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龍神の花嫁 八俣遠呂智編(ヤマタノオロチ)  作者: 霜月 如(リハビリ中)
1章 夏休み クローンオロチ
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3 神使

瑞樹神社の境内にて、西園寺さんにスマホの画像を見せられたが。


オロチの案件を、外でする訳にいかず。丁度お昼だし、出前の寿司もあるのだから、居間で話そうと言うことに成った。



玄関のを開けると、淤加美(おかみ)(のかみ)様の思念体が、浮かんで飛んでくる。




淤加美(おかみ)(のかみ)


日本神話に出てくる、古い水の龍神様で、僕の御先祖様。


淤加美(おかみ)と言うのは、龍の事で。その神様だから淤加美(おかみ)(のかみ)になる。


つまり、淤加美(おかみ)神とは、『古事記』で言う龍神の事を差す。


淤加美(おかみ)(のかみ)は、高淤加美(たかおかみ)(のかみ)と言う光属性と、闇淤加美(くらおかみ)(のかみ)と言う、闇属性の二面性を持つ、水神の龍神様なのだ。


その淤加美(おかみ)様は、僕が先祖返りした際、僕の身体の中に、顕現されたのだが……


最近では、二面性を利用して、片方の属性を僕の中に残したまま、もう片方の属性が思念体として、自由に飛び回ると言う離れ業を、やってのけている。



今回、僕の身体の外に出てるのは━━高淤加美(たかおかみ)様(光)の方みたい。



「おお、千尋や。今呼びに行こうと思って居った処じゃ」

浮かんで飛んで来ながら、そう言う高淤加美(たかおかみ)様。


手には、ちゃっかり三天堂のスタッチと言う、携帯ゲームが握られていた。


「何ですか? スラッシュ・シスターズの対戦なら、セイと遊んでください」


「ふっふっふ。妾も随分上手くなったぞ。て! 違うわ!」


「違うんですか? ツッコミも、上手く成ったと思いますよ」


「うむ、『てれび』と言うヤツの、お笑い番組を観て、勉強して居るから……だから、違うと言うて居る!」

(たわ)けめ! とお叱りを受けるが、何を勉強しているんだか……


まあ、神世(かみのよ)世代の淤加美(おかみ)様が、今の時代の人間を知るには、テレビを観て学ぶのも、1つの手なのかも知れないけど……


もうちょっと、こう━━━━お笑い番組だけじゃなく、ニュースも観ようよ。



「で、実際の処。慌ててどうしたんです?」

このままじゃ、拉致が明かないので、本題に戻すと


「そうじゃった。御主の旦那である、あの雄龍(セイ)が、『すし』とか言うヤツを、全部食ろうてしまったぞ」


「はい?」

ちょっと待て……


確か、町内会の人が、夏祭りの打ち合わせに来るので、余裕を持たせ、20人前は頼んで置いたはず。


それを食った? しかも、セイ独りで?


有り得ねぇだろう。


居間へ行くと、もう食えねーと仰向けで、大きく膨らんだ腹を、ポンポン叩くセイの姿があった。


「千尋、良いところに来た。茶を入れてくれ」

居間の入り口で、唖然とし立ち尽くす僕の姿み見るなり、そう(のたま)うセイ。


「コノヤロウ……全部食うなと言ったのに……しかも何ですか!? 腹鼓打って狸ですか? 泥舟に乗せて沈みますか? この馬鹿夫!」


「沈んでも、水中で息出来るもんねー。だって俺、狸じゃなくて龍だし」

わっはっはと高笑いのセイ


この駄目夫め……



「セイ━━お茶が欲しいと言ったか?」


「おう! 早く入れろー。熱湯じゃ駄目だぞ。風味を失うからな、沸騰寸前で茶葉を入れて……」


「良くわかった」


「何で俺、ロープで縛られてんの?」

僕は、馬鹿旦那(セイ)をロープで縛ると、そのまま風呂に叩き込む。

(※セイは、水の龍なので、水中で息が出来ますが、人間相手に真似しないように、約束だぞ)


「そこで少し反省してろ」


「がぼぼ、お茶は?」

この期に及んで、まだ言うか……


「風呂に、茶葉も放り込もうと思ったけど、掃除が大変だから、残り湯で我慢してね」

青筋たてながら微笑むと、風呂場を後にする。


風呂場から、縄を解いてけ~、鬼嫁~と声が聞こえるが、龍だっつーの!


もう少しお灸を据えたい処だが、今は其れどころではない。


直ぐに別の出前を、頼まなくては……


若い人達なら、ピザと言うのもありだろうけど。町内会の人は、お歳を召した人が多いため、やっぱり濃い味のより、あっさりなモノのが良いだろう。


7月も終わりの酷暑日だから、尚更である。


僕は、この辺りで名物の、冷たいザルうどんの出前を頼むと、時計を睨んで間に合うだろうか? そう心配しながら、居間へ戻る━━━━━━


淤加美(おかみ)様と尊さんが、スラッシュ・シスターズで対戦していた。


「御主、中々やりおるの」


「ふっ、(いにしえ)の神様だろうと、手は抜かねーぜ!」


二人は、ゲームに夢中になっていた。


そんな中、一人で勝手にお茶を入れて啜る、西園寺さんの近くに座ると━━━━


「本当に、いつも騒がしくて、済みません」

そう西園寺さんに謝る。


「あ、いえ。賑やかで何よりです。でも、元龍神様は良いのですか?」


「セイの馬鹿は、風呂に沈めて来ましたから……あ、念の為言って置くと、セイは水の龍なので、溺れる心配はありません」


「そ、それは知ってますが……」

そう言って、西園寺さんは呆れ顔でお茶を啜る。


「それより、先程の画像を、もう一度見せてください」

僕は西園寺さんのスマホを受け取ると、注連縄の切れた洞窟の画像を睨む。


「その画像は、T都の小笠原諸島にある小島で、オロチ封印場所なんですよ」


「小笠原?」


「ええ。3日前に、封印管理者の宮司さんが、写真を撮って送って来たんです」

3日か……じゃあ、もう本州に到達しているな。


僕も宝剣探しの時に、海の中を泳いだが、水流を操作し息継ぎも必要ないので、下手な船より余程速いスピードが出せた。


そこは、『水神』と『山神』のオロチとて、然りだ。


海の中なら、魚介類も豊富で、食事にも困らないだろうしね。


「真っ直ぐ、此処へ向かって居るのなら、今頃K県……もしくは、S県に入っている可能性が有りますね」


「千尋君も、そう思いますか?」


地上は海の中と違って、家やビル等の建物とか、オロチにとって障害物に成る物が多いから。

電車やタクシーの乗り方が分からないと、却って移動が遅くなるかも知れないと、読んでの想定だった。


ウチの神様達なら間違いなく、公共交通機関なんて使えないし。


まぁ、龍神は裏技の『龍脈移動』と言うのが出来るので、移動はそればかり何だけどね。



龍脈とは、地中にある氣の流れ。


分かりやすく言うと、地球の血流だね。血液みたいに、身体の隅々へ栄養や酸素を届けるのと同じで、氣を地球の隅々へ届けているのが龍脈である。


その龍脈を管理し整え、切れたら繋ぎ直す、循環器系の外科医みたいな事をするのが、龍神の御仕事なのだ。


人間の身体と違い大きい地球は、龍脈の中に入って繋ぎ直しに行くモノで、その治療行為を移動に使って仕舞おうと言うのが、『龍脈移動』である。


基本、龍脈移動は、龍脈が繋がっている場所なら、何処にでも出入り出来るが、1番出入りが容易いのは、神社仏閣である。それは、浅い地上に近いところに、氣が通る龍脈があるからなのだ。


まぁ、氣の通る龍脈の上に、業と神社仏閣が建っているのだから、よくパワースポットと成るのも頷ける。


但し、神社仏閣を管理する、宮司さんや住職さんが居ないと、その龍脈の氣を目当てに、良くないモノが住み着くので、廃神社や廃寺には近付かないのがオススメだぞ。


龍脈移動だけは、管理者である龍神の専売特許なので、オロチが龍脈を通って遣ってくるのは、先ずあり得ない。



「どうせ地上は歩き移動でしょうし、監視カメラにでも写って居るかも知れませんよ」


僕がそう進言すると、西園寺さんは


「ん~、オロチがどんな人間に、化けたか分からないので、写って居たとしてもねえ」


成る程、全部のオロチが寿司を持ってきたオロチの壱頭目と、姿が同じとは限らない訳か


そう言えば、弐頭目のオロチは、人間の女の子に化けてると、壱頭目が言っていたな。


ならば、全部の頭が同じと言う先入観は、捨てた方が良いかも


そうこう話して居ると、町内会に人達が現れて、婆ちゃんに案内をお願いし、僕はお茶の用意で大忙しに……



千尋(ちひろ)君、神様も大変ですね」


「神様が大変なのではなく、僕が大変なんです」

そう訂正する。


だって、淤加美(おかみ)様は、ゲーム遣ってるし、セイは風呂場で沈んでる。


忙しいの僕だけじゃん!


マジで、猫の手もぷにぷにしたい。いや、借りた位ぐらい。



「━━━━だったら、『神使(しんし)』を召喚されては、どうでしょう?」


神使(しんし)?」


「ええ、神使(しんし)とは、文字通り神の使いの事です。神無月など、神様が不在な時に、代理も行う眷族の事で、有名なのは、稲荷神社の『狐』や伊勢神宮の『鶏』、出雲大社の『蛇』等ですかね。他にも、厳島神社の『鹿』とか、動物型の眷族が多いですよ」


さすが元神社本庁の人。色々知っている。


「じゃあ、龍神の眷族って何なのかな?」

蜥蜴(トカゲ)(サンショウウオ)


「龍神だけは、神様の中でも特殊で、龍神の眷族は、龍神就任前の龍とか、子龍が成ったりしますね。後は、その土地に所縁(ゆかり)のあるモノとか……神様の逸話に関係のあるモノとかね」


「つまり、僕が龍神就任前に、神使だったと言うことか……」

そして、龍神就任後、神使の後釜が居らず、空白中と……


ダメじゃん!


「いや待てよ……確かこの瑞樹の地は、龍神に仕える神使が居たはずです」


「本当ですか!?」


「ええ、この神社の上にある龍神湖の昔話で、木部姫(きべひめ)に仕えた御供が、神使(しんし)に成っていたはず」




木部姫(きべひめ)


伝承によると1582年、戦国の世にて、嫁ぎ先の殿様が討死したのを知り、自分の夫を討ち取った、敵将のモノに成りませんと、龍神湖へ身投げをし、湖の中で龍神に成ったと伝えられている。


その時、木部姫に仕えていた腰元達も、後を追い入水し、龍神に仕える神使に成ったと言う。



「と言うことは、龍神湖で召喚すれば、神使が現れますね?」


「そう思いますよ」

確証はありませんけど、と続けたが、正直セイの奴が宛にならない為、神使が来てくれるのなら、胸襟を開いて出迎えよう。


ああ、もー。うどんの出前まだかな……


早く召喚してみたいのに、何してるんだろ。


さすがに、注文して置いて、留守にするのは失礼にあたるし。かと言って、浮いて飛ぶ淤加美(おかみ)様に出て貰うと、騒ぎに成っちゃうしね。


そもそも、淤加美(おかみ)様は思念体だけど、霊力のない普通の人に、姿が見えるのか疑問である。


そんな時━━━━


玄関の呼び鈴が鳴る。正にタイムリーなタイミング。



僕は、出前を受け取りに玄関へ行くと、そこには━━━━



「また、オロチ(お前)かよ……」


「毎度!! しっかし、良く食うな。お前ん処の客……巨人の大太法師(だいだらぼっち)でも、来てるんか?」


「そんな訳あるか! ウチの旦那(セイ)が、寿司を全部食ってしまったんだよ」


「マジか!? 20人前あったんだぞ!」

嘘だろ……と驚愕のオロチに


「オロチこそ、何やってんの? 寿司屋はどうした?」


「バイトの掛け持ちだよ。寿司屋の隣がうどん屋なんだけど、神社(ここ)石段あるだろ? 配達するのがキツイって言うんで、代わりに持ってきた」


神話の化け蛇の癖に、妙に優しいし。


もう心臓なんか探さないで、平和に暮らせよ……


僕は代金を払うと、代わりに空になった寿司桶を返す。


「寿司屋のおっちゃんに、ご馳走様って伝えてくれ」

全部セイが食ったので、僕は食ってないけど……


「ああ、元神さんが絶賛して、完食したって言っとく」

そう言うと、オロチは空の寿司桶を、重ねて持って帰っていく。


正体を知らなければ、普通の気の良い兄ちゃんだな。


ウチの旦那(セイ)にも、見習って欲しいものだ。


配達された、うどんを持って居間へ行くと、いつの間にか縄を抜け出したセイが、麦茶を飲もうとしていた━━━━が、口に含んだ途端噎せて吹き出した。


「げふぁあ! なんだコレ! めん汁じゃねーか!」


アホだ……アホ過ぎる。


「ちゃんと、めん汁って書いてあるだろ! よく読めよ」


「紛らわしんじゃああ! 色も似てるし、冷蔵庫の蓋の処に置いてあるし」


素麺(そうめん)用に作って置いたんだよ。冷えてた方が美味しいだろ」

本当アホだな。


オロチと、比べるまでも無かったわ。



その後、結局セイの奴も、うどんを3人前平らげるのだった。




食後、僕は西園寺さんと龍神湖へやって来ると。早速、神使召喚の儀を行う。


すると、現れたのは、着物を着た女性であった。


見た目は30前後かな……


「えっと……神使で良いのかな?」

僕は、湖面から上がった女性に声を掛ける。


「はい、私は『蟹』の神使でございます。桔梗(ききょう)と御呼びください」


「蟹の神使!? 珍しいですね」


「千尋君、確かに内陸部の神使として蟹は、珍しいですが。海辺の神社では、しばしば御見かけしますよ」


そう、ここ龍神湖では、内陸部で珍しい蟹の神使が、湖底のゴミを拾っては、綺麗にすると有名であり。


その為、蟹を食べた日は、蟹の神使の罰が当たる為、龍神湖へ近付いては行けないと言うのが、地元の人に伝えられている。


皆さんも、蟹を食べた後、蟹の神使のテリトリーに入っては駄目だぞ。



桔梗(ききょう)さんか、どうか宜しくお願いします」

そう言って、頭を下げると


「あ、あの。神様なんですから、頭を御上げください」


「いやね。夏祭りが近いのに、手が足りなくて困って居たから。正直助かります。他の方々(淤加美様とセイ)は、宛にならないし」


涙目で握手して、桔梗(ききょう)さんの手をぶんぶん振った。


「御痛わしいや龍神様。この桔梗(ききょう)が、全力でお仕え致しますので」

そう言って、ガッツポーズをする桔梗(ききょう)さん。


桔梗(ききょう)の花言葉は『清楚』『従順』だが、平将門(たいらのまさかど)とのエピソードがあるので裏切りの花ともされていた。


まぁ、スパイに入って寵愛を受けようとも、元の主人は裏切らなかったのだから『従順』と言うのも嘘ではない。


ただ、スパイされた側の平将門公視点だと、裏切り行為だった訳で。


立ち位置が変われば、見方も変わるのは仕方ないよね。


とまあ、ここまでは花言葉のエピソードで、神使の桔梗(ききょう)さんとは関係ない。



そんな桔梗(ききょう)さんを、ウチの境内に案内し、色々説明をすると、飲み込みが早く、此方も大助かりだった。


時代的ギャップがあるのを、色々教えた。釜戸じゃなくガスコンロとか、灯りも蝋燭でなくLED電灯とか、掃除機の使い方や洗濯機の使い方を教えて━━━━


現代生活の仕方。それと、神社の案内と部屋を用意して、午後は終ちゃったけど。


本格的に、夏祭りの用意するのは、明日からになるかな。



夜の帳が降り、夕食の用意をしなくては━━と献立を考えていたら


西園寺さんのスマホが鳴り、3頭目のオロチが、行動を起こした事を知る。


「千尋君。君の力も借りたい」


「オロチの事なら、心臓の入った勾玉を持っている以上、他人事じゃないので、構いませんが━━場所は一体……?」


「場所は、S県━━武甲山の南」


ここ瑞樹神社から、南南東の方角に直線距離で、約60キロって処か……


遂に、火蓋が切られる事になるのだった。



4話は、遂に戦闘です。


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