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龍神の花嫁 八俣遠呂智編(ヤマタノオロチ)  作者: 霜月 如(リハビリ中)
2章 2学期開始 東奔西走
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2-08 学園祭前の珍事

中学校の修学旅行初日の木曜日を3日後に控えた朝。


正哉(まさや)の東北行きを止めるどころか、協力することになってしまった。


はぁ……結局流されてるな……



「何よ千尋(ちひろ)、溜め息なんてついて。走って登校するのが嫌なら、もっと早く支度してよね」


僕の溜め息を勘違いした香住(かすみ)が、そう指摘してくる


そう……今朝も何時ものごとく、学園への道をマラソン中なのだ



「いやね、着替えは早かったんだよ。でもネズミが出ちゃって、朝から大騒ぎで」


「ネズミ!? 桔梗(ききょう)さん綺麗好きなのにどうして……」


「いやいやいや、ネズミが出たのは台所じゃなくて、セイの処」


「あぁ……元龍神様の処……」


すっごく合点がいったような顔で頷く香住(かすみ)



「僕もセイの部屋へ掃除に入ってるんだけどね……何しろネット通販の……天蔵(あまぞう)さんの未開封の箱が一杯で、手の付けようがなくてね……お菓子の食べかすとか凄いから、ネズミが出たんだと思う」


「うぁ、それで……(ふすま)とか色々壊れてたのね」


桔梗(ききょう)さんだけでなく、揚芋菓子を(かじ)られた淤加美(おかみ)様までキレたから、ネズミによる被害より甚大だわ」


「うむ、ネズミは我々龍よりも早く干支(えと)を取ったからな、ネズミは永遠の宿敵だ」


そう僕の頭の上で、術で小さくなって乗っている元龍神のセイが答えた


ネズミにキレた桔梗(ききょう)さんが怖くて、一緒に学園へ着いてきたのだ


「偉そうなこと言う前に、部屋を片付けろよ」


「あんなボロい社……ネズミなんて何処からでも入り放題だろ」


「ボロいって言うなボロイって……古くて(おもむき)があるって言えよ」


自分達が祀られてる神社を、なんだと思ってるだよバカチンめ



「だいたい、修繕で全部建て直しちゃえば良かっただろ」


「おまっ! いくらかかると思ってるんだよ! 普通の大工さんじゃ駄目なんで、宮大工(みやだいく)さん呼ぶだけだって、凄いんだから……だいたい、ボロボロになったのは、セイと淤加美(おかみ)様が……痛ててっ」


(わらわ)のせいにするでない! 千尋(ちひろ)だって壁に穴開けてたじゃろ」


淤加美(おかみ)様が現れて、僕の頭をポカっと殴るとそう言った


さすが分霊(わけみたま)が僕の中に居るため、何時でも内側から現れる



「あの壁の穴は、まだ尻尾に慣れてない時に、振り向き様に尻尾が壁に当たって……わ、わざとじゃ無いんですよ」


「知っておるぞ。あの時入ってきた、ヤモリに気をとられておったじゃろ」


千尋(ちひろ)! お前という奴は……俺と婚約中だというのに」


「ち、違うよ! 浮気とかじゃなく、純粋に可愛なって……ほら、ヤモリは『家守り』とも言うから、縁起も良いし……本当だよ」


だいたい、いくら龍がトカゲとか言われても、ヤモリは人の形してないし……ねえ



「話してる処悪いけど……千尋(ちひろ)、龍のお二方も、ちょっとペース上げないと間に合わないかも」


先行している香住(かすみ)がペースを上げる


龍のお二方ってセイは頭に乗ってるだけだし、淤加美(おかみ)様は思念体で飛んで着いてきてるんで、走ってるの僕だけじゃん!



遠くに学園の校門が見えてくるが、急げ~チャイムがなるぞ~と当番の教員が声を上げる


ギリギリに校門へ飛び込む僕と香住(かすみ)


淤加美(おかみ)様は、人間に見られぬよう僕の中に入ってしまうし、セイは不可視の術を自分に掛けて、頭の上で黙りを決め込んだ


昇降口で上履きに履き替えると、香住(かすみ)が━━━━━━


「そうそう、家庭科部の先輩から聞いたんだけど。今日、1年のクラスに、転校生が来るみたいよ」


「はい? 転校生? また何でこんな中途半端な時期に」


普通なら2学期始めとか、そう言う節目に来るもんなんじゃ?


もう9月も下旬に入るのに、何でまた……



「本当に不思議よねぇ、でもクラスは違うみたい」


「ふ~ん。また、こんな北関東の山の中へ、わざわざご苦労な事で……」


「いやいや、普通なら親の仕事の都合とかでしょ。その子供の趣味で、好き勝手に転校なんてしないってば」


確かに、好き勝手出来るなら、暖かい沖縄がいいなぁ。ここいらは、冬になると名物の『空っ風(からっかぜ)』が吹くから、滅茶苦茶寒いし


「僕なら、そうだなぁ……もっと南のグアムとかも捨てがたい」


「そこ……日本じゃないよね」


馬鹿なことを言いながら教室へ向かっていると、隣の教室の前の廊下で、すごい人だかりが出来ている


それも、女子生徒ばかり



「何かあったのかねぇ……」


そこへ、ウチの教室から正哉(まさや)が出てきて――――――


「よう、お二人さん。今日も仲良く登校かい?」


正哉(まさや)、おはよ。それより何あれ?」


僕は人だかりを指さして正哉(まさや)に問う


「あぁ、例の転校生だろ。男だし興味ないね」


ほう、男の子なんだ……それで女子生徒ばかり群がってるのか


僕も別に興味ないので、正哉(まさや)に続いて教室へ入ろうとすると、突然人だかりが割れて男の子が出てくる


背丈は正哉(まさや)より少し小さいぐらいで180ぐらいだろうか……髪は男子にしては長め。そのせいか、目に掛かる髪をかき上げながら、歩いてくるのだが―—―—


顔だちが良く整って居て、テレビで見るようなアイドルを彷彿させる


そんなイケメン君が、こちらに向かい歩いてくると


「やあ、君が瑞樹千尋(みずきちひろ)君だね。ボクは隣のクラスに転校してきた有村(ありむら) 浩人(ひろと)、今後ともよろしく」


そう言ってウインクしてくるが、何かがオカシイ


後ろの女子から、キャーキャーと黄色い声援が上がるが、元男子の僕にはどうでも良く思えてしまう。婚約者(セイ)も居るしね


しかし、有村と名乗ったイケメン君の視線には、凄い違和感が感じられた。



丁度その時、チャイムが鳴り響き、皆教室へ戻っていくが—―—―—―



「おい千尋(ちひろ)、大丈夫だったか?」


頭の上のセイが、心配したように問いかけてくる


「何のこと? 平気も何もウインクされただけだし」


「気が付いてなかったのか……あれは魅了の術を使っておったぞ」


「え!? それで違和感があったのか……」


たぶん常時発動(パッシブ)スキルの『術反射』が効いて、跳ね返ったんだと思うが、魅了が本当だとしたら、とんだ(たら)し野郎だ


男子生徒が全然大丈夫なところを見ると、どうやら魅了の術は、異性にしか通用しないようだった。


僕は教室に入ろうとすると、隣に居た香住(かすみ)が、自分の頬を叩いている


香住(かすみ)、大丈夫?」


「あ、うん。顔が多少熱くなって火照っただけだから……」


「さっきの魅了にやられたんだろう、俺の創った眼鏡を掛けてなければ、モロに魅了を貰って虜になってたな」


そう言って僕の頭の上で踏ん反り返るセイ


「あの眼鏡って尻尾が見えるだけじゃなく、魅了も軽減してくれるのか……」


ちょっと見直した


「他にも、玉ねぎ切るときに、目が染みないぞ」


それは100円の伊達眼鏡でも出来るじゃんか、前言撤回だコノヤロウ


次は、ブルーライトを軽減させる機能を付けようとか言っているアホ龍、うっかり座っても壊れない機能でも付けとけ



しかし、何で僕の名前を……どう考えても初対面だったはず


どーも、胡散臭いな……


僕は去っていく人だかりの群れを見送ってから教室に入ると、女生徒は鴻上(こうがみ)さんが残るだけで、あとは男子生徒ばかり


女子生徒は、さっきの転校生、有村(ありむら)に着いていったのか


廊下で教師が教室に戻れと、取り巻きに言っているようだが、皆魅了にやられているのか一向に解散しようとしない


結局大幅に遅れが授業に食い込んで、1時限目が始まったのは、30分をゆうに超えてからだった


これなら慌てて学園に飛び込まなくも、間に合ったな……


そう考えていると正哉(まさや)が—―—―—―—―


「全くおかしな野郎が来たもんだな……なあ千尋(ちひろ)、時間を無駄にすることはねえ、昨日言ってたアレやってみようぜ」


「幻影か? 良いけど先ず写真だな。本人を映すわけじゃ無いから、出来るだけ自然な写真をスマホに撮らないとね、それが出来れば8割終わったようなもの」


「じゃあ適当に座ってるから、どんどん撮ってくれ。後で使えそうなの選んで抜き出せばいいし」


そう言って正哉(まさや)は机に向かうと、ポーズを決める


「正哉……自然体って分かる?」


「おう! これでいいだろ」


「よくねええよ!! どうして『考える人』のポーズとるんだよ!! 自然体じゃないじゃん!!」


「いつもこんな感じだって」


違う……違うよ……ポーズが欲しいわけじゃ無いんだよ


そんなん浮かび上がらせたら、おもいっきり教師にバレるわ!



「バレたくないなら、目立たないポーズにして!」


「えー、こっちのが写真映り良いのに……」


バレて一緒に職員室に呼ばれるのは、中学で懲りたわ!


もう正哉(まさや)のとばっちりで、反省文は書きたくないので、無難な姿を撮っていくと、鴻上(こうがみ)さんがやってきて


瑞樹千尋(みずきちひろ)……私にも写真のデーター送りなさい」


「別にいいけど……わざとらしいポーズ写真は破棄したから」


「なんですって!? どうして破棄したの!!」


鴻上(こうがみ)さん……邪魔くせー、教員にバレたら駄目なんだってば、そこんところ分かってないよな


どれが使い物になるか分からないが、とりあえず枚数を撮りまくる



後は、人の減った放課後にでも、実際に像を合わせてみるだけなのだが—―—―


転校生、有村(ありむら)君の騒ぎが着実に広がっていた


ユウコ……俺を捨てるのか? とか、マサミ俺と昼飯の約束してたのに……等々


カップル成立だった男性陣から、被害が出ていて。その悪意が転校生有村君に向き始めるまで、半日と掛からなかった


だが悪意が向くと、それを擁護するように立ち塞がる女性陣が現れるため、実質男子生徒VS女子生徒の構図になっていたのだ



「まるで、西洋童話の笛吹き男だな」


そうセイが冷静にコメントを入れるが、あれは子供全部だったのに対して、こちらは女子生徒限定で操られている


つまり転校生に敵対すると、もれなく女子全員を敵に回すことになるって事だ


文化祭直前で何ってこったい


一致団結していた生徒の絆が、一気に崩れ落ちる。


良くない傾向だ。


毎回休み時間になると、消えてしまう女子生徒……


ウチのクラスは鴻上(こうがみ)さんと香住(かすみ)が残って居るだけでもいい方か


隣のクラスは、女子生徒一人もいなかったし



午後は、文化祭の用意になるため、授業はなく自由行動なのだが、女子が一人も居ねえ


「メイドカフェの衣装合わせとかどうすんのかな……」


「おーい千尋、隣も見てきたが、どこのクラスも女子が居なくて、文化祭の用意が出来ないでいるぞ」


正哉(まさや)が椅子に座り、新商品のジュースを飲みながらそう言う


正哉(まさや)よ、俺の頼んだミックスピザサンドは?」


「セイさんこれだろ。2学期から置き始めた商品では美味い方だぜ」


二人で昼飯を食い始める


「吞気に飯食ってる場合か! ウチのクラスは女子のメイドがメインなんだから、女子が居なきゃ始まらないでしょ!」


「とは言ってもな……無理やり連れていかれてる訳じゃ無く自分から着いていってるから、連れ戻し様が無いじゃんか」


確かに、無理に引っ張って来ようものなら、女子の悪意を全部受けかねない


其処へ―—―—―—―—


千尋(ちひろ)ちゃんの処も、酷い事になってるわね」


2年の小鳥遊(たかなし)先輩が現れて、僕の隣の空席に腰掛ける


「先輩!? 千尋(ちひろ)ちゃん処もって事は?」


「ええ、ウチのクラスも女子だけもってかれたわ」


学年関係なく魅了しまくるなんて、何がしたいんだろ


「先輩は大丈夫だったんですね。さすが祓い屋」


「実は男だったりして」


そう正哉がふざけて横槍を入れるが


「あら、斎藤(さいとう)君だったかしら……女の子になってみる? 協力してあげるけど」


「謹んで遠慮しておきます」


まったく、小鳥遊(たかなし)先輩は小百合(さゆり)ちゃんの上位サディストなんだから、弄らなきゃいいのに……アホな奴


「ところで先輩の処は、文化祭の出し物なんなんですか?」


「私のクラスは、お化け屋敷ね」


ど定番だな。教室を暗室にして、お化けの衣装だけ良いので、簡単にできるし。ドサクサで相手とくっ付きたいカップルが寄ってくるから、安価な割に集客も良い


「良いじゃないですか……て、不満そうですね」


「当たり前でしょ! あんなの子供騙しよ! 本物の化け物呼ぼうとしたら、クラスメイトに止められたし」


そりゃあ、全力で止めるでしょう。下手したら死人が出るし止めてください。


「しかし、よく密教展にしませんでしたね」


「そんなの、最初に却下されたわ」


提案したんだ……相変わらず凄い人だ



「あら、小鳥遊(たかなし)先輩。後輩のクラスまで来て、ご自分のクラスに友人が居ないのですか?」


また、しなくていい挑発を香住(かすみ)が入れる


高月(たかつき)さんこそ、あの魅了にやられて、馬鹿みたいに着いて回ってると思ったのに、案外魅了に対する抵抗値が高いのですね」


そう言いながら、僕の隣でお弁当を開ける小鳥遊(たかなし)先輩と、対抗するように僕の向かいで同じく弁当を開ける香住(かすみ)


教室の男性陣が、『あのグループやべえな……』『せっかく残った女子生徒なのに近寄れねえ』などの声が聞こえるが、そのグループに居る僕は居心地最悪なんですけど


しかし、このまま女子生徒を人質にされて、文化祭の用意が滞ると、文化祭自体が無くなる可能性もある


せっかく、初めての文化祭なのに……



この学園では、文化祭と体育祭が1年置きに入れ替わる


なので、来年は体育祭になってしまい、今年文化祭が出来ないと、次は再来年の3年生までお預けになってしまうのだ


せっかく用意してきた、文化祭の小道具も無駄にしたくないし


仕方がない、女子生徒奪還作戦を決行することにする!


僕は集まった勇士に、そう提案するのだった。




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