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龍神の花嫁 八俣遠呂智編(ヤマタノオロチ)  作者: 霜月 如(リハビリ中)
1章 夏休み クローンオロチ
19/328

18 希少種

従姉妹を(しまい)とルビをふっているのはワザトです。

千尋は、二人が従姉妹であり、姉妹では無いことは知っているが、本当の姉妹のように姉と慕う小百合ちゃんを見て、敢えて『しまい』と呼んでいます。

でも、小百合ちゃんの中身の事までは知りません。


「うぅ……」


「お? 気が付いたか?」


「……セイ? 何で砂漠に……」


「アホ。ここはお前の部屋だろ」


そう言われて周りを見渡すと、確かに僕の部屋だ


まさか、夢オチって事は━━━━━━



そう呟く僕に、セイが首を横に振りながら、手に持ったタブレットPCを渡してくる



タブレットPCの画面には、ニュース番組が映っていて、砂漠の一部だけ緑化している事を、話題として取り上げていた



「うわぁ、大事じゃないか」


「千尋……お前な、他人事の様に言うなよ……」


セイが、溜め息混じりに言う



「し、仕方ないだろ。岩でも背負わされ、海を渡る修行かと思ったら……寝ている間に大陸へ渡らされた上に、砂漠へ放置されて、干からびたく無かったら水を出せ! って言われたんだぞ」


淤加美(おかみ)様は、T県の砂丘だって言い張って居たけどね


「大婆様……過激だな」


「だろぅ? で、その淤加美(おかみ)様は何処(いずこ)?」


セイに尋ねると、どうやら現地の土地神様へ、生態系を壊してしまった事への、謝罪に行っているという


「え~、僕は水を出す為、必死になってただけなのに……」


(たわ)け! 妾は水を出せとは言うたが、緑化しろとは言うておらんわ!」


そう言って、姿を現す淤加美(おかみ)



「お早いお帰りで」


「早く無いわ、あれから3日経っておる」


マジか!? セイの顔を見ると、真顔で頷いているので、本当らしい。


「妾は、御主の事を誤解しておった」


「5階も6階も……いえ、何でもないです」


淤加美様のマジな顔を見て、僕も巫山戯(ふざけ)るのを止めた


「妾達は、千尋の事を『人間から龍に成った』せいで、水神としての手順が、オカシイのかと思っておった」


「僕もそう思ってますが……」

今でもね


「じゃが、御主が龍脈を伸ばした事で、普通の水神と違うと判断したのじゃ」


「え? 龍なら誰でも出来るんじゃ?」


「少なくも妾には出来んし、出来る龍を見たのも、御主が初めてじゃ」


隣でセイも、俺も出来ないと頷く


「ちょっと待ってください。龍神って、切れた龍脈を繋ぎ直したり、迂回させたり出来ますよね」


「良いか千尋。あくまで既存の龍脈から龍脈を迂回路(バイパス)で繋ぐだけであって、何もない場所へ龍脈を引く事は出来ん」


「えええ!? 僕は神社裏にある、松の木の下へ引いたりしてましたよ」


あ、二人とも凄い吃驚てる



「お前なんでそんな事を?」


「いやね、龍脈の氣が松に影響すれば、秋に松茸が食べれるかなぁと思って……」


ほら、国産の松茸を食べてみたいしねぇ。


でも国産の松茸は高いからさ、せっかく龍神になって龍脈動かせるんだし、試しに松の木の真下へ通してみたんだけど……



「妾は頭痛がしてきたぞ」


「お前な……簡単に難しい事を、やってのけるなよ……」


淤加美様は疲れた顔で、セイは呆れた顔で、それぞれ僕を見る


そんなに難し事かなぁ。僕にとっては大量の水を出す事の方が至難の技だけど



「僕だって、いきなりは遣らないよ。最初は家庭菜園程度で試したんだ……そうしたらトマトが甘くて大きくなってさ」


「それで、最近の食卓に野菜が多くなったのか」


妙に納得するセイ



「才能を無駄遣いしおって……千尋、やはり御主……ただの水神の龍じゃなく、『希少種』じゃな」


なにそれ、格好いい



淤加美様曰く


極希に、普通の龍として進化せず、全然違った進化をするモノが存在する


おそらく、半龍から完全な龍に成った日に何かあったんじゃないか? との事



「「 あっ!! 」」


僕とセイが同時に声をあげた


完全な龍に成った日……その日で思い当たるのは、僕の妹との一件だ!


あの時、死にかけたけど、ギリギリで龍になったお陰で、再生力が強化されて、何とか生き残る事ができた


妹の魂も、祟り神と一緒に取り込み、今は『守護神』として術反射と呪反射を常時発動している


お陰で女の子から戻れなく成ったんだけどね


「龍になった時の、エピソードと言ったら、アレしか無いよね」


「だよなぁ……お前の妹の影響か? 祟り神の影響か?」


「どちらにせよ、そのお陰で全然違う進化を遂げておるようじゃ」


水神で龍神であることには代わりはないがな。と淤加美(おかみ)様が言う


つまり、同じ船乗りでありながら、近海専門と外洋専門とで、違うと言ったところか



「じゃあ、僕に大量の水を出すことは、出来ないって事?」


「分からん。前例がないからのぅ」


そう言って空中で腕を組、難しい顔をする淤加美様を他所に


千尋も目が覚めたし、飯にしようぜ。と立ち上がるセイ


本当に、コイツはマイペースだな……ま、そこが良い処でもあるけどね



取り敢えず時間を確認すると、9時を回った処だった


「急がないと夜食に成っちゃうね」


「なにを言うかと思えば……9時と言っても朝の9時だぞ」


そう言ってカーテンを開けると、確かに窓の外が明るい


これが時差ボケと言うヤツか!?


顔を洗って、呆けた頭をスッキリさせようと、ベッドから降りると━━━━


「千尋や、この後少し付き合うてくれ」


そう淤加美(おかみ)様が言ってくる


「僕は別に構いませんが……修行なら、しばらく勘弁してください」


やっと復帰したのに、また倒れるの嫌だし


「いや、貴船神社の妾の本体から、加具土(カグツチ)探索の知識を共有したのでな。その報告を建御雷(たけみかづち)にすると約束しておったじゃろ」


はぁ~面倒臭いのう~ と言いながら、何処か嬉しそうにしている淤加美(おかみ)


本当は逢いたい癖に……


口にすると、違うわ! って怒り出すから言わないけどね。


取り敢えず、御飯の後で良いですか? とことわりを入れて台所へ行く


3日も経って居るんだもの、お腹に何か入れたい。


冷蔵庫の中身を確認して献立を組み立てていると━━━━━━



「あら? 千尋ちゃん。もう起きて平気なの?」

そう言って現れる小鳥遊(たかなし) (みどり)先輩と後ろに小百合(さゆり)ちゃん


「二人とも、お久し振りですね。今日は、どうしたんです?」


「いえね、千尋ちゃんが倒れたって聞いたから、お粥でも作ろうかと……」


それは、危なかった。


小鳥遊先輩の料理は、破壊力抜群だから……逆に容態悪化しそうだし


お粥が出来るより先に、目覚めて本当に良かった。ありがとう……龍神の再生力



せっかくだし、二人が買ってきてくれた材料を使わせて貰おうと、袋の中の材料を確認すると


鶏粥にするつもりだったらしく、鶏肉と卵とネギが入っていた


それらを利用して、手っ取り早く親子丼を作る


「本当に手際が良いわね」

僕の料理を横で見ながら、感心する先輩


「婆ちゃんに仕込まれましたから……ほいっ。丼に蓋をして、7人前お待ちどう様」


お盆に乗せて居間へ運ぶ


時間的に、朝食でも昼食でもない、中途半端な時間だけれど


社務所の婆ちゃんと桔梗(ききょう)さんにも届けておく


香住は、祭りの間だけの助勤(バイト)だったので、文化祭の衣装造りへ戻っていったとの事


確かに、夏祭りが終わったら、参拝者も減って例年通りだし、婆ちゃんと桔梗さんだけでも、十分なぐらい暇そうだ。


それじゃあ、6人前で良かったな……香住が居ないの忘れてたよ。淤加美(おかみ)様は、揚芋菓子しか食べないし……ハロちゃんにあげるか


小さく成っているので忘れがちだが、本来は犬じゃなくて、狼の荒神なんだし、犬用のカリカリとか缶詰めばかりじゃ可哀想だものね


でも、ネギ大丈夫かなぁ


「食べてて気分が悪くなったら、ネギ退けてね」


そう言ってハロちゃんに親子丼を出してあげる


『我は犬じゃ無いと、毎回言っておろう』


様子を見ていたが、ガツガツ食べてるので、大丈夫そうだ


器は後で取りに来るからと言って、居間へ戻りやっと3日ぶりの御飯にありつけた


セイなんて、待っててくれずに、丼が空っぽで、お茶を啜ってるし


コンニャロメ……



全員食べ終わって、お茶を啜っていると━━━━━━


「実は、千尋ちゃんにお粥を作るって言うのは半分で、私の兄の行方を聞きたくて、やって来たのよ」


そう切り出す小鳥遊先輩だが


いえ、半分もないわね……3分の1……4分の1ぐらい? と(たける)さんへの心配度が、どんどん下がっていく


可哀想だから、その辺にしてあげて下さい。



「私は姉様が、お粥作るって言うから手伝いに来ただけで、(たける)兄の事はどうでも良いです」


と、相変わらず辛辣な小百合ちゃん


特に(たける)さんが嫌いみたい


才能があるのに、使おうとしないとか、寺の跡継ぎが嫌で、姉様に押し付けて逃げてるのが許せないだの……悪態をつき出すと止まらないぐらいだ



まあ、その(たける)さんも、今頃は九頭龍大神(くずりゅうおおかみ)建御雷神(たけみかづちのかみ)に強制修行させられているから、許してあげて欲しい


神話時代の、古神様が行う修行が辛いのは、僕も身をもって知ってますから……



(たける)さんの行方は知ってますよ。N県の戸隠にある戸隠神社です」


移動してなければ、まだそこに居る筈ですよ、と小鳥遊従姉妹(たかなし しまい)へ説明する



「修行!? あの兄が!?」


「信じられません……浅間が噴火しなければ良いですが……」


普段、どんだけグータラなんですか? (たける)さん


セイだって此処(ここ)まで言われませんよ



「と、取り敢えず。淤加美(おかみ)様との約束もありますので、二人も一緒に行ってみますか?」


丁度、建御雷(たてみかづち)様へ逢いに行く処だったと伝え。二人も誘ってみたら一緒に行くとの事


「無事なら別に……用事は着替えを渡すだけなのよね」



先輩は、行きたく無さそうに言うけれど、(たける)さんの為にお握り作ってたし


お握りの形が変で、具がはみ出して、見えてしまったが……あんな具、ウチの冷蔵庫にあったっけ?


修行で疲れて居る(たける)さんに、トドメを刺す気かな……


「大丈夫です! 姉様のアリバイは、私が証明します!」


フォローになってないよ小百合ちゃん。毒を盛る気満々だし


RPG(ゲーム)じゃないんだから、死者蘇生なんて僕には出来ませんからね


どこまで本気で冗談だか分からない小鳥遊従姉妹(たかなし しまい)と一緒に龍脈へ入る


目的地の戸隠神社へは、龍脈が通っているので、直接龍脈移動ができた


「本当に便利ね龍脈移動(これ)

龍脈から出て開口一番にそう言う先輩


「目がチカチカします」

ちょっと龍脈の氣に当てられる小百合ちゃん


「氣の流れに乗ってる訳ですから、氣当たりしても仕方ないよ」


尊さんも氣に酔ってたし、気にしないでと言ったら


一緒にされたく無かったのか、あんなヘタレと違って、私は大丈夫です! と強がっていた。


小百合ちゃん……本当に嫌いなのね……



取り敢えず、九頭龍様の居場所を社務所に居る巫女さんに聞いてみようと思い。社務所へ訪れてみたのだが……


「あの~、九頭龍様に、お逢いしたいのですが……」


「はぁ…………拝殿でしたら彼方(あちら)になっております」


いやいやいや、参拝じゃなくて……


『無駄じゃぞ千尋。その娘は助勤(バイト)の巫女であって、九頭龍大神(くずりゅうおおかみ)は見えぬ』


そう淤加美(おかみ)様が、僕の内側から念話を飛ばしてくる


『でもそれだと、何処に行って良いのか分かりませんよ』


『大丈夫じゃ、おそらく結界かなにかで、修行場を隔離してあるのじゃろうが……建御雷(たけみかづち)の氣が(わず)かだが、感じられる』


そう指を差す方向には、九頭龍山が(そび)えたって居た。


ここ戸隠の地は、かの有名な神話の引きこも……否、天照大神(あまてらすおおかみ)岩戸(いわと)に閉じ籠り。それを開いた神々をお祀りした事で有名な地であり


戸隠山は岩戸(いわと)が飛来して出来たとも言われている


その戸隠山の北東に位置するのが、九頭龍山であり。淤加美(おかみ)様の指し示す、今回の修行場だと言うのだが━━━━━━



「本当に、此方(こっち)なんですか?」


姿を現し、ふよふよと飛びながら僕達を先導する淤加美(おかみ)様へ、問い掛ける


「結界が強すぎる上に、人払いの術まで在りおるから……はっきりせぬのじゃ」


「まさか!? 間違ってませんよねっ! と……」


淤加美様は飛んでいるから良いけれど、地を歩く僕達は草木を掻き分けて進むしかなく


先程、踏みそうだった2匹目の蛇を、ぶん投げた処だ



「ひっ! 瑞樹先輩! よく素手で掴めますね」


僕の後ろに居る小百合ちゃんが泣きそうな顔で言ってくる


「千尋ちゃん。毒に気を付けてよ。貴女、術反射を持ってるせいで、治癒術効かないんだから」


と、殿(しんがり)小鳥遊(たかなし)先輩が言う


「寺の娘よ。千尋はああ見えて龍神じゃから、蛇毒程度で死にはせん。多少眩暈(めまい)はするかもしれぬがのぅ」


眩暈(めまい)はするのか……次から気を付けよう



そのまま山中を歩くこと数時間━━━━━━


遂に道案内役の淤加美(おかみ)様が、壊れた方位磁石のようにグルグル回り始めた



「まさか……道に迷ったとか?」


「いや、此処で間違い無いのじゃが……」


でも、何にもない山中ですよ……とチベット砂狐のような眼差しを向ける


仕方ない、此処に龍脈のマークして置いて、一端戻りますか? と諦めかけていると



「ちょっと待ってください。この大きな2本の杉木の間……ちょっと変です」


小百合ちゃんが、そう言って前へ出る


分かるの? と、杉の木を触っている小百合ちゃんへ尋ねると、先輩が小百合ちゃんの代わりに答えてきた。


「小百合はね、『透視』能力を持っているのよ」


「透視? 凄いじゃないですか!」


透視距離は短いんですけどね。と小百合ちゃんが付け加えたけど


それでも、普通の人間なのに、スキル持ちなんて凄すぎる



「やっぱり、この2本並んだ杉の木の向こう側に、広い空間があるようですよ」


「結界じゃな。妾の出番かのう」


何やら術を唱えると思いきや、僕の背中へ回ってドロップキックをかまされた


うわぁ! とよろめきながら杉の木の間へ突っ込む僕。


一瞬バチバチっと火花が散ると、そのまま結界が吹き飛んだ



「何するんですか! 火花が出ましたよ」


「いやなに……解術するより、御主の術反射でショートさせた方が早いかと思ってのう」



酷でぇ……御先祖様、酷すぎるっす


もうちょっと優しく扱ってよ、無傷だったけどさ……



「ほら、千尋ちゃん。行くわよ」



おまけに、誰も僕の心配しないし、このパーティーメンバー鬼だわ



半泣き状態で、皆の後を追うのだった。




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