2-03 降雨神の意地
『脱走した沼田が、千尋君の所へ行ってないかと思って電話したんですが……その返答の様子では、行ってないみたいだね』
僕の驚きの声で、沼田が来てない事を察する西園寺さん
「ええ。今初めて知りましたし……ビックリしまったよ」
『千尋君の活躍で捕らえたのに、逃がして本当に済まない』
「別にそんな……皆の協力があってこそですよ。でも、恨みを買ってるのは僕だけじゃないですし、入院中の藤堂さんとか、大丈夫なんですか?」
一番恨まれてるとしたら、偽オロチを消滅させた僕だろうけど、入院中で動けない藤堂さんだって、危ないのは間違いない
寧ろ動けない分、僕より危険な気がする
『ん~。淳一郎のヤツは、じっとしてられない性分でね。病院を抜け出しては現場へ行くので、困り果ててるんだよ』
うぁ、再生持ちでもないのに無茶するなぁ。
「でもそれって、的を持って歩いてる様なもんじゃないですか?」
『うん……言っても聞かなくてね……前日も、軍艦島の炭坑跡を改築して造られた収容施設を調べてたし、淳一郎を大人しくさせるには、睡眠薬でも盛らないと駄目だと思う』
味方に睡眠薬盛るって……
策を弄しようとする、西園寺さんの苦労が想像できる
「取り敢えず、こちらは沼田に関わった人達へ、注意するように連絡します。そちらも気を付けてください」
『うん、ありがとう。あ、そうそう。尊君と連絡取れないんだけど……』
「あ~。たぶん九頭龍山だと思いますよ。大学生は休み長いですから」
偽オロチ戦の後。建御雷様が、修行のやり直しだ! って怒鳴っていたし
よほど偽オロチを、雷神剣草薙で仕留められなかったのが悔しかったみたいだ
あれは仕方ないと思うんだけどな……黒スライム2匹との連戦だったし……大技放つ前に、体力も減ってただろうしね
最終的に、修行へ行きたくないとゴネていたが、また九頭龍様に拉致されてたから……ナムナム
『成る程……修行中ですか……2柱もの神様が着いて居られるなら、沼田の襲撃も心配無さそうですね』
修行で、沼田の襲撃より、酷い目に合ってそうだけど……
神様達って、人間基準で修行してくれないから、超ハードモードだし
「人間で関わった、小鳥遊先輩や小百合ちゃんとか香住には、気を付ける様に言って置きます。他は大丈夫でしょう」
特に、ウチの神社は龍神も荒神も居るし。人間の婆ちゃん以外は、人外ばっかだしね。龍とか蟹とか
後、伝えるとしたら、オリジナルのオロチの壱郎君ぐらいかな。
とは言え、壱郎君も神話の八俣遠呂智の片割れだし。普通には倒されないよね
『じゃあ、お言葉に甘えて、連絡は千尋君にお願いしますね。こちらは気になる事があるので……』
「気になる事?」
『実は、沼田の一件が片付いてから、八嶋技研のラボに囚われてた、オロチの参頭目と肆頭目を救出したのですが……彼らの居場所が無くて、再封印を施そうと封印場所へ赴いたら、要石が無くなっているんです』
「要石……ですか?」
『ええ。まだ調査中なのではっきり言えませんが……オロチの封印を解いて回ってる輩は、オロチの復活が目的ではなく、要石が目的なんじゃないかと思うんです……まだ予想の域を出ませんがね』
西園寺さんの予想通りだとして。要石……そんなモノ何に使うんだろう
再封印を阻止するために持ち出してる?
分からない事だらけだが、嫌な予感しかしない
「あれ? 再封印出来ないと言うことは……参と肆のオロチ達はどうしてるんです?」
『彼らは暴れようとするので、対オロチ用の檻に入って貰らってます。壱郎君ぐらい、大人しくしてくれると助かるんですがね』
「まあ、壱郎君は特殊なケースですよ。現代に合った生き方してると言うか……生き甲斐を見付けたのが大きいみたいです」
2輪の免許取るって言ってたし、スマホも仕事で使ってたしね
あと、人間を食べなくも、他に食べ物が豊富にあるというのも大きい。本人は食う食う言ってるけど、脅してるだけで、全然人間を食べないもの
『成る程、現代に生き甲斐ですか……少し考えてみましょう。それと、要石について何か分かりましたら、また連絡します』
そう言って電話を切ってしまう西園寺さんの声が、少し疲れているみたいだった
事後処理とかで、あまり寝てないのかもね
寄りによって、今回騒ぎを起こしたのは、内部の八嶋技研だったのだから、余計に方々から突き上げも凄いはずだ
しかも、せっかく捕らえた首謀者を取り逃がした失態で、かなり責められてるのだろう
病み上がりなのに、心労で倒れなければ良いが……
僕はスマホをしまうと玄関へ向かうが━━━━━━━━
「よう、今帰りか?」
作業員姿のオロチの壱頭目こと壱郎君がウチの神社を修繕していた。
「うん。そちらもお疲れ様。着替えたら、冷たいモノでも持ってくるよ」
「そいつはすまねえな。それにしても、お前ん処の神社はよく壊れるな。こっちは仕事に成って良いけどさ」
「好きで壊れてるんじゃないよ! 今回だって、宝くじの2等が当たらなければ、修繕すらできなかったよ!」
お陰様で、宝くじの配当金がパーだ
だいたい、壊してるのは主に尊さんだし……
ん? よく考えたら前回境内に穴開けたのも尊さんじゃないか!
あんにゃろめ……後で一部分だけでも弁償させてやる
取り敢えず、先ほど電話で言われた、西園寺さんの話をして気を付けるように忠告をしたが、今度現れたら負けねえよ! と息巻いていた
もし戦闘するなら、ウチの神社はやめてね。もう修繕費ないから……
はぁ……また宝くじでも買うか……1等が当たればなぁ
無い物ねだりしても仕方がないので、着替える為にウチへ入ると━━━━━━
「おお、千尋帰ったかや?」
高天ヶ原へ行っていた筈の淤加美神が、揚芋菓子を食べている
「あれ? 淤加美様。高天ヶ原は良いんですか?」
「うむ。用事は済んだのでな。今帰った処じゃ」
揚芋菓子をバリバリと頬張る淤加美様だが、携帯ゲーム機が油まみれになるのが難点だ
そこへ神使の桔梗さんがポテトサラダを持って現れる
「古龍神様、こちらを御試し下さい」
「なんじゃこれは? 桔梗め、摩訶不思議なモノを持ってきおったな」
「摩訶不思議って……淤加美様。それも芋なんですよ」
「まことか? 千尋よ、妾を担ごうとして居るんじゃあるまい?」
なかなか信じようとしないので、僕が一口食べて見せる
「ん~。味付けも良いね」
「はい、香住師匠に、味を見ていただきましたから」
桔梗さん、着々と腕を上げているな。この分だと近いうちに僕も抜かれるかもね
僕が食べた後、恐る恐る箸をつける淤加美様
「おっ!? 美味い!!」
「でしょ。これはポテトサラダと言って、揚げるのではなく、蒸かして柔らかくなった芋を潰して、マヨネーズと一緒に野菜を和えたモノですよ」
「揚芋菓子と違ってさっぱりしておるのぅ」
「おきに召された様で光栄です。今年は野菜が高めと言うことなので、色々と無駄なく使えるように試しているのです」
「なんじゃと!? 野菜が高騰しておるとな?」
確かにテレビのニュースで雨が多くて日照不足と言っていたっけ
「何年か前程じゃないけど高いらしいね」
「雨が降った方が豊作じゃろ?」
「淤加美様、この現代だと、貯水技術も上がっていて、ここ北関東の水上山系ではダムが沢山あるので、まあまあに降れば別に要ら……」
「なんじゃと! 降雨の神としての妾の存在意義が……」
居間の畳に手をついて、落胆する淤加美様。
ダムだけでなく、農業用貯水地も沢山あるものね……降雨より止雨の能力のが、今の世では重宝されるだろう
「淤加美様、元気だしてください。干魃の年が、無くなった訳じゃありませんから」
「千尋……お前良いヤツじゃの」
何年か前にも干魃で、干上がったダムの底が歩けると話題になったし
そう言った年には、降雨も重宝されますからね
『次のニュースです。今年一番の台風が上陸する恐れが出てきました……』
つけっぱなしのテレビから、天気予報が流れていた
「…………千尋よ、決めたぞ! アレを阻止する」
そう言って、テレビの天気図を指差す淤加美様
「アレって……台風!?」
幾ら水神の龍神でも、無理じゃありませんか!?
降雨を否定されて、存在意義を見出だしたいのかな?




