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8-11 一つ目入道


大鳥居の向こう側は、広い空間になっており


壁に付いたLEDライト明かりも、中央まで照らし切れぬほどの広さで、明かりがあっても暗さを感じるのだが、暗視のできる僕には部屋の中央に居るものが、はっきりと見えていた。


地面に丸まっている巨大な妖は、くぐもった声で


「また人間の女子が迷い込んだか……まぁ良い。どんな者でも、ここへ来た者には問うのが決まりだ」


「今、人間の女子がって言ったよね? 他にも居たの?」


そう僕が聞いたのも無視し


「問おう。割符を持っているか?」


「割符? うちの嫁とか」


「雨女、それはワイフだろ」


「じゃあ、スマホを音無しにすると」


「着信お知らせのバイブ」


「海の中へ……」


「ダイブって面倒臭いわ! 割符って言うのは、映画館の発券みたいなものだ。券の片方を持っていれば再入場が可能っていうヤツさ」


「へえぇ、尊さん詳しいね」


「ふっ、伊達に民俗学を専攻してねーぜ。元々割符っていうのはな、中世日本における為替……」


「あぁ説明は映画館の発券で分かったので、由来とかはいいです」


「……ツッコミを入れやったんだから聞けよ!!」


長くなりそうな尊さんの蘊蓄を遮り、もう一度妖に問いかける。


「ここに人間の女の子が来たんですか?」


「人間の? まるで自分が人間ではないような言い方だな……その角と尻尾……なるほど龍か? なんであれ、割符を持たぬ者なら、ここを通す訳には行かない」


そう言って、地面に伏していた妖が背を伸ばすと、縦にした大型トラックすら天井に届かない広い空間なのに、その天井に頭を擦るんじゃないかと言うほどの背丈を持っていたのだ。


「でけえ……」


「あの一つ目は、一つ目入道!?」


「ほう、人間の小娘が儂の事を知って居るのか?」


「ええ知っているわ。一つ目の僧の姿で現れる、その正体はキツネやタヌキと言われているわね」


「ただの狐や狸ではないぞ。僧であるから仏道の術は効かぬ」


仏道が効かないと言うのは、天狗と同じって事か


ならば古神道か、自然そのものをぶつける神業なら効く事になるが……神業は周囲への被害が大きすぎてなぁ。


となれば、一つ目入道を倒すには、神器によるダメージしかない。


考えて居る事は同じなのか、尊さんが一早く草薙剣で斬りかかる。


まだ武御雷様の雷を出してない、純粋な神器としての一閃だが、その横薙ぎの一撃を受けて一つ目入道は切り裂かれた。


「え? なんだ……手応えが無さすぎる」


それもそのはず、切り裂かれた入道は、すぐに元の姿に戻ったのだ。


「効かぬな」


入道のその言葉に、全員が戦闘モードに入る。


先制してセイと淵名さんが水ブレスを撃つが、入道を貫通はするものの、すぐに穴が塞がり元に戻ってしまった。


何かがおかしい。


続いて水葉と名無し君の水龍姉弟の水ブレスだが、これもセイ達と同じく、ブレスで開いた穴は直ぐに戻ったのだ。


再生にしては早すぎる。


「おい! 雨女ぁ! あのアナイさん? とか言うので、吹っ飛ばしたらどうだ?」


「こんな洞窟の中で、対消滅(アナイアレーション)なんて使えば、いいとこ生き埋めか、大穴が開いて地図が変わるから駄目」


初めて使った廃坑では、生き埋めになり掛けて、龍脈で脱出したし。


それにもし、行方不明の女生徒が近くに居たら、一緒に吹っ飛ばしてしまう。


だから現状で、洞窟が崩れるような大技や大術を使うのは、避けたいのだ。



僕も天照様に借り受けてる、天之尾羽張を水の鞘から引き抜くと、それを構えて突進した。


それはどうしても確かめたい事があったからだ。


間合いが丁度いい処まで来ると、まずは龍氣を乗せて衝撃波を放つ。


地面を削値ながら進む衝撃波に、僕も後を追い追従するをする。


衝撃波は入道を左右に裂くが、すぐに戻ろうとするので、衝撃波を追従し間合いを詰めた僕が、天之尾羽張を横に薙ぐ。


「……!?」


手応えが無い!!


まるで素振りでもしているかの様であった。


「だから言ったであろう。効かぬと」


入道が大きな手で僕を潰そうとするが、間一髪で巳緒の土氣の術で、地面の磐が円錐状に持ち上がる。


まるで地面から磐の棘が生えた様にせり上がると、そのまま入道の手と貫く。


だが、まるで効いていない。


直ぐに穴が塞がり元に戻る。


その間を利用して、バックステップを踏み間合いを開けると、呪弾を撃ち込もうとしている西園寺さんに――――――


「西園寺さん。呪弾でも、おそらく無駄です」


「そうですか……では、弾が勿体無いですね」


「でも、どうするのよ千尋」


「本体はあそこに居ません。たぶんアレは幻術かと」


「幻術かぁ、じゃあ接近戦のサブミッションは掛けれないわね」


借りに掛けれたとして、あの大きさの妖を、どうやってサブミッションで極めるんだろう……


ちょっと香住の技に興味があるが、実戦でのミスは命に係わるから、そうも言ってられない。ギブアップしても放してくれるか分からないしね。


「しかし幻術ですか……何か破る手立てでも?」


「ありますよ。水葉」


冷静な西園寺さんを他所に、水葉を呼びつけると


「なによ。先に言っておきますけど、水ブレスを全開で吹いてあれだもの。闇の術も効くか分からないわよ」


「いや、闇の術は良いんだ。水葉じゃなくも僕だって出来るし」


「じゃあ、わざわざ呼んで何の用よ」


「戦闘前に、小鳥遊先輩が言ってただろ、狐か狸が化けてるって。だからあの入道は本物ではなく、幻術だと思ったのさ」


「ふ~ん。その人間が言っていた事が本当だとして、どうやって幻影を破って本物を見付けるのよ」


「水葉は八咫鏡を持ってただろ? あれで照らしてみたら正体が分かるんじゃないかな」


「成る程、八咫鏡か!? 良い着眼点じゃ」


僕の頭の上に乗った天照様もそう言ってくる。


「問題は光量かな? この薄暗い洞窟では、鏡の光も届かないだろうし」


「それなら建のオッサンが出番だろ?」


「いや、もっと適任な方が居られるじゃないのさ」


全員の視線が頭の上に乗る天照様に集まる。


「わ、妾!?」


「この日本で、他に太陽の化身の神様が居られますか?」


「居らぬじゃろうな」


「じゃあ一発、後光が射すようなのを、ピカッとやってください」


「うむ。畏れ崇めるが良いぞ」


そう言って、カメラのフラッシュを焚いた様な後光が、天照様から射し込んで来る。


光は八咫鏡を反射して、入道を消し飛ばしたのだ。


「「「 ぐああああ、眼がああぁ 」」」


「なんで味方まで、フラッシュにやられてるんだよ!! 説明聞いてたなら目を瞑れよ!!」


セイと尊さんと名無し君が、目を押さえて悲鳴を上げている。


戦闘経験の無い名無し君はともかく、何度も一緒に戦って置いて、何やってるんだか


横を見ると、光が納まったのを見計らい、小鳥遊先輩がサングラスを外している。


サングラスを、どっから出した? 先輩は相変わらず用意周到だな。



「さて、消えた一つ目入道はっと……」


先程まで巨大な入道が居た場所へ行ってみると、そこには狐が一匹目を押さえて転がっていた。


「民話でも、一つ目入道は狐とされているし、やっぱり狐だったのね。どうする千尋ちゃん、天照様のフラッシュにやられて動けなそうだから、化け狐を縛っとく?」


「こっちとしては、手荒な事はしたくないんだよね。女生徒の無事が分かれば良いんだし」


素直に話してくれれば良いんだけど……



暫らくして、視力が戻ったのか? 狐が目を擦りながら起き上がる狐に、先輩が炎の俱利伽羅剣を突き付ける。


「おあっ! 熱ちちち!!」


「先輩! いきなりそれは酷いんじゃないですか?」


「何言ってるの。高月さんなんか神器のナックルで殴ろうとしてるわよ」


先輩に言われて香住を振り返ると、神器を拳にはめて、何もない空間にシャドウボクシングをしている。


どうして、武道派ばかりなんだよ!


「さて狐君。炎と打撃、どっちが良いのかしら?」


「先輩、大人しく喋るって選択肢が抜けてますよ」


「喋らないかも知れないじゃない?」


聞いてから判断しましょうよ。


先輩や、香住に任せられないので、僕が話をする。


「ねえ狐君。ここを女学生が通らなかった?」


「うっさい、クソ蜥蜴」


コノヤロウ……いや待て、ここでカッと成ったら先輩達と同じ。


「狐君、質問を変えようか……」


「馬鹿龍! 山椒魚!」


それ両生類。


「……よーし、水攻めなんてどう?」


「千尋も、嬢ちゃん達と同じじゃねーか!」


口を割ろうとしない狐を持て余していると


「千尋君、ボクに話をさせて貰っても良いかな?」


「どうぞ」


西園寺さんは、ありがとうと言いながらスマホを取り出すと、画面を狐君へ向けて


「この男に見覚えありますか?」


「あああ!! この人間だよ。ここで門番をしながら割符を持った者だけを通せって言ったの!」


「名前は言ってませんでしたか?」


「さぁ……名前は聞いてないんだ。ただ門番をすれば、金子(きんす)をくれるって」


「妖狐のくせに、人間に雇われてるのかよ」


せっかく話てくれるようになったのに、セイめ余計な事を


「そりゃあ、龍族は良いさ。最悪食い物が無くても、自然の氣とか龍脈から氣を集めて生きてられるし。でも妖狐は、氣を集めるだけでは、生きていけないんだ」


「狐君ごめんよ。セイは黙らせて置くからさ、もう少し人間の事話して」


胸元のセイを手で覆う


「もう少し話せって言われても、本当に知らないんだ……でも、一目連(いちもくれん)様なら知っているかも?」


一目連(いちもくれん)様って隻眼の龍だよね? 確か伊勢湾台風を起こす龍神とか聞いたけど」


空から見た台風の目が、龍の目だと言う事から、隻眼の龍だと言われる所以らしい。


「そうさ、お前ら北関東の田舎龍とは、わけが違うんだぞ」


「否定はしないさ、僕なんか水が無ければ何も出来ないし」


「私は違うわよ」


おい。水龍ツインテール、喧嘩を買うなよな。


喧嘩になると話が進まないので、水葉(みずは)を遮るようにして話を進める。


「狐君。その一目連(いちもくれん)様は、どちらに?」


「この背後にある大鳥居を潜った先に居られるさ」


そう言って、僕らが入って来たのとは違う、背後の大鳥居を指さした。


「入っても良いかな?」


「ん~通したのが分かると、オイラの金子(きんす)が…」


代わりに払いたくも、金は持って無いなぁ。


どうしようか考えて居ると、奥の鳥居から声がする



「おーい。交代の時間だぞ」


そう言って現れたのは、二足歩行をする狸君だった。


「あっ! 狸どん。実は困ってて……」


「あれ!? もしかして、龍神様じゃないっすか? オラですよ。故郷を助けて貰った四国の!」


「四国って、隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)さんの一族!?」


「そうですよ! いやぁ、あの時は本当に助かりました。まだうちの子狸が小さいもんでね。もう少し鵺の声を聞いていたら衰弱死してましたよ」


「お役に立てて何よりです」


「長老の孫狸、ポン吉は元気でやってますか? 妹が訪ねて行ったでしょ?」


矢継ぎ早に話しかけられ、答えてる暇が無いくらいだ。


「その話は後でゆっくりと……今は一目連(いちもくれん)様に、お逢いしたいのです」


上手く話しの合間へ切り込んで、そう伝えると


一目連(いちもくれん)様に? だったら任せてくだせぇ」


頼りない胸を叩く狸さんだが、狐君が


「おい、ここの護りはどうするんだよ?」


「そんなの放っといて構わんだろ。一族の恩人の方が大事だから」


「えっと、無理強いはさせられないし、通してさえしてくれたら、一目連(いちもくれん)様は自分で見付けるよ」


「いいや、駄目ですって。恩人に報いなければ四国狸の名折れです。それに通した時点で、ここの守護は失敗なのですから、お気になさらず」


それは気にするだろう


「ん~さすがに、そこまでして貰う訳には……」


「実は、この鳥居の先に店を持ってましてね。本職はそっちなんでさぁ」


「店持ち!?」


「だから、ここのバイトが無くても食っていけるんですよ」


「でもさっき、狐君が……」


あっ、目を逸らした。にゃろ~


「狐どんに騙されましたな。まぁ、そう言う事なので、お気になさらずに着いて来て下さい。案内いたしますから」


そう言って、狸さんが先頭に立ち、僕らを案内してくれる。


暗く長いトンネルであったが、狐君が狐火を出してくれたので、暗視の出来ない香住達も助かったのだ。


そして、数分後。トンネルの向こう側が見えて来たのだが、どことなく、祭囃子(まつりばやし)の様な音が聞こえて来て、出口に近付くにつれ大きく成って行く。


「この先が妖の街、〔まほろば〕です」


狸さんの案内でトンネルを抜けると、そこには街が広がっていた。


朱色の柱に瓦屋根で出来たその建物は、どことなく古代大陸の町を彷彿させる造りであり。


真っ直ぐ伸びた通りの左右には、軒並み露店が(ひし)めき合っている。


そして、真っ直ぐ伸びた通りの突き当りには、一際大きい建物が、もの凄い存在感で佇んでいるのだ。


「もしかして、あの大きな建物が?」


「そうです。このまほろばの街を治める、一目連(いちもくれん)様の館ですよ」


「こんな遠くからでも、存在感ありありだわ」


香住(かすみ)が言うのも分かる。館から出る氣が尋常じゃないからだ。



「へへへ、そうでやんしょ? ささ、まずはオラの店に案内しますで」


そう言って、狸さんが僕らを街へ案内するのを、着いて行く事になった。



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