2-02 担当決定
「正哉、学園祭どうすんだよ」
東北行きを宣言する正哉に、冷静になれと諭すのだが
「無論、両方とも成立させる」
「あのね、斎藤君。中学校の修学旅行と、ウチの学園祭の時期が丁度被るのに、両方とも出るなんて不可能でしょ」
「香住の言うとおり。そもそも、そこまで追いかけて、妹さんをストーキングする必要ないだろ? いい加減にしないと、家族でも訴えられるぞ」
「馬鹿野郎! 紗香のヤツ……夏休みのお祭りで、男の友達が居たんだぞ!」
夏祭りまでストーキングしてたのか……警察に追われたのに、懲りないヤツ
「はぁ……紗香ちゃんだって15でしょ。彼氏の一人や二人居ても当たりま…………ふっ……居ないわね…………」
「高月……自分で言ってて、自分にダメージ受けんなよ」
なんか今、香住にジーっと見られた様な……
「ほ、ほら。香住にだって、いい人が出来るよ」
僕がそう言うと、正哉と香住がヤレヤレと頭を振る
なんだよその反応……
「とにかくだ、その野郎を亡きものにするしか方法がねーんだ」
「待て待て待て、正哉がそこまで出張らなくも、小百合ちゃんが着いてるでしょうに」
この学園の2年生である、小鳥遊 緑先輩の従姉妹の小鳥遊 小百合ちゃんと、正哉の妹の斎藤 紗香ちゃんは親友で、紗香ちゃんの部活が無い日は、だいたい一緒に居るのだ
その紗香ちゃんも、夏の大会で敗退してしまった為。時間が開いて、二人共ほぼ毎日一緒に受験勉強をしているはず
受験と言っても、この学園と系列が同じなので、そのまま簡単なテストで上がれるのだ。入学と言うより、学年末テスト感覚である
寧ろ、廃校になった隣街からの編入組の方が大変で、テストも難しいと聞くからね。難しい編入試験を合格しているので、編入組の方が実際成績良いし
そう言えば鴻上さんは、隣街からの編入組だったな……
紗香ちゃん達は地元組だから、余程酷い成績じゃなければ、神経質になる必要はないのだが……元々、二人共仲が良いからね。微笑ましいほどベッタリだ
今風に言えば、『尊い』ってヤツかな
そんな小百合ちゃんが、親友の紗香ちゃんに、悪い虫が着くのを黙って見ているわけが無い
「ああ……あの性格のキツイ、紗香の友人な。確かにあの子なら、紗香を野郎の手から護る役を、任せられそうだが……あの子、紗香が本気で好きな相手だと、応援しちゃうだろ」
「まぁ、それが親友じゃないか? 僕だって正哉に好きな人が出来たら応援するし」
ガタン! と机を蹴る音を立てて、僕を睨む鴻上さん
親友の恋の応援も許して貰えないのかよ……
それとも、正哉と他の女の子をくっ付け様とするのが、気に食わないのか? 別に正哉をシスコンから真っ当な道へ引き摺り戻してくれるなら、鴻上さんでも応援するよ
筋金入りのシスコンなので、生半可では無理だろうけど……
取り敢えず、鴻上さんの方は極力見ないようにして、話を続ける
「小百合ちゃんの許しが出るぐらい、好印象の男の子なら問題ないじゃん」
「駄目だ! 俺が許してねえ!」
「正哉……お前は娘を嫁にやりたくない父親か!」
「俺が親父に見えんのかよ!? 兄に決まってるだろ!」
「威張って言うなよ……どうすれば認めるのさ」
「そうだな……俺より強くて、紗香を守ってやれる奴だな」
「分かった。じゃあ僕と勝負して、僕が勝ったら紗香ちゃんを自由に修学旅行行かせて、正哉は残って学園祭に出るように」
「待て! 龍神になった千尋に勝てる訳ねーだろ! スポーツテストで、幅跳びの砂場を越えたり、握力計を握ってぶっ壊す様な奴じゃないか!」
仕方ないでしょが、龍と人間でフィジカルステータスが違うんだもの
でも、鴻上さんの攻撃は、受け止めるのがやっとなんだよね
何か武術とか、やっているのかな?
「じゃあ、体力使わないのでも良いよ。水に顔つけて息を止めるのとか」
「よーし。それなら良いぜ」
掛かったな正哉。僕、一応水神の龍なんだよ。だから水中で息出来るんだよね
はい、そこ! 両生類とか言わない
「おい千尋、それはあんまりだろ……」
頭の上に乗せた、元龍神のセイが余計な一言を言う
「馬鹿、余計な事を言わないでよ! 黙っていれば、学園祭におとなしく出るんだから」
「だがな、正哉の奴は妹の為なら窒息しても、水から顔を上げんぞ」
うぁ、言われてみれば、そんな気がする
「と言うか、やけに正哉と仲が良いじゃないか……前は『小僧』とか言ってたのに」
「うむ。正哉とは、巨乳について語り合った仲だ。それに俺ももう龍神ではなく、ただの龍だしな……」
仲が良いとは思ったけど。案の定、ろくでもない理由だった。
「あ、あの……さっきから、瑞樹君の頭の上にある人形。喋ってませんか?」
しまった! 富沢さんだか富川さんだか……黙って静かにしているから忘れてたよ
急遽、念話に切り替えて
『セイ! 見えなくなる術掛けてないの?』
『ん? 正哉の奴に、妹の報告をしに来たんだ。見えなくなったら出来んだろ』
ヤバっ! じゃあ、ずっと見えてたんじゃないか!
幸い、他のクラスメイトは、学園祭の担当を言い合いしていて、気が付いていないようだ
「えっと……富……」
「富岡です」
「そうそう、富丘さん。この人形が喋った様に見えたのは、腹話術だから」
言い訳が苦しいか……
「そうなの? 瑞樹君、腹話術上手いんだねって動いてたじゃない!!」
うあ、バレてるし
「いや、本物みたいに、動く人形なんだって……」
「ふ~ん」
あぁ、疑いの眼差し……どうしよう
そこに━━━━━━━━
「とにかく、千尋は料理担当で、メイドはさせませんから。どうしてもと言うなら、代わりの料理人を捜してきてよね!」
机をダン! と叩き。自分に注目を集めてから、そう啖呵を切って話を強引に戻す香住。女子達から声援と拍手が贈られている。正直、セイから話題が逸れて助かった
女子の拍手喝采とは逆に、男子からのブーイングが凄いのだが、料理や飲み物が回らなきゃ、カフェ自体の存在意義が無くなるのだ
その辺を分かってか、最後は仕方なく引き下がる男子陣
これで文化祭の方は、担当が決まった
後は、女子がメイド服作り。男子は教室の飾り付けと言うことになり
僕達、料理担当の3人は、メニューの作り直し……ハンバーグなんて挽き肉捏ねてる時間無いし、却下! オムライスも外そうとしたが、正哉のきっての頼みと言うことで、数量限定にして出すことに
正哉……お前客じゃなく店側の人間なんですがね。忘れてないか?
メニューは大幅に減らし、飲み物はコーヒーと紅茶とオレンジジュースに緑茶
食べ物は、ショートケーキにサンドイッチとスパゲッティ、数量限定でオムライスに決定した
下ごしらえは、前日の夕方にすると言うこと等、打ち合わせをし
解散する頃には、すっかり夕方になっていた。
元々、始業式だけの半日で終わるはずが、ウチのクラスだけ夕方帰宅である
やっと解放された帰り道を4人で帰るのだが、なんで鴻上さんが……隣街だし、バス通学じゃないのかよ……
下手な事を言って、また鴻上さんに絡まれるの嫌だし。僕は黙って歩いていると━━━━━━
「でも、決まって良かったわね。ウチのクラスだけよ、2学期まで出し物が決まらなかったの」
そう言う香住に━━━━━━
「出し物は決まってたんだ。担当が決まらなかっただけだぜ」
正哉が知れっと言葉を返すが、誰のせいだよ……
「斎藤君達男子が反対してただけでしょ」
「うっ……だって千尋のメイド姿、見たかったし」
そういう事を言うと……ほら、鴻上さんが僕を睨んでるし。せっかく黙ってるのに、巻き込まないでよね
「大丈夫です。斎藤君の為に、私がメイド服を着ますから」
鴻上さんは、そう言うと、正哉の腕に自分の腕を絡ませるが、まだ季節は残暑。暑くて堪らないのか、鴻上さんの腕を振りほどく正哉
あんっ。と残念そうに呟くと、正哉の隣に並んで歩き出す鴻上さん
凄い執念だ……
そんなやり取りをしながら歩いていると、やがてウチの神社の鳥居が見えてくる
「私は千尋の処に寄っていくわ、桔梗さんから料理の質問があるらしいから」
そういって香住はスマホのメールを見せる
「お~。桔梗さん、さっそくスマホ使ってる。良いことだ」
せっかく買ったのだから、活用して貰わないとね
「元々タブレットPCを使い慣れてたから、応用が効いて早いみたい」
「んじゃ、俺は帰るわ。妹の紗香が心配だし」
正哉は、相変わらずのシスコンぶりである
鴻上さんも正哉にくっついて行ったので、香住と二人で石段を上り、境内に付くと僕のスマホが鳴り出した
相手は……西園寺さん?
「はい、千尋です。西園寺さんお久しぶりです。傷の具合はどうですか?」
『やぁ、千尋君。久しぶり。お陰様で、傷はもうすっかり治ったよ。イチ……いや、淳一郎はまだ肋が痛むみたいだが、順調に回復しているよ。ありがとう』
良かった。肋が折れてるのに狙撃しに来たり、色々と無茶するから、心配したよ
小百合ちゃんが襲われそうな処、助かったけどね
「で、今日は回復の報告ですか?」
『いや、実は収監していた沼田が、何者かの手引きで脱走したんだ』
━━━━━━━━えええええ!?
マジか!? 手引きっていったい誰が……
沼田一派の残党か!?
また大変なことになった。




