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龍神の花嫁 八俣遠呂智編(ヤマタノオロチ)  作者: 霜月 如(リハビリ中)
1章 夏休み クローンオロチ
22/328

21 雷神剣草薙(ライジンケンクサナギ)

煙を上げながら、不安定に飛んで向かって来る、ヘリコプターと対峙(たいじ)する



僕は淤加美(おかみ)様へ身体の主導権を渡し、全て委ねた為


実質、身体の内側で視覚を共有し、状況を見ているだけの状態だ。



そのせいで、手持ちぶさたになり、ついつい口を出して仕舞う



淤加美(おかみ)様、もうちょっと右ですって……ああ、違います。それ左……」


「ええい! 気が散る!! 本来(わらわ)は、水神の龍神であって風神ではないのじゃぞ! そんなに細かく操作出来ぬわっ!!」


そう怒鳴りながらも、ヘリを風で操り誘導していく


風系は専門外とは言え、天候を操る際に扱う事もあるし、風に乗って天を舞ったりもするので、僕よりは遥かに凄い使い手である


淤加美(おかみ)様、降ろすなら裏手にお願いします。彼処(あそこ)なら水も在りますので』


もし、エンジンが火を吹いても、水場の近くなら、すぐ消せるからね


「うむ。了解した」


少しずつ神社の裏手へ流れて行くヘリだが、やはり不安定に回る、ローターの回転翼が気流を乱してしまうらしく、中々スムーズに行かない


しかし、ヘリが近付くにつれ、何かおかしい……はっきり()()! って言えないけど、普通の生命とは違うモノの気配がするのだ


どうやら、荒神(あらがみ)狼のハロちゃんも気が付いたみたいで、牙を見せて唸っている


淤加美(おかみ)様の方は、風の制御が手一杯で、気が付いて居なそうだけどね


とは言え、煙で良く見えないから、どんなモノが乗っているのか、分からないけど……



そんな時━━━━━━



パン! パン! と銃声が響き。ヘリから、何か黒い物体が地面に落下する


何だアレ?


真っ黒い……影の塊で、水のように(うね)っているのだ


分かりやすく例えるなら……ゲームに出て来る『スライム』を黒くしたような感じ


見た目が廃油みたいで、ゲームの銀色スライムと似ても似つかず。残念ながら、多量の経験値は持って居なそうだ



距離を詰める訳でもなく、落下地点でただ(うね)だけの異形だが、得体が知れないので、どうして良いか思案していると━━━━━━


その黒い異形に、立ち向かおうと前に出る狼ハロちゃん


すると、その黒い異形は、まるで鏡に写したように、形をハロちゃんそっくりに変える


色だけは黒いままで……


でも、もしかして……形だけでなく能力も同じだとしたら━━━━━━



ハロちゃん! 駄目っ! と叫ぼうとして、身体の主導権を淤加美(おかみ)様へ渡している事に気が付き、直ぐ念話へと切り替える


『ハロちゃん待って。あの黒いのは、何か嫌な予感がする』


『我もそれは感じているが、向こうはやる気みたいだぞ』


ハロちゃんの言う通り、形をハロちゃんそっくりにに変えてから、ゆっくりではあるが、少しずつ此方(こちら)へ向かってきているようだ


マズイ! 淤加美(おかみ)様はヘリの誘導につきっきりで、他に気を回せてない


他に誰か━━━━━━


とは言え、先輩や香住の人間チームでは、異形相手に歯が立たないだろうし、そもそも念話が飛ばせない。


だったらセイに……そう思って、念話を飛ばしてみたけど、返事がないのだ


もう、肝心な時に!



そう(いきどお)っていると━━━━━━



「あんな不味い握り飯は、二度と御免だぜ」


宝剣『草薙剣(クサナギノツルギ)』を持った(たける)さんが玄関から出て来る


どうやら、お握りの昏倒から復活したようだ



でも、(たける)さんかぁ……人間だし念話は出来ないよね



どうしようか考えていたら、(たける)さんが黒い異形に気が付く



「何だアレ? キモッ!」


そう言って草薙剣(クサナギノツルギ)を振りかぶると、そのまま斜めに振り下ろす


異形との距離は20メートル位あるのに、その離れた異形が斜めに切り崩れたのだ


さすが神器、草薙剣(クサナギノツルギ)である



神話で、日本武尊命(やまとたけるのみこと)が、敵の火計で窮地(きゅうち)(おちい)った時に、ひと振りで燃える迫る草を薙いで、消し飛ばした事から、天叢雲(アマノムラクモ)剣から草薙剣(クサナギノツルギ)へ改名されたと言うのだが


その神話時代から、鎌鼬(カマイタチ)みたいなモノが出ていたのかも知れない


本来、神自身か、天皇家縁の者しか、扱うことは出来ないのだが


櫛名田比売(くしなだひめ)(くし)を髪に差すことにより、神格を擬似的に創り出しているのだろう


まったく、とんでもない事を考え出す奴も居たもんだな



しかし、喜んではいられない。切られた異形が元に戻ったのだ



「くそっ! 何だよ本当に! 再生するとか聞いてねーし」


(たける)さんがそう吐き捨てる


やっぱり物理で倒すのは無理か……スライムも物理攻撃に強いものね


となると……火か? 松明の炎で倒せると聞いた事があるし、火……火かぁ


水なら操れるのに━━━━━━


ん? 操れる?


もしかして、触れば崩壊させられるかも


夏祭りの時に、元龍神のセイが、間違えた墨の文字を、操作して直していたのを思い出した


確か……純水でなく混ざりモノであっても、液体であれば成分を解析し操作できると


だが、僕の身体は淤加美(おかみ)様が使用中で、今はどうする事も出来ないのだ



異形が、今度は尊さんに姿を変えると、走って距離を詰めてくる


狼ハロちゃんの形を止めたのだから、ハロちゃんの炎のブレスコピーも消えたという事か


チャンスとばかりに、尊さんの形をした異形へ、炎のブレスを吐く



だが━━━━━━━━



尊さんモドキは、手に持って居る宝剣モドキを横に薙ぐと、炎のブレスを真っ二つにした


なん……だと!?


草薙剣(クサナギノツルギ)までコピーするのか!? しかも能力まで


それを見ていた尊さんが

「洒落にならんな……おい! 雨女! 何とか成らねーのか?」


そう言われても、身体の主導権渡してるんで、見てることしか出来ないし


『千尋殿は、内側へ入っており。其処(そこ)に居るのは淤加美神(おかみのかみ)だ』


そうハロちゃんが説明してくれる


「古龍の婆さんか……仕方ないな、俺と犬コロで、どうにかするしかないって事か」


『犬ではない! 由緒ある狼の荒神だ! あまり調子に乗ると噛み殺すぞ小僧』



もー、皆血の気が多過ぎ。すぐ喧嘩になるんだから


兎に角、このメンバーで乗り切るしか無いわけだが


問題は異形の手に持つ草薙剣(クサナギノツルギ)モドキ━━━━


少なくとも、炎を切り裂いたのだから、全くのナマクラと言うわけではない


物理攻撃では再生し、属性は切り裂かれる……鉄壁な守りじゃないか



僕がお手上げ状態で、頭を抱えていると━━━━━━


異形が草薙剣(クサナギノツルギ)モドキを振りかぶり、鎌鼬(カマイタチ)を飛ばしてくる


それを真っ向から、同じく鎌鼬(カマイタチ)をぶつけて相殺する尊さん



威力は━━━━━━


━━━━━━互角


今のではっきりした。このままではジリ貧になる


何故なら攻撃が当たっても、即再生の異形と。櫛で再生力が(わずか)かに上がっただけの(たける)さんとでは、防御無視の削り合いが出来ないからだ



僕は焦りながら、淤加美様へ問い掛ける


『淤加美様、急がせるようで申し訳ないのですが……』


「ちょっと黙っておれ! 着地が一番難しいのじゃ」


駄目か……何も出来ず見ているだけの自分が歯痒(はがゆ)


そこへ━━━━━━━━


「おい、何だそのへっぴり腰は。修行で何も学んで折らんのか?」


建御雷(たけみかづち)のオッサン? んな事を言ったってよー、しょうがねーだろ! 彼奴(あいつ)技も神器もコピーしやがったんだ!」


「神器を複製? 笑わせるな。 ありゃあ()()()()()()()()()()を複製したにすぎない」



中身のない神器……


そう言えば聞いたことがある、中身に『御霊(みたま)』が入って初めて神器と言えると


その話が本当なら、(たける)さんが持っている草薙剣(クサナギノツルギ)の分身も、未完成の神器だと言うことだ



「じゃあ、中身の御霊(みたま)は何処にあるんだよ」


「熱田神宮にある『本体』の草薙剣(クサナギノツルギ)の中だろうな。ま、無いものを値だった処で仕方がない。どれ、儂が力を貸してやろう」


建御雷神(たけみかづちのかみ)は、そう言うと素手で草薙剣(クサナギノツルギ)に触り、身体が光輝いていく


すると、草薙剣(クサナギノツルギ)の中へ、吸い込まれて行くではないか!



光が消え完全に草薙剣(クサナギノツルギ)へ呑み込まれる━━━━━━



刹那!! 刀身に稲妻が走る!!


『振ってみよ! 雷神剣(ライジンケン)草薙(クサナギ)!』


剣から建御雷(たけみかづち)様の声がする


「よし! じゃあ、オッサン……威力を試させて貰うぜ!!」


尊さんはそう言うと、両手で高く上段に構える



ちょっと……中身が建御雷(たけみかづち)様なら尋常じゃない威力になる筈


ここ、ウチの神社なんですけど!!


僕の悲痛な叫びもむなしく、神器 雷神剣草薙(ライジンケンクサナギ)は振り下ろされる


それは『雷と鎌鼬の融合』


刀身から出たエネルギーの塊に、境内が昼間より明るく光に包まれる


まるで高出力のレーザー砲でも撃ったみたいに、(きっさき)から前方に在るものを全て吹き飛ばす!


神社が平地じゃなく、高台にあって幸いした


ここが平地なら、後方の町ごと消し飛ばしていたであろう



だが━━━━━━



同高さにある、ウチの境内はタダで済む訳がなく……



やめて~、神社(ウチ)を壊さないで


僕は泣きながら叫ぶが、覆水盆へ返らず。すでに手遅れである



やがて━━━━━━


光は消えていき、静寂の夜へと戻ったのだが……


その代償はあまりに大きかった


絵馬掛け、おみくじ掛け、灯籠、大部分の石畳……エトセトラ……



「すげえ! これが『御霊入り(ほんもの)の神器』か! あ、あれ……」


喜ぶ尊さんだが、急に膝を折り座り込んでしまう


『やはり、御霊入りを扱うには、まだ身体が出来上がって居ない様じゃな』


そう剣から喋った後、中から出て来る建御雷(たけみかづち)


と、同時に草薙剣(クサナギノツルギ)の刀身から雷が消える


「なんだよ……せっかく格好良かったのに」


強がってはいるが、明らかに疲労の色が見てとれる尊さんへ


「大きな口を叩くなら、儂を使った後、へたり込まずに立っておれ」


そう建御雷様からお叱りを受ける


「くっそー、ぜってー使いこなしてやるからな!」


減らず口を叩くものの、いまだ立ち上がれない自分に、腹が立っているようだ



「よし! 千尋よ。どうにか無事着地できたぞ」


そう淤加美様が言ってくるが


遅い、遅いよ淤加美様……出来れば雷神剣草薙(ライジンケンクサナギ)を使われる前に、終わらせて欲しかった


僕なら、ここまでオーバーキルされずに、漆黒で呑み込んでやったのに……


本当に遺憾千万(いかんせんばん)だ。



轟音に驚いて、皆が外へ出て来るが、今更かい!


香住が言うには、『どうせ何時もの騒ぎでしょ』と、気にも止めなかったが


最後の轟音だけは、小山が揺れたんで出て来たとの事


皆、変に慣れすぎだろぅ……本当にヤバイ時に、逃げ遅れるぞ



とりあえず、身体の主導権を返して貰うと、説明はへたり込んだ尊さんに任せ


僕は現実逃避……いや、人命救助へ向かうため、裏手の不時着現場へ急ぐ


裏手には、よほど上手く着地させたらしく。ヘリコプターのエンジン以外、殆ど損傷の無い状態で不時着していた


ヘリの中を覗くと、よく知った顔が……


西園寺(さいおんじ)さん! 藤堂(とうどう)さん!」


二人の名前を呼ぶが、返事は無い


とりあえず、ヘリが爆発する恐れもあるので、降ろすのを優先する


手前の西園寺さんを背負い降ろそうとすると


「ち……ひろ……君、(イチ)を……淳一郎(じゅんいちろう)を……先に……ボクを庇って……」


「分かっています。二人共助けますから」


そう言いながら、ヘリから降ろそうとすると、セイがやって来て


「寄越せ、俺が運ぶ。千尋、お前は中のもう一人を」


「セイ、お前……今頃まで何してたんだよ」


「いやまぁ……神使の桔梗(ききょう)と、醤油を取り合っててな…………ああぁ、俺の事は良いだろ! 早く一人寄越せ!」


「仕方のない奴……じゃあ、お願い。ウチの客間へ寝かせて」


西園寺さんをセイへと託すと、僕は藤堂さんを背負いヘリから脱出する


どうやら、西園寺さんが言ったように、藤堂さんが庇ったのだろう、西園寺さんより怪我がだいぶ酷い……もしかしたら……朝まで持たないかも


客間へ連れていき、二人の手当てをする


この間言っていた、血液を操り止血を遣ってみたが、思った以上に上手く行った


血栓も出来ないよう取り除き、傷も瘡蓋(かさぶた)で塞がったが


如何(いかん)せん、出血で失った血の輸血だけは、素人が勝手にするわけにいかず


二人の血液型も分からないし、本人の回復と生命力に賭けるしかなかった


「千尋や、もう一つ奥の客間へ移した方が良いかも知れぬぞ」


そう思念体へ戻った淤加美(おかみ)様が言ってくる


「奧の客間ですか? でも、あっちは日当たりが悪いから……」


「戯け! 夜に日当たりなんぞ、気にしてどうする! それより奧の客間の方が、龍脈に近いからの、回復も早かろう」


「成る程、それは盲点でした。さすが淤加美様」


「もっと誉めて良いぞ」


「でも、それなら龍脈開けちゃって、中に置いたら?」


「無理じゃな、我ら龍ならまだしも、人間が長時間も龍脈の中に居れば、龍脈の氣に耐えられず、身体が融けて消えてしまう」


御主も、高濃度の龍脈の氣を、体験したじゃろう? と淤加美様が言う


確かに一度、セイを救うために高濃度の龍脈の氣へ潜った事があったが


本当に、融けて消える処だったし


「何でも強ければ良いと言う訳ではないのじゃ、薬だって強すぎれば毒になるしのぅ」


確かに言えている。どんな事も程々が肝心と言うことか……


奧の客間へ、怪我人の二人を移すと浄化の水を振り掛けておく


これで滅菌して置けるし、破傷風の心配は無いだろう



後は、二人の生命力に賭けてみる以外になかった。


それにしても、あの異形……あんなもの何処から……


ヘリから異形が落ちたと言うことは、墜落寸前も異形のせいだろう


一体、何処で襲われたのやら


僕は一抹の不安を抱かずには、いられ無かった。




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