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8-05 女学園へ潜入


北関東から龍脈で移動したのだが、仙道(せんどう)さんは少し吃驚していた程度だった。


仙道(せんどう)さん本人は、コレが噂に聞く……とか言って居たが、よろけもせず普通に立っていたのは流石だ。


大概、龍脈に初めて入る人は、出た後の感覚がおかしくて、軽い眩暈(めまい)や氣酔いなど起こすもんだが、そうならないのは祓い屋として氣の扱いに長けているからであろう。



龍脈での移動先であるH島県の女学院裏で、仙道(せんどう)さんが何処かに電話していた。


どうやら中へ入るにも、色々手続きが必要らしい。



今回、潜入先が女学園という事で、(たける)さんはお留守番だ。


櫛名田比売(くしなだひめ)(くし)で女体化できるものの、女子生徒の制服が無い。


妹の(みどり)先輩から借りようにも――――――


「嫌よ! 兄に制服を貸すぐらいなら、捨てた方がましよ」


との事で、丁度いいサイズの制服が無いのだ。


かと言って僕の制服じゃ、背丈が小さすぎるしなぁ


因みに、香住(かすみ)の制服だと胸が入らない。声に出して言うと怖いから言わないけど……


土曜日なので学園休日の潜入なのだから、制服は要らないと言えばそうなのだが


もし警備の人や、学園内を見周る人に見つかった時。忘れ物を取りに来たとか、テスト勉強をしていたら、こんな時間になったなど、生徒を装おう事で簡単な言い訳が出来る。それを考えると、やはり制服は必要だ。



「はい、分かりました。失礼します」


「電話は終わりました? 御堂筋(みどうすじ)さん」


仙道(せんどう)だ! もう良い。今理事長に許可と取った。これで不法侵入にはならん」


「ちょっと! その理事長が、今回の騒ぎに一枚噛んでたらどうするのよ」


「それは無いな。何せ娘の安否確認を依頼して来た、鳴無(おとなし)氏が理事長だからな」


「はい!? 初耳なんですけど」


「それは言って無かったからな。今回の依頼には鳴無(おとなし)氏本人の個人情報は関係なく、娘たちの安否確認が依頼なんだから言う必要なんだろ」


にゃろぅ、まだ隠してる事とか無いだろうな? 自分から言う気が無いなら、こちらから聞いてみるか


「学生寮の方は調べたんですか? 電話では生気がない声とはいえ、応答しているとの話ですし、部屋にいる可能性もあるのでは?」


「言われなくても、学生寮は調べたさ。昼間は学園に出払って女生徒が居なくなるからな。全部屋とは言えないが、安否が不明な6人の部屋は調べてみた」


「どうでした?」


「現在安否が不明な6名の全員が帰って居なかった。と言うのも、6名の内4名が夏服のままで居なくなったらしく、冬服の制服がクローゼットに残ってたし、その4名の内1人の日記が4月下旬で止まっていた」


日記まで調べたのかよ。乙女の園に入り込んで、やりたい放題だな。


「その生徒は、4月に何かあったという事か……」


「えっと、鳴無(おとなし)……恵梨花(えりか)さんだっけ? その子の部屋は?」


香住(かすみ)も自分と同じ年と聞いてた為か、他人事の様に思えなく心配で仙道(せんどう)さんに聞いて来た。


「他の娘と同じだ。机の上に積もった(ほこり)の量で、部屋にはかなりの間戻っていないし、何より学生鞄がない」


鞄が無いとなると、やはり学園内で何かあったと考えるのが妥当か


「やはり図書室を調べる必要がありそうね」


「まさか今日中に戻って来るとは思わなかったから、学園内の地図を用意できなかったが、鳴無(おとなし)氏から貰った園内の見取り図をスマホにデータとして保存してある。それを小鳥遊(たかなし)のスマホに送っておく」


仙道(せんどう)さんがそう言ってスマホを操作すると、ピロンと電子音がして先輩のスマホに転送される。


「ふ~ん。一階の西の端っこね」


鳴無(おとなし)氏に許可は取ったが、警備を切るまでは間に合わなかった。何せ急だったしな」


「じゃあ、どうするのよ」


「監視カメラはジャミングを噛ませてループ再生にして置く。問題は赤外線センサーと鍵だな。まず鍵だが、この時間帯に電子鍵を開ければ警備に通報がいく。なので……瑞樹千尋(みずきちひろ)、お前は龍だから空飛べるだろ?」


「飛べないぞ」


「は? 飛べない?」


「うん飛べない」


厳密に言えば、淤加美(おかみ)様の力を借りれば飛べるだろうけど、対価の揚芋が無いと五月蠅いからな。


「…………ならば、鍵をどうにかしないと」


「ねえ、正門開けるのに飛ぶの?」


「正門は電子鍵なんだよ。さっきも言ったが、電子鍵はこの時間に開けると、正規の手続きをしても、門を通過した一報が、警備に届くんだよ。だから屋上の物理鍵を開けて……と思たんだが、飛べないなら他の方法を考えねば」


「なんだそんな事か、なら跳んで屋上から入れば良い」


「おま……今飛べないって」


「うん、空は飛べないけど、跳べるんだよ。とぶって言っても跳躍の方ね」


「4階建てだぞ!? 屋上はその上だから5階の高さだ」


「そのぐらいなら行ける。昔ウチの学園でもやったし」


「お前……本当に規格外だな」


「そりゃあ、千尋(ちひろ)ちゃんは国津神だもの、余裕でしょ」


実際のところどこまで跳躍できるかは試した事ないから分からないけど、かなりの高さまで行ける気がする。


「作戦だが、オレはカメラの解除と警備状況を外から伝えるので、もしセンサーに触れたら連絡するから即時撤退する事。連絡には無線機のインカムを渡して置く。これでオレと会話が出来るはずだ」


「全くいい気なモノね。自分は安全な場所から指示だけだなんて」


「オレは男で女学園に入れないんだから仕方ないだろ。それに、あまりに急な事で、色々用意できなかったんだから」


用意出来たら女生徒の制服で一緒に来たんだろうか?


まあ、想像しないでおこう



僕は先輩と香住(かすみ)を抱えると――――――


「じゃあ行ってきます」


屋上目掛けて跳躍した。


抱えていた二人を屋上に降ろすと、学園内へ入る扉の前へ行くが、やはり鍵が掛かっている。


「ここは私に任せて」


「先輩、鍵が開けれるんですか?」


小鳥遊(たかなし)先輩が、一度やってみたかったのよねぇ、と不敵な笑みを浮かべながら、髪の中からヘアピンを取り出すと、鍵穴に突っ込んでカチャカチャ弄り始めた。


それから五分


「…………あれ? おっかしいなぁ? テレビ番組だと、ここで開くんだけど……」


テレビっておい!


「先輩、もしかして開けた事ないんじゃ?」


「ないわ! でもテレビでね……」


「もう良いです」


時間の無駄だわ。


「そう言う千尋(ちひろ)ちゃんは開けた事あるの?」


「ありますよ。祭具の入った倉庫の鍵を失くした時に、水を操り鍵の形を創って開けました」


「え? 倉庫の鍵って南京錠じゃないの。さすがに警備の強化されてる、ここの鍵は開かないんじゃ?」


「それはやってみないと……」


水を鍵穴に突っ込み、中で固形化して回すが、何か他の物に当たっているらしく回らない。


「あれ? なんで?」


焦って時間ばかり過ぎていく。


「もう、何やってるのよ二人とも。私に代わってよ」


香住(かすみ)が開けれるの?」


僕と先輩がお手上げで離れて見ていると、バキッ!! と音を立てて扉が開いた。


「ほら開いた。簡単でしょ」


高月(たかつき)さん、力技で行ったわね」


「ぶっ壊すんかい!!」


『許可は貰ってるが、あまり痕跡(こんせき)を残す様な事するなよ』


そう無線で仙道(せんどう)さんが言ってくるけど、少しばかり言うのが遅い。


淵名(ふちな)の龍神さんが肩に乗って、ドラゴンライダー化しているとはいえ、えらい馬鹿力だ。


一応、触った部分の指紋は拭き取っておくが、入園許可をもらってるのに悪い事をしている気分。



「なぁ千尋(ちひろ)。さっきの見取り図にあったが、屋内プールがあるんだろ? 更衣室寄って行こうぜ」


「寄らないよ! セイは水に入りたいのじゃなく、女子更衣室が目的なだけだろ?」


「この学園は雌しか居ないんだぞ。雄が居ないだけで、もう香りが違う」


香りって犬か! アホなこと言わなければ、イケメンでモテそうなのに勿体無い。


女子更衣室に入りたいとは思わないが、セイの言いたい事も分かる。確かに男子禁制だと男独特の匂いがしないからだ。男女共学である、ウチの学園とはちょっと雰囲気が違う。



小さく成り僕の頭の上に乗ったセイを、エロ龍め! と指で突ついてツッコミを入れてから、暗い校舎内に入り込む。


「仙道さん、なんとか中へ入りました」


『了解。スマホへ送った見取り図を見て貰えば分かるが、屋上は東館の4階の上にある。そこから一番遠い西館の1階が図書館だ。ルートは任せるが、1階の廊下を通るなら気を付けろよ』


「1階に何かあるんですか?」


『1階は職員室など個人情報を置いてる場所があるせいか、カメラの数や赤外線の数が多い。オレの御勧めは4階の廊下を東館まで移動し、そこから階段で1階まで降りる方が警備上手薄だ』


なるほど、侵入も1階から入るものだと思って、1階を重点的に警備の強化をしてあるのね。


学園警備担当も、まさか屋上から入られるとは夢にも思うまい。


仙道さんのアドバイスに従い、4階の廊下を西館へ移動するのだが


夜の校舎で何もいない訳がなく――――――



「ひっ! い、今。人体模型が動いてましたよ」


「気のせいよ」


「おあぁ、窓、窓の外に人が……4階なのに」


「千尋は本当に臆病よね」


「香住は見えないから良いけど、僕には見えるんだよ。人間だった時よりはっきり」


僕以外の全員が、はぁ……と溜息をつく


「この中で一番強いくせに何言ってるんだか」


「弱かった人間の時に負ったトラウマなんだから仕方ないでしょ」


「千尋、お前は龍だろ」


「その虎馬じゃないよ! せめて霊じゃなく、ゾンビにしてよ……」


「何が違うんだ?」


「ゾンビは粉々に出来るけど、霊はすり抜けるから嫌なの」


「黄泉のゾンビは何度も黄泉返ったし、そっちの方が面倒だと思うぞ」


「そう言えば地元の瑞樹(みずき)の地も、悪霊だけは綺麗に居ないわね」


「僕の管理する神佑地に入れませんから。悪意のある妖もね」


「それで悪意がない見るだけで害になる、クネクネしたのが入り込んだのね」


「他にも首無しが入り込んでたよな。あれも悪意がなく、バイクで走りたかっただけだったか」


先輩とセイが言わんとしてる事も分かる。悪意の有る無しに関わらず、人外は完全に締め出せば良いって事なんだろうけど、何もしてないのに追い出すのは気が引ける。


なので瑞樹(みずき)神佑地(しんゆうち)では、悪意が無いモノが中へ入れててしまうのだ。


「平和になる事は良い事だけど、祓い屋としては商売あがったりだわ」


そりゃあ済みませんね。怖いの嫌いなんです。



小声でそんな話をしていると、東館から西館に廊下が折れる場所で、何やら明かりが見える。


すぐに先輩と香住(かすみ)の懐中電灯を切らせ、西館の廊下を覗くと――――――


男性が西の階段を降りていったのだ。


「あれは……男の人?」


「え? ここは男子禁制のはずじゃ?」


「遠くて龍眼を望遠にしようとした時には、階段へ降りられちゃったから、でも男の大人に見えたよ」


「大人って教師かな?」


『それはないぞ、教員も全員女性のはずだ。夜間警備以外はな』


「夜間警備? じゃあ警備の人か?」


『因みに、それもない。警備情報をモニターしてるが、正門も通用口も警備員が通過すればIDパスポートの情報が残る。最後に通過したのは今朝の7時だ』


つまり昨晩から今朝にかけての見回りで、警備の人が外に出た記録は朝の7時、それが最後って事は今夜はまだ警備さんが入っていない事になる。


「どうします? 出てきた教室を調べますか? それとも男を追いますか?」


今回の指揮は、仙道(せんどう)さんに丸投げなので、無線で指示を仰ぐ。


『男を追ってくれ、外のオレから見える感じだと、懐中電灯の灯りが1階へ向かってるようだ。西館の1階は例の図書室がある。潜入した女教師もそこで見失ったと報告があがっている。隠し部屋とか地下室があるなら、開け方を見ておきたい』


「見るだけですか? 踏み込んで倒した方が良くありません?」


『気が付かれて、生徒を人質にとられると厄介だ。連れて行かれた生徒が6人以上いた場合も考慮に入れて、今回は様子見で男の目的と正確な人数の把握を優先に……おっと、話してる間に灯りが1階へ到達したぞ』


「了解。そちらを追います」


同じく無線を聞いていた、香住と先輩にアイコンタクトをとると、二人とも無言でうなずく。


ここからは相手に尾行がバレぬよう、懐中電灯は消したままになる。


僕は龍眼で暗視できるから良いが、人間の二人には殆ど見えていないだろう。


幸い月明かりが差し込んでおり、ゆっくりの移動なら大丈夫だと思う……たぶん



1階まで降りると、先輩がスマホを録画モードにして撮影を開始した。


どうやら灯りが点かない暗視アプリらしいが、カメラが暗視用じゃなければ意味がないんじゃ……


ツッコミ処はあるけれど、先輩は入り口の仕掛けを撮ろうとしてるらしい。起動音がしても良いように図書室の外で起動する処は、流石プロの祓い屋といった処か。暗視アプリとか詰めが甘いけどね。


ちょっと前に京の貴船(きふね)で、龍の巫女である伊織(いおり)さんが丑の刻参(うしのこくまい)りの証拠を撮ろうとして、シャッター音を響かせた時は参った。


今考えると慌てて逃げなくも、釘打ち銃の釘ぐらいは、龍の皮膚が弾いたんだよね。


中々人間だった時の感覚が抜けない。


暗視ができない二人も、漸く暗闇に目が慣れたのか、ゆっくりとだが図書室を歩いている。


男が持った懐中電灯の明かりに向かい、暗い図書室の中を歩みを進めると、どうやら奥にある閲覧室へ向かっているようだ。


途中何か所か立ち止まっては、本棚の本を手にして戻す作業を繰り返すと、ふっと男が僕らの視界から消える。


何がどうなった!?


閲覧室……室といっても、薄い板で仕切られただけの机なのだが、そのどこにも男の姿は居なかったのだ。


いったいどこに消えた!?


そう思考を巡らせていると、先程まで匂っていた、本屋さんや図書室独特の紙から発する匂いが、消えているのに気が付いた。


代わりに――――――


辺りは獣臭い臭気が充満する。


千尋(ちひろ)、棚の向こうに何かいる』


チョーカーに化けた巳緒(みお)の警告に、耳をすませると――――――


狼の唸り声のようなモノが聞こえる。


なんで図書室に……もしかして、入口を守る式神か何か?


ソレは(よだれ)を垂らしながら、ゆっくりと本棚の向こうから顔を出した。


最初の印象はイタチ……だが、大き過ぎる。子牛……いや、子牛を二回りほど大きくしたイタチだ。


「シイ……」


小鳥遊(たかなし)先輩の口から、そんな言葉が漏れる。


「シイ? Sheってことは女の子?」


「英語で彼女って意味じゃ無いわよ。シイって妖怪。この辺りでは、ヤマアラシと言った方が良いかしらね」


流石祓い屋、詳しい事で……


どうやらヤマアラシは、こちらに殺気を飛ばし威嚇(いかく)してくるので、やる気でいる様だ。


「仕方がない、痛い目にあって貰うわ」


「そうね、逃がして貰えそうにないみたいだし」


香住(かすみ)も先輩も、探索から気持ちを切り替え戦闘モードに入る。


もう少しで真相に辿り着くという処で、邪魔が入るとは……なかなか上手く行かないモノだ。


僕も腰に付けたペットボトルホルダーから水のペットボトルを外すと、2人と同じく覚悟を決めた。



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