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8-18 三明の剣


最後のペットボトルの水を避雷針に使うと、雷によって電気分解した。


やっぱり塩を混ぜると電気が流れやすい。普段は水神の力で分解しているので関係ないのだが、化学に興味のある名無し君に見せてやろうと思って電気分解実験を再現した。


ここからは水神の力で追撃をかける。


分解されて出来た水素へ圧縮着火を行い、爆発で鬼を吹っ飛ばした。


残った水なんで威力はお察しだが、これで西園寺さんの治療をゆっくりと……


「ほっ! 少々面食らったぞ。水龍が爆発の術を使うとはな」


元々頑丈な鬼族だ、あれでダメージは無いだろうとは思ったが、吹っ飛びもしないとは……甘く見すぎていたか


とは言え、こちらの水は絶賛品切れ状態。どうする……


「千尋ちゃん! やっと追いついたわ」


「早すぎるぞ雨女。まぁこっちは任せて、西園寺のオッサンを診てやってくれ!」


「ええ、兄に任せておけば大丈夫」


「待てや緑! お前も戦うんだよ」


相変わらず、兄妹仲が良いな。


「すみません。治療の間、少しだけお願いします」


僕は西園寺さんを抱き上げ、水のある一目連様の屋敷裏まで下がる。


そんな時、大嶽丸から怒声の様な咆哮があがる。


「人間如きが、この大嶽丸と戦うだと? 烏滸がましいわ!」


離れた場所まで、ビリビリと氣が伝わって来るのを感じて、胸の谷間に挟まったセイが


「あの二人大丈夫か?」


「ん~、大丈夫じゃない? 先輩は場慣れしているし、危なければちゃんと引く人だから。それに尊さんも、櫛で女体化してるから宝剣を使う気でしょ。刀身に雷を纏ってたから建御雷様も草薙剣に入ってるみたいだしね」


そうなると神剣解放状態なので、どんどん氣が消耗しているからね。早めに決着つけないと、ガス欠って事になりうる。


早く合流したい気持ちはあるが、今は人命優先だ。


僕は直ぐに一目連様へ念話を飛ばして――――――


『一目連様、すみません。地底湖の水を少々頂きます』


『それは構わんが、どうやって持出す?』


『僕が開けた穴があるんで大丈夫です』


『そうか、そうだったな……まぁ存分に使ってくれ。それから奴らとは、お互いに邪魔をしないと約束してある』


『どういう事です?』


『こちらが奴らに干渉しない事を条件に、街へ手を出さないと言う約束だ。故に、助けてやる事はできん。すまんな、まほろばの街を護るのがオレの責務なんだ。せめて水ぐらいは存分に使ってくれ』


『ボクも護るべき神佑地がありますから、気持ちは分かります。水だけ頂ければ、後はこっちで何とかしますから』


『うむ。健闘を祈る』


そう言って念話を切ってしまったので、すぐさま地底湖の水を操って持って来る。


バレーボール大の大きさがあれば足りるだろう。


その水を変若水に変え、西園寺さんの上に振りかけた。少しスーツが濡れるが、命には代えられない。


『人間が、生焼け……』


「巳緒。何でも食べようとしないの。牡蛎グラタンと広島焼きを食べたでしょ」


「しかしよぉ千尋。雷に打たれても、人間の髪がチリチリになってねえな」


「普通はならないよ! 雷に打たれれば、生きていても瀕死だし。龍族は雨雲とか雷曇の中を飛んだりするから、雷にも強いんじゃないかな? 髪がパーマとかアフロで済んでるのは、そのお陰だと思うよ」


雨を降らせる為、自分で呼んだ雷雲に感電して地上へ墜ちるとか、そんな龍は間抜け以外の何ものでもない。


「確かに、理に適ってるが……(たてがみ)がチリチリだと飛ぶのに調子悪いだよなぁ」


それ、人化を解くと(たてがみ)なんだ



「うぅ……う……」


「お? 意識が戻ったか?」


「西園寺さん! しっかりしてください!」


すぐさま、体内の水分を操って、西園寺さんの体をスキャンした。


骨折は分からないが、肉体的なダメージは知ることができる。


雷に打たれた事による、重度の火傷と一時的な視覚の低下は、変若水により全て完治


実は、雷に打たれて死ぬ確率は、30%程度なのだと言う。場所や状況にも左右されるけどね


生き残った西園寺さんは、残り70%に含まれたようだ。その方が、黄泉まで連れ戻しに行く手間が省けてよかったわ。僕、黄泉には出入り禁止だし



西園寺さんは、ゆっくりと目を開けたので、もう一度呼びかけると


「千尋……君?」


「良かった気が付いて。どこか痛むところがありますか?」


「いや、大丈夫。スーツが焦げたぐらいですかね」


そう言って、スーツの穴が開いた場所に指を入れて、ヤレヤレとぼやいている。


「あ~、それは直せませんから、買い直してください」


「ええ、そうさせて貰います。あとは……武器類が全部ダメですね。テーザー銃もバッテリーが破損しちゃってますよ……スマホも買い直しかな」


瞬間とはいえ、200万ボルト以上の電圧がかかったんだ、電池の破損もするわな



「しかし、一人で乗り込むとか、無茶しすぎですよ」


「いやはや、申し訳ない。年甲斐もなく久遠の顔を見たら熱くなってしまいましたよ」


「久遠って……西園寺さんが話してくれた、裏で暗躍していたって言う、長谷部さんですか?」


「ええ、奴の誘いに乗って、のこのこ出て行ったら、この有様です」


鬼が出るまでは、追い込んだんですがね。と残念そうに呟いていた。


「まぁでも無事で良かったです。西園寺さんは一目連様の屋敷へ避難していてください」


「お言葉に甘えて、そうさせて貰いましょうか……本当はボクも一緒に戦って、久遠をもう一度捕らえたいのですが……武器がこれでは……ね」


そう言って、西園寺さんは肩を窄める。


「久遠さんを見つけたら、西園寺さんにお渡ししますよ」


「千尋君、奴は狡猾な戦い方をします。正攻法では足元を掬われるかも知れません。気を付けて」


「覚えておきます」


「あとそれから」


「まだあるんですか!?」


「女生徒が体育館へ集められて、儀式に協力させられてるようです」


「儀式って、何か呼び出す気でしょうか?」


「そこまでは聞けませんでした。だが、わざわざ幽世で儀式を行うんですから、良く無いモノな気がします」


確かに、現世で行っても良いのに、幽世でやるって言うんだから、邪魔されたくない以外に何かありそうだ。


「何はともあれ、あの鬼を倒してからじゃな」


「天照様。僕の頭の上で食べて、溢さないでくださいよ。ちゃんと座って食べてた方が……」


「あんな一目連と2人きりで、飯など食えぬわ!」


だからと言って、僕の頭の上で広島焼きを食べられてるし……激しく動き回る戦闘では、僕の頭の上がソースまみれに成りそうだ。


地底湖の水も貰えるので、水をペットボトルに補充すると、足止めしてくれてる小鳥遊兄妹の元へ駆けつけると――――――


「え!? 何で倒れてるの?」


「緑嬢ちゃん! どうした!?」


「緑ばっかじゃなく、こっちの心配もしろや!!」


「尊さんは元気そうじゃないの」


「元気じゃねえ! ぶあぁ、冷て~」


すぐに変若水を創り、二人にふり掛ける。冷たいのは御免よ、良い湯加減で止めるのは難しいいんだ


「助かったわ。あの鬼……一筋縄ではいかないわよ」


「あぁ、あの鬼の周りを囲む、3本の剣が邪魔しやがるんだ」


尊さんに言われて鬼を見やると、確かに3本の剣が宙に浮き、時計回りにゆっくりと回っていた。


「左様。この剣がある限り我に傷一つ付けられぬわ」


「バリアーみたいなモノかな?」


「そんな生易しいモノじゃねえ! 守るだけじゃなく攻撃もしてきやがる。しかも、刃が増えるんだ」


「増える? ワカメみたいに?」


「そこまでは増えないだろ。カップのラーメンはお湯入れて放置してたら、蓋持ち上げる程増えてたがな」


「放置するなよ……」


「丁度観たいアニメが始まったんで忘れてたんだよ」


アニメって事は、30分放置したんだな? 汁なんか無くなってただろうに……


そう言う僕も、小学生の頃。


乾燥ワカメを戻してて、台所がワカメだらけに……婆ちゃんに怒られたっけ? あれ10倍から15倍ぐらいに増えるんだよな。皆も気を付けよう



「あーもー、お前ら龍の夫婦に喋らせると、話が脱線する! 見ての通り、ゆっくり回って守護している3本の剣が、攻撃に移る時にはもの凄い数に成るんだ」


「意味が分からん。実際に打ち合ってみれば分かるかな?」


僕は、背中に水で張り付けてある天之尾羽張を引き抜くと、鬼に対して正眼に構える。


「千尋ちゃん。気を付けて」


先輩の言葉に頷くと、力を込めて地面を蹴る。


大嶽丸との一間合いが一瞬で詰まり、試しに狙いは鬼でなく、回っている3本の剣の1振りを狙う


が――――――


射程に入った途端。剣の切っ先がこちらに向いて、突きを繰り出すのだが


「なに? これ……」


剣が分身でもしたかのように百……いや千を超える数に増えたのだ。


僕は剣士じゃないんだ、こんなに捌き切れるか!


龍の動体視力だけで捌けきれる量でもなく、そのまま押し切られそうになり、バックステップを踏んで距離を取る。


「分かっただろ? 増えたって言った意味が」


「あんなの反則じゃない」


「俺なんか千尋の胸に居て、剣が刺さるかと思ったぞ」


「妾は少しソースを溢した」


ちょっと! だから溢さないでって言ったのに……


しかし、剣が駄目なら術がある。


「巳緒」


『あい、土氣で良いね』


大嶽丸の足元にある地面が、円錐状の岩が隆起し串刺しにする筈が――――――


隆起する寸前に、剣が地面へ刺さり、術の根源を破壊した。


「うへぇ。アレをやられたら発動できないわ」


『やるね』


僕らが舌を巻いていると


「どきなさい瑞樹千尋! 私の見せ場よ!」


急に現れた闇御津羽様の娘の水葉が闇を纏って現れた。


全てを飲み込み融かす闇の水である。これならあの3本の剣も――――――


「え!?」


「うそ! 私の闇を侵食してる」


剣は無傷の状態で、水葉の張った闇の中へと入って行くので、僕は水葉に飛び蹴りをした。


蹴られた水葉は、回転しながら地面を滑って行き、30メートルほど吹っ飛んで止まった。


「痛いわね! 何するのよ!」


「千尋がああして居なければ、御主は串刺しだったぞ」


天照様がフォローしてくれたが、実はちょっと強く蹴り過ぎたんだけど、内緒にしておこう。


こっちも術反射で闇が効かないとはいえ、靴は融けちゃったし。痛み分けという事で。


「それにしても遅かったな」


「あんたらが料理を任せて、勝手に出て行ったんじゃないのよ!」


そうとも言う。


「仕方ないだろ。狐さんがエライ剣幕で飛び込んで来たんだから。細目の人間が、独りで裏の建物に入って行ったって……」


「まぁあの狐なりの、罪滅ぼしだったのじゃろう」


お陰で、西園寺さんを助ける事が出来たんだから、本当に助かったわ。あとで、お礼言わなきゃ



しかし、困った。闇の水で融けないって事は、神器クラスだという事だ。


「神器クラスで自動迎撃か……どうしたものかね」


「どうしたもこうしたも。神器だからと言っても折れぬ訳ではあるまい。だったらへし折る迄じゃ」


「簡単に言いますが、神器を折るとか……あっ」


全員の視線が尊さんに集まる。


「な、なんだよ」


「尊さん松島で、海神の槍を折ってますよね?」


「あれは、槍が暴走して止むを得ず……」


「折った事を咎めている訳ではない。現に海神の槍は復元しておるしのう」


「ふぅ、脅かさないでくれ。まっ折って良いなら折ってやるぜ。ただ……3本は……」


だよねえ、尊さんの奥義は2発が限度、3本は流石に無理がある。


「あとは千尋の天之尾羽張に賭けるしかないのう」


「僕ぅ!? ちょっと天照様。剣術なんて習ってませんよ」


「裏奥義を放てば良かろう。なーに心配せずとも、妾が剣に入ってやる」


「いやいやいやいや、そうじゃなくて剣を破壊しても、大嶽丸と誰が戦うんですか? 奥義後は僕も尊さんも、まともに戦えませんよ」


裏モードである神殺しの剣でなければ、そこまで消費しないのだけどね。


神生の剣のままで折れるかなぁ


「それなら祓い屋の娘と、御津羽の子供たちが居ろう」


先輩は百戦錬磨とはいえ、人間である以上、雷を落とされれば、龍の様にパーマやアフロじゃ済まない。


水葉達に至っては、実戦の経験不足だ。


もう一人、神話級の人外が居てくれたら……



「だったらそいつは、オレが引き受けようか?」


何とも良いタイミングで現れる。


そこには、寿司桶を持ったオロチの壱郎君と、酒呑童子の末裔の娘が手を振っていた。


どこまで配達に来るんだよ……採算取れないだろうに


そう言えども、壱郎君が来てくれて、こんなに助かったことは無かった。



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