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8-16 暗躍者の情報と約束の料理


僕が幽世(かくりよ)にある女学院に吃驚(びっくり)していると、一目連(いちもくれん)様が僕の沸かした地底湖のお湯につかりながら


「どうだ? 良いモン見れたか?」


「いや、良いモノも何も……アレと同じモノを現世(うつしよ)で見てきました。というか、中を通ってきたし」


「アレがどういうものかは知らぬが、いつの間にか出来ていてな。まぁ人間が造ったモノらしいのだが、現世(うつしよ)から迷い込んだ人間の女を、あの建物に入れているみたいだ」


「ということは……探し人も、あの中か……」


おそらく、偶然に間違った棚に入ってた本を戻したら、ギミックが作動し、地下の階段が見つかって、幽世を見てしまった女学生に、暗示だか催眠の術だかのをかけ口を封じて、閉じ込めた。


多分そんな処だろう。


僕がそう推理するも、一目連様は我関せずと言った顔で


「ちょっと湯が熱いから、温くしてくれぬか?」


「そりゃあ熱いでしょうよ。一度は水蒸気爆発まで起こすほど熱したんだから、()で龍に成りますよ」


あれから時間が経って、さらに天井に穴が開いたので、少しは水温が下がっただろうけど、まだまだ80℃ぐらいはありそうだ。



「すいじょう……なんだそりゃ。さっきの爆発がそれか?」


「さっきのは水素爆発、その前のが水蒸気爆発です」


「ふ~ん。何が違うんだ?」


説明すんのかい! 水素をを教えるのに、水の化学式から教えなきゃいけないじゃないですか。


「あとで小鳥遊(たかなし)先輩か、香住(かすみ)からスマホを借りて検索してください」


千尋(ちひろ)、圏外だぞ」


そうだった。セイに言われて、ここが幽世(かくりよ)だと再認識した。


「分かるかどうかは別として、時間がある時に説明しますよ」


「ならば、楽しみにしておくか、あっちの雄龍も聞きたそうだしな」


一目連(いちもくれん)様は、風呂につかりながら、水葉(みずは)の弟君を(あご)で指す。


その顔は目を輝かせて聞いていた。


興味があるなら、僕が小学校時代に使っていた理科の教科書をあげても良い。


水の電気分解から書いてあるからね。水素を学ぶなら、先ずそこから入らねば



どうしても、力任せに成りがちな龍達に、化学の理論が加われば、十分に強くなるのは、僕を見れば分かるはずだ。僕は自分で水を生成できないからこその、苦肉の策だったのだが。


結果は危なくて、使い処が分からない様な術まで出来た。反水素による対消滅とか……


僕の真似は、龍の希少種なんて言われるから、余りお勧めはしないけど……


名無し君にしたら、早く姉に追いつきたくて仕方ないのだろう。そして前線で活躍したい。そんな焦りが見え見えだけど、君は0歳児なんだぞ。数え年でも1歳児だ。焦らずとも、姉から色々教わってゆっくり育てばいい。


まぁ背伸びしたい年頃……背伸びしたい0歳児ってなんだ? 人間の0歳児なら、歩く事は勿論できず、泣く事しかできないぞ。



人間の尺度で考えてると、変になりそうなので、地底湖を膨張冷却しながら、話を切り替える。


「じゃあ、あの建物に入り女学生を確認して、救出は仙道さんに任せますか」


「助け出さんの?」


「セイ、忘れたの? 僕らの任務は安否確認」


「そりゃあ知ってるけどよ。助け出した方が早くね?」


「一人二人ならその方が早いだろうけど、女子寮に入った仙道さんの話だと、かなりの数が捕らわれてるでしょ? 引き連れて脱出って時に、異形とか式神に襲われたら……」


「足手まといも良い処だな。まるでヒヨコを連れて猫から逃げる親鳥のゲームみたいだ」


「また古いゲームを例えに出してきたな……僕なら、猫相手に逃げないけどね」


「千尋なら、自分から抱きつそうだよな。まぁ確認だけなら建物に近づいて、窓から覗けば良いし簡単だな」


「さすが日頃から、うちの学園の女子更衣室覗いてるだけあるな、コノヤロウ」


「ぬ、濡れ衣だ! 俺の嫁は千尋だと決めてから、ずっと一緒に居るだろう」


そう言われれば、ずっと一緒だけどさ……


「お二人さん、あついね~。だが、そう簡単には行かないのさ。あの建物の前には門番が居るからな」


「門番って、守衛さんかな?」


「幽世にまで出張する人間は居ないだろう。妖怪だらけで無事に帰れるか分からんのに」


セイの言う通り、命あっての物種だわな。


もし生きていたとしても、現世へ帰れないと神隠しにあった事に成り、行方不明扱いで7年経てば、死亡人扱いにされてしまう。


神隠しの場合、現世と幽世の時差のせいで、行方不明者が現世で数年後に見つかるも、行方不明になった時と変わらない姿で見付かったりする。


まるで昔話の浦島太郎だ。


海神である豊玉姫様が住んでいる龍宮も、時間の流れがゆっくりなので、気を付けないと半世紀など、あっという間に経ってしまう。


幽世にある、まほろばの街だって然り…………


「ちょっと!! 今何時!?」


「時計なんて持ってないぞ」


「同じく私たちも持ってないわ。ねえ弟」


姉の言葉に、その隣で弟の名無し君が頷いて居る。


「まほろばは、昼を回ったぐらいか? まぁオレはここの領主だから、現世の時間は関係ないがな」


「誰も現世の時計を持って無いのかよ!」


「「「「 必要ないし 」」」」


お前ら……


時間に縛られないのは羨ましい事だが、僕と香住と先輩は、明日学園があるのだ。


さすがに朝帰りはまずい。


特に香住は、22時という門限があるのだから、親に怒られては夜に出づらくなってしまう



僕は急いで地底湖から階段を上がると、猫又の参謀様が絹製のタオルを持って立っていた。


僕が地底湖から出て来るなり


「一目連様は!?」


「御無事ですよ。今地底湖で湯に使ってます」


「なんと!? 大きな爆発があったので心配で来てみたら……呑気に風呂とは」


腰を抜かしたように、へたり込む猫老様へ


「その爆発で結界も破れたので、今なら龍以外でも入れますよ」


「否、ここで待たせてもらおう。あそこは龍以外が、無暗にやたらに踏み込んで良い場所ではないからのぅ。というのも元々屋敷の下にある地底湖は、龍が子を産む時の出産場所でありましてな。出産時の無防備になるところを襲われぬよう、龍族結界が張ってあるのですじゃ」


「結界にはそんな理由が」


「うむ。神聖な場所ゆえ、結界が吹き飛んだからと言って、龍以外が入っていい場所では御座らぬ」


知らなかったとはいえ、天井ぶち抜いちゃったなぁ。


僕の困った顔を見てセイが


『あの領主龍が、自分から地底湖を戦場に選んだんだ。気にするな』


『そうだけどさぁ』


『千尋の対……何とかって言うのを使わなかっただけでも、向こうは命拾いしただろう』


『対消滅? 文字通り街が消滅して、クレーターしか残らないよ』


僕らは猫老様を残し、台所へ向かうと……途中で、窓の外を睨む西園寺さんに行き会う。


睨むといっても、相変わらずの糸目で、本当に見えているのか分からないが……電柱に当たったり、階段に(つまづ)いたりしないのだから、見えているのだろう。


「西園寺さん。何を見てるんですか?」


「千尋君、終わったのかい。ご苦労様」


何を見ているという、僕の質問に答えてくれないので、僕もそっと窓から外を覗いて見ると、そこには例の女学園が建って居た。


「この屋敷の裏に、あんなのが在ったなんて吃驚ですよね」


「見えるようになったのは、ついさっきですよ。それまでは(きり)というか(もや)がかかったような状態で、姿かたちも見えませんでしたから」


「そうなんですか!?」


「千尋君は地下に居ましたからね。知らないのも無理はないです。問題は何の為に現世そっくりの女学園を、幽世に造ったのか?」


「やっぱり、西園寺さんは造った人に心当たりがあるんですね」


「どうして、そう思います?」


「西園寺さんの、さっきの言葉ですよ。何の為に造ったか? と言うやつです。普通なら、()()()()()()と言う処を、()()()()……しか言いませんでした。このことから、誰が造ったかを知っていると思ったんです」


「さすが国津神は誤魔化せないですね。あのスマホで撮られた男ですよ……名を長谷部(はせべ) 久遠(くおん)と言います」


長谷部(はせべ) 久遠(くおん)……知り合いなんですか?」


「例のクローンオロチ騒動や、呪弾横流しに関わっていた男さ」


「え!? クローンオロチは沼田教授が……呪弾に至っては華千院さんが使い、御堂さんが量産を企てたんじゃなかったですか?」


「沼田教授や華千院家、御堂氏は実行犯。八荒防の内部から手引きした者が、久遠なんです」


それで部下の仇か……クローンオロチの時なんか、西園寺さんと藤堂さんが研究所から脱出する時に、部下が犠牲になったと聞いた。


脱出した二人も危なかったしね。


呪弾も淵名の龍神さんが、瀕死の重傷を負い、もう少しで黄泉行きに成るところだったし。


その両方の裏で暗躍していたのが久遠って人らしい。


「この女学生行方不明騒ぎも、久遠って人の仕業だと?」


「おそらく……でも、目的は分かりません。奴はお金さえ貰えば、どんな汚い事も請け負う人間ですから……肉親だって売りますよ。そう言う男です」


憎しみの籠った顔で、幽世に現れた女学園を睨む。


「さ、西園寺さん。まさか敵討ちを?」


「いえ、死なせはしません。ちゃんと日本の法で裁くまでです。でもまぁ……正当防衛で死なせてしまうのは、仕方ありませんがね」


どことなく、そうなって欲しそうに見えたのは、気のせいだったのかな?


もしそうだとしても、ここは妖が跋扈(ばっこ)する幽世。現世と違い法が通用しない部分もあるので、死なせてしまっても裁くものは居ないだろう。


荒ぶった妖怪に、人を襲うなと言っても、聞かないのと一緒で。幽世には幽世の法がある。


ここ、まほろばの街は、一目連様が統治するだけあって、平和そのものだが。


少し郊外へ出れば、妖だって分かったものではない。


元々、妖がそう言った気質だからこそ、現世に出て来た妖から人間を護る為、国津神が居るのである。


出来れば、この街の妖みたいに統治されていれば、現世にも変なのが湧いたりしないのだが……



まぁ。西園寺さんの怒りは(もっと)もだが、いつも冷静でいるんだから、今回も怒りは納めて欲しい。


でも久遠って人は、金で動くと言うんだし、出資した依頼者が居るはずである。


そうでなく、個人の意思で動けば、報酬が無いからだ。


「黒幕が居るのか……厄介だな」


「所詮は人間だろ? 悪い事ばかりしていれば、それが巡り巡って戻って来る……何って言ったっけ」


「因果応報ってヤツでしょ? 元は仏教用語だから、神道の龍であるセイが知らないのも無理が無いよ」


「だから勉強してるんだぞ」


漫画やアニメでな


僕は、窓の外を見て居る西園寺さんに、台所へ行ってみると伝えてから廊下を走ると


「千尋ちゃん、お帰りなさい。食事にする? それともお風呂? それとも……」


「先輩、そう言うコントはいいですから、料理は出来上がりました?」


「今兄が焼き加減を見てるわ」


そう言って視線を尊さんに向ける。


「香住は、どうしたんです?」


「門限だそうよ。ほら……」


先輩がスマホで、現世の時間を見せて来ると、スマホの表示には21時半を回った処が表示されていた。


「幽世から直に龍脈へ乗れない事を考えれば、22時にはギリギリかな?」


一度現世の女学園へ出て、龍脈へ乗らなきゃならないのである。


「ねえ千尋ちゃん。興味本位で聞くんだけど、幽世から何で直に乗れないの?」


「現世と龍脈の形が違うんですよ。使えば慣れるんでしょうけど、いきなり使用して変な場所に出ても困りますしね。上手く幽世側の北関東に出たとしても、現世への穴を開けれなければ、結局戻る破目になりますし」


現世と幽世の穴って、開けれる方が少ないんですよね。


天照様は開けれたみたいだけど……あと妖だと、正哉に憑いている座敷童ちゃんが開けれたかな?


やたらに穴を開けられても、迷い込んで神隠しにあう人間が増えるだけなので、今ぐらいが丁度良いのかもね。


「雨女、このぐらいの焼き加減で良いと思うか?」


「どれどれ、チーズにも焦げが入ってるし良いんじゃないかな……あまり焼き過ぎても牡蠣が縮んじゃうから」


「あいよ。しかし上手いこと考えたな。牡蠣の殻をそのまま皿代わりにするなんて」


「確かにね、これなら皿が無くても大丈夫だし片付けも楽だわ」


そう言いながら、天照様達が腰掛ける前の台へ牡蠣を置く。


「これが牡蠣の()()()()とか言うモノか! う~ん、いい匂いじゃ」


「グラタンですよ。御賞味ください」


続いて建御雷様と巳緒にもお出ししてから、別皿に乗せた牡蛎をお盆に乗せる


「領主へ持っていくのか?」


「そういう約束ですからね。皆はここで食べててください」


千尋(ちひろ)、待つがよい。(わらわ)が逃げていると思われても(しゃく)じゃ」


「いやいやいや、また喧嘩されても困るんですよ」


「アヤツが失礼な事を言うから悪いのじゃ」


困ったなと頭を掻いていると、天狗がやって来て


「この盆に乗ったモノを持って行けばよいのか?」


「え、ええ。そうしていただければ、僕は広島焼きの調理に入れます」


「では頼んだ」


天狗さんはそう言って、御盆を持って行ってしまった。


束の間に訪れる平穏だが――――――廊下をドスドスと音を立てて足音が向かってくるので、平和な時間も終焉を迎えた。


「これを作った者は!?」


「香住なら帰りましたよ」


「なんと……オレの調理場に欲しいぐらいだ」


「阿呆め! あの娘に声を掛けたのは妾が先じゃ!」


もっと前に、宇迦之御霊様に声を掛けられてますけどね。


本当に香住は、引く手あまただなぁ


僕は広島焼きを引っ繰り返しながらソースを塗ると


「なんと香ばしい匂い!」


「千尋が今焼いてるのは、妾のだ!!」


「なんだと!? ここはオレの館だぞ!」


また始まったよ……


早い処済ませて、女学生を確認してしまおう。


「こっちには牡蛎がまだだぞ!」


「セイも少しは手伝え! コノヤロウ!」


「千尋ちゃん。私も手つだ……」


「先輩は座っててください」


「まぁ香住嬢ちゃん以外で料理が出来るのは、千尋だけだからな。頑張れよ」


はいはい。


僕はキャベツを刻みながら、忙しく調理を続けるのだった。



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