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龍神の花嫁 八俣遠呂智編(ヤマタノオロチ)  作者: 霜月 如(リハビリ中)
1章 夏休み クローンオロチ
18/328

17 砂漠

淤加美(おかみ)様による力試しが終わり


社務所へ戻ると、ピザ屋の制服で参拝者の対応をしている、壱頭目のオロチ事、壱郎(いちろう)


頼んで置いて何だけど、思いっきり浮いているし


「へいっ! らっしゃい!」


江戸前か!!


「と言うか、いらっしゃいは止めて」


「呼び込んじゃ、ダメなのか?」


「商売じゃなくて、参拝してくれた人達に、納めて頂くモノなんだから」


ほう、と感心したように頷く壱郎君に、商売との違いを説明した



まあ……参拝者も、ピザ屋の制服で社務所にいる相手に、困惑して居て


結局、壱郎君の前には誰も居なかったし


同人誌即売会の、始めて間もない駆け出しサークルみたいだった。



一緒に、お昼食べて行きなよと言ったのだが、やっぱり淤加美(おかみ)様が苦手らしく


石段下に停めてある自転車も心配だし、店に帰って食うわって言っていた


結局、人間は食い物って言ってる癖に、人間を食べず、普通の食事をしているし



壱郎君曰く


古代日本みたいに食料の無い時代では、タンパク質を摂取出来る食物が、陸の上だと『熊』とか『猪』とか『鹿』や『狼』等しか無かったんで、オロチは手っ取り早く、人間を食ってたらしい。


当時は頭1つだけの今と違って8つあり、身体も山と同じ大きさだったと、神話で謳われて居る程だ


維持するのに大量の栄養が必要だったのだろう


しかし、現代日本に置いては、お肉屋さんで肉が手にはいるし。頭も1つ分なので、古代の完全体の時よりも省エネだ。


また、スーパーやコンビニで、調理済みの弁当も売っているので


わざわざ人間を敵に回してまで、人間を食べる必要は無いと、結論を出したと言うことだ



他のオロチの頭は、人間をどう思って居るか知らんぞ、と付け加えていたけどね



確かに、下手に人間に手を出して、心臓探しの障害になるのも嫌だろうから


少なくとも、壱郎君は人間は食べないわな



行方不明者の話も無いので、たぶんこの田舎町か近い隣街に住む、()頭目のオロチも、人間は食べずに普通の食生活をしているに違いない



問題は、新しいオロチの頭達である


封印された古代で、時間や知識が止まっているとしたら、人間を襲う可能性があるのだ


そう言う点では、(さん)頭目と(よん)頭目は運が良かった


他のオロチの頭達にも、人間を食べなくも食料はあるって分かって貰えれば、戦う必要無いんだけど……



僕は、奉納されたお酒を、壱郎君へ御礼に渡すと、コイツは晩酌が楽しみだと、喜んで帰っていった


本当に神話の通り、お酒好きなのね。神話では、お酒が好き過ぎて、不覚を取っていたけどね。


仕事中に飲まなきゃ良いけど……



結局、僕だけお昼がとれずに午後へ突入したが、腹の虫が鳴って五月蝿いと、香住がお握りを作ってくれたので、どうにか乗り切る事が出来た。



そして、19時より花火が上がり始めるので、香住と桔梗(ききょう)さんに見てくるように勧めた


桔梗(ききょう)さん花火を見たことないって言うから尚更だ。



どうせ17時以降の社務所は、防犯の都合で便宜上開けてるだけだしねぇ


花火が始まると、皆龍神湖の方か、役場で盆踊りをしに行くため、境内は殆ど人が居なくなる


こういう時に、不埒な輩が女の子を襲うとするので、注意するのだ



ただ眺めて居るのも暇なので、今日の会計を帳簿につけていると、御朱印係のセイが出て来て……


「やっと終わったか、こうして人の消えた境内を見ると、少し寂しい気もするな」


「セイ、お疲れ様。お前お昼のピザ……僕の分まで食ったろ?」


「あ、いや……食わないなら勿体無いなって思ってさ……そ、それより、大婆様はどんな用事だったんだ?」


露骨に話題そらしたな、コノヤロウ


淤加美(おかみ)様から聞いて無いの?」


「うむ、お昼にお前と出ていってから、姿を見ないぞ」



どこ行ったんだろ……念話も通じないし


高淤加美(たかおかみ)様か闇淤加美(くらおかみ)様のどちらか1柱は、必ず僕の中に残ってる筈なのに……


呼び掛けを無視しているな


余程、僕に一本取られたのが悔しかったのか?


いや淤加美様の事だ、ヘソを曲げていると言うより、何かを(たくら)んでいるに違いない


念話が通じないだけで、すっごい不安なんですけど



その不安を払拭するために、僕はお昼の出来事をセイへ話してみた


「何だと!? 洞窟に行ったのか!?」


「うん。そこで淤加美(おかみ)様と……」


「あそこに、酒隠してあったの呑まなかっただろうな!」


「呑まないよ! 僕未成年だし」


「じゃあ、大婆様か!?」


この慌てよう……余程良い酒が隠してあったんだな……


まあ、冷処だし日光も当たらないから、お酒の貯蔵には丁度良いのだろうけど


隠さなくも、ウチでお酒呑む奴は、セイ本人だけなのにね


淤加美(おかみ)様は、揚芋菓子以外食べないし、婆ちゃんも殆ど呑まない


桔梗(ききょう)さんは、どうなんだろう……呑んでるところ見たことないけど……


セイと他の龍神達が遊びに来た時ぐらいしかお酒減らないし


ダメにするの勿体無いから、煮物に入れる料理酒として使う程度だもの。適度に奉納されるから、本当に減らないよウチのお酒。



「他に何か隠してないか?」


「え、あ……いや……」


急に口ごもるし、怪しすぎる



「セイ……観念して白状しろ! 田舎のオッカサンも泣いているぞ」


「うう……すみません。俺がやりました……って、刑事ドラマか!!」


ノリの良いヤツめ



「別に何も家探し……いや、洞窟探ししてないよ」


「良かった。薄い本は無事だな」


「ほう……そんな処に隠していたのか?」


通りで、部屋へ掃除に行っても、何も出ない訳だわ……



「ま、待て千尋。お前も元雄なら分かるだろう?」


「今は分からんよ。誰かさんに女の子の身体にされたから。だいたい、あんな湿った処に本を置いたら、ふやけてグニョグニョに成ってるんじゃ?」


「そこは、ちゃんとビニールで真空パックしてあるから、抜かりは無い」


変んな処で、努力を惜しまない奴


それはそれで、出し入れが大変そうだけど……


まあ、朝に叩き起こすネタが増えたから良いとしよう


毎回同じネタだと、慣れて起きないからね



「も、もう俺の話は良いだろ! と言うか、勘弁してください」


素直に謝る処が怪しいが、今夜はこの辺で許してやろう



淤加美(おかみ)様に、力試しさせられた事をセイへ話す



「成る程な……そりゃあ大婆様も困惑するだろう」


「何でだよ、僕は自分に出来ることで、淤加美様へ力を示しただけなのに」


「先ず、前提が間違っている。お前の場合、少ない水を如何に効率よく使うかに特化している」


「それじゃあ、駄目なの?」


「良いか千尋。我々水神の龍は、大量の水を出すとこから始まり、次に水を操る段階へ移る。お前の場合、水を出すより先に、水を操る方に長けてしまった」


「つまりは、水は出せないけど、操り変化させるは上手いって事だろ? それが駄目なのか?」


省エネで良いと思うけど……



「駄目と言うか……そもそも水を出せなくて、水神と言えるのか? と言う話だ」


「だって、何処から水を持ってくるんだよ……無から有は創り出せないだろ?」


「何処からって……そんな事考えたこと無いな」


セイはそう言って、大きな(たらい)の水を、ぶち撒けたような瀧雨を、前方でしつこくナンパしている、二十歳そこそこの男に降らす


「ぶはぁ、冷てぇ! 何だよ! オレだけ集中豪雨か!」


ずぶ濡れになったナンパ男が、天に向かって吠えていると


女の子がナンパ男の股関を蹴りあげて、舌を出して逃げていった



「うわぁ、痛そう……」


「うむ……流石に俺も可哀想だと思うぞ」


社務所から、境内をピョンピョン跳ね回るナンパ男を見て、少し同情する



だけど、大量の水が前提かぁ……


そう言えば、淵名の龍神さんが、男子更衣室を水でいっぱいにしてたっけ


あの大量の水、どうやって出したんだろう


僕は空気中の湿気を集めて水を作り出していた


でも、変換に時間掛かるし、大量の水を空気中から出すのは、湿度以上の水分が存在しない以上、どうしても無理な話になる



「まあ、大量の水を出せない事こそが、大婆様の頭の痛いところだろうな」


「むう……淤加美様、コツが聞きたい時に限って居ないし……もう一回水を出して見せてよ」


「良いけど、これ以上あの男に水を掛けると、股関のモノが使えなく成らないか?」


「水を掛ける度に、股関は蹴られないよ! もう女の子逃げちゃったし。そもそも、水をあの人の上に出さなくも良いだろ!?」



鬼か! と言った処で、前言撤回



だってそのナンパ男、次にやって来たOL風の女性に、無理矢理迫ってるし


どうする? と言うセイに、ゴーサインを出す


やっぱり、無理矢理迫るのは良くないよ


頭へ水から股関蹴りまで、流れるように同じ事が繰り返される。懲りない人だ……


結局、良く分からないまま、その日は終わりをつげた。




ちゃんと、お風呂に入り、宿題を済ませ就寝した筈が━━━━━━




目が覚めると、()()のど真ん中に居た



「あれ? まだ夢の中かな?」


「夢では無いぞ、御主が寝ている間に、(わらわ)が内側から操って連れてきたのじゃ」


洞窟での一件以来、姿を見せなかった淤加美(おかみ)様が現れ、知れっとそう言った。



「意味が分かりません。だいたい、ここ日本じゃありませんよね?」


日出国(ひ いづる くに)の砂丘じゃぞ、知らんのかぇ?」


「嘘だ!! T県の砂丘は、此処まで気温が高くありませんよ!」


「砂丘じゃて! それとも御主は、本物を見たことあるのかえ?」


本物とか言っちゃってるよ


「こっちが偽物のT県砂丘です! そもそも、この場所……日本ですら無いでしょが!?」


「妾が砂丘と言ったら、砂丘なんじゃ!」


強引に通したし


「これ……不法密入国になりませんか?」


「大丈夫じゃ、こちらの土地神には話を通してある」


神様の縄張り云々(うんぬん)じゃなくて、人間の偉い人に話を……通してないよな絶対


凄い高温で、360度砂が続くけど……T県の砂丘って事で良いや……もう……


淤加美(おかみ)様……後でT県の人に謝って置いてよね


「それで、砂漠で何するんですか?」


「修行に決まっておろう。御主は直ぐ大気から水を作ろうとするのでな。ここなら、湿度がほぼ0で大気から水は作れまい。」


確かに、水の気配が0に近い


「あの~淤加美様。水出せないと、どう成ります?」


「それは、干からびたトカゲが、出来上がるだけじゃ」


「…………帰ります」


「無駄じゃ、龍脈は通って居らんからのう」


━━━━━━マジだ


龍脈が何処にも通ってない


成る程、だから砂漠なのか!


龍脈の氣が無いので、土地に緑が育たないのだ


「くう。どうやってここまで来たんですか!?」


「砂漠の入り口まで龍脈を使い。そこから風を呼んで飛んで来たのじゃ」


むう。淤加美(おかみ)様、僕だけでは風が呼べないの知ってて、砂漠(ここ)を選んだな


龍脈も無いし……どうしよう


「早く水を出さないと、幾ら龍の身体でも、干からびようぞ」


そんな事言われても……出せと言われて出るものじゃないし


ん~、とりあえず僕の遣り方で、やってみますか



先ず、神経を研ぎ澄まし、水の気配を探る


本当に微量だが、存在しているのは分かるけど、これを集めるのは至難の技だ


だったら、もっと遠くまで意識を広げる


数十キロ……百キロ……二百……


見えた! 龍脈だ!


龍脈の端を掴んで引っ張ると、こちらへ伸びてくる


良いぞ……このまま龍脈を……


「おい! 千尋! 何を遣っておる!?」


━━━━伸ばし……手繰(たぐり)り寄せる


そう、氣が無くて緑がないなら、持ってくれば良い


━━━━━━緑が増えれば雨も降る筈


「待て千尋! それ以上はマズイ! 生態系が崩れるぞ!」


さあ来い! 氣を乗せて、僕の足下まで━━━━━━


「千尋! 聞こえぬのか!?」


そして不毛な大地に恵みを……


両手を天に突き出し、恵みを願う


すると、雨が降りだしたではないか



淤加美(おかみ)様、やった……僕、やりましたよ……」


その言葉を最後に、力を使い果たし瞼が閉じようとする━━━━


「千尋……御主……」


心配な顔で、覗き込む淤加美(おかみ)様の顔を最後に


千尋は気を失うのだった。



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