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龍神の花嫁 八俣遠呂智編(ヤマタノオロチ)  作者: 霜月 如(リハビリ中)
7章 闇御津羽神(くらみつはのかみ)と伝説の羅盤
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7-09 もう1柱の同居神は


「なんだこいつら、粉々にしても土の中から戻って来やがる!!」


ゾンビ達は、どんなにダメージを負っても、破損した部分が土から生えて……いや死んでるのだから生えるは間違ってるな、黄泉返(よみがえ)って戻って来ると言った方が適切か?


土塊(つちくれ)とも言えるそれを、破損場所にくっ付ければ元通りって感じだ。



となると、ダメージを負うという表現も適切じゃ無いな。なにせ元々死んでいるんだから、ダメージもへったくれもない。


どんなに打ち砕いても数が減らないので、徐々に追い込まれていく壱郎(いちろう)君。



ならば炎でと、荒神(あらがみ)狼のハロちゃんが吹く火炎ブレスに(かす)かな期待をしたが、それも駄目な様だ。


実際、灰には成るんだ。


だが土の上に灰となって崩れ落ちた後、土から黄泉返(よみがえ)って戻って来る。


このままだと此方(こちら)は体力を消耗するだけなので、長く続けばジリ貧だ。



「おい! 聞いてるのか雌龍(めすりゅう)!!」


「聞いてるよ」


「こいつ等、倒しても倒してもきりがねーぞ!!」


「知ってるよっ!! ゾンビの群れへ突っ込む前に説明しようと思ったのに、勝手に行っちゃうんだもん!」


「どうすりゃ良……痛てて! こいつら噛みやがった。何とかしろ~」


それを今考えてるんでしょうが……しかし、毒とか効かないオロチで良かったね。


ゾンビドラマとかゲームだと、噛まれたり引っ掻かれたりで毒が回れば、即お仲間になるぞ。



そんな時、近寄って来るゾンビを尾撃で蹴散らしながら、黒蛇の姿の巳緒(みお)が戻って来て、僕の首に巻き付く。


駄龍(だりゅう)が、千尋(ちひろ)の頭の上に居ないなんて珍しい』


「誰が駄龍(だりゅう)だ! この蛇娘」


「セイは胸の間に入ると中々出てこないからね、仕方ないんだよ」


(まで)の経験上、飯の時間が来ないと、引っ張ろうが何しようが無理だから。


『あぁ納得。ここの土は(けが)れていて、操りにくい。水も汚染されてるし、ウチにはもうお手上げ』


すっかり諦めモードで、カチューシャに姿を変える。


それもそうか、何もかもが(けが)れで汚染された黄泉(よみ)なのだ。


ここでは、あらゆる属性が負に振り切れているのだから、属性を操るのも難しいだろう。



もし此処で、負側の属性を使える者が居るとしたら、闇淤加美神(くらおかみのかみ)の闇水を使う僕ぐらいかも。


まぁ使えた処で、闇の水で闇の眷族であるゾンビ達に、どこまで通じるか分からないけどね。


それに現在使える水も使い果たして、すでにペットボトルは空なのだから、すでに詰んでいるとも言える。



こんな事なら、神器の神生みの剣である天之尾羽張(あめのおはばり)だけでも借りて来るんだったか……


今更泣き言を言っても始まらない。



――――――ん?


ちょっと待てよ。


巳緒(みお)がさっき言った言葉――――――


水が(けが)れで汚染されてるって言ったよな? つまり。汚染されていても、水があるって事になる。


巳緒(みお)!! さっき水があるって言わなかった?』


『言った。真っ黒い(けが)れた水が、向こうの壁の割れ目から、湧いて出ていた』


突破口があった!!



壱郎(いちろう)君! 酒呑童子(しゅてんどうじ)! ハロちゃん! 少し持ちこたえてて」


「おい! どこ行くんだよ雌龍!!」



壱郎(いちろう)君には悪いが、そのまま黄泉(よみ)のゾンビ達を引き付けていて(もら)おう。


そもそも、話も聞かずに勝手に突っ込むのが悪いんだし。



僕は巳緒(みお)の案内で、(けが)れた水が湧いていると言う方向へ走って向かう。


途中、ゾンビ達が土の中から出て来きて行く手を阻むのだが、それは体当たりと尾撃を屈指して潰していく。


どうせ真面(まとも)に相手にした処で、黄泉返れば同じなのだから、体当たりで吹っ飛ばすのが一番である。


『千尋、あそこの壁際』


巳緒の指摘を受け壁を凝視すると、チョロチョロと割れ目から黒い水が出ているのが分かる。


黒い水が溜まる泉の様なモノは、匂いも腐臭が凄くて、絶対に飲料には向かない水である事は確かだろう。


「千尋、黒い水(コイツ)は水じゃねえぞ! 液体ではあるが、水と呼べる代物じゃねえ!」


「確かにセイの言う通り、飲める代物じゃないけどさ、別に飲む必要は無いんだ」


そう、操水するには浄化しちゃえば良い。


僕は袖を捲ると、その黒い水の中に手を突っ込んだ。


その水は肌に絡みつくと、熱く肌を焼き激痛を与えて来る。


「おい!! 千尋!! お前なんてことを」


「ちょっと黙ってて、集中しないとこっちが汚染されちゃう」


まるで、真っ赤に焼けた針を何千……何万と肌に突き刺されているような激痛である。


その痛みを我慢しながら精神を集中する。


「ふぅ――――――浄化(ピュリフィケーション)


手を突っ込んだ泉の水が、黒く濁っていた筈なのに、一気に透明度を増していく。


それと同時に、腐臭も無くなって綺麗になったのだ。


だが、ここで止めたら意味がない。


なにせ流れ込んできている水は、穢れた黒い水のままなのだから。止めた途端に黒く元通りに穢れてしまうだろう。


ならば――――――


流れ込んできている水まで浄化してしまえばいい。


僕はさらに浄化の出力を上げると、泉から光が零れるぐらい輝きだした。


『千尋ー待つのじゃ!! 御主本当に変若水(おちみづ)を創る気かや!?』


『何ですか淤加美様。今さら念話して来て……文句なら受け付けませんよ。それに和製エリクサーの変若水(おちみづ)を創ってもいません。浄化しているだけです』


『いやいやいや、文句は言って居らぬが……どう見ても、御主の手の周りは金色に輝いて居るし、明らかに水の上位になって居るぞ。そもそも御主、伊邪那美殿の神佑地を侵しておるのを、気が付いているのかや!?』


『侵しているんじゃありませんよ、浄化しているんです』


『そういう意味で言ったのでは……』


流れ込んで来る穢れた水がなかなか浄化しきれなくて、さらに出力を上げると――――――なぜか回りの壁や岩のヌメヌメが浄化されて消えていく。


さらに周辺の土の色が、心なしか黒墨が消えた様な気がした。


浄化の出力を上げるにしたがい、変化が如実に表れる。僕に迫っていたゾンビ共が急に動きを止めると、砂とか塵の様に細かくなって崩れ落ちたのだ。


「きゃああああ。そこの水龍!! えっと……千尋か? やめい!! それ以上黄泉を浄化するのではない!!」


流れ込む穢れた水ばかりに気を取られていたが、どうやら周囲もかなり浄化されて、ゾンビ達が次々に塵になって消えているようだ。


「やめい……やめて、御願。黄泉の住人が住めなくなる」


伊邪那美様が泣きながら懇願してくる。


「雌龍……お前鬼だな……」


「鬼より酷いですよ……私ら鬼族でもそこまではしません」


「お前らどっちの味方なんだよ!! マジもんの鬼である酒呑童子に鬼より酷いとか言われたくないわ!!」


「なぁ、後生だから……やめてくれ」


後生ってアンタもう死人でしょうが、しかもそれ仏教用語だし。


「はぁ……じゃあ僕らが黄泉から出るまで、何もしないと誓いますか?」


「誓う!! 何もしないから、もう二度と来るな!!」


出入り禁止かよ!


まぁ来たいとも思わないけどね。



両者手出し無用となれば、浄化も不要になる訳で


僕は綺麗になった泉で、一応ペットボトルに水を汲むと、壁の割れ目から出ている水を見る。


湧き水も幾分か綺麗になった気がするが、まだ穢れを浄化しきれていないらしく、浄化したこの泉も、しばらくしたら元通りに飲めなくなってしまうだろう。


死者の国、黄泉なのだから仕方ないって言えばそれまでだけどね。


流れ込んで来る穢れた水の先が気になって仕方が無いが、詮索もほどほどにしないと、今日は中間テストなのだ。


早く帰らなければ……


僕らは涙目の伊邪那美様に、お騒がせしましたと頭を下げて、黄泉比良坂を登り始めると――――――


『千尋……少し待っていただけますか?』


突然念話が頭の中に響いて来たのだ。


淤加美様じゃないし……セイや巳緒でもない。え? 誰の声?


強いて言うなら、涙目になっている伊邪那美様の乾いて掠れた声を、もっと瑞々しくした感じ。


『すみません。どちら様ですか?』


『私は半年前、貴女の中で浄化され、護り神になった者です』


『半年前ってあの祟り神!? 妹と一緒に僕の中に取り込んだ!?』


『そうです。貴女の温かい家族愛で浄化された。伊邪那美命です』


『…………え……ちょっ、なに?』


余りの出来事に、一瞬思考が停止したし。


普通なら、ええええっ!? とか反応する処だが、今回ばかりは冷静だ。


だって――――――僕の中に居られるのが伊邪那美様なら、目の前で涙目になって、浄化は止めてと懇願しているのは誰よ?



『えっと……ちょっと待ってください。淤加美様居ます?』


『居るぞ。御主の言いたい事も分かる。どちらが本物か? と言うのじゃろ?』


『そうです。どう思います?』


『おろらく、両方が本物じゃ』


マジで!?



『あそこでゾンビに成っている伊邪那美命の神気と、御主の中の伊邪那美命の神気は、正か負かの違いはあれど、同一の神氣じゃ』


『と言う事は、本当に同じ伊邪那美様!? 淤加美様は、ずっと僕の中に居て、知らなかったんですか?』


『そんな事言ったら、お主の身体じゃろ!? 御主が気が付かんでどうする』


『身体の中の事なんか分かりませんよ。目で見る訳じゃ無いし』


淤加美様はその特殊な性質上。高淤加美神(光)と闇淤加美神(闇)の2つの性質を持っている為。片方を僕の中に残して、片方が外に出て来ているので、僕の目で見ることも可能なのだが


僕の中に残された、もう片方は見ることが出来ない。声は念話で聞こえるけどね。


それと同じで、伊邪那美様が中に居られるとしても、僕の目で見ることは出来ないのだ。



僕はもう一度、確認の為に僕の中の伊邪那美様を名乗った方に念話をしてみる――――――


『えっと、本当に同一神なのですか? 神話での伊邪那美様は、独り黄泉に残り、黄泉を統治したままになって居りますけど?』


『あそこに居る私と、千尋の中にいる私は間違いなく同一神です。さらに言えば、貴女の中に居る私は、伊邪那美命の分霊(わけみたま)です』


分霊か……なるほど、それなら納得だ。



日本各地にも、伊邪那美様を祀った神社があるのだから不思議ではない。関東で言えばS玉県の三峯神社とかが有名である。神使の狼も珍しいしね。


ちなみにウチのハロちゃんも狼だが、神使ではなく荒神だ。近所の子供と戯れているせいで、野性がまったくないけど……


話が逸れたので戻すが、分霊(わけみたま)は力が分散されずに増えるので、そこが日本の神の面白い処でもある。


僕の中の淤加美様も、貴船に居る淤加美神の分霊であり、貴船の淤加美様と同等だもの。



『しかし、また凄く大物の神である。御祖母様が眠って居ったのぅ』


『呪術反射、術反射なんて大それたものを持って居られるのも納得しました』


常時発動(パッシブ)なのは、少し考えてほしかったが……


それでも穢れた黄泉に居られたのだ、反射が無かったとしても、呪術や毒には強いだろうな。


しかしまぁ妙に合点がいったわ。7年前に黄泉への穴を開けた僕の両親が、その穴から出て来た祟り神に食われた訳だが


その祟り神……黄泉から出て来た時点で、伊邪那美様である可能性は高いわな。



『なにが妹の闇御津羽神かも知れないですか!? 全然違うじゃないですか!』


『おそらくって言っただけじゃ。断定はして居らぬ!』


『あの……お二人とも、喧嘩しないでくださいな。それと千尋、私に身体を貸していただけますか?』


『それは構いませんが、もう戦闘は無しですよ』


『戦いはしません。ただ、一言……黄泉の自分に、言いたい事があるのです』


『淤加美様の意見は?』


『良いのではないか。千尋の中の御祖母様からは、邪気が一切感じられぬしな』


同居人の淤加美様からも承諾されたので、僕は身体の主導権を伊邪那美様へ渡す。




淤加美様にも身体を貸した事が何度かあるが、視点がある程度切り替えられ、一番見やすいのは外から自分の身体を見ている自分が居るヤツだ。


通常は内側から操縦者と同じ視界を見ているのが基本らしいけど、最近少し視点を変えられるのに気が付いたのだ。


難しくて良く伝えられないが、一番近いのはヴァーチャルリアリティのゲームの画面を外から見ている感じかな?


画面の中でキャラクターが動いてるのを、プレイヤー目線で客観的に見ている……そんな感じである。



僕の身体は、そのまま黄泉の伊邪那美様の前まで歩いて行くと――――――


「な、なによ……無言で近寄られても、これ以上は何も出ないわよ」


「何もしません。私は7年前まで此処に居た、貴女の分霊です」


「え? どういう事?」


「私は……7年前……祟り神で色々な人間に迷惑を掛けました。ですが、この身体の主である千尋の優しさと家族愛に助けられ、この御霊は浄化されて護り神となっています」


「…………うそ……本当に私なの?」


「はい、あなたの分霊です」


「えっと……私の分霊が何の用なの?」


「私の御霊が千尋に浄化されたように、貴女の御霊も浄化して頂きましょうか? そうすれば愛する伊邪那岐(あのかた)の処へ行ける筈です」



なるほど、黄泉(よみ)伊邪那美(いざなみ)様へ話と言うのはそう言う事か


御霊を浄化すれば、一度はゾンビの身体が崩れ去るが、すぐに国生みの神としての神格に戻るだろう。


そうなれば、黄泉から出る事も可能だし。僕の中の伊邪那美(いざなみ)様が言ったように、夫である伊邪那岐(いざなぎ)様に逢いに行けるのだ。


しかし――――――


黄泉の伊邪那美(いざなみ)様は、ゆっくりと頭を振ると


「とても魅力的な申し出ですが……遠慮いたします。私の愛した方は、もう居ないのだから……」


おそらく、この居ないと言うのは、伊邪那岐(いざなぎ)様自身の存在の事を言っているのではなく。愛はもう冷めていると言う意味だろう。


まぁ、仕方がないか……化け物だと逃げ出した伊邪那岐(いざなぎ)様が悪いのだからね。


その姿に、幻滅してしまったのだろう。


まさに百年の恋も冷めると言ったヤツだ。


実際この夫婦に限っては、百年どころの騒ぎじゃないだろうけど……



「そうですか……」


「えっと、勘違いしないでね。分霊(わけみたま)の貴女だけが、浄化されて外に出れるなんてズルイとか思ってないから。私は――――――私には、ここが居場所なのよ。だから貴女が負い目を感じる必要は無いですからね」


ゾンビ達が、黄泉(よみ)伊邪那美(いざなみ)様の周りに集まり、涙している。


そうか……彼女は彼女で、ここが居場所であり、住人は家族なのだ。


「分かりました。ならば、もう何も言いません。死人に御元気で、と言うのもおかしなモノですが、御達者で」


「あっ! ちょっと待って」


「なんですか?」


「もし……もしも伊邪那岐(だんな)に出逢ったら、拳を叩き込んで置いて」


「ふふっ。了解しました」


オイオイ、僕の身体を使って殴らないでよ!


国津神(くにつかみ)に成りたての下っ端である僕が、大物の古神に拳を捻じ込んだなんて言ったら、本気でお尋ね者になるから。



伊邪那美(いざなみ)様同士の会話が終わると直ぐに、僕へと身体の主導権が戻って来る。



そしてすぐに念話で――――――


千尋(ちひろ)の身体を動かすには、凄い疲れますね』


『うむ。それについては同意じゃ』


『そうなんですか? 僕にはいつも通りに感じますが……』


手を回したり、屈伸(くっしん)したりしてみるが、別に異常はない。


『何というか、ごっそり神氣(しんき)が持って行かれてるのです』


『まるで燃費の悪いスポーツカーの様じゃのう。出力はあるがとにかく燃費が悪い。ここ黄泉(よみ)では特に酷い燃費じゃ。まぁ(けが)れを弾く為なのか? 神氣(しんき)を身体中に(めぐ)らせて居るのじゃろう』


『全然気が付かなかった。というか淤加美(おかみ)様スポーツカー知ってるんですか?』


『レースゲームもやったからのぅ。今度免許でも取りに行こうか迷うておる。まぁそれはさて置き、御主自身も含めて、四柱もの神からなる御主は身体は、神氣(しんき)の塊みたいなモノじゃからな』


淤加美(おかみ)様の身体じゃ、ペダルに足が届かないでしょ! それに僕を石油タンクとかガスタンクみたいに言わないで』



一段と騒がしくなった僕の内側で、念話の雑談を繰り広げていると、いつの間にか桃の木の元へ辿(たど)り着いていた。


「遅せーぞ雌龍(めすりゅう)!」


「ごめんごめん。ちょっと黄泉(よみ)伊邪那美(いざなみ)様と話があったモノだから……」


「まぁいいや。いくつ必要なんだ?」


それは聞いてこなかったなぁ


「熟れた実をいくつか持って帰れば良いんじゃない? 残ったら須佐之男命様(すさのおのみこと)の処に置いて帰れば良いんだし。食べたければ食べても良いしね」


「んじゃ、多めに持って帰るか」


壱郎(いちろう)君は桃の木にスルスルっと巻き付くように昇って行くと、()れてそうな実をもぎ始めた。


さすがオロチ、木を登るのも蛇の(ごと)くって感じかな?


結局食べられそうな実を5つばかり採ると、僕達は外に向かって黄泉比良坂(よもつひらさか)を登っていく。


足元の滑りは、すっかり無くなっているので、楽に登れるのだが――――――これも浄化の影響なのかな?


だとしたら黄泉(よみ)の住人には、かなり悪いことをした。


来る時と同じように、入り口の岩を酒呑童子(しゅてんどうじ)の力で抉じ開けると、僕達は黄泉(よみ)から根の国へと躍り出て、追撃に供える。


黄泉醜女(よもつしこめ)が追ってくると思ったが、それは杞憂に終わったのだ。


それもそうか……余程、浄化が(こた)えたらしいな。お陰で僕らは追われずに済んだけど。


よく噂話(うわさばなし)や都市伝説で、ジャンピング婆なんて言うのを聞くが、もしかしたら現世(うつしよ)に迷い出た、黄泉醜女(よもつしこめ)なんじゃないかと僕は思ている。


黄泉醜女(よもつしこめ)はヒト飛び千里と言われているしね。


実際この目で見た訳では無いので、同一のモノかは定かではないが、聞いているとピッタリ当てはまる部分が多いのも確かだ。


まぁ自分から確かめて見ようとも、思わないけどね。何より僕は幽霊とか嫌いだし。



そんな事を考えて居ると、セイが――――――


千尋(ちひろ)の浄化で、黄泉(よみ)の息苦しさは軽減されていても、やっぱ黄泉(よみ)の外の方が格段に良いな」


「ここ根の国も、まだ半分黄泉(よみ)みたいなものだけどね」


「あぁ、だが全然違うぞ。温かいうどんに天ぷらが入ってるか、入ってないかぐらい違う」


「また分かりづらい例えを……セイはすぐ食べ物で例えるんだから」


淤加美(おかみ)様はゲームで例えるしね。



黄泉(よみ)への岩が閉じられる時に、黄泉比良坂(よもつひらさか)の下の方から、二度と来るな~と声がしたので、本当に出入り禁止らしい。


「さて、後は桃を届けて、(あや)さんの魂をもどせば全て完了かな?」



黄泉への入り口と、目と鼻の先に在る、須佐之男命(すさのおのみこと)様の館へ



僕達は再度向かうのだが……やっぱりみんな一緒に来ないんだろうなぁ。




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