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龍神の花嫁 八俣遠呂智編(ヤマタノオロチ)  作者: 霜月 如(リハビリ中)
6章 隠神刑部狸(いぬがみぎょうぶたぬき)と検体N
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6-06 やっぱり醸造所が無いと


西園寺(さいおんじ)さんをO阪から北関東へ連れて帰る。


それは今夜の首無しライダーに備えて、自元警察と連携(れんけい)する為と、天若日子(あめのわかひこ)様が憑依していた人間の身元を、はっきりさせる為である。


前に僕が渡した画像は、だいぶ頬がこけてガリガリに痩せ細っている為か、顔認証にはヒットしなかったらしい。


よって、今回は指紋認証と歯型から調べてみるとの事。



「今は鬼族が遊びに来てるので、ちょっと居間が狭いかも知れませんが……」


「鬼!? 海神や稲荷神……はたまた天神様まで居られるのに、今度は鬼ですか?」


「太陽神の天照様もいらっしゃいますよ」


天照様は、本体が顕現(けんげん)されると、夜が来なくなるって言うので、一部分だけどね。



「この神社に参拝すれば、(ほとん)どの願いが叶うじゃないですか」


「それは言い過ぎですよ。恋愛成就(れんあいじょうじゅ)には弱いですからね」


僕は西園寺(さいおんじ)さんを連れて、身元不明人の寝ている部屋へ案内すると、ちょうど菅原道真(すがわらのみちざね)様……天神(てんじん)様と言った方が、有名かな? そんな学業の神である天神(てんじん)様が――――――


「すみません、千尋さん。御茶のお代わりを貰えないでしょうか?」


そう言って襖の間から、申し訳なさそうに顔を出してきた。


「あっ、こりゃ気が付かず、申し訳ないです。直ぐにお持ちしますよ」


西園寺さんに指紋取りは任せて、僕は台所へ向かうと、天神様が一緒に着いて来るので、余程喉が渇いて居ると見えた。


「千尋さんに淹れて貰うと、何故か頭がすっきりして、書物の読み書きが進むのですよ」


「そんな……天神様はお上手ですね」


「本当ですって! 何か特別な事をしているんでしょうか?」


「特別って程でも無いですが、やっぱり水神龍ですからね。丁度いい温度と抽出を見極められるってのはあります」


そう言いながら、お湯を急須に入れて、御茶の葉を蒸す様にゆっくり時間をかけ茶碗に注ぐ。


真横で、ジィ~っと見つめる天神様が、ほぅっと一言もらすと、鼻を鳴らし香りを楽しんでいる様だ。


そんな天神様に――――――


「しかし、天神様が神懸かりされているとは、思いもしませんでしたよ」


「いやはや面目ない。実は日本中の学生が訪れる太宰府で、願い事を書き留めていたのですが、とにかく量が多くて……学生の受験期間でない場合は、大人達が資格試験の合格祈願。そんな休みの無い忙しい毎日で、神氣も尽き果てましてね」


神様が過労かよ……世も末だな。


そういう最近の僕も、天神様の事を言えないぐらい、休みが無いけどね。明日の日曜日は有村君と四国行だし……休みって何だろうね?



「まぁ、そんな弱った処を、上手く隙をつかれたって感じですかね? お恥ずかしい限りで……」


「いえいえ、不運が重なったわけですから、仕方ありませんよ」


「しかし、助けていただくまでの記憶が無いので、久しぶりに寝れた感じです」


天神様が不憫で、少し涙した。


そんな天神様に、名物の餡子(あんこ)入り焼き饅頭を、特別に3つお皿に乗せると、僕が運ぼうとしていたお盆を持って、喜んで部屋へ戻ってしまう。


あの感じじゃ、急須の御茶が終わるまで、部屋に籠るだろうな……


廊下を歩いて行く、天神様の背中を見送ってから、居間へ顔を出すと――――――


そこはまるで地獄絵図であった。



「何事!?」


僕は神使の桔梗さんの方へ目線を向けると、桔梗さんは黙って目を伏せて、首を横に振っている。


他に無事な者を確認すると、龍達は全員無事で、倒れているのは鬼達だけの様だ。



そんな中、小鳥遊先輩が――――――


「おっかしいな~麦茶注いで出しただけなのに」


「最近の麦茶は、飲むと泡を吹くんですか!?」


「いやほら、麦の御酒も泡が出るじゃない?」


「御酒じゃありませんよ! おちゃ! 麦の御茶です!」


「そう! そうなのよ。御茶より泡が出る方が良いと思って……台所の緑の容器を……ね」


「先輩! それキッチン用の漂白剤ですよ! 浸けとくと頑固な汚れが落ちる奴です!!」


僕の言葉に、おっかしいわねーと容器をゆする先輩。


おかしいのは、漂白剤を入れる貴女です。



そんな小鳥遊先輩に、大工の棟梁が――――――


「神社に居るから、まさかと思ったが、やっぱりお寺の緑ちゃんか……親御さんから話は聞いてたけど、もうちょっと料理を習った方が良いぞ」


いやいやいや、漂白剤を入れてる時点で、料理云々の域を超えてますってば。


どうりで鬼族以外が、麦茶に手を付けてない訳だ……みんな一度は被害にあってるから、学習済みなんだね。


屈強な鬼も、体内からのダメージには、耐性がなかったと言う事か……


もっとも、昔話に出てくる一寸法師も、鬼の体内で暴れて退治してたっけ? 


体内が弱点?


いや、生物の殆どが内臓は弱点だから、鬼だけとは言えない……



倒れた鬼族も、四天王と呼ばれる鬼だけで、酒呑童子さんと茨木童子さんは、出前を取りに行った壱郎君に着いて行ったため、小鳥遊先輩特製の麦茶を飲まずに助かっている。


鬼が全員倒れたりしたら、敵とみなされそうだし、危ない処であった。


そんな倒れた鬼達に、浄化の水でもって漂白剤を中和すると、持ち前の再生力で直ぐに復活した。



「いやぁ、酷い目にあったわい……」


「今の軟弱な人間には、絶対やられぬと慢心して居った」


そんな事を言いながら、まだ頭痛がするようで、頭を擦っている鬼達。


おそるべし小鳥遊先輩。



そこへ、出前を持って壱郎君たちが戻って来る。


「はいよ! ピザを持って来たぜ!」


熱々のピザを、所狭しとテーブルに並べて行きながら、何かあったのか? と聞いてきたが、みんな苦笑いするだけで、御茶を濁すのだった。



僕は天神様と、レポート作成中の尊さんへ、熱々のピザを届けた後。西園寺さんに声を掛けてから、狼のハロちゃんの分を持って玄関に行くと――――――


「ごめんください」


と、玄関の外から声がするので引き戸を開けると、そこには建御雷様が立っていたのだ。


「建御雷様! もうお身体は良いのですか?」


「千尋殿と天照様のお陰で、すっかり良くなったのでな。前回の鯰の件でもお世話になったし、お礼をちゃんとしようかと思って……そうそう、儂の地元の農家の方が、さつま芋を奉納してくれたのでな。良かったら食べてくれ」


この前、鹿島神宮の宮司さんからも、ベニアズマを貰ったばかりだけど、ありがたく頂戴した。


食物繊維は便通に良いし、ビタミンも豊富だしね。


秋は落ち葉が凄いので、枯葉を集めて芋を焼けば、境内も綺麗になるし一石二鳥。



今は自治体によっては、焚火禁止になっているが、ビニール系を燃やさなければ、大丈夫という処も多い。


そうでも無いと、古い破魔矢や御守りや御札などの、御焚き上げが出来なくなり、そう言ったモノの処分に困るから仕方がないのだ。



玄関先で話すのも何なので、建御雷様を居間へお連れすると――――――


「また増えましたな」


「鬼族のみなさんです。御酒を造る巨大な桶を造って貰ってるんですよ」



僕の説明に、簡単な自己紹介をすると、建御雷様は――――――



「天照大御神様。この度は剣神を賜りながら、情けない姿をお見せしてしまい……まことに、申し訳ありませぬ!」


建御雷様は天照様に頭を下げた。


そう言えば、天照様と建御雷様は天津神であり、天照様は建御雷様の直属の上司だったはず。


神話では、天照様の命を受けて、国譲りをしたり、天香山(あまのかぐやま)命へ剣を貸し与えたり、関東の鯰を鎮めて人が住めるようにせよ。なんて事まで解決して見せた、偉い御方なのだ。



「のぅ、建御雷。一つ良いか? 御主の剣……どうしたのじゃ?」


そういえば、建御雷様の腰に剣を付けていない。


あれ? 確か……東北で尊さんが、2本の剣を持ってたはず……


「あっ!! 尊さんに貸してるんじゃ!?」


僕が声を上げると、天照様が――――――


「やっぱり……剣神が剣を持たずに戦えば、そうなるじゃろうて」


そう言って呆れたように、溜息をつく天照様。


まぁそうだよね。剣神とは言えども、剣が無ければ苦戦もする。


並の敵なら、得意の雷撃で黒焦げだろうけど、水葉は術を反射する八咫鏡を持っている為、術との相性は最悪なのだ。


そんな状態では、後れを取るのも仕方がないわさ。


「原因が分かって、ある意味良かったじゃありませんか。剣で戦ったのではないのなら、剣神の名に傷はつきませんしね」


僕はピザを取り皿に載せて、建御雷様の前へお出しすると、天照様が――――――


「ほれ、折角のぴざ? とか言う食べ物を、アツアツの内に頂こうでは無いか」


そう言って、建御雷様へ食べるように促す天照様。



しかし……僕は見てしまった――――――


ピザの中にチキンが入っているのを……



直ぐに念話で――――――


『ちょっと! チキンの入ったピザ頼んだの誰よ!?』


『うむ? 何か問題でもあったのか?』


『問題あり過ぎだろ!! 天照大御神様の神使は何だか分かる?』


『そんなのお前、にわと……ニワトリじゃねーか!!』


『え? 千尋さん。チキンってニワトリなんですか?』


『頼んだの赤城か!?』


『ち、違う!! めにゅう? とか言うのを見ていても、良く分からんので。適当に見繕ってと言ったら、オロチが勝手に……』


犯人は壱郎君か……適当だからなぁ。考えも無しに持って来たに違いない。



仕方が無いので、天照様が時代劇に夢中な間、素早くピザの中のチキンだけを取り箸で取り除くと、巳緒の口の中へ放り込む。


さすがオロチの片割れだけあって、噛まずに呑み込むからか。まるで吸引力の落ちない掃除機の様に、チキンは消えて行った。


証拠隠滅である。



多めに頼んだピザも、鬼達の腹に掛かると、あれよあれよという間に無くなってしまい。テーブルの上には空き箱だけが残っているだけであった。


そんな食後の休みに、酒呑童子(しゅてんどうじ)の末裔が――――――


「千尋はここ瑞樹の地に長いのであろう? どこかに宿が取れる場所を知らぬか?」


「え!? 泊まるなら部屋はあるよ」


「いや、1泊とか短期ではなく、長期で借りれないかと思って……」


「そういう事なら、僕より大工の棟梁(とうりょう)の方が……ねぇ?」



御茶を(すす)って居る棟梁(とうりょう)へ話を振ると――――――



「なんでぇ、嬢ちゃんはアパート探してるのかい? なら壱郎(いちろう)の兄ちゃんの処は?」


棟梁(とうりょう)が言い掛けると、壱郎(いちろう)君が胸の前で両手をクロスし、バツマークをつくって居る。


「見ての通り、御先祖……いえ、壱郎(いちろう)様は一緒に住まうのを、許してくれないのです」


「良い年した男女が一緒じゃマズイか? いっその事、結婚しちまえば?」


再度、棟梁(とうりょう)に向かって、バツマークをつくる壱郎(いちろう)君。



さすがに子孫との結婚は考えて居ない様だ。


何代目だか分からんが、オロチの血も薄く成ってるだろうし、結婚しても良いと思うんだけど。


壱郎君には、その気は無いらしい。



棟梁が、探してくれると言ってるし、早ければ今日中には見付かるだろう。


元々、顔が広い人だからね。持つべきは人脈という処か。



午後は……と言っても、すでに14時になろうとしていて。


西園寺さんは、迎えのパトカーに乗って、封鎖の指揮をとる為に県警に向かって行った。


余り街の中だと、龍脈を開ける場所が見付から無いので仕方がない。


O阪みたいに、大都市でも神社が多いと楽なんだけどね。



壱郎(いちろう)君はバイトがあるからと、バイクに跨って行ってしまった。暗くなってからまた来るとか言っていたけど、ついに首無しライダーか……やだなぁ。


僕は溜息をつきながら、居間の片付けを終わらせて、3時休みの御茶を持って神社の裏手に回ると、すでに大きな桶、(こしき)が出来上がっていた。


「水を張って漏れを確認したが大丈夫だ。こいつに酒の素を入れるんだろ?」


棟梁はそう言って、桶の外側をコンコンと叩いた。



「皆さん、お疲れ様です。御茶が入りましたよ」


「おう、すまねーな。酒造りは、誰かプロの蔵元に頼むのかい?」


「それでしたら、プロ……いや神が居られますから」


「そいつはすげえな。醸造(じょうぞう)の神様かい。逢ってみたいもんだ」


すでに、逢ってるんだなぁ。お昼も一緒にピザ食べてたし。



棟梁(とうりょう)や鬼達と話していると、大山咋神(おおやまくいのかみ)様が洞窟から出て来て――――――



「駄目だな……温度が低すぎて麹菌(こうじきん)が活性しない」


「ありゃま、それは困った。醸造所を造らないと駄目かな」


そう言って困っていると、棟梁が――――――


「ちゃんとした家でなく、倉庫みたいなので良いんだろ? ならば簡単だ。力持ちが沢山いるし、材料さえあればすぐに出来る」


なるほど、今は鬼達が居るんだね。


となると、残りは材料か? 木材……木材……あっ!


「もしかしたら、使える木材があるかも!?」


「何本当か?」


「はい。場所は中学校の旧校舎、火事になったと聞いてますが、燃えてない木材があるかも知れません」


そう、そんなに沢山の木材は要らないのだ。大きな桶が囲めれば良いのだから。


それに旧校舎は、鉄筋コンクリート製ではなく、昔ながらの木造校舎なので、使える木材も多いはず。



僕の出した案により、旧校舎の木材を使う事に成ったので。


役場に確認を取ると、片付けてくれるなら使って良いとの事になり、使える木材を見る為に、現地へ確認に行った。


もちろん棟梁の手前、龍脈は使えないので、旧校舎迄マラソンである。


息を切らせて旧校舎へ到着すると、鬼達は既に木材の物色を始めていた。


「おう、遅いぞ。木造校舎の殆どが燃えて炭になっているけれど、表面が焦げているだけの木材も多くてな。カンナを掛ければ使えそうな木材が結構あるぞ。小屋を建てるだけなら十分足りるだろうよ」


移動式クレーンを持って来るという棟梁だが。鬼達は、棟梁の選びだした柱を手で抜き取ると、5~6本担いで走り出した。



人力で運ぶんかい!?



「こりゃあ、凄い力だな。トラック要らねーわ! わっはっはっはっ」


棟梁(とうりょう)は笑ってるけど、人間じゃないってバレるぞ。


僕はその方が、気が気じゃ無かった。


結局その日は、材料を確保した処で、終了となり。


棟梁は、ベニアズマのお裾分けを持って帰って行った。


鬼達も今夜は此処に泊まると言う事で、夕ご飯を振る舞い。寝床を用意すると、境内からバイクの排気音が木霊して来た。



「まったく。いつもの事ながら、どうやってあの石段を登って来るんだか……」


「ふっ。オレと相棒に、辿り着けない場所は無いぜ!」


「はいはい。じゃあ僕は、巨大化したハロちゃんの背に乗って、追いかけるから」


「は? ちょっと待て。じゃあ、オレの後ろには誰が……」


「私よ!!」


そう言って現れたのは、ライダースーツに身を包んだ、酒呑童子(しゅてんどうじ)末裔(まつえい)の娘であった。


「なにぃ!? てめえ、雌龍!!」


「だって、首無しに追われるの怖いし」



これで役者は揃ったって処かな? さて、首が無いとか嫌だけど、妖怪退治に行くとしましょう。




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