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龍神の花嫁 八俣遠呂智編(ヤマタノオロチ)  作者: 霜月 如(リハビリ中)
1章 夏休み クローンオロチ
29/328

28 夏休みの終わりに

K都府、某所


まだまだ残暑厳しい、熱い太陽の光が地面を焦がす中


極寒の地と成ってしまった屋敷の前に、1台のタクシーが停まる


極寒の地と言っても、それは屋敷の中の話で、外は相変わらず陽炎が立ち上ぼり


蝉が五月蝿く鳴き続けている



「やっと我が家に帰ってこれた」


「6400円です」


………………


「運転手さん。ちょっと待ってて、今家の者が……」


「待つのは構いませんが、メーター回して置きますよ」


くっ……なんて慈悲の無い運転手だ。こっちは、退院してきたばかりなのに、誰も優しい言葉を掛けてくれないなんて……


真夏に低体温症で入院した為、ナースたちの視線が痛々しく


中には、『冷蔵庫に入って遊んでいた』などと、やってもいない噂が流れる始末


熱中症患者で忙しいのに、何を馬鹿な事で入院しているんだと、陰口を叩かれ……身体より心に傷を負って帰って来たのだ


まあ、火之迦具土(ひのかぐつち)神を召喚したのは良いが、身体を維持するため周囲の温度を奪われ、低体温症で倒れたなどと言えるわけも無いため、反論もせず黙っていたのが、返って冷蔵庫説を増長させる事に成ってしまった。



だいたい、お玉さんは何をしているのか? 退院日は言ってあった筈なのに……


まさか、また極寒の屋敷に閉じ込められてたりして?


いやいやいや、セルジュが重機で大穴を開けて、そのままのはず……あの大穴まで塞ぐほどの氷は、残暑厳しいこの季節では無理であろう



仕方がない、入院費を払って薄くなった財布から、クレジットカードを取り出すと、それで支払いを済ませる


う~ん。かなり痛い出費だ


生活費の殆どは、お玉さんが持っているのに、何処へ行ったのやら……


タクシーの運転手によって無造作に下ろされた、着替えの入った荷物を担ぎ上げると


遠くに、エコバッグから、はみ出るほどの野菜を満載にした、狐巫女姿のお玉さんが、目にはいった


狐巫女と言っても、霊力の無い者には、狐耳と尻尾は見えない為、普通の巫女さんに見えるだろうが、買い物に行く時は巫女装束でなく、もう少し気を使った格好にして欲しいものだ



「あら、晴明(はるあき)様。お早いお着きで」


「お玉さん。今日退院って言ってなかったっけ?」


「伺っております。だからこうして、精力のつくモノを作ろうと奮発致しました」


エコバッグの中身は、沢山の野菜ものが入っていた


「精力って……野菜ばっかじゃないか」


「いえ、お肉はすでに屋敷に届いています。実は、セルジュさんからお肉が届きまして、京風すき焼きにしようかと……」


ほう、すき焼きねえ。よいではないか! 相変わらずセルジュは良い働きをする


「それで、セルジュは何処に?」


「東北だそうですよ。()頭目の封印が、そちらに在りそうとかで……だから、お肉もM県の牛肉なのです!」


嬉しそうに小躍りしながら、くるくる回る狐巫女


お玉さんも、少しはセルジュを見習って欲しいものだ



しかし、東北か……思わぬところにあったな


残りは沖縄方面と出雲……その他にあと一つ


出雲は、神が集まる土地である為、手が出せんし。壱頭目の封印場所は、北方で今はロシア領……弐頭目に至っては、封印場所すら分かっていない。


その為、本来の計画である『要石(かなめいし)』の回収も、参頭目と肆頭目の2ヶ所分だけである


まだ足りぬな……


計画を実行するには、東北のオロチの封印を解き、3つ目の要石を手に入れ。最低でもあと一つ……沖縄方面の要石も手中にせねば……


そう、考えながら玄関の扉へ手を掛けるが━━━━━━


「あれ? 開かないし……」


「あぁ、晴明(はるあき)様。玄関は凍りついてて開きませんよ。セルジュさんの開けた穴から出入りしてくださいね」


そう言って裏手に回っていく狐巫女に着いていくと、セルジュの開けた大穴が見えてくる


「少し無用心ではないか?」


「大丈夫です。晴明(はるあき)様が入院なさってから、3度ほど不届き者が入りましたが、全員凍りついて救急車で運ばれました」


隣の病室にも、低体温症の患者が入院したと、ナース達の噂話を聞いていたが……ウチに侵入した、不届き者であったのか……成る程、得心がいった


しかし、このまま入ったら、また凍って病院行きに成ってしまう


どうしたものか……と思案していると━━━━━━


「こちらのコートとマフラー……それからカイロも装備してください」


「絶対、真夏に着るような服じゃないよな……」


手渡されたコートを羽織っていると、突然スマホが震え出す


画面に出た名前は……セルジュか?


晴明(はるあき)様、御退院、おめでとうございます。未だに東北を捜索しております故に、電話で失礼致します』


「うむ、心配かけたな。それで、何か見付かったのか?」


『オロチの封印の方は、まだ行方知れずですが……先日、瑞樹(みずき)の龍神達と八嶋技研(やしまぎけん)との間で、戦闘があったようです。詳細はメールに添付して置きましたので、時間のあるときにでも……』


「ご苦労、あい分かった。引き続き封印の方の捜索を頼む、要石(かなめいし)の回収も忘れずにな」


御意(ぎょい)!! では、失礼致します』


セルジュ、本当に仕事の出来るやつだ


電話が切れた後、セルジュの添付ファイルの報告書を読む


ほう……沼田克彦(ぬまたかつひこ)……オロチのクローンを創造するほどの生物学者か……


神話の生物を複製するとは面白い



収監先……N崎県、軍艦島、地下施設━━━━━━━━



「お玉さん。すき焼きは延期だ! N崎へ行くぞ!」


「え~。買ったモノ駄目にならないかな……」


「これだけ、冷えていれば、悪くならないって。ほら、さっさと用意しろ! それから迦具土(かぐつち)、留守を頼むぞ」


屋敷の中の、姿が見えない迦具土(かぐつち)に、声を掛けると


『戻って来たと思ったら、直ぐに出掛けるとは……(せわ)しい奴め』


呆れたように言われてしまった。



そう呆れるなって迦具土(かぐつち)、お前に身体を用意してやれるかも知れないのだからな



嫌がるお玉さんを引き摺るように、屋敷を後にするのだった。






◇◇◇◇◇◇◇◇






同刻、北関東の瑞樹(みずき)神社……



ではなく━━━━━━━━



瑞樹(みずき)神佑地(しんゆうち)から隣街まで、買い物に出てきた千尋(ぼく)香住(かすみ)……他に、元龍神のセイと神使(しんし)桔梗(ききょう)さんの4人で街を歩く


前々から、香住(かすみ)とスマホを買いに行く約束していたので、2学期前に間に合うようにと神社から引っ張り出されたのだ



「もう、千尋(ちひろ)ったら、()けないスマホ下さい! なんて言うから、定員さんキョトンとしていたじゃないの」


「いや性能より、そっちのが重要だし」


「在るわけ無いでしょ! まったく恥ずかしいな」


「そんなの、聞いてみなくちゃ、分からんでしょうに」


分かるわよ! と突っ込まれてしまった



「あの……千尋(ちひろ)様。試しに掛けてみて良いですか?」


ずっと新しいスマホと格闘していた神使(しんし)桔梗(ききょう)さんが聞いてくる


2学期が始まれば、僕は学園へ通い、桔梗(ききょう)さんに神社を任せる事が多くなるので、桔梗(ききょう)さんにもスマホを持たせることに成ったのだが……


神社(ウチ)に来てから、タブレットPCを使い慣れているので、スマホも違和感無く行けるかと思いきや、電話機能がよく分からないと、店を出てから色々格闘していたのだ。


香住(かすみ)に教わりながら、僕のスマホへ電話を掛ける桔梗さん。


通話機能を使ったことないとか……なんだか新鮮だなぁ


電話が掛かって来るも、距離が近すぎて意味がない状態だが、本人が喜んでいるので、別に良いかと思ってしまう


「セイも買えば良かったのに」


「俺は要らねーよ。人間以外となら念話があるし、神社の固定電話もあるから、出前を頼むのにも困らんしな。それより、千尋(ちひろ)。例のところ行くんだろ?」


「うん。銀行でしょ? 寄ってくよ」


実は、夏休みに入って直ぐ位のころ。買い物の帰りに『宝くじ』を買ったのだ


本来なら、買ったことなど無かったのだが、自分が龍神になって、どれだけご利益があるかを確かめたくて、10枚ほど購入してみた


ネットで調べるのも面白味が無いので、宝くじ売り場へ持ち込んで調べて貰ったら、高額当選があるので銀行へ行って下さいと言われてしまったのだ


先日の騒ぎで、壊れた神社の修繕費に当てられると、喜んで出てきたら、セイがハンバーガーを奢れと着いてきたのだ。普段引きこもりの癖に、こう言う時だけ着いてくるんだから……



まあ、修繕費に比べれば、ハンバーガーなら安いものだし、別に良いか


それにしても、昔には存在しなかったからかな……神様達は、ジャンクフードに()まる傾向があるようだ。ウチの神様だけかな?


美味しいから分かる気はするが、毎日はさすがに……飽きないのかな?



「じゃあ、私と桔梗(ききょう)さんはスーパーに行ってくるね。何か必要なモノある?」


「ん~、淤加美(おかみ)様へ芋菓子かな……後は適当で」


揚芋菓子が無いと、淤加美(おかみ)様が拗ねるからね。また寝ている隙に身体を動かされて、コンビニへ買いに行かされたくないし


香住(かすみ)達と一旦別れて、銀行へ向かうと、見知った顔が━━━━━━


「よう、苗場山(なえばさん)依頼だな。龍夫婦揃って銀行とは、また珍しい」


そこには、銀行の通帳を持った、オロチの壱郎(いちろう)君が受付待ちをしていた


「その節はどうも。それと、祝言は学園を卒業してから、なのでまだ夫婦じゃないからね」


一応、訂正しておくと、僕と壱郎君の間に、セイが割り込んで━━━━━━━━


「ふん、蛇の癖に銀行とか……強盗でもするんじゃないのか?」


「あんだぁ! どこぞのヒモ龍と違って、オレは働いてんだぞ。今日は給料日なんで、給料おろしに来たんだよ!」


「あん!? ヒモ龍とは誰のことだ? こらぁ!」


はぁ……すぐ喧嘩するんだから、少しは平和的に行かないかねぇ


整理券を取って、後ろに並ぶと、マスクにサングラス姿の男が銀行に入ってくる


そして、僕と目が合った途端━━━━━━━━


背中へ回られて、後ろからナイフを喉元に突きつけられたのだ


「よーし! この女の命が欲しければ、金を出せ!!」


「マジか……」


この男……正気ですか? 神器ならまだしも、龍神になった僕に、普通のナイフが刺さると思ってるのかな?


爪ですら、爪切りの刃が欠けてボロボロに成ってしまい、切る事すら出来ないのに……


しかし、ナイフで刺されても平気とか、他の人間にバレると厄介だしなぁ


どうしたものか……



セイに視線を送ると━━━━━━━━



「偽物のオロチに歯が立たなくて、ヒイヒイ言ってた癖に」


「あぁあん? 誰がヒイヒイ言ってたよ。貴様なんか尻まくって逃げたじゃねえか!」


「に~げ~て~ま~せ~ん~。作戦でダムまで行ってたんだよ!」


…………駄目だ彼奴等(あいつら)



「おい! そこ! うるせーぞ!」


ナイフを持った男がイライラしながら怒鳴り声をあげる



「「あん!?」」


うわ……二人共、凄いヤンキー顔で強盗を睨んでるし、少しは話を聞いてあげようよ……


「人間の癖に、うるせーだと? 食っちまうぞ!!」


「俺は食わねーけど、元龍神の俺様に対して、良い度胸だな人間!!」


「人間食わねーとか、自分だけ良い子ちゃんか? こらぁ! 元龍神ったって蜥蜴(とかげ)じゃねーか!」


「あんだと!? くそ蛇が! テメーこそミミズじゃねーかよ!」


あーもー、収集が着かない。



仕方ない……自分でなんとかするか……


僕は尻尾を使い、強盗の背中をトントンと叩く


「あ? 誰だ!?」


案の定、僕の尻尾は見えていないらしい。


再度、尻尾で背中を叩くと、強盗が状況を把握できずに、くるくる回り出す


「な、何だ? 何か居る……だ、誰だ! 出てこい!!」


錯乱(さくらん)状態に(おちい)ってるし、何か楽しく成ってきた


またまた背中を叩くと、流石に青い顔になって━━━━━━━━


「な、何が居るんだ? くそお! 俺は幽霊なんて信じねーぞ!」


良い心がけだ。でも、人質に取る相手は選ぼうね


錯乱(さくらん)しきっている、強盗の足を尻尾で払い、転倒させる


強盗は受け身をとろうとしてナイフを離してしまったので、直ぐにナイフを蹴り飛ばし、強盗の手の届かない場所まで床を滑らせた



「ナイフ……無くなっちゃいましたね」


「いったい何が……おい、この銀行何か居るぞ……俺はもうゴメンだ……」


ナイフを失った強盗は、そう言いながら、銀行から這うように外に出る


そこへ、外で待ち構えていた警察に、現行犯逮捕されて連行されていった


パトカーへ乗せられる時に、『その銀行、お祓いしてもらえ!』と叫んでいたが、誰も相手にしなかったのは、言うまでもない。



強盗騒ぎになったんで、銀行の窓口も停止してしまい。宝くじの換金は出来ないし、事情聴取までされるとの事……


仕方ない、喧嘩している二人を引き離し


セイに、香住達との待ち合わせ場所へ行って貰う事に━━━━━━



「ごめん。人質だったんで、事情聴取に呼ばれちゃった。ちゃんとハンバーガーは買って帰るから、香住達にも伝えておいて」


「仕方ないな……ハンバーガーは、ポテトセットで2つな」


くっ、足元を見るなコノヤロウ。(おごる)るのは約束だし、それで手を打とう



その後……結局2時間もの間、調書を取られる事になる。


尻尾の事は話せないので、矛盾が無いように『強盗が急に叫んで錯乱(さくらん)した』と言っておいた


叫んだのも、錯乱したのも事実だしね



帰るときには、すっかり日は落ちていて、約束のハンバーガーを買って帰る事に……


道中、オロチの壱郎君とアパートの大家さんが、居酒屋へ入っていくのを発見した


「なんだかんだ言っても、人間と上手くやってるじゃないか」


平和な日々が続くなら、言う事なしだわ



騒がしい夏休みの最終日だったが、それも……何時も通り


翌日からの、学園生活も平和だと良いなぁ


そんな淡い願いを胸に、僕は神社(ウチ)へ帰るのだった。



これで、1章が終わりです

2章は、2学期のお話になります

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