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龍神の花嫁 八俣遠呂智編(ヤマタノオロチ)  作者: 霜月 如(リハビリ中)
1章 夏休み クローンオロチ
27/328

26 苗場山にて

お昼を回り、3時のおやつの時間になろうと言うのに、沼田と偽オロチは現れようとしなかった。


皆、待ち草臥(くたび)れてしまい。淤加美(おかみ)様達は、約5500メートルにもなる、日本最長のゴンドラを乗りに行ってしまった。


『ぬおお、凄いのじゃ! まるで龍が天に昇るようじゃのぅ』


淤加美(おかみ)様から歓喜の念話が飛んでくる


(はしゃ)ぐのは構いませんが、他の人の前で、飛んだりしないでくださいよ』


大騒ぎに成りますから……


五月蝿(うるさ)い奴じゃのう、分かっておるわ、御主の旦那も()るので、大丈夫じゃ』


『セイが一緒だから、余計に心配なんです!』


『お前らな……念話が聞こえてるぞ!』


『聞こえてるなら、ちゃんと淤加美(おかみ)様を見ていてよね』


うむ、任せておけと返事だけは良いのだが……セイの奴、大丈夫か? 本当に……


僕は頂上で、オリジナルオロチの壱郎(いちろう)君と、偽オロチ待ちをしているが、なかなか姿を現さないのに、すっかりヤル気を無くしている


巌流島(がんりゅうじま)佐々木小次郎(ささきこじろう)になった気分だ


更に、時間が過ぎ……日が暮れそうと言う時刻に、遠くから大型ヘリ数機が巨大な生物をワイヤーで吊るしてやって来るのが見えた


僕達のヤル気減少は、(すで)にイライラへと変わっていて、日没迄に現れなかったら、帰ろうとしていた処だ


夕日をバックに、飛んでくる姿は、さながら西部劇でも真似ているようだった


まさか……格好をつける為に、夕方まで待ったんじゃ無いだろうな?


僕達は、さらにイライラが(つの)


「おい、雌龍。もう此処(ここ)から撃ち落としちまえよ」


かなり御立腹な壱郎(いちろう)君が、そう提案するけど、ヘリを操縦している人達にまで、当たりそうだし


さすがに、それは我慢する。


大型ヘリが近付くにつれ、偽オロチが良く見えるようになるが、首が……3本!?


と言うことは……全ての頭が、それぞれ個のDNAを持っていると言うことになる


もし同一のDNAなら、1頭分で8本全部の頭が復元出来た筈だからだ


しかし、此方(こちら)側には喜ばしい事で、3本って事は8本の完全体より、半分以下の戦闘力だと言うことだから、かなり勝算は上がる(はず)


ヘリはやがて真上まで来ると、ゆっくりと地上へ降りてくる


目と鼻先に降ろされた偽オロチだが……なんと言うか━━━━━━


小さい……


いや、地上最大の哺乳類である、象よりも遥かに大きいのだが、神話では山と同じ大きさだと聞いていたし、オロチの心臓だって、勾玉へ封印される前は、大型トラックで輸送していたと言う話だった


そこから想像するに、オリジナルの大きさは、相当な巨大な蛇の集合体であり


対する偽オロチは、象3~4頭分位の大きさだから、肩透かしも良いところだ


「こんな貧弱なのがオレの(まが)い者だと? 馬鹿にしやがって」


オリジナルの壱郎(いちろう)君が怒るのも無理もないが━━━━━━━━


「落ち着きなよ、あれでも首3本。単純計算で壱郎君より3倍の強さだと思うよ」


まあ、DNAのコピーだから戦闘の経験までは、コピー仕様がないだろう


よって戦闘が長引いて、戦闘経験を積ませては、どんどん差が広がっていくという、此方に不利な条件が重なって行く事になる


一気にけりを着けよう……そう思ったとき━━━━


飛び去るヘリから黒い何かが飛び降り、少し斜面を下った場所に落ちていった


マズイ! あそこは、(たける)さんが伏兵として、隠れている場所の辺りだ


「挑戦状は受け取ったよ、オリジナルのオロチ君。遅くなって済まないね。何せ培養液を出たのが昼前だったのだから、調整に手間取ってしまったよ」


そう言って、偽オロチの陰から白衣の男が姿を現した


沼田克彦(ぬまたかつひこ)……」


「おおっと、生意気に天才の私を呼び捨てとは、一体キミは……ふむ……報告書にあった元人間の娘か? 龍と聞いていたが、タダの巫女ではないか」


僕の身体を値踏(ねぶみ)みをするように、頭から足元まで眺めてそう答える沼田だが


どうやら、僕の角と尻尾は見えていないようだ。霊力は無いと言うことかな


「ただの巫女で悪かったね。散々待たされた鬱憤を晴らさせて貰うよ」


「威勢の良いことだが、お前達の作戦は、全部衛星で見てたので、全てお見通しだよ。どうやら、伏兵が居たようだが、そちらには失敗作を差し向けて置いた、断念だったね」


失敗作!? 昨日の黒スライムか?


アレがまだ居たなんて……想定外だ


道理で沼田一派が、誰もヘリから降りてこない訳だわ。制御の出来ない、失敗作の黒スライムに、巻き込まれたくないのだろう


しかし、衛星か……それも完全に見落としていた。異形との戦闘ばかりだったので、現代戦の宇宙の眼である衛星を忘れていた


此方には、天候操る術があるのだから、曇りにして衛星の眼を奪って置くのだったわ


完全に僕の落ち度だ



「さっきから、お前らの話……『えいせい』とか……よく全然分からねーけど。神器の兄ちゃんが危ないのは、何となく分かった。此処は任せて助けに行きな」


壱郎(いちろう)君……こっちも余裕なんて無く、最初から不利な状況じゃないか」


「ばーか。最初から不利なんて、やってみなけりゃ分かんねーだろ。元々、(まが)い者をぶっ倒すのがオレの目的だしな。だから、心配せずに行け」


「…………済まない、直ぐに戻るから」


「ふん。其れまでには、ぶっ倒して終わってるかもな」



壱郎君、強がって見せているが……絶対無理だわ


僕は、荒神狼のハロちゃんに残って貰うと、全速力で斜面を下る


今回の偽オロチ戦で、切り札である『雷神剣草薙(らいじんけんくさなぎ)』の撃てる、(たける)さんがやられたら、逆転は不可能になってしまうのだ


同じ意味で、1発が限度の雷神剣草薙(らいじんけんくさなぎ)を、黒スライムに使ってしまっても、詰みである


だからと言って、御霊(みたま)無しの神器では、複製されてしまい(たける)さんに勝ち目はない



僕は斜面を下りながら、セイへ念話を飛ばす


『そちらの用意は?』


『もう少しでダムへ到着する処だ』



では、手筈通りに。と言って、念話を終了すると━━━━━━━━



僕は更に斜面を加速し、(たける)さんが戦っている場所へ向かうが


ヤバ! 勢いが着きすぎて止まれない


ならば、いっそうの事……このままペットボトルの水を漆黒(しっこく)に変換し、(まとい)いながら黒スライムに突っ込む!


ペットボトルの蓋を外している間が無いので、ペットボトルごと漆黒(しっこく)に融かし変換していく


黒スライムが……3匹!?


ええい、近いのから片付けるしかない! そのまま進行方向にいる黒スライムに突っ込むと、プシューっと音を立て漆黒に融けて消える


まず1匹! そのままオーバーランで下ってしまったが、どうにか崖ギリギリで止まり、(きびす)を返し登りに切り替える


「雨女! 助かったぜ」


此処(ここ)は僕に任せて、(たける)さんは偽オロチの方を」


建御雷(たけみかづち)様の姿が見えないが、尊さんの持つ草薙剣の刃に雷が走っているので、神器解放は既に行っているようだ


御霊(みたま)入りにしていると、大技を撃たなくも、どんどん体力が減っていくのに、大丈夫なのか?


でも、神器解放は行わないと、黒スライムに複製されてしまうし、仕方なかったのだろう


黒スライムは僕の漆黒と相性が悪いと察したのか、尊さんの後を追おうとするが


踵を返した処を、漆黒で捕らえ闇に融かす。残り1匹


漆黒は真似したくても、水が無ければ出来ないし、簡単に融けて良い感じだ


元々、再生が高いだけで、防御力は少なかったのだろう、漆黒に触れただけで即融けるし



残りの黒スライムに、漆黒を(まと)いながら近付くと━━━━━━


なんと! 黒スライムは自分の身体の水分を、漆黒に変換し始めたのだ


真似っこめ……だが、それは自滅への片道切符である


僕が漆黒を(まと)っても平気なのは、『術反射』が常時発動しているからであり、他の者が漆黒を(まと)えば、たちまちのうちに、自らの身体が闇に融けて、消えてしまうだろう


まさに目の前で、自らを闇に変換し、闇に融けて行く黒スライムがそうである


僕も全くの無事でもないんだよね、服融けちゃうし……あれ? 勾玉どうしたっけ?


………………あ! 小百合ちゃんに預けたままだ!


小百合ちゃんと先輩には、戦闘が落ち着くまで、隠れて居るように言ったし。たぶん、大丈夫だと思うけど……無茶しないよね?


既にお昼から長時間待たされたし、沼田に突撃してなきゃ良いな……


嫌な予感を抱きながら、斜面を登るが


移動の際に、漆黒が地面を削るので、抵抗が掛かり重くて仕方がない。


でも、漆黒を解いてしまうと、水場がない限り、再び漆黒が張れなくなってしまう


ダムへは、苗場山を降りなければ成らないし……


仕方がない、最低限の薄さまで漆黒を解いて、抵抗を減らし登る速度を上げる事にする



そうやって登っていくと、丁度(たける)さんが偽オロチへ雷神剣草薙(らいじんけんくさなぎ)を放つ処だった



雷を(まと)った衝撃波が偽オロチへ迫る━━━━━━



直撃! 轟音と共に砂礫(されき)が舞い、爆風で目を開けていられない



やったか? 誰もがそう思って疑わなかった



やがて、爆風が収まり、(ほこり)が散って視界が晴れていくと、黒く焦げた塊が残っている



「嘘……だろ?」


尊さんがそう呟くと、体力を使いきった為に膝を折った


『神器解放を行ってから、だいぶ体力が削られてしまっておったし、仕方がなかろう……』


そう草薙剣から、建御雷様の声が聞こえる


つまり、100パーセントで撃てなかったと言うことか……



完全に仕留めきれなかった偽オロチは、既に再生を始めていた


尊さんの(かたわら)らには、やはり満身創痍(まんしんそうい)の壱郎君と狼のハロちゃんが、肩で息をしている


マズイ、僕も殆ど漆黒を解いてしまい、偽オロチを融かせるほど残っていない


「ふはははは。どうだね!? 私の創った最高傑作は! 最早(もはや)、オリジナルすら、及ばないほどではないか! 素晴らしい! 実に素晴らしい! オリジナルに代わって、私のオロチが真のオロチと成るのだ!」


沼田の白衣が、土埃(つちほこり)で薄汚れて居るところを見ると、雷神剣草薙(らいじんけんくさなぎ)の衝撃波で吹っ飛ばされ、斜面を転がっていたのだろう



そんな、沼田が大袈裟に勝ったぞ! と(はしゃ)いでいると━━━━━━


沼田の背後から、背中を蹴り飛ばす、小百合ちゃんが現れる


「この天才を足蹴にするとは、いったい……」


「あら? 私の顔を覚えていませんか? 沼田先輩」


「貴様は! 小鳥遊(たかなし)小百合(さゆり)!?」


「覚えてらしたのですね。お久しぶりです。7年ぶりでしょうか?」


「忘れるものか! 貴様のお陰で、エリートコースから落とされ、再び這い上がるのに、どれだけ苦労させられたか……」


「あら、沼田先輩の部屋にある標本とか、動物虐待の証拠を教育委員会へ提出しただけですよ。沼田先輩のように口で嘘の噂を広めたのと違い、ちゃんと写真の証拠付きですから、どちらの言い分が正しいか、教員達も分かったのでしょうね」


「貴様……それを教育委員会だけでなく、ビラにして校内に撒いただろ! 噂が噂を呼んで、人間の標本もあるんじゃ? なんて言われ、家宅捜索まで入ったんだぞ!」


「それは知りませんよ。普段の行いが悪いから、変な噂が出るんです。まあでも、動物虐待は本当の事でしょう?」


「動物だぁ? ふんっ! あんなものモルモットではないか! ネズミも猫も犬も、たいして代わらんさ。私の精神安定剤代わりにで死んで貰ったのだ、役に立っただろう」


こいつ……命を何だと……


実験と虐待は違うだろ! 救いようが無いとは、この事を言うんだな



そんな、沼田に気を取られてる間に、偽オロチの再生がだいぶ進み、3本の頭のうち1本回復してしまう


「ふんっ! オロチよ、小鳥遊小百合を殺れ!」


命令を受けたオロチの口が開き、ブレスを吐こうとする


マズイ、小百合ちゃんの前へ割って入ろうにも、距離がありすぎる!



間に合わない! そう思った時━━━━━━━━



何か小さいモノが偽オロチを貫き、急に動きが止まったのだ


そして、遅れて銃声がする


銃声が後から来るほどの長距離狙撃!?


後ろを振り返ると、遠くの空に、ウチへ不時着したヘリが、調子悪そうに飛んでいた


直ぐ様、『龍眼』を使い望遠を行うと



運転席に佐伯(さえき)中尉、後部に双眼鏡を持った西園寺(さいおんじ)さんと━━━━━━━━



あれは! ライフルを構えた藤堂(とうどう)さん!!


良かった、気が付いたのか


西園寺さんが、双眼鏡を覗きながら親指を立てると、ヘリは南へ引き返していく


一矢報いたって感じか……格好つけちゃって……無茶するよな、本当に……


偽オロチの方は、痺れて動けないみたいだ


「此れは、1課の開発した麻痺弾!? くそう! 西園寺と藤堂め! 生きていたのか!?」


悔しそうに地団駄を踏む沼田だが、偽オロチを倒せる切り札が無いのは、此方も一緒


どうしたものか……


そう思案していると━━━━━━━━



上空から水のレーザーブレスが偽オロチを切り裂く


あれは……龍化した淵名の龍神さんと、背中に乗った香住!?


「遅れて行くって言ったでしょ。淵名の龍神様を呼んでいたの」


そう言って長い棒を投げて落とす


「危な!! 当たったらどうすんだよ!」


「大丈夫よ、当たらないように投げたから」


いや、絶対狙ってただろ。それに此れ……(ひいらぎ)八尋鉾(やひろほこ)!?


「ウチの物干しにしていた八尋鉾(やひろほこ)じゃん! 中身空っぽだよ」


「うん。だからそれを御霊(みたま)入りにしたら、草薙剣(くさなぎのつるぎ)と同じでしょ」


うぁ、理屈じゃそうだけど……


「ならば、儂の出番かのう」


「く、九頭龍様!?」


「ほっほっほ、久しぶりに(たぎ)りおるわい」



そう言って九頭龍様が八尋鉾(やひろほこ)に入ってしまった



光輝き変化する八尋鉾



何か、凄いことになった





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