先ほどの電話のやり取りを香住に聞かせ、セイの事を頼んだ
「そう言うことなんで、セイが馬鹿しそうなら、問答無用でヤっちゃって良いから」
「ハイハイ、明日はちゃんと出るんでしょうね? 文化祭の打ち合わせもあるのよ」
「大丈夫……だと思う。遅くても夜までには戻るから」 たぶん……
そういって、僕に変身したセイと香住を送り出すと、龍脈を開き伏見稲荷大社へ移動した。
「わあぁ、お狐様がいっぱいなんですね。僕初めてなんですよ」
「どれ、妾が案内してやろう。こっちじゃ」
ふよふよと空を飛ぶ、淤加美様の後をついて千本鳥居の中を上っていくが、一向に開けない
「あの、淤加美様。まだ上るんですか?」
「おかしいのぅ、これは化かされたかな?」
マジか!?
「これが幻術としたら、どうやって破るんですか?」
「簡単じゃ、ただの子供騙しじゃからの、龍眼を展開してみよ」
言われた通り、龍眼を展開すると、目の前に白い狐が睨んで座っていた
「可愛い。モフモフしたいよ」
「龍神よ! ここは宇迦之御霊様の聖域。何しに参った」
白い狐が、思ったより低い声で威嚇してくる
その威嚇に物怖じせず、淤加美様が前に出ると
「妾は淤加美神! 宇迦之御霊神に所用がある故、取り次ぐがよい」
そう答えたが、もう僕は我慢できずに白い狐を抱き上げていた
「何をする!? や、やめい! ぅわはははは、くすぐったい」
「はあ、モフモフだよ~。連れて帰りたいよ~」
「千尋……放してやらぬと話が進まんぞ」
「だって、淤加美様。ウチの狼のハロちゃんは、お風呂入りたがらないから、こんなにモフモフしてないんですよ」
淤加美様に、凄く残念そうな目で見られるが、この際気にしていられますか
龍になってからというもの、猫ちゃんも寄ってこないし、久しぶりのモフモフなんですからね
そんな時、2匹の狐が現れる
「ハッコ様! 大丈夫ですか?」
「ええい! この龍め!! ハッコ様を放せ!!」
モフモフが増えた!!
「コンタ、コンペイ、お主らの敵う相手では……」
僕がモフっている白い狐が止めに入るのも聞かず、狐火を放ってくる
が――――――――――――
もちろん狐火は術なので、反射に引っかかり自分たちの出した狐火で尻尾が燃えていた
「ぎゃあああ、あちちちち」
2匹がシンクロしたように、地面を転がりまわる
ヤバイ、こんがりキツネ色どころか、真っ黒になるよ
僕は急いでペットボトルの蓋を開けて、2匹の狐にぶっかけると、ジューっと音を立てて狐火は消化された
「ああぁ、せっかくのモフモフ尻尾が……チリヂリになって……勿体無い」
「千尋よ、もっと中身を心配してやると良いと思うぞ」
珍しく、淤加美様に冷静なツッコミを貰う
「まったく、修業が足らん! コンタもコンペイも相手の技量を測れぬ様では、まだまだじゃな」
涙目で尻尾を撫でる2匹の狐に、白い狐が説教をしている
なんともシュールな光景だ
そこに――――――
『ハッコよ、その者たちを妾の処へ案内せよ』
どこからか、声が聞こえてくる
「宇迦か、久しいな」
『淤加美よ、本当にのぅ。まあ、宇治茶を馳走してやるゆえ、積もる話はそこで聞こう。ハッコよ頼んだぞ』
「はい! 宇迦様。では、龍神よ着いて参れ」
そういって、僕らの少し前を歩き始める白い狐の後を追うのだった。




