22 追ってきた過去
ルビを忘れていたのでルビ振り修正です。
西園寺さんと藤堂さんを奧の客間へ移した後
滅菌、止血等、僕の出来る手当てが終わって居る為、あとは安静にして自力の回復を待つしかないので、結局は看ていることしか出来ない。
それならばと、裏手の不時着現場へ行き、煙が燻っていたヘリコプターに、念のため水を掛け爆発による2次災害を防ぐ
こういう時、水が操れるのは便利だ。バケツに汲んで往復する必要もなく、小川の水を空へ巻き上げ雨を降らせる
水量が少ないので、町全体って訳には行かないけど、ヘリの上だけなら簡単なものだ
神社裏手からの帰りがけに、半壊した境内を見て溜め息をつく
幸い、拝殿、本殿共に無事ではあったが、絵馬掛けとか灯籠等が、後ろの竹藪ごと一掃されて、随分と見晴らしが良くなってしまった。
御霊入りの神器、恐るべし威力だ
しかし、建御雷様の御霊入りでこの威力ならば、他の神様ならどうなるんだろう
水神の淤加美様なら水がでるのかな?
だとするならば、天照大御神様なら、『太陽剣』とか『光の剣』とかになるのかも
それはそれで格好は良いけど、もうウチの境内で試し打ちするのは止めていただきたい
この壊れた境内の石畳とか諸々━━━━━━
西園寺さん処の『八荒防』で、修繕費出ないかなぁ
駄目なら、小鳥遊 尊さん処の実家の御寺へ請求しちゃる
修繕費幾らに成るだろう……
恐ろしい金額が脳裏に浮かび、目眩でクラクラする
僕は、ふらつく足取りで玄関へ向かうと━━━━━━━━
『千尋。よもや妾との約束……忘れたわけではあるまい?』
淤加美様が、念話で釘を刺してくる
分かってますって。こちらも粗方片付いたし、西園寺さん達は、朝まで目が覚めない様なら、病院へ電話しましょう……
救急隊員さんに、何か聞かれた時の言い訳を考えないと……
容態を再度確認した後。僕は台所へ立ち、エプロンを着けて約束の芋を揚げる
淤加美様の術で、部屋着として使っていた、中学のジャージを溶かされてしまい、巫女装束のままであるが、その上にエプロンとか……何か、コスプレみたいだな
台所だけなので、誰に見せるって訳でもないけどね
約束通り、揚げた芋に溶かしバターを掛ける
自分で作りながら何だけど、見てるだけで胸焼けが……油で揚げただけでも高カロリーだと言うのに、バターまで掛けているのだから、人間ではたちまち病気になるぞ
だいたい、思念体の淤加美様は、幽霊みたいな存在なのに
食べたモノは……いったい、何処に消えてるのかな? 本当に不思議な御方だ
貴船神社の本体へ、カロリーが送られてたりして
知らず知らずの内に太らされる本体……それも悲惨だなぁ
『余計な事は考えんでも良いわ!』
念話で怒られたし
『また僕の思考を勝手に読みましたね』
淤加美様の分霊が、僕の身体に同居して居るので、思考を勝手に読まれる事がある
ゲームの相手をさせられて、初心者の淤加美様に僕が勝てないのは、そういう理由があるのだ
『ほれ、遠慮なくもっと掛けぬか』
『えええ!? もう十分バターは掛かってますよ。これ以上はベトベトに成るだけだし、マヨネーズとかケチャップで食べた方が、良くありません?』
『では、その仕様で他にも作るのじゃ』
え? バター掛け以外にも作れと?
人使いならぬ、龍使いが荒すぎる。
ただでさえ気温が高いのに、天ぷら揚げてて台所は熱風地獄ですよ
いくら、水龍が火や水に強いとは言え、消し炭に成らないってだけで、熱いものは熱いと感じるんですからね!
まあ、今回は約束をしてしまった僕が悪いんだし、仕方はなしに、我慢して芋を揚げる
出来上がった、高カロリーの化け物を皿に装り居間へ行くと━━━━━━
居間では、小鳥遊 尊さんが飯を頬張って居た
「おい、お代わり!」
そう言って空のお茶碗を突き出す尊さん
あれだけ神社をぶっ壊して置いて、遠慮なしかコノヤロウ……
尊さんの妹である、小鳥遊 緑先輩がお茶碗を受け取ろうとしたが
「いや、緑……お前に盛らせると飯が飯じゃなくなるだろ……緑に装って貰う位なら、自分で持ってくるから良い」
いくらなんでも、ご飯を装るだけで、毒物に変わらんだろ……
━━━━━━変わらない……よね?
「お兄様……今何と仰せられました?」
あ、いつも以上に丁寧な言葉……緑先輩マジで怒ってるぞ。
「ふんっ! 今日のお握りを、忘れたとは言わせんぞ! お前の飯は不味……ぶほぉ」
「今のは聞き捨て成りません! 姉様に謝りなさい!」
先にキレて蹴りを入れたのは小百合ちゃんだった
「小百合、てめえ! 何しやがる!」
「姉様はバカ兄の為に、心を込めて一生懸命握ったんですよ!」
「心を込めてじゃなく、毒を込めての間違いだろ! だいたい、小百合は緑の飯を食った事があって、言ってるんだろうな?」
「うっ! ぐぬぬ……」
お!? 小百合ちゃんピンチ。さすがに黙り込んでしまった
大好きな姉の援護はしたくも、料理の腕前は肯定できそうにないって事か
緑先輩は、実家の母親に料理を教わろうとして、匙を投げられただけはある
「小百合……ありがとう、もう良いわ。お兄様……私の鞭を受けたくて仕方がないって顔ですわね」
そう言って、腰に丸めてぶら下げてあった鞭を外す緑先輩
ちょっ……ここウチの中なんですけど、居間なんですけど
「ふっ……いつも遣られてばかりだと思うなよ! 今の俺には神器がある!」
そう言って草薙剣(御霊無し)を掲げる尊さん
神器を扱うためには神格が必要である為、櫛名田比売の疑似神格を創り出せる櫛を外してない意味が分かったわ。相変わらず下らない事に使うねぇ
二人がお互いの武器を構えて睨み合う
「ちょっと待った! 兄妹喧嘩は、他所で遣ってよ! 境内だけじゃなく、ウチの中まで壊す気ですか!?」
そう言いながら二人の武器を没収する。これ以上壊されてたまるか!
僕が武器を取り上げると、大人しく座る二人。武器に狂気化の呪いでも、掛かってるんじゃ無いだろうな……
尊さんが、女体化を解いて無いので、同じ顔が3人並んで居るが、やっぱり中身が男だけあって、尊さんは胡座をかいて座るから、パンツが見えてるし
先程、緑先輩が着替えさせたトランクスだけどね
例えトランクスでも、女の子で居る間は、少し気を使った方が良いと思う
だいたい、なんでトランクスが見えるんだろうと思ったら、僕の尻尾抜き用に香住が縫い直し、緋袴をスカートタイプに改良された緋袴改になってるし
緑先輩の事だ、わざと着せたな……巫女装束いっぱい在るから良いけど
空に成った茶碗に、オカズだけ持ってきては、寂しそうに食べてる尊さんが可哀想で、仕方なく━━━━━━
「ほら、貸してみ。僕が持ってきてやるから」
お、おう……と面を食らった様な顔の尊さんを他所に、台所へ御椀を持って行きご飯を装る
正直、これ以上ウチを壊されたく無いので、彼方此方彷徨かれたくないのだ
新たに盛った茶碗の飯を渡すと、掻き込みながら胃の中へ消えていく御飯とオカズの茄子
その向かいで、揚げ芋バターを食べながら、配管工メーカー2の自作コースを、建御雷様と九頭龍様に遣らせる淤加美様……
二人の食べっぷりを見ているだけで、胸焼けが酷く、御飯が喉を通らない
と言うより尊さん、櫛差したままで女体化しているのに、あの細身の何処へ御飯が入っているんですかね
僕なんか、確実に食べれる量は減ったけどなぁ
やっぱり個人差があるのかも?
テレビで、たまーにやる大食い番組も、女性の大食いファイター多いし
そう考えると、女性が必ず少食と言うのは、間違ったイメージなのかもね
僕が食欲を無くしてお茶を啜っていると━━━━━━
「おい、雨女。お代わり」
食欲旺盛で何よりだが……
「2杯目のお代わりは、そうっと出してください」
「おう、今度からそうする。お前の御飯全然減ってないけど、食って良い?」
「今、新しいの持ってきて遣るけど?」
「ん? 残すの勿体無いから此れで良い……あ、新しいお代わりも装ってくれ、それ食ったら少し寝るから」
戦闘して、飯食って、寝るって?
何処の戦闘民族だよ!!
でっかい猿に、変身したりしないだろうな……巨大化してウチまで壊したら、僕もさすがに逆鱗に触れるぞ!
巨大尊VS龍の構図が脳裏に浮かんだけど。良く考えたら、僕は巨大化出来ないし
プチっと潰されて終わりそうだ
そんな悲惨な最後を考えながら、御飯を装って居間へ戻ると、尊さんにお代わりを渡してやる……実質4杯目だし
「先輩達は、この後どうするんです? 泊まるなら布団敷きますけど」
僕の言葉に、ピクリと反応する香住
「あらそうねぇ、泊まって行こうかしらね」
わざと香住を意識して言うところが先輩らしい
姉様が泊まるなら、私も泊まります! と姉第一主義の小百合ちゃん
そこへ━━━━━━━━
ダン!! と音を立て、空に成った牛乳のコップをテーブルへ叩き付けた香住が
「私も泊まるわ!」
「泊まるって、香住……神社の石段降りて、すぐ家じゃ……」
「なによ! 私じゃ泊めてくれないって言うの?」
そう言うわけじゃ無いけど、先輩の家は、ウチからだと山手方面へ小一時間掛かるので、泊まるのも分かるが
香住の家は、石段で手間取られても、5分あれば御釣りがくる
ウチで、押し入れから布団出してる間には、家へ帰れるし
「別に泊まるのは構わないけど、皆同部屋だよ」
部屋自体は余っていても、全然使わない部屋は、前もって換気しないと、カビ臭くて寝れたもんじゃ無いからだ
あらかじめ分かって居れば、換気して置くんだけどね
そう説明すると━━━━━━━━
「別に良いわ、千尋ちゃんの部屋で寝るし」
ちょっ、先輩! そう言う事をいうと……
「ふ~ん。千尋の部屋ねぇ。私もそこで良いわ」
「いやいやいや、狭いし! 僕の部屋6畳間だし」
ベッドと勉強机と衣装箪笥あるんで、実質4畳間弱位しかスペース無いし
案の定、小百合ちゃんまで僕の部屋にって言い出す始末
今日はさすがに、九頭様との模擬戦闘やったし、疲れているから寝たいんですけど
今夜の徹夜に成るであろう女子会に、ゲッソリしていると━━━━━━
「ふう、ごっそさん。5日ぶりの、まともな飯だぜ」
九頭龍山での修行中に、何食べてたか知らないけど、この食いっぷりから見て、殆ど食べてなかったのかも……砂漠へ放り出された身としては、ちょっとだけ同情する
爪楊枝を咥えて、満腹だと腹鼓を打つ尊さんに
「尊さんは、帰るんでしょ?」
「何で俺だけ『泊まるんでしょ?』じゃねーんだよ! 3枚におろすぞ雨女」
「いや、尊さん男だし。夜道でも平気かなと思って」
「まだ櫛外してねーから、女のままだ!」
「結構女の身体、気に入ってたりして?」
茶化すように言うと
「馬鹿か! 修行中ずっと女の身体だったせいで、座って用をたす癖がついちまったんだぞ! 女体化解くと神器使えなくなるし、再生力も落ちるから疲れも抜けねーし……」
うぁ、さっきの食べっぷりから考えて、九頭龍山中を、飯も食わずに、追い回されてたんだろうな……
僕の時もそうだが、本当に神様の修行って鬼畜過ぎるわ
もう少し、人間基準で修行内容を考えて欲しいものだ。
まあ、尊さんの着替えは、妹の緑先輩が持ってきてるって言うし
問題は、男の尊さんを何処で寝かせるか……
それを思案していると━━━━━━━━
「千尋様。怪我人の片割れが、目を覚まされました」
神使の桔梗さんがそう言って居間へ入ってくる
僕は、知らせてくれた桔梗さんにお礼を言うと、さっそく奥の客間へ向かう
どっちだろう……怪我の程度から言えば、西園寺さんだろうな
そう予想を立てながら、襖をノックして声を掛けると、やはり返事は、西園寺さんのものであった。
「大丈夫ですか?」
「やあ……千尋君……本当にすまないね」
西園寺さんが、痛ててっと言いながら、起き上がろうとするので、無理をしないよう、寝たままで良いですよと布団をかけ直してあげた。
「何があったんです?」
「それは、今から説明させて貰うけど、一……いや淳一郎の容態は?」
「藤堂さんは、随分と酷い怪我でしたが、傷だけは血液を操って止血しました。ただ……流れてしまった血液が多過ぎて、輸血をしないと駄目だと思います」
他にも、ちゃんとレントゲンを撮ってみないと分からないけど、肋骨にもヒビが入ってるかも知れない事を伝え
病院へ電話するかどうかも、迷ったと言ったら
「そうか、電話されなくて良かったかも……ヘリの不時着を説明しなければ成らないし。大事にすると、奴等に生きていることが、バレてしまうからね」
そうすれば、再度刺客を差し向けて来るからと、儚そうに微笑んだ
「奴等って、いったい何に終われているんです?」
「八嶋技研の第三課、課長の息子、沼田 克彦」
「沼田克彦……どっかで聞いた名前だな……」
僕が思い出そうと必死になっていると━━━━━━
「沼田……まだ悪さをしていたのね」
そう言って小百合ちゃんが部屋に入ってくる
「小百合ちゃん、知ってるの?」
「瑞樹先輩は覚えていませんか? 7年前……猫を虐待して、私に罪を着せた上級生を……」
「まさか!? 名前は知らなかったけど、アイツが沼田克彦!?」
妙な処で、過去と繋がり、吃驚する僕
また色々と厄介な事に成ったな……
猫虐待の話は、千尋も7年前に関わっているので知っていますが、龍神セイルート後の話なので、司の事は知りません。




