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龍神の花嫁 八俣遠呂智編(ヤマタノオロチ)  作者: 霜月 如(リハビリ中)
6章 隠神刑部狸(いぬがみぎょうぶたぬき)と検体N
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6-09 雅楽堂(がらくどう)


「うぁ……いっぱい居るな」


強引にカワミサキを見に行くわよ! と小鳥遊(たかなし)先輩に連れて来られた川の中には、黒っぽい影の様なモノが、沢山いるので気持ち悪いぐらいだ。


「凄い数ね」


「先輩。カワミサキって、一匹じゃ無いんですか?」


「群れを成すとは書いて無かったけど、10や20じゃきかないわね」



土手の上から川の中を見て居ると、どんどん増えているようで、早く片付けないとマズイ事になりそうだった。



まるで、もっと凶悪な何かに追い立てられて出て来ているような……そんな気がするのは思い過ごしだろうか?



川を(のぞ)いている僕らの横で、香住(かすみ)が――――――


「良いじゃないの。私の取り分もあるみたいだし」


「取り分って……まさか香住(かすみ)もヤル気……みたいですね」


僕が心配する間もなく、神器のナックルを装備して、土手を下り始める香住(かすみ)だが、属性無しで霊的なモノが打てるのか? それだけが気掛かりであった。


香住(かすみ)に続いて小鳥遊(たかなし)先輩も川へと降りていくので、有村(ありむら)君に――――――


「そういえば有村(ありむら)君って、戦えるの?」


「無理だよ。ボクの持つ魅了(みりょう)魔眼(まがん)は、(あやかし)や霊の(たぐい)には効かないし」


「え? じゃあ陰陽術(おんみょうじゅつ)は? あの晴明(はるあき)さんの(おい)っ子だし少しぐらい……」


「念を込めて(もら)った(ふだ)が無いと、陰陽術(おんみょうじゅつ)は使えないよ」


マジカ……


実質、魅了(みりょう)魔眼(まがん)のみの状態では、対人戦ならまだしも、対(あやかし)戦ではタダの足手まといなだけじゃないのさ。


有村(ありむら)君と会話をしていると、カワミサキが土手を上がって来るので、僕が有村(ありむら)君を(まも)って残る事にした。


川の中でカワミサキ達が、先輩の帝釈天(たいしゃくてん)の雷撃の(むち)香住(かすみ)のナックルで打ち抜かれ、どんどん消し飛んでいく。


香住(かすみ)のナックルは、無属性でも霊を打ち抜けるのか? そう思っていると頭の上に居るセイが――――――


千尋(ちひろ)。嬢ちゃんの拳を見ろ」


「なに? 香住(かすみ)の拳って……え!? 光ってるし!」


「おそらく、鬼族の使っていたオーラと言うヤツだな。まぁ鬼族の様に、全身を(まと)うほどのオーラは張れないが、拳だけに集中してオーラを乗せてるんだ」


なるほど、それで霊を殴れるのかと合点がいった。


普通、霊相手だと拳がすり抜けてしまい、打撃は効かないのにね。


しかし拳だけとはいえ、鬼族のオーラを再現するとは、香住(かすみ)さん……貴女どんどん人間やめてますよ。



僕が顔を引き()らせて見て居ると、有村(ありむら)君が――――――


瑞樹(みずき)君たち、こんなに強かったのか……身の程を思いしたわ」


「いやぁ、あの二人は特別かな?」


今までの実戦経験が、二人の戦闘力を飛躍させてるのだと思う。



ちょっと前に小鳥遊(たかなし)先輩が、(はら)い屋の仕事をしてても、簡単過ぎるとボヤいてた事があったが、分かる気がする。


これだけ強ければ、下級、中級の妖では、物足りないだろう。



だが――――――


なんか違和感を覚えて、川の中に居る二人の戦いを見やる。


やっぱりオカシイ……カワミサキの数が減って居ないのだ。


それどころか、増えている様にさえ思えた。


これは、浄化雨で一気に片付けた方が良いかも……そう思っていると――――――



「見つけたわ!! 瑞樹千尋(みずきちひろ)!! 今日こそ貴女を倒して、一番強いのは私だと言うのを、龍族みんなに知らしめてあげるんだから!!」


「また現れたよ……この忙しい時に」


「私を見て、びびったのかしら? 所詮、人間からの成り上がり者なんて、そんなもんよね」


おーほっほっほっと高笑いをする水葉(はずき)こと、盗人(ぬすっと)ツインテール。


「いい加減、八咫鏡(やたのかがみ)を返して帰りなよ。京で鬼族にやられたみたいに、泣いて帰る前にね」


「な!? 泣いてなんか無いわよ!! ちょっと目にゴミが入って涙が出ただけで、泣いて無いんだからね!!」


面倒くさいヤツ。


正直、コイツに構ってる暇はない。早く広域浄化しないと、カワミサキがどんどん増えて、香住と先輩の体力が持たないのである。


カワミサキが生気を吸い取るとは、よく言ったモノだ。触れただけでも、大量に体力を持っていかれてるようであった。


おそらく、ドレインタッチと言うヤツだろう。



急いで広域浄化をしたいのは山々だが、だからと言って水葉を無視し浄化の術を強行したら、術の集中を邪魔されるだろうし、そういう意味でも水葉に隙は見せられない。


本当に面倒くさいヤツだ。



仕方がない。水葉を早めに倒して、浄化雨を降らせようと思っていると、香住が――――――



「そこの空を飛んでる貴女!! 暇なら手伝いなさいよ!!」


「はぁ? なんで私が……」


「その頭に生えた角は龍族なんでしょ!? ならば手伝ってよ!!」


香住の叫びに、先輩までもが――――――


「千尋ちゃんなら、こんなの直ぐに片づけられるわよ。でも……貴女には無理そうね」



その一言が効いたのか、水葉が――――――


「私だってこんな雑魚、御茶の子さいさいよ!」


よーく見てなさい! と水の刃をたくさん出すと、それを雨の様にカワミサキの上へと降らせた。


水葉の出した無数の水刃を受けて、どんどん減っていくカワミサキだが、しばらくするとまた復活したのだ。


これではいくら強くも、きりが無い。



水葉は、闇御津羽神の娘と言うだけあって、光の術は使えないみたいなので、広域浄化は無理みたいであった。


こうなれば、僕が高淤加美神の光水を使い、広域浄化を行うしかない。


「香住か先輩のどちらかに、有村君の守護をお願いします。僕は川の水を使って広域浄化を行いますので!」


そう言って川の中へ飛び込むと、水を巻き上げ浄化の水へと変えていく。


川から巻き上げた水が、光り輝く水に変わると空へ舞い上がらせて、広域での浄化雨を降らせる。


すると、光る雨に当たったカワミサキは、ボシュっと音を立てて浄化されて消えてしまったのだ。


使った水量が少量なので、通り雨程度でやんでしまったが、カワミサキを屠るには申し分ない。



すぐに秋晴れの空が見えてくると、水葉が――――――


「これで邪魔者は居なくなったようね。さあ! 勝負よ瑞樹千尋!!」


「もう僕の負けで良いから、八咫鏡を置いて帰れよ」


「そこ! 嫌そうに溜息をつかない!! だいたい勝ちを譲って貰らって喜ぶわけ無いでしょ!! 鏡が欲しければ実力で来なさいよね」


面倒くさ過ぎ



ムキ―っと癇癪を起こす水葉を見て居ると、突然声が掛かる――――――


「こらー! 今カワミサキが出るから、川へ入っちゃ行かんと聞かなかったんか!?」


そう言って、先ほど降らせた雨を滴らせ、麦わら帽子を被ったオッチャンが、此方へ走り寄って来るのが見て取れた。


その声を聞いて、マズイ! と飛び去って行く水葉。


飛んでる処を見付かるなよ。


そう思いながら水葉を見送ると、オッチャンに――――――


「すぐに祓わんと……お寺に連れてくから、こっち来い!!」


と、強引にワンボックスの軽自動車に乗せられて、御寺に連れてかれた。


そのまま立派な門構えの御寺に連れてかれると、中へ通されて僕ら一同、畳の上へ正座をさせられる。


「和尚、川に入っていたのは、この者達です!」


先程のオッチャンが、立派な袈裟を着込んだ坊主頭の御人を連れて戻って来た。 


おそらく、このお寺の御住職だろう。オッチャンもそう呼んでたしね。


御住職は、正座させられてる僕らを見やると――――――


「この者達なら、大丈夫じゃろう。何しろ龍神様がついて居られるようだしな」


僕の方を見て、御住職はそう言った。


「御住職は、龍の角が見えているんですか?」


「角だけではない、尻尾も見えていますぞ。儂もこの界隈に長いですからな」


そう言って、微笑みながらウインクする御住職。オチャメな人だ。


僕らの話を聞いて、ここまで連れて来たオッチャンが――――――


「へぇ、龍神様とは……初めて見ました。和尚様、先ほど運び込まれた釣り人は、龍神様にお願いした方が良くねーですかい?」


「待て五郎太。儂にも住職としてのプライドっちゅうもんがある。あの釣り人は儂に任せい。それに……龍神様へ対価を払いきれぬわ」


御住職はそう言って立ち上がると、別室に運び込まれた釣り人へ向かって、襖を開けて奥へ消えて行った。



別に対価を貰うつもりはないけどね。国津神は人間と神佑地を護るのが仕事だし。



部屋に誰も居なくなったので、僕達はお寺を出て、本来の目的である有村君の犬神を供養すべく、畑中の道を歩いて居ると、先ほどのオッチャンが追い駆けて来て――――――


「おーい、待ってくれ~。はぁはぁ、先程はすまんかったのぅ。お詫びと言ってはなんだが……コイツを持ってってくれ。カツオの酒盗(しゅとう)だ。うめーぞ」


オッチャンはそう言って、ビニール袋に入った酒盗(しゅとう)を僕らにくれた。


(うま)そう。ありがとうございます。醸造神(じょうぞうしん)大山咋神(おおやまくいのかみ)様が喜びそうだ」


「へっへっへっ、酒盗(しゅとう)は酒が進むぞ。また寄ってくだせぇ」


酒盗(しゅとう)ありがとうございます。川の方は、もうカワミサキが居ないので、入っても平気だとお伝えください」


お礼にお辞儀をしてから、手を振ってオッチャンと別れた。



その後、有村君の案内で、犬神の躯を埋めた場所へ案内してもらうと、人通りの少ない山の中へ入り、四辻(よつつじ)の真ん中で足を止める。


「ここです」


「ここって……道の真ん中じゃないの?」


香住が周りを見渡しながら、そう言ってくる。



「この四辻(よつつじ)の真ん中に埋まっているんです」


農道が丁度クロスした交差点の真ん中を指差して、有村君はそう言った。



「こんな処に埋めたら可哀想でしょ」


「いやいやいや、それが呪術ですから」


有村君はそう言うと、背中に背負ったリュックからスコップを取り出し、交差点の真ん中へ突き刺しながら掘り始めた。


僕らも手伝おうか? と聞いたら、これは僕がやらなきゃならないからと、一人で掘り続ける。


やがて、白い動物の骨が見えてくるので、それを拾い上げるとリュックに仕舞い、有村君の実家へ歩き始めた。


そして、小鳥遊先輩にお経をあげて貰いながら、有村君の実家の裏庭に御墓を建てると、成仏するように皆で手を合わせた――――――のだが


「消えねぇ……」


有村君の背中に犬神がくっ付いたまま、消えることが無かった。


「小鳥遊先輩の御経が間違ってたんじゃないの?」


ちょっ、香住さん。そんなハッキリ言ったら……


「私のお経は完璧よ。高月さんの様な不心得者が居たせいで、成仏できなかったんじゃないかしらね」


「本当に間違ってなかったんですかねぇ、妖しいなぁ。千尋もそう思うでしょ?」


「ぼ、僕に振らないでよ。ウチは神道で、仏教は畑違いだから分からないってば」



「ほーら、やっぱり高月さんが、お経の邪魔をしたに違いないわ」


「なにが、ほーらですか! 間違ってなかった証明には、なってません~」


始まったよ……


僕は喧嘩している二人を放って置いて、成仏しない犬神を観察していると、カチューシャの巳緒が念話で――――――


『この犬……主の人間が心配で、成仏できないって言ってる』


『そうなの?』


『うん。その心配事が心残りに成ってて、成仏しようと思ってないみたい』


その巳緒の言葉を、みんなに伝えると――――――



「ほら、私のお経のせいじゃないでしょ」


「なーんだ。有村君が悪いんじゃないの」


「ええ!? ボクぅ?」


先輩と香住の非難の矛先が、有村君に向けられる。


少し可哀想かも……



散々文句を言われて、有村君が涙目になった処で、小鳥遊先輩が――――――


「しかし困ったわね。犬神憑きが忌み嫌われるのは、勝手に他人のモノを持って来ちゃうからよ」


タダの盗人じゃねーか!


僕の頭の上に乗った赤城の龍神さんが、先輩の説明を補足するように――――――


「犬神は、主が欲しがったモノを勝手に持って来るというので、有名なんだ。つまり、欲を捨てて欲しがらない精神の持ち主で無いと、使いこなせず。主が嫌われてしまうという訳だ」


それで犬神憑きは嫌われるのか……



赤城さんの話を聞いて、僕らの視線が有村君に集まると――――――


「無理無理。ボクだって高々16歳の学生なんですよ。欲を捨てるなんて無理です」


ですよねぇ、大人でも欲を捨てるのは難しいもの。



このさい精神論は置いといて、成仏できないモノをどうやって制御するか……


そう悩んでいると、小鳥遊先輩が――――――


「もしかしたら、何とかなるかも知れない」


「頼もしい御言葉ですが、どうするんです?」



僕が尋ねると、先輩はスマホを取り出して、地図アプリを起動する。



「千尋ちゃん。この場所へ行ける?」


そう言ってスマホの画面を見せてくるが、どう見ても何もない、北関東の山の中であった。


「ここなら神佑地内ですし、龍脈も通ってるので行けますが……何もない山の中ですよ」


「そう見えるでしょ? 実はここに、ポツンと一店舗あるのよ」


先輩の言葉に、画面を見ながら座標を確認し、龍脈を開けると皆で飛び込んだのだ。



先輩の指示した座標へ、龍脈から飛び出すと、目の前には本当に建物が存在した。


それは洋風な感じに造られており、屋根は三角屋根で両開きの窓。いかにも魔女が出て来そうな感じであった。


その洋館には看板が出ており、雅楽堂(がらくどう)と漢字で書いていて、洋館なんだから横文字で書けば良いのに、と思って見たりもする。


「ここが祓い屋御用達のアイテムショップ、がらくた堂よ」


100円ショップみたいな言い方をするので、あまり高級感が無い。


そんなお店のドアを、無造作に開け放つ先輩だが――――――


開けて直ぐに、招き猫の置物が顔にめり込む。


「うぁ……痛そう」


香住が青い顔でそう呟くと、店の中から怒号が響き渡る。


「アンタって子は……毎回毎回、言い間違えて……ウチはガラクタ堂じゃない! 雅楽堂だ!!」


その言葉に、先輩は顔にめり込んだ招き猫を引き抜くと――――――


「ちわっ!! マヤ姉さん久しぶりです。今日は後輩を連れて来ましたよ」


「まったく、風評被害も甚だしいわ」


「そう言わずに、売り上げに貢献しますから。この招き猫10円で良いですかね?」


「貢献してねーじゃん!! 10円って消費税にもならんわ!!」


なんか置いてけ堀にされている僕ら……というか、小鳥遊先輩って結構オチャメじゃないですか。知らなかったわ。


先輩と店主のやり取りを、冷ややかな目で見て居ると――――――


「おほん! 冗談はさて置き、犬神を制御する首輪を見に来たんです」


「犬神ぃ? あんなもん使わずとも、アンタもっと凄いの持ってるでしょ? 最近、天狗の団扇を手に入れたって聞いたわよ」


「さすがマヤ姉さん、耳が早い」


「どうするの? 天狗の団扇を売る?」


「売りませんよ。あんなお宝、そう易々と手に入りませんもの」


「なんだい冷やかしかい? じゃあもう帰った帰った」


「だから首輪を身に来たんですってば。ほら、みんな入って入って」


店主でもない小鳥遊先輩が、勝手に入るように催促する。



「すみません。お邪魔します」


僕らが、申し訳なさそうに中へ入ると、御店主が――――――


「こりゃあ驚いた……龍神様じゃないのさ! あたしゃ初めて見たよ」


「私の後輩よ。凄いでしょ?」


「アンタが凄いわけじゃ無いでしょうに……でもまぁ、ここ最近一気に力が増したと思ったら、そういう訳かい」


「えぇ。神々とか、それに近いモノと一戦交えてますからね。普通の依頼はぬるくて……」


「だろうね。まぁ龍神様なら居るだけでも御利益があるし、ウチとしては大歓迎だよ。どっかの冷やかしとは大違いさね」


そう言ってニンマリする御店主。


その姿は、紺色のローブを身に纏って居り、頭に被ったフードを背中へ追いやると、かなりの美人であるのが見て取れた。


歳は……20代後半から30代前半だろうか?


ちょうど、京の貴船神社で龍の巫女をしている、小川伊織さんより少し上……と言った感じだ。


伊織さんは天然なんで、話していると見た目より若く感じるけどね。


御店主は、一度奥へ入られてから出て来ると、プレートの上に幾つかの首輪を乗せて戻って来た。


「これが犬神の首輪よ。今この店にあるのは、この色違いの5種類のみ。効果は全部同じだけど、御勧めは赤色かな?」


そう言って、カウンターの上に並べて置いて行く御店主。


「これを付ければ、制御できるんですか?」


「本来、犬神は主の思いに応えて、勝手に飛んでモノを持って来るんだが……首輪をした後は、声で命令しないと、動かないように成ってしまうんだ」


声が出せない様な危機に陥った場合、勝手に犬神が動かないので、助けに来てくれないというデメリットもあると説明してくれた。


何色にしようかな……と迷っている有村君を他所に、他の商品を見て回る僕ら。


「何に使うのか分からないモノが、一杯ですね」


「千尋ちゃんが持ってるその植物は、マンドラゴラよ」


「マンドラ!? それって叫び声効くと、お亡くなりに成るんじゃ……」


「良く知ってるわね。ちなみに高月さんが持ってる瓶に入ってるのが、龍の肝よ」


龍の肝って……他人事じゃねえし


他の棚を見る気が無くなり、有村君の処へ行くと、まだ色を決めかねていた。


「早く決めちまえよ小僧! 色が違うだけで、効果は同じなんだろ?」


セイがいい加減にしろと、有村君を急かす。


「え? どうしようか……」



僕が言うのもなんだけど、優柔不断だなオイ。



「やっぱ緑じゃない?」


先輩も口を出して来る。


「いいえ、ここは黄色でしょ」


香住は黄色か……


周りがとやかく言うモノだから、有村君は余計に決まらずに居た。


「もう犬神に決めさせなよ。首輪つけるの犬神ちゃんなんだし」


僕の言葉に、みんながそうだなと頷く。


有村君が犬神に決めさせると、犬神は黒い色の首輪を選んだのだった。


「落ち着いた色で良いんじゃない?」


「犬神本人が選んだんだしな」


みんながやっと終わったと溜息をつくと、雅楽堂の店主が――――――


「じゃあ清算と行くかね」


「お幾ら万円?」


「ええ!? ボクそんなに持ち合わせないですよ」



そう半泣きで声を上げる有村君に小鳥遊先輩が――――――


「ここではお金で精算はしないのよ」


「そうよ。それなりの対価で支払ってもらうわ」


選ばれなかった首輪をプレートに載せて、店の奥へ引っ込む御店主。



いったい、どんな対価を払わされるのやら……



僕達は一抹の不安を覚えながら、御店主が消えて行った、奥の部屋への入り口を眺めるのであった。




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