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龍神の花嫁 八俣遠呂智編(ヤマタノオロチ)  作者: 霜月 如(リハビリ中)
1章 夏休み クローンオロチ
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15 建御雷神(たけみかづちのかみ)

溶ける雨とやらの被害を調査したが、幸い境内以外の何処も異常はなかった


『当たり前じゃ! 妾を誰じゃと思うておる』

そう淤加美(おかみ)様から念話が飛んでくる


どうやら、被害は主に境内だけのようだ。その境内も、結界か何かでコーティングされていたみたいで、幸い溶けて居る場所は無かった。氷柱(つらら)は出来てたけどね


そういう離れ業をやってのける処が、神話級の龍神なんだなぁと改めて感嘆する


まぁ、植物は根から酸性雨を吸ってしまって、被害にあっていたが、先ほど恵みの雨で相殺したので、元気を取り戻したようだ



『今度やるときは、もっと広くて人の居ない場所にしてください』


『人間は居らなんだぞ。人外は若干……居たけど……』


さすがに悪いと思ったのか、尻窄みな言い方をして、最後は聞き取れな位ぐらい


まあ、狼ハロちゃんも、解凍できて風呂に入れられたし、良しとしましょう



何時ものラジオ体操の時間で、少しずつ境内に子供が集まってくる。


「わぁ、ハロちゃんだー。今日は良い匂い。ふかふかしてるー」


子供にも好評のようだ。


もっと風呂に入れさせてくれれば良いんだけど、やっぱりシャンプーの匂いが嫌みたい


ハロ本人も、鼻が効かなく成るんで嫌だと言っていたし


一説では、犬の嗅覚は人間の百万倍以上との事だもの、人間が良い匂いと思っているシャンプーの匂いも、百万倍にされたら……確かに、相当キツイ。


荒神なんだし、普通の犬より全身体能力が向上して、嗅覚も上がってるとしたら……シャンプーはちょっと可哀想だ


今度、無香料のヤツを探して来るか……



ラジオ体操前の子供達が集まる中。境内の木を取り巻く様に7~8人の子供が見上げていた



その視線の先━━━━━━



元龍神のセイが、蝉のように木にくっ付いて居るではないか


何を遣って居るんだアイツは……



「もうちょっと……届きそう……」


子供達が、頑張れ~と応援する中。セイが手を伸ばす先に━━━━━━


黒光する虫……クワガタか?


僕も昔、正哉と一緒に山へ入って捕ったっけなぁ


懐かしんでいると、セイの足が外れが落下する



「「あっ!!」」



その場にいる全員が声を挙げた


ボキュコ! と凄い音がしたけど……大丈夫……ではなさそうだ


首が90度曲がっているが、普通に立ち上がるのは、さすが龍って処か


子供にクワガタを渡して、手を振るって歩いて来るが、首が曲がったままで気持ち悪い



「ドジっ子か!」

僕は、曲がったセイの頭を両手で掴むと、其のまま力任せに正位置へ戻す


「痛いわ! もうちょっと優しくして……」


わざとらしく頬を赤らめて言うので、ハイハイと返しておく



「其れにしても、朝早くから部屋を出てくるなんて……どういう風の吹き回し?」


「いやなに……外の(かわや)へ寄って居たら、子供にせがまれてな」


「ふ~ん。案外、子供好きなんだ」


「まあ、元気が良いのは、見て居るだけでも活力を貰えるから」


確かに、此方も元気になるけどね


ん? 待てよ━━━━━━



「なあセイ……さっき外のトイレって言ったよな?」


「外のトイレじゃなくて、外の(かわや)な」


「トイレも(かわや)も同じだよ! だいたい、中のトイレはどうしたんだよ!?」


あ、露骨に目を反らせた。


また何か、やらかしやがりましたね?



口を割らないセイに、業を煮やした僕は、実際に見に行ってみることに━━━━


扉を開けると、水浸しに成ったトイレが……


「セイ! 何流したんだよ!」


「いや、マスキングテープ位なら流れるかなぁって」

(※水に溶けない異物は流してはいけません)


「流すなよ! ゴミ箱に棄てろよ!」


「いや、ゴミ箱がいっぱいで……」


だから小まめに出せって言ってるのに……コノヤロウ


僕が片付けても良いのだが、色々モノが在りすぎて、どれが必要の無いモノか、本人が居ないと分からないし


「はぁ……仕方ない。ラバーカップって言う、黒い半球のゴムに棒が付いたヤツを、ホームセンターで買ってくるか……」


「あの黒くてスッポンって吸い付くヤツか? アレってお笑いのコントで使うもんじゃないのか?」


「違うってば! トイレの詰まりを直すものなの!」


変な事ばかり覚えて……


ラバーカップで駄目なら、専門業者さんに頼むしか無いわな



そう考えて居ると、淤加美(おかみ)様がやって来て


「なんじゃ、詰まらせたのかえ?」


正直、嫌な予感しかしない……


「何でもありませんから、居間で配管工メーカー2でも、遣っててください」


淤加美様を現場から遠ざけようと、背中を押そうとするが、ヒラリと避けられてしまう


マズイ……絶対に良くない事が起きる


「こんなもの、妾の水で押し流せば……」


「良いですから! 淤加美様は元々思念体で、食事もトイレもしないでしょ。トイレ詰まって居ても差し支え無いでしょ」


「大丈夫じゃて、テレビの宣伝で水のトラブルは水神へって遣っておるじゃろう」


それ違うから、詰まる度に水神へ電話が来てたら大変だし


そもそも水神で良いなら、僕もそうなんですがね。就任して間もないけど……


淤加美様は加減を知らないから、絶対大量の水投入して、水圧でパイプが破裂とか……あり得過ぎる



「ちょっ、セイ! 淤加美様を止めろ」


「お、俺に大婆様を止められる訳なかろう」


「行くぞよ!」


淤加美様は、水を圧縮したボールをトイレに投げ込んだ


…………


「何も起きないね……」


「良いことじゃねーか」


その時、鈍い音がしたと思ったら、詰まっていた水が引いていく


「どうじゃ、妾とてやる時はやるのじゃ」


そう言って、ふんぞり返る淤加美様だが、外から悲鳴が聞こえる


「マンホールの蓋が飛び上がったぞ!」


「UFOかと思った」


…………やっぱり被害が出ていたよ


「さ、さーて。妾は配管工メーカー2を遣らねば……」


「俺も部屋を片付けてくるわ」


それぞれが、逃げるように去って行く


ダメだ……この龍共……



「はっ!? ひょっとして、僕が謝りに行くのか!?」


呆然として立ち尽くして居ると、玄関から声がする


「ごめん! どなたか御在宅か?」


はーい! と返事をしながら玄関へ向かう


役場の人かな? マンホールの蓋の事、どうやって謝ろう……


口実を考えながら、玄関へ到着すると━━━━━━


マンホールの蓋を頭に乗せた、軽鎧のお侍さんが居るではないか


どうしよう……鎧姿にツッコミ入れるのが先か? マンホールの事を謝るのが先か?


僕の脳がパニックを起こしてる間に、淤加美様が現れ


(たけ)ではないか! 久しいのう」


「おう、淤加美(おかみ)も元気そうじゃ」


「……知り合いですか?」


「うむ、千尋よ紹介しよう。建御雷神(たけみかづちのかみ)じゃ」



建御雷神(たけみかづちのかみ)


茨城県の鹿島神宮に主神として祀られており


その名前の通り、雷の神様で、武神であり剣神である


出生は淤加美神(おかみのかみ)と同じ火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)の滴る血から生まれて居るので、兄妹とも言えなくない。


まあ、淤加美神(おかみのかみ)は雄雌はっきりしないで、どっちにもなれるけど

(日河比売(ひかわひめ)と言う娘を産んでるし)


建御雷神(たけみかづちのかみ)は紛れもなく男神である


武神と言うから、荒々しい性格と思いきや、先ず話し合いで道理を説き


話し合いが駄目なら、相撲で決着を着けると言う、古の神様にしては珍しい、理性ある武神である。


どこかの、力押しする水神の龍神様にも、見習って欲しいものだ



「と、取り敢えず、上がって貰いましょうよ。あと、マンホールの蓋を……」


「ん? おおっ、これか! 先ほど空から降ってきてな。日笠代わりに乗せておった」


日笠代わりって……昔より軽く成ったとはいえ、40キロ以上ありますが


人間なら頭へ直撃した瞬間終わりですよ。


ウチ等龍とて、(コブ)位出来そうなのに、無傷とか……さすが武神


剣の刃を上にして立てて、その(きっさき)の上に座っちゃう様な人……もとい、神様だしね


鍛え方が違うわ


僕は、マンホールの蓋を受け取ると、返して来るので建御雷(かけみかづち)様をお願いします。と言って外へ出る━━━━━━


境内で丁度、マンホールの蓋を探す、役場職員さんに逢えたので、蓋を渡したのだが


どうやら、下水道に溜まったメタンガスが、爆発したんじゃないか? と言っていた


本当はウチの淤加美(おかみ)様がやったんですけどね


しかしながら、『ウチの神様がやった』なんて、一般の人に言ったら、頭大丈夫? なんて言われかねないので


この際だから、メタンガス爆発の話に、乗っかることにして蓋を渡した。



居間へ戻ると……朝食の用意が出来ていて、建御雷(たけみかづち)様も淤加美(おかみ)様同様に御飯は食べないとの事なので、客間へ行きますか? と伺ったのだが


別に気にしないので、此処で良いと言われてしまった。


いや、此方が気を使うっちゅうに



お茶を啜りながら、建御雷(たけみかづち)様がポツリと話始めた


「なあ淤加美よ。御主気が付いて居るか?」


「なんじゃ、その話か……分かって居るぞ。西方……おそらく京の都であろう」


「うむ、儂も同じ意見じゃ。龍脈などの氣の流れを読むのが得意な、龍神の御主が言うのだから……今、確信に変わったわ」


「間違え様が無かろう、他ならぬ我々が生まれた()の持ち主なのだからのう」


なんか……朝食時に話す話題じゃない


重すぎる……


だから、客間へ行く様に言ったのに……



「やはり……火之迦具土(ひのかぐつち)が復活しているのか」


ぶーっと飲んでいた味噌汁を吹く僕


「ぶああっちぃ!! 何すんだよ」


「ごめんセイ。吹きやすそうな顔だったから、つい……」


「吹きやすそうな顔って何だよ!」


直ぐに、神使の桔梗さんが、無言で拭きモノを渡すが


「あ、それ雑巾……」


「ぶるぁぁぁ! 雑巾かよ!」


先日、カニカマを冷蔵庫へ入れて置くから、(かに)神使(しんし)である桔梗(ききょう)さん……怒って根に持ってるな


セイは、蟹風味ってだけで、本当の蟹じゃないからと弁解していたが


そもそも、サラダでも作るんじゃなく、カニカマだけ冷蔵庫に入れて置けば、嫌がらせと捉えられても仕方ない。


「ほら、僕のハンカチ使いなよ」


「うう……すまねぇ……って、元々お前が味噌汁吹いたんじゃねーか!」


「だから、ごめんってば……でも味噌汁で、水圧式貫通ブレスに成らなくて、良かったじゃないのさ」


本当、味噌汁で貫通ブレスとかヤバイもんね。気を付けないと


そんな最後は嫌すぎる……とハンカチで拭いながら、呟くセイ



「淤加美の子孫達は、賑やかだな」


「静かなのは、夜中位じゃのぅ」


昨晩、一番騒ぎを起こしたのは、淤加美様ですけどね


しかし、先ほど2柱の話に出てきた、火之迦具土(ひのかぐつち)の復活とか言うのが気になる


だいたい火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)と言ったら


母親である、伊邪那美(イザナミ)を焼いてしまったが為に、黄泉送りにしてしまい。


父親である、伊邪那岐(イザナギ)に斬り殺されると言う、今時のサスペンスも真っ青な、スプラッタファミリーである


そのスプラッタな血飛沫(ちしぶき)から、ウチのご先祖淤加美神(おかみのかみ)が生まれてる訳で……


建御雷(たけみかづち)様もそうだけどね


そう考えると、神話ってホラーだわな


だけど、血飛沫(ちしぶき)だけでなく、身体もバラバラだったはず


そのバラバラの全部位が、それぞれ神様になってたと思ったけど……


復活って……何で身体の部位を代用したんだろう


まさか、部位から生まれた神々を、捕らえて繋ぎ合わせて……


いやいやいや、流石に其れはないな


捕らえるって言っても、相手は神話級の神様だし、人間には捕らえる無理だろう


となると……代用品……クローンだったりして


まさかねぇ、SF映画の観すぎか



「取り敢えず、妾の本体が貴船に居る、向こうの様子を見て、念話を送って貰うとしよう」


「おお、それは良い考えじゃ、儂も何か分かったら知らせようぞ」


お茶、馳走になった。そう言って立ち上がる建御雷(たけみかづち)


「もう行くのかえ?」


「うむ、戸隠の九頭龍大神から、連絡を受けてな。なんでも、剣の稽古をつけたい奴が居るとかでの。へっぴり腰を叩き直したいので、手伝ってくれとの事」


ああ、小鳥遊(たかなし) (たける)さんか……


剣神まで稽古しに行くとか……凄いな


ちょっと見てみたい


でも、ウチに寄ったのが、鹿島神宮から、戸隠へ向かう途中でだったんだね


合点がいったわ


龍脈移動で送って行こうか? と言う淤加美様だが


途中、諏訪大社の建御名方神(たけみなかたのかみ)の処へも、顔を出したいからと断られてしまった。


そう言えば、国譲りで色々ありましたものね。建御雷様と建御名方様


どこか寂しそうに、鳥居の処で見送る淤加美様に


「フラレちゃいましたね」

と茶々を入れると


「戯け! 建とはそんなんじゃ無いわ」


と照れ隠しに怒って、ウチへ戻って行った。


淤加美様、素直じゃ無いんだな……


まっ、帰りにまた寄るだろうし、逢いたければ龍脈移動もあるしねぇ



しかし……鎧姿で歩いていって、職務質問とか受けないのかなぁ


そっちの方が心配だわ


僕も、ウチへ戻ろうと踵を返す━━━━━━


「おっはよー。今日も巫女の御仕事、頑張るね」


元気一杯の香住が現れ、僕の背中を叩く


そうか……今日お祭り最終日だったね


朝から色々在りすぎて、忘れていたよ



僕は、香住の元気に背中を押されて、祭り最終日に挑むのだった。




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