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龍神の花嫁 八俣遠呂智編(ヤマタノオロチ)  作者: 霜月 如(リハビリ中)
6章 隠神刑部狸(いぬがみぎょうぶたぬき)と検体N
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6-08 カワミサキ


なぜだろう……


非常に首が痛い。


今日こそはフカフカの布団で寝てるはずなのに、なんでこんなに首が痛いのだろうか?


僕は原因を探るべく、眠い目を無理やり開けて状況を確認しようとするが、まだ焦点が合わずに、ぼやけて見える。


やがて焦点が合い、最初に目に映ったのは、古典の教科書だった。


はて? 何故(なにゆえ)教科書?


眠い頭を起こす為に上半身を起こし、頭を振るとテーブルの先に天神様が――――――


「おはようございます。お疲れの様でしたから、起こさずに居たのですよ」


「はぁ……それは申し訳ないです」



ようやく眠っていた頭が目覚め始め、昨日の事が思い出された。



そうだ……テスト勉強をすると言った香住に付き合わされ、天神様に勉強を教わりながら、疲れで寝てしまったんだ。


何しろ地元警察の所長が、妖なんて非現実なモノは信じないと言っていたのに、妖怪首無しをお届けしたら、卒倒してしまって大騒ぎに……


結局、西園寺さんが首無しを引き取って行ったのだけど……所長は犯人が居ないのでは、通行止めの理由が無い! とゴネまくり大変だったのだ。


その後も何やら西園寺さんと話をしていて、埒が明かないとなったら、何処かへ連絡したりして……ようやく話が付いた時には、夜中の2時を回るという悲惨な事に。


その後、やっと帰れたと思ったら、香住の勉強に付き合わされる事になり、そのままテーブルに突っ伏して寝てしまったんだった。


通りで首が痛いわけだ。



「やっと起きたか? 頬に本の跡がくっきりついてるぞ」


そう言ってくるのは、頭の上に居るセイの奴だ。


「いつから寝てた?」


「さあな、俺が部屋に来た時には、すでに寝てたぞ」


「ならば質問を変えよう、セイは何時にやって来た?」


「30分ぐらい前かな? 香住嬢ちゃんが部屋から出て来て、朝餉の支度で台所へ行った時に、入れ違いで部屋へ来たぞ」


少なくもその前から寝ていたのか? まぁ、教科書は開いているが、勉強した記憶が無いから、すぐに寝たのだろう。


頭をしっかり起こそうと思い、アツアツの御茶を淹れる為に、急須を持って席を立つと天神様が――――――


「あのぉ……すみませんが、私にも御茶を頂けますか? 出来れば神使の方でなく、千尋殿に淹れて頂きたい」


「別に良いですよ。しかし、そんなに変わりますかね?」


「味だけでなく、浄化作用も凄いですからね」


「浄化作用? 御茶に?」



僕が不思議に思って居ると、セイの奴が――――――


「淹れてる本人が知らないのかよ」


「え? だって普通に淹れてるだけだよ。多少は水神の力で蒸らす時間を弄ってるけど、本当にそれだけだもの」


「いいや、それだけじゃないな。我々水神は、その身の水氣が濁らぬ様に、血を滴らせる様なモノ……肉や魚などの穢れを体内に入れぬようにしているんだ。大婆様が芋しか食わないのは、その為だ」


「そうなの? 淤加美様の揚芋の方が身体に悪そうだけど……」


「栄養的には偏って身体に悪いかも知れないが、それは人間に置いての話だ。水神は栄養云々より、水氣の濁りを重視する。なぜなら、穢れが溜まると動けなくなってしまうし。最悪、穢れが原因で祟り神に堕ちる事にもなるからだ」


「ちょ!? そういう事は早く行ってよ!! 肉も魚も沢山食べてるじゃないのさ!!」


「そうだな。だが肉や魚を食べまくってる俺が、祟り神に見えるか?」


「……エロ龍に見える」


「余計なお世話だ。まぁ穢れが溜まらないのは、その都度浄化しているからだ」


「浄化って……まさか!?」


「そう、千尋の御茶だ。その御茶のお陰で、肉も魚も食えるって事さ」


マジカ。


知らずに淹れていた御茶に、そんな作用が……



そこで、天神様がセイの話を捕捉するように――――――


「神によって食べて良いモノ悪いモノが違いますからね。同じものを食べても、穢れを溜めない神も居れば、倍もの勢いで穢れが溜まる神も居ますよ」


私なんか元人間なので、大概のモノは穢れを気にせず食べれますがね。と言って笑っていた。


僕も元人間なんだけどなぁ。


しかし、水神は血が滴る系はダメなのか。考えてみれば、水が濁る様なモノや事は御法度だわな。


まぁ淤加美様が芋しか食べない理由も分かったし。もっと早く教えてくれれば良かったのにね。淤加美様も人が悪い。



セイと天神様に、かなり持ち上げられてしまったので、御茶を淹れに台所へ行くと、香住が京で習った味を、神使の桔梗さんへ教えていた。


「あら、千尋。おそよう」


香住の嫌味も何のその。


「おはよう。御茶淹れるのに、お湯貰ってくね」


「あっ! 千尋様。御茶なら私が……」


「大丈夫ですよ。桔梗さんは朝餉の支度をお願いします」


「千尋。天神様へ御淹れするの? だったら饅頭を持ってってよ」


「偉いサービス良いじゃないのさ」


「昨日の勉強を教えて貰ったお礼にね」


誰かさんは直ぐに寝ちゃったから、知らないわよねぇ。と続けた。


なんだか機嫌悪いでやんの。



御茶を淹れたお盆を持って、廊下を歩いて行くと、頭の上のセイが――――――


「昨日、久しぶりに千尋と一緒に居られると、喜んでたんじゃないのか? 邪魔してくる祓い屋の嬢ちゃんも居ないし。俺も赤城と録り溜めたアニメ観てたしな」


「まさかぁ、あの香住が?」


「雌に成っても、雌の心分からずか……」


セイにそう溜息をつかれてしまった。


悪ぅ御座いましたね。どうせ恋愛成就の御利益はありませんよ。



僕は御茶を乗せた御盆を持って、天神様の元へ戻ると、浄化の御茶を淹れて差し上げる。


「これこれ、この浄化作用があるから、この神社の神々は穢れが無いんですよ」


御茶を啜ってから饅頭を頬張りパソコンを打つ天神様。



「天神様、パソコン使えるんですか!?」


「実は先日、千尋殿の祖母様に色々設定してもらいまして。ここ北関東に居ながら太宰府の願い事を、いんたーねっと? とか言うので飛ばして貰い。ここで願い事の仕分け作業を行えるように成ったんです。帳面に手書きだった頃に比べて、格段に効率が上がりましたよ」


手書きみたいに風情はありませんがね。と続けて笑った。


見て居ると、ブラインドタッチは完全じゃ無いものの、願い事を表にまとめているので、後の検索は楽かもしれない。


内容は個人情報だからと見せて貰えなかったが、願い事に来た人間の学力と志望校別にまとめられているらしく。この人間は学力的に厳しいから、テコ入れが必要かも……なんて独り言を喋っていた。


学業の神様も大変だわ。


試験は必ず、誰しもが通る道だからね。参拝者が途切れることは、まずあり得ないだろう。


デスクワークで忙しい天神様に対して、暇そうなセイは――――――


「千尋、今日の予定は?」


「今日はね、有村君の実家へ行って、犬神の躯を供養してくるんだよ」


「もう一度浄化雨で、浄化してもダメなのか?」


「やっぱ呪術の類らしくてね。元から絶たないと駄目みたい」


ふ~ん。と気の無い返事をしながら御茶を啜るセイだが。僕は有村君の話をしていて、あることに気が付いた。


確か有村君は前回、神様達が怖くて入れないと言っていたから、今回も入れずに石段下の神社の入り口で、待って居るかも知れないのだ。



一応様子を見に、境内へ出て行くと――――――



鬼達に囲まれた有村君が、頭を抱えて座り込んで居るのが見える。


「おめえ、どこのモンだ!?」


「ひぃ、御助けを……」


「答え次第では、タダじゃおかねえぞ!!」


「はわわわわ」


鬼族四天王に囲まれた有村君が、涙目で食べないでと懇願している。


さすがにこれ以上は、有村君が可哀想で見て居られず――――――


「ちょっと鬼さん達。その人は同級生でお客さんなの。もう止めてあげて」


「瑞樹君! 助かったよ。しかし何で神社に鬼が……」


「いやぁ……色々あって、泊まって貰ったんだよ」


「泊まった!? 鬼が神社に?」


「いやぁ、文献に載ってる昔の鬼みたいに、凶暴でもないし怖くないよ」


僕がそうフォローすると、有村君は僕の背中からそっと顔を出し、鬼達を見ている。


そんな有村君の視線も気にせずに、鬼達は筋肉を盛り上がらせて、ポージングを決めているのだから、暑苦しい事この上ない。


境内の気温が5度ぐらい上がってるんじゃないかな?



鬼達はポージングを解くと――――――


「石段の往復1000回を、朝飯までに終わらせちまおう!」


「そうだな。あと5往復だっけ?」


「さっきの人間の小僧が邪魔しなければ終わって居たな」


「筋肉が冷めて硬くなる前に、行くぞ!!」


四天王が、おう!! と一斉に気合を入れると、石段に向かって駆けだした。


1000往復って……ヤバイだろ?



そう思って居ると、拝殿に腰かけた子狐ちゃんズが――――――


「あいつら石段の往復する前に、腕立てもやってたんだぜ」


「鬼族って体力の化け物だな」


と、二人で頷き合っている。



「そう言えば、コン太もコン平も。この時間はハロちゃんと散歩じゃないの?」


「いやぁ……それが……」


「ハロ先生がな……」


何だか歯切れが悪い子狐2匹。



「ハロちゃんに何かあったの?」


「…………筋肉痛だって」


「はい?」


「あちこち身体が痛くて、神社の下から出て来れないんだってさ」


狼の荒神なのに筋肉痛かよ。


確かに、頂上の湖から麓の温泉街まで、5往復近くしたけどさ。


ハロちゃん。あなた荒神ですよ。今は絶滅した狼ですよ。


筋肉痛って……野生はどうしたぁ。



「まぁ、頑張ってた証拠だろう。あの速いバイクに追いつく速度で走ってたんだしな」


珍しくフォローしてくれるセイに僕も賛同して――――――


「確かにね。後でご飯持って来てあげよう」


そう言ってから、朝餉に有村君を誘う。


滅茶苦茶嫌がって居たが、小鳥遊先輩の登場により、無理やり入って貰った。



「小僧! よく来た」


「淤加美様、それだと歓迎の言葉に聞こえませんよ」


「いや、犬神憑きの様な呪術は、おのれ自身を亡ぼすと、少し説教をだな……」


「ご飯時に止めてくださいよ。有村君も夢でうなされて、身をっ持って知ったはずですよ」


僕がフォローすると、有村君はすみませんを繰り返していた。


集まって食卓を囲む神様達を紹介していくと、有村君は――――――


「神在月の出雲大社みたいだね」


「みんな同じことを言うな。ウチの神社に、八百万もの神様は入りませんから」


多く見えるが、6名は鬼だしね。


話によると、四天王の鬼達は、今日の夕方で帰るそうだ。スポーツジムのインストラクターをやってると言ってたので、いつまでも放置は出来ないのだろう。


酒呑童子と茨木童子の2名は、アパートが見付かり次第そこに住むらしい。



鬼達の予定を聞いた後、小鳥遊先輩が自分の前に置かれた、皿の鮭を箸でほぐしながら――――――


「今日は千尋ちゃんについて行くわ」


「え? 犬神の亡骸を供養しに行くだけで、すぐに帰って来ますよ」


「供養なら尚更お経をあげないとね」


そこまで聞いて、香住が――――――


「あ~ら小鳥遊先輩は、妖を祓ってばかり居て、御経なんて読めたんですか」


「それなら問題ないわ。高月さんが遊び回っていた頃から写経をさせられてて、目を瞑っても書けるわよ」


また香住に突っ掛かる様な言い方をする先輩。



「私も先輩の言われるみたいに、遊び回ってただけじゃなくて、千尋のお婆さんに料理を習ってましたのよ。先輩は毒物しか作れないかも知れませんがね」


ほら始まった。



「二人ともストップ! 朝ご飯ぐらい、喧嘩しないで食べようよ」


僕が二人を止めると、香住が――――――私も行きますから! と言ってセイの御茶碗に、ご飯のお代わりを装っていた。


亡骸を供養するだけなのに、結局皆行くんかい。


香住はテスト勉強どうするんだよ……


その後、朝餉の片付けが終わり、大工の棟梁がやって来たので、鬼達と先に醸造小屋造りを始めて居てください。と断りを入れ、人目につかない場所から四国へ龍脈を開けて移動した。



四国へ着くなり、最初に跳び込んできた言葉は――――――


「カワミサキが出たぞ!!」


カワミサキ? なんだそれ……


慌てて走っていくオッチャンに、有村君が――――――


「坂崎のオジサン! 何かあったんですか!?」


「おう! 誰かと思ったら、有村さんちの(ひろ)君か。カワミサキが出たんだよ、絶対に川の方へは行くんじゃないぞ! 儂は坊さんに頼んで来るから」


そう言って、何処かへ走り去ってしまった。


カワミサキと言うのが何だか分からないが、あの慌てようだと、かなり危ない奴らしい。


僕達が何の事だか分からずに立ちつくしていると、小鳥遊先輩がスマホで検索を掛け――――――


「カワミサキは……川御先って漢字で書くみたいで。どうやら憑き物の類らしいわね。主に川の中に現れ、釣りをしている人間に憑りついて、生気を吸い取るんだってネットに書いてあるわ。憑かれた人は極度の疲労や頭痛に悩まされ、場合によっては死に至るみたい。類似の妖で、七人ミサキとか山ミサキとかがあるらしいわ」


「そんな事もネットで分かるんですね」


便利な世の中になったもんだ。


しかし川ミサキか……死に至るとは穏やかではない。



先輩がスマホをしまっていると、今度は年配の女性が走って来て――――――


「あら!? 有村さん処の浩人(ひろと)君?」


「こんにちはオバサン。お久しぶりです」


「本当に久しぶりねぇ。そうそう、今カワミサキがね……」


「坂崎さんに聞きました。憑かれた人は無事なんですか?」


「かなり衰弱しているけど、今のところは……それで男達が、御寺に運び込むって言っていたわ。浩人君は実家へ戻って、お友達と家から出ないようにね」


そう言うと年配の女性は、最初に逢った坂崎さんとか言うオジサンと同じ方向へ走って行った。



「えっと……どうしようか?」


僕はいきなりの展開について行けず、皆の意見を聞いてみることに――――――


すると、最初に話し出したのは、小鳥遊先輩であった。



「どうするって、カワミサキを見に行くに決まってるじゃないの!」


「いやいやいや、さっきのオバサンも家に居なさいって……」


「もう、千尋は龍神でしょ!? そんな化け物なんか浄化しちゃいなさい」


「また香住は無茶を言う……僕が実体のないオバケとか嫌いなのを知ってる癖に」


情けないだの、なんだの言われるが、苦手なモノは苦手なんだから仕方がないのだ。


だが、意外な処から御願いの言葉が飛んでくる。


「瑞樹君。ボクからもお願いするよ。ボクの故郷を助けて」


有村君のその言葉に、小鳥遊先輩が――――――


「決まりね! カワミサキを退治するわよ!!」


仕切られてしまい、退くに退けなく成ってしまったので、急遽カワミサキ退治に赴く事に成ったのだが……正直情報が少なすぎる。



簡単に倒せればいいな……そう思いながら、先輩の後を追うのだった。



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