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8-10 図書室の絡繰り(カラクリ)


「なぁ、そろそろ3時休憩にしようぜ。如何(いかが)わしい本も無いしツマラン」


あるわけ無いだろ! 女学園だぞ。


「セイ……お前なぁ、胸に挟まってるだけじゃなく、少しは手伝えよ」


昨晩図書室で、男が消えた辺りを捜索していると、図書室に飽きたセイが休憩したいと言ってきたのだ。


「だって仕方ないだろ。天狗(てんぐ)と戦った時に水吹いちゃったし、喉渇いたんだよ。ここは人工の建物内だから、自然の再補充できないし……なぁ、いいだろ?」


「仕方ないなぁ」


「そうね、ちょうど3時だし。休憩しましょう」


先輩の意見に、やったーと喜びの声をあげるセイだが、僕としては暗くなる前に見付けられるものは見付けて置きたかったのだ。


それと言うのも、日が落ちて暗く成ってしまうと、暗視の出来ない香住と先輩の二人が、捜索できなく成ってしまうからである。


セイとか天照様は捜索してくれないので、実質僕一人に成ってしまう。


とはいえ、根を詰めすぎるのも良くないし、先輩は戦闘の疲れもあるだろうから、休憩はちゃんと取って置くべきかも


「休憩は良いけど、日曜だし学食もやってないでしょ?」


手を叩いて埃を払いながら、そう言ってくる香住。


「ここの学園は学食じゃなく、洋食を主にしたカフェテリアらしいわよ」


そう言って仙道さんに送信して貰った、学園の見取り図を入れたスマホの画面を、こちらに向けてくる。


「ええ!? なんて羨ましい。さすが御金持のお嬢様学園は違うわね」


「うちの学園だって、購買でパン売ってるじゃないか」


「何言ってるの千尋。カフェテリアよ、カフェテリア! 確かに購買のパンも美味しいけど、食べるには教室へ戻らなきゃならないでしょ」


「何もそんなにカフェテリアを連呼しなくも……そもそも学食を、洋風呼びにしただけじゃないか。購買は、イートインスペースが無いってだけで、食べ物売ってるのは同じだし。それにカフェテリアだって、ノートパソコン持ち込んで、ずっと居座れる訳じゃないんだからさ」


「どこの意識高い系よ!!」


「なぁ、やっていない店の話はいいからさ、自販機行こうぜ。ここの入り口にあっただろ?」


セイが言うような、自販機なんてあったっけ? と思いながら廊下に出ると、確かに自動販売機が置いてあった。


「本当にあったよ……」


「ふん。俺様の眼は誤魔化せん」


天狗の罠は、見破れなかった癖に


「ほう、これが自動販売機のぅ。ここから飲み物が買えるのか?」


「説明するよりも、見てもらった方が早いですね」


財布を取り出そうとすると、小鳥遊先輩がスマホを自販機にかざす。


「ボタンを押せば買えますよ」


「先輩? 良いんですか?」


「ええ、このぐらは必要経費よね?」


無線のインカムマイクに向かってそう言うと


『そのぐらいなら、仕方ない』


「富士でそれやって、酷い目にあってますが?」


『あれは食いすぎだ! どこの世界に、店一軒の食材を食い尽くして、経費で落ちる団体があるんだ! まあ、ジュースぐらいなら、受け持とう』


「だそうよ。ジュース買い占めようかしら」


『ざけんな小鳥遊! それやったら、自払いだからな!』


残念と舌を出して、お道化る先輩だが、本気で遣りかねないから怖い人だ。


気を取り直して


「天照様は、どれになさいます?」


「そうじゃのう……普段お茶ばかりだから、変わった飲み物が良いのう」


「変わった飲み物かぁ、スポーツドリンクか紅茶か…おっ珈琲の練乳入り! がありますよ」


「練乳とな?」


「牛の乳を濃縮して、砂糖をこれでもか! てぐらい入れたものです」


加糖練乳と無糖練乳があるんだけど、ここの珈琲には加糖練乳が使われてるらしい。


超が付くくらい甘そうだ。


「砂糖ってことは……」


「甘いですよ。餡子なんて比較にならないぐらい甘いです」


「それ! 妾はそれで良い!」


ボタンを押して、出てきた練乳珈琲飲料を天照様にお出しする。


休日で、空調があまり効いていない学園内では、温かい飲み物が丁度良い感じだ。


「僕の頭の上に溢さないでくださいよ。蟻が集まって来ますから」


「う~む。甘くて美味しいではないか、昔は干し柿ぐらいしか、甘い物が無かったからのう……それが今ではボタン一つで買えるとは、便利な世の中になったものじゃ」


「天照様の生まれた頃は、電気なんて無かったでしょうし、仕方がありませんよ」


セイと巳緒の分を買いながら、そうフォローすると、香住が


「ふっと思ったんだけど、自販機の神様っているのかな?」


「多分居るんじゃないかしら、米粒一つにも神様が宿るっていうぐらいだし、自販機にだってね?」


「僕に聞かれても、居るんじゃないかなってだけで……天照様、実際どうなんです?」


「そういえば、挨拶に来た気がするのぅ」


「気がするって覚えて無いんですか?」


「うむ! 覚えておらぬ。何しろ八百万の神々ってだけあって、神の数が多過ぎてのぅ。覚えきれぬわ。なにせ八百万は無限という意味もあるくらいで、数は相当なモノでのぅ。そういうのは思金(おもいかね)が覚えておろう」


思金(おもいかね)様って知恵の神で、高御産巣日(たかむすび)様の御子さんですよね?」


「そうじゃ。妾を岩戸から引っ張り出す策を考えたのも、思金(おもいかね)じゃからな。本当に良く知恵が回る」


天照様はそう言って、面白く無さげに答えるが、僕は思金(おもいかね)様と御逢いして、お話したいかも。


「しかし、お日様が出ないと、草木は光合成が出来ず枯れますからね。出て頂いて良かったですよ」


人間にとってもね。


「良いものか! 妾は騙されたのじゃぞ」


「まぁまぁ、御怒りを鎮めてください。岩戸の外へ出たから、アナゴ飯を食べれたり、こうして美味し飲み物も飲めるんですから」


「それは悪くないが…………そこの角に隠れている奴。いい加減出てきたらどうじゃ?」


天照様の言葉に、上り階段への死角から見知った顔が出てきた。


「さすが日本の神々の長。気が付かれてたか……そっと近づいて、驚かせてやろうとしてたのに」


「た、尊さん!? 何でここに? というか、どうやって入ったんです?」


「それは私が掴んで飛んだからよ」


尊さんの後ろから水葉が顔を出す。


「水葉!? それから、弟の名無し君まで」


「ボクも居ますよ」


「西園寺さん!?」


「いやはや、尊君と外で待ってたんですがね。暇をしていたら……」


「その暇な人間2名を、私らが見つけて連れて来たのよ」


「連れて来たって、どこから」


「ここの屋上のドアからよ」


そう言えば昨晩香住が、屋上のカギを壊してたっけ?


警報も成ってないし、上手く侵入したって感じかな? もしかしたら仙道さんが警報切ってるのかも知れないけどね、何も言って無かったし。


という事は、仙道さんも共犯かよ。アンニャロメ



「しかし、今朝も滝壺へ行ってた二人が、ここに来るって事は、御津羽様は復活為されたの?」


「まだよ。傷や取り込んだ瘴気は治っても、消耗した体力が戻らないらしくて……龍は疲れると何年も眠るって、淤加美叔母様が言ってたから」


口ではそう言ってはいるが、顔の表情からは心配の色が見て取れた。


「無理せずに、御津羽様の眠る場所へついて居てあげなよ」


「いえ、淤加美叔母様が1時間おきに、様子を見てくださるので大丈夫。それより借りをそのままにして置く方が気持ち悪いわ」


「借りって……別に、貸してるつもりは無いから。どうしても返したいって言うなら、八咫鏡を返してよ」


「それは駄目。母様が無事に起きてくださるまでは、八咫鏡を返さないわ」


「おまっ! さっき、何年も掛かるって言ったじゃないか!?」


「掛かるかもってだけで、今日とか明日に目が覚めるかも知れないし」


「知れないって……ただの憶測じゃないか」


だいたい年単位も待ってたら、僕が天津神達に処罰されますが



「まあまあ千尋君、その話は後にして。そろそろ捜索再開しないと、暗く成ってしまいますよ」


「そういうこった。手数が増えれば、探し出す時間も短縮できるってもんよ」


「……2人とも、せっかく来たんだし、見つからない様に手伝ってくださいね」


昨晩学園に入らなかった初見の4人を、男が消えた問題の場所に案内すると、西園寺さんがスマホの動画を擬視し始めた。


その動画は、ずいぶんと明るく加工され処理されており、先輩の持つ元動画よりも見やすくなっていて、男の手元がハッキリと映っていたのだが――――――


「やはり、本を持って置いてるだけではありませんね。一度抜き取っています」


西園寺さんが動画を視ながら、男が最初に手にした本を見つけると、あることに気が付いた。


「西園寺さんの手に取った本って……タ行の題名ですよね」


「ええ、それがサ行の棚に入っていたのです。次はタ行の棚に行ってみましょう」


タ行の棚にはハ行の本が、ハ行の棚にはヤ行の本が入っており。ヤ行の棚にはア行の本が入っていた。


「4冊が全部違う棚に?」


「初歩的な仕掛けですね。4冊とも本の大きさが全部違うでしょ? そこでコレです」


本が入っていた場所の上に、小さいセンサーが付いているのを西園寺さんが指さした。


どれも立ち上がって見ると、死角になって見えない位置にセンサーが付いて居り。センサーを見つけるには、屈んで見るか余程背が小さい人でない限り、気が付かない様に成っていた。


「これは子供じゃ無きゃ、見つけられませんよ」


「でしょうね。大人の背丈では、死角になるよう意図的に作ったんでしょう」


「じゃあこれが、男が消えた入口の?」


「ええ、鍵だと思いますよ。たぶん上部にあるセンサーが本の高さを計っているんでしょう。4冊をちゃんとした棚に収めれば……」


西園寺さんが、バラバラの棚に入っていた本を、正規の棚に戻していくと――――――


突然、機械が動く様な音がした。


いったい、どこから?


あの男が、最後に居なくなった場所……閲覧室!!


図書室の一番奥に設置された閲覧室を片っ端から覗いて行くと、一番角の閲覧室の床がスライドして階段が地下へ向かっているのが見て取れたのだ。


「ここが、あの男が消えた場所」


『おい、お前ら分かっているだろうが、男を探すんじゃなく、女生徒の安否が目的なんだからな』


無線から仙道さんの声が注意を促して来る。


「でも、教師として潜入した人は、女生徒も図書室で消えたって言ったんでしょ?」


『そ、それはそうだが……』


「だったら、この階段の下に居る可能性が高いですよね」


『……あぁ分かった。お前らが入って1時間して戻らねば、祓い屋協会へ連絡して、突入を検討するからな。とは言っても、妖に負けるような、お前らじゃない事は分かっているが、念のためにな』


気を付けろよ、とそれだけ言うと、仙道さんは無線を切ってしまった。


用意周到な仙道さんの事だ、一応1時間とは言ったが、予め本部へ報告をして、部隊を近くに潜ませておくだろう。


なんにせよ、僕らは僕らの出来る事をするまでだ。



階段を降りようとして居ると、小鳥遊先輩が水のペットボトルを僕に渡してきた。


「さっきの自販機で買って置いたのよ。天狗戦で使わせちゃったからね」


「気を使わせちゃって済みません。助かります」


先輩からペットボトルを受け取って、腰のペットボトルホルダーに水を補充する。


これで、神級の大物が出ない限りは、大丈夫だろう。


水の心配が無くなり、階段を降りていくと、背後で穴が閉じる音がして、急に辺りが真っ暗になった。


龍眼で暗視が効く僕とかの龍族以外は、何も見えないだろう。


「みんな大丈夫?」


「何も見えないわ」


「私は千尋の尻尾を掴んでるから」


「香住は、僕の尻尾を持ったまま、回さないようにね」


「さすがにこの状況で、ドラゴンスクリューはしないわよ」


香住は普段が普段なだけに、尻尾を握られてると、心配で仕方がない。


「建のオッサンが入った雷神剣草薙で照らそうか?」


「それやると、尊さんは体力減るでしょ」


「あっ! 何か触っちゃったわ」


「先輩!? いったい何を?」


その答えはすぐに分かった。左右の壁に付いていた、松明型のLEDランプに明かりが点いたのだ。


「灯りのスイッチだったみたい」


「なんで松明型なんだろう……普通のライトで良いじゃないか」


「通路を造ったヤツに、拘りがあるんだろ? さっさと階段を降りようぜ」


足元が明るくなったとはいえ、手すりの無い長い階段である。気を付けることに越した事は無いのだが


尊さんは先にどんどん下って居てしまう。


「どうやら底に着いたぜ」


「もう、一人で先に行って、敵に囲まれたら……え?」


喋っていた先輩が、急に大人しくなるので、僕らも急いで底に降りると、超巨大な大鳥居が据え付けられており、その向こう側は真っ暗になっている。


「で、でけえな……こんな大鳥居を潜る様なヤツって……」


みんな大鳥居を見て生唾をのみ込んだ。


色んな鳥居を見ていたが、ここまで大きいのは見た事が無かったからだ。


鳥居の高さは、大型のトラックを縦にしても届かないぐらい大きくて、ここを通る化け物は特撮映画の怪獣並み……いや、もっと大きいだろう。


「リンゴ何個分かな?」


「セイ。おまえなぁ、リンゴで数えようとするなよ。首都にある野球場で……」


「千尋ちゃん。もっと分かりづらいわよ」


暫らく大鳥居を見て、大きさに圧倒されていると


「そろそろ行こうぜ。外の仙道が、突入する前に戻らなきゃだろ?」


そうだった。1時間の制限があるんだったわ。


尊さんの言葉によって、冷静さを取り戻した僕らは、意を決して大鳥居に向かって歩みを進めたのだ。



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