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龍神の花嫁 八俣遠呂智編(ヤマタノオロチ)  作者: 霜月 如(リハビリ中)
7章 闇御津羽神(くらみつはのかみ)と伝説の羅盤
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7-02 久しぶりの居間で鍋を


瑞樹千尋(みずきちひろ)達が玄関で話をしている頃


日本の霊峰、富士山の北東部にある山林で、白いフードを目深にかぶった男が不思議な形の方位磁石を大きくしたような板を持って歩いていた。


その板には、大陸の文字が書かれており、それを道しるべにしているようで、板に気を取られ過ぎて足元の石や木の根に(つまづ)いては、その石を蹴飛ばすと言った行為に出る処を見ると、かなり気性が荒い様である。


「クソがっ!! オレ様の通り道に邪魔だろうがよ!!」


(つまづ)かれた石にしてみれば、お前が勝手にコケたんだろうと、迷惑極まりない話だ。



男はチッと舌打ちすると――――――


「やっぱりあと2か所も潰さねーと駄目か。アレ1ヶ所潰すだけでもかなり掛かるんだよなぁ、おそらく闇御津羽神(くらみつはのかみ)が浄化して、儀式の邪魔してるんだと思うんだが……たく、忌々しい」


そう言って、近くの石を蹴飛ばすのだが、その石は飛んで行かず、地面にめり込んだままである。


おそらく、小石だと思っていたのは氷山の一角で、地面の下に大きくめり込んだ部分があるのだろう。


当然、石が飛ぶはずの運動エネルギーはどこに行ったかと言うと、男の足へ戻る訳で……


「ぐあああっ!! いってー」


ゴロゴロと足を抱えてのた打ち回る男は、痛みに暴れ回った為に、目深にかぶったフードが外れ、中から現れた顔は、どこにでも居る様な普通の日本人と言った感じの青年であった。


歳は20代前半と言った処だろうか?



しばらく痛がってた青年は、ようやく痛みが引いたのか、近くの木に(つか)まりながらどうにか立ち上がると、先程の石をもう一度蹴ろうとするが、1ミリも動いて無いのを見て無駄だと悟ったのか、石に向かって唾を吐きかけて、中指を立てた。


無機物相手に、ここまで本気でキレる辺り、かなり喧嘩っ早い性格であるのを物語っている。


最初に持っていた板を拾い上げ、痛みの残る足を(かば)いながら、暗い樹林の中へ消えていくのだった。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






所変わって、北関東の瑞樹神社


西園寺(さいおんじ)さんと玄関で話してると、香住(かすみ)が土鍋を持ってやって来る。


千尋(ちひろ)、こんな処で話してないで、中で話せば良いのに」


「そうだね。と言うか、香住(かすみ)は土鍋持ってどうしたの?」


「これは私の両親に持って帰るの。千尋(ちひろ)達の分は大土鍋で用意してあるから」


「いよいよ放蕩娘の御帰還か? 試験勉強という名目で連泊してるし、確かに帰った方が良いだろうよ」


セイが会話に割り込んで真っ当な事を言ってくる。


「セイさんの言う通り、さすがにこれ以上のお泊りはねぇ」


幼馴染とはいえ、年頃の娘さんを連泊させるのは、信用のある明かしか? 


女の子に成ったのは知ってるみたいだから、同性として見ているお陰かも知れない。


気を使って触れて来ないので、ある意味助かるけどね。


香住(かすみ)の御両親に霊力とか霊感が無く、角と尻尾は見えて無いみたいだから、説明もしなくて良いので楽だ。


香住(かすみ)だって、セイの創った見える眼鏡が無ければ見えないのだから、素で見えるのは特殊な人なのだろう。



「暗いし、送って行こうか?」


「送るって、直ぐ隣じゃない。石段降りれば着くから大丈夫よ」


淵名(ふちな)の龍神さんも肩に乗ってるし、大丈夫かな。


腕っぷしの強い香住(かすみ)を襲うような奴は、襲った事を後悔するだろうしね。


術の使用を抜けば、僕より強いぞきっと。



香住(かすみ)が靴を履いていると、西園寺(さいおんじ)さんが――――――


「ならば、ボクが帰りがてら送っていきましょう」


「え? 西園寺(さいおんじ)さんも帰っちゃうの?」


「神様達に晩酌を付き合わされると、完全に二日酔い決定ですからね。肝臓も4つぐらいないと潰されちゃいますよ」


「あはは……みんな強いですものね。御酒で太刀打ちできるのは婆ちゃんぐらいかな?」


お酒に強いと聞いていたが、あそこまで強いとは思わなかった。



僕の言葉を聞いてセイが――――――


和枝(かずえ)は……ありゃあザルだな。いくら飲んでもアルコールが溜まらん」


「この前も神様が先にダウンしてたしね。婆ちゃん顔色も変わってなかったし」


千尋(ちひろ)和枝(かずえ)の孫だし、案外呑んだら同じくザルかもよ?」


セイはそう言うけど、御酒に強いって遺伝とかあるのかは謎だ?


実際呑んでみなければ分からないが、それも成人までの楽しみである。



香住(かすみ)西園寺(さいおんじ)さんの二人で、玄関から出ようとしていたが、西園寺(さいおんじ)さんだけ立ち止まり振り返ると一言――――――


「そうそう、肝心な事を言い忘れてました。この間お詫びに来ていた、東の陰陽師達からの伝言です。風水師被(ふうすいしかぶ)れに気を付けろと……」


風水師被(ふうすいしかぶ)れ?」


「ええ、占いに出て居たそうです。ここからは、とある呪具を扱う店主の話なのですが、ある若者が風水に嵌まったあげく、独学でかじった程度の知識で、風水師が使う羅盤や道具を買い漁ったそうです。店主が危険かもしれないと警告をくれた訳ですが……千尋(ちひろ)君も気を付けてください」


それでは明日、学園が終わったころに伺います。と言い残して香住(かすみ)と鳥居に向かって歩いていく。



そんな背中を見送りながら、セイが――――――


「相変わらず、起きているのか寝ているのか、分からん奴だな」


「いやいやいや、西園寺さんは物凄く細目なだけで、寝ながら歩いてる訳じゃないってば」


糸目だからって、寝ながら歩いたり喋ったら怖いぞ。



「セイ、それよりさ。さっきの話の呪具店って……マヤさん所じゃないよね?」


「その辺は分からんな。別にあのケーキ娘の所じゃなくも、まじないの道具を扱ってる店は、日本中に結構あるしな」


「へぇ、思ったより需要があるんだね。もっと少ないのかと思った」


「需要は多くないが、千尋(ちひろ)も見ただろ? あの値段」


「数百万とか数千万まであったね……そうか! 一つ売れれば高額だから食ってけるのか!?」


仕入れにも、それなりの額が飛ぶだろうけどね。



「まっそう言うこった。世の中不景気になると、妖も人間の陰氣(いんき)()かれて多くなるし、それを退治する(はら)い屋も引っ張りだこ。必然的にその手の道具も売れるって訳さ」


「なるほどねぇ」


「物によっちゃ嵩張る物もあるからな、例えば京の妖を退治するのに、北関東のケーキ娘の所で買い物していくより、現地の京にある呪具店で買った方が、身軽に動ける場合もある」


「それで日本各地にあるのね、納得」


ということは、マヤさんの所とは限らない訳か



「気になるなら、後で聞いてみたらどうだ? 大ムカデの襲撃も止めてやったし、知らぬ仲でもあるまい」


「ん~どうだろう、守秘義務を重んじる人だから、詳しい顧客の情報は話さないかも」


「その辺、商売人としては信用できるな。ケーキも美味かったし」


「セイ……お前はそればっかだな、だいたいケーキ娘ってなんだよ」


「ケーキ娘はケーキ娘だ。いつもケーキくれるしな」


後でケーキ代請求されないよね? ちょっと怖いぞ。



玄関先で二人を見送った後、居間を覗き込むと、すでに鍋をつつきながら宴会状態であった。


こりゃあ、西園寺(さいおんじ)さんが帰る訳だ。


「おう! 千尋(ちひろ)殿、帰ったか。土産のじゃこ天で、一杯やらせて貰ってるぞ」


大山咋神(おおやまくいのかみ)様、御酒も程々にしてくださいよ」


かぁ~千尋(ちひろ)殿は固いのぅ。とE媛県の地酒を呑みながら、ほろ酔いに成っている。


駄目だこりゃ。



奥を見ると、オロチの壱郎(いちろう)君と鬼族である酒呑童子(しゅてんどうじ)の二人が鍋をつついていた。


「はい、御先祖様。熱いのでお気を付けください」


甲斐甲斐(かいがい)しく、鍋の具を(よそ)ってやる酒呑童子(しゅてんどうじ)の子孫が居るが、(はた)から見てると凶悪な鬼とは全然思えない。


「別に自分でやるから、って熱いわ!! 熱々のじゃこ天を押し付けんじゃねー!!」


「すみません。大根にしますね」


「熱!! だから口に押し付けるな!!」


コントかな……



「なんで壱郎君たちが居るの? 茨木童子さんは?」


「茨木童子は、京のトレーニングジム店の様子を見に戻ったから」


うぁ、長距離で大変だ。


淤加美様が龍脈開けてあげればよかったのに……揚芋菓子を数袋買ってあれば、二つ返事で開けてくれるだろうしね。



そこへ、神使(しんし)桔梗(ききょう)さんが台所から戻って来て――――――


「千尋様、お帰りなさいまし。実は、壱郎様から下仁田ネギと蒟蒻を頂きまして」


「それで鍋にしたのか」


「オレらが部屋を借りてる、南下出荘の大家……下出(しもで)さんが、酒呑童子の引っ越し祝いにとくれたんだ。何でもな、実家が下仁田で農家やってるらしく、頻繁に送ってくれるんだとさ」


あのアパート……南下出荘は、()()()()()()と読むんじゃなく、()()()()()()()だったのね。


実際、何か出そうどころか、幽霊が出てるって話だし、僕には絶対無理だわ。


代わりに家賃が格安の物件らしいが……



僕は、桔梗さんの持つ小鍋に気が付いて――――――


「桔梗さん、その鍋は?」


「こちらは、大学への提出物……れぽーと? とか言うモノの作成で忙しい、人間へお持ちしようかと」


「あぁ尊さんか。そう言えば妹の小鳥遊先輩にメールがあって、民俗学の教授にレポートを赤ペンで直されて戻って来たから、また実家へ着替えを取りに帰れないとか書いてあったらしいけど……大変だなぁ。だったら桔梗さん、それ僕が持って行こうか?」


「千尋様の御手を煩わす訳には……どうしてもと(おっしゃ)られるなら、子狐達を呼んで来て貰えますか? 部屋で何やらやっている様なのですが、呼びに行ったら声が入るから? とか何とかで、部屋を追い出されてしまいました」


「分かった。子狐達は僕に任せて」


桔梗さんにそう言って、踵を返すとセイが――――――


「じゃあ俺らは先に食ってるぞ」


セイとオロチの巳緒が人化して、居間へ入って行く。


あの二人もある意味底無しだな。お酒ではなく食べ物だけどね。



僕は子狐ちゃんズが寝泊まりしている部屋に行くと、襖の前で小さめの声を掛ける。


「コン太とコン平ちゃん居る? ご飯だってさ」


「龍の姉ちゃん。静かに……今ヴァーチャル配信中だから」


そう言って、子狐の片割れが出て来る。


元々双子の狐ではあるが、毛色も背格好も似過ぎていて、相変わらずどちらがコン太でコン平だか分からない片割れに――――――


「ヴァーチャル配信?」


「そそ。今流行りでね、アバターを使って配信するの」


子狐はそう言って、タブレット端末を使って配信中のチャンネルを見せてくれた。


今は半人化して狐耳と尻尾以外は人間の子供と変わらないが、半人化を解いた場合、肉球でもタッチパネルが反応するのだろうか?


そんな事を考えながら、画面を覗くと――――――


画面には、キツネの耳と尻尾を付けたキャラクターが、稲荷神社の由来や歴史の配信を行っていた、


由緒ある霊狐が、キツネのアバターで配信してる…………


「なぜキツネのアバター?」


「なぜッて、キツネ以外が稲荷神社を語るのはオカシイでしょ」


「いや言われれてみれば、そうなんだけど……」


もうそれ、アバター要らないよね。


霊狐のままで生配信しても、誰も気づかないと思う。



「もう配信終わるから、少しだけ待っててよ」


「あのさぁ、せっかくアバターで他の自分を演じられるんだからさ、タヌキとか他のアバターも使ってみればいいのに」


「はぁあ? 何でタヌキなのさ。嫌だよ絶対」


そこは拒否なんだ。


ライバル視でも、しているのかな?



タブレット端末の画面を見ていたら、やがて終了の文字が出て、配信が終わったことを示していた。


「終わったみたい」


そう言って、部屋の中の機材を片付ける子狐達。


水神の神社で稲荷神社の紹介をする、キツネのアバターを使った霊狐……


シュールだ。



片付けが終わると、二人して居間へ走っていく子狐達。


行動とか仕草は普通の子供だな……姿も尻尾と耳を隠せば、人間と違いが分からないんじゃね?


そんな事を思いながら二人の後を追った。



居間へ着くと、もう婆ちゃん以外に人間が居ねえ。


その日は、みんなで鍋をつつき――――――


「締めはうどんだろ!」


「いいや、ご飯投入だね!」


鍋の締めに、うどん派と御飯派で割れていた。


セイの奴は幽世の道後温泉で、締めに鍋焼きうどんを食べてたから、ご飯で雑炊にしたいだけだろうに……


同じモノを続けて食べたくない気持ちは分かるが――――――



「セイ残念ながら、うどんしか無いんだなぁ。ご飯は残ってないみたい」


「かぁー使えねー蟹女だぜ、俺らの留守中に何で米を炊いておか……危ねえっ!! 蟹鋏を出すんじゃねえ!!」


「駄龍の貴方を切り刻んだら、もう少し鍋の具が増えそうですね」


「こらこら、食事中に喧嘩しないの。どうしても御飯で雑炊にしたいなら、冷凍ご飯を解凍してあげるけど?」


「解凍? ああっ、冷凍してあった飯な。この間夜中に小腹が空いて食っちまったぞ」


コノヤロウ、いつの間に……



「じゃあ、うどん決定。ご飯が無いのは、セイの自業自得だからね」


「ぐぬぬ……」


自分が悪いんだから、少しは我慢してもらいましょう。



そうやって夕食を終えると、殆どの神様がそのまま呑みタイムに突入し、居間に残っていた。


毎度の事だから、もう気にしないけどね。


僕は洗い物を片付けると、天神様の所へ行こうとしていた。


それはテスト勉強の事もあるが、それ以上に風水の事を聞きたかったからである。


天神様は千年も昔の方だから、現国より風水のほうが詳しそうだしね。



でもその前に、荒神狼であるハロちゃんの器を回収しとかないと駄目だわ。普段なら自分で器を持って来てくれるので、洗って置くんだけど……


今回は、筋肉痛で動きが悪く、あまり動けないみたい。


先ほどご飯を持ってった時は、ぎこちないが出て来て食べてたので、明日には治ると思うけどね。


「ハロちゃーん、食べ終わった? 終わったならお皿引き上げて洗っとくよ」


『千尋殿……この鍋、まことに美味かった』


少しぎこちないが、拝殿の下からお皿を咥えて出て来るハロちゃん。



「ハロちゃんが美味しかったと、作った香住と桔梗さんに伝えて置くよ」


うむ、御馳走さまと空のお皿を僕に渡そうとして、急に皿を落とす。


『千尋殿、危ない!!』


ハロちゃんの言葉を聞いて、反射的に地面を蹴り、横に飛ぶ僕とハロちゃん。


すると僕らが先程まで居た場所に、月明かりに鈍く光る刃が、突き立てられていた。


「なんだアレ!?」


『辻斬りは今どき流行らんな』


ただの刃かと思いきや、よく見ると日本刀を持った青年であった。


「うちの境内で、抜身の刀振り回し何やってんのこの人」


神社直したばかりなんだから、止めてよね。


青年は地面に刺さった刀を引き抜くと、ゆらりと此方に向き直り――――――


「白を切るつもりか!? 鬼め!!」


はぁ?


何か勘違いしてるし。



急に現れた青年は一体……




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