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龍神の花嫁 八俣遠呂智編(ヤマタノオロチ)  作者: 霜月 如(リハビリ中)
6章 隠神刑部狸(いぬがみぎょうぶたぬき)と検体N
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6-05 ついに酒造へ着手


「……(あるじ)……(あるじ)ってば」


何者かが僕の身体を()さぶっている。


「こんな処で寝て居ると、水死体だと思われますよ」


水死体って何だ? というか、(あるじ)


僕をそんな呼び方するのは、四方結界の主従を結び直した四聖獣達のみ。


更に身体をゆすぶられ、次第に思考がはっきりしてくると、自分が水の中に居るのに気が付いた。


「なに!? どこよここ?」


頭を起こし水から顔を出して周りを見渡すと、どうやら川の中の岩に引っ掛かって居る様だ。


「あっ、起きた。ここは貴船(きふね)川の中ですよ」


玄武(げんぶ)君、おはよ。しかしなんで貴船(きふね)川…………あっ!」


「思い出されましたか? 鬼ごっこの打ち上げをしていて。幼馴染みの人間に、貴船(きふね)川へ投げ込まれたんです」


そうだ……毎年、龍の巫女である、伊織(いおり)さんの実家の旅館を貸し切りにしているらしく、そこで打ち上げをしていると。セイが酒呑童子(しゅてんどうじ)末裔(まつえい)娘の身体を見ながら、筋肉で胸が硬そうだとか言い出して……


悪ノリした朱雀(すざく)君とセイが、胸の話をして行くうちに、香住の逆鱗に触れたのだった。


近くにいた僕も、止めなかったからと同罪で、ジャイアントスイングされて貴船川へ……


そのまま連日の激戦と、一昨日からの徹夜も相俟(あいま)って、川の中で寝てしまったんだった。


「状況を把握したよ。他の皆は?」


「神様方は、まだ寝てらっしゃいました。ボクらも、もう帰りますよ」


そう言って、起き上がるのに手を貸してくれる少年姿の玄武(げんぶ)君。


主が変わった途端に、性格も大人しくなって……荒ぶって人間に迷惑かけるより良いけどね。


軽く服を絞って水を切り、貴船川から上がると、白虎君と青龍君が待って居てくれた。


青龍君の肩には、気絶した朱雀君が担がれており、誰も起こさない処を見ると、寝かせて置いた方が煩くないと思ったからだろう。まったく酷い扱いである。


「主様、今回は関係ない我々まで呼んでいただき、ありがとうございました」


「青龍君、関係ないなんて言わないでよ。皆も京を護って頑張ってくれてるんだから、このぐらいは……ね」


かしこまって頭を下げる青龍君に、慌てて頭を上げるように言うと、白虎君が――――――


「料理も美味かったぜ! 鮎の塩焼きとか……今思い出しても、涎が出てくる。また呼んでくれよな主!」


「来年も、やるみたいだから、その時にまた呼ぶよ」


白虎君ぐらいフランクな感じが話しやすい。かしこまれるの慣れてないしね。


そのまま手を挙げて去って行く、4名を見送った後。貴船川沿いの道を歩き旅館へ向かう。


「伊織さん。ただいま」


「お帰りなさいまし。ちょっと遅めですが、朝食どうなさいます?」


「もう9時になるし、普通ならチェックアウトですよね? 今から朝食は悪い気が……」


「お気になさらないでください。他の神様も、まだ目を覚まされてませんから」


伊織さんは宴会場の襖を開けて、中の様子を見せてくれた。


みんな御酒で酔っ払って、畳の上で大の字になって寝ている者や、テーブルに突っ伏している者まで居て……酷い惨状である。


「ほんっっっと、すいません!」


「いえいえ、毎年の事なので……それに御神徳(ごしんとく)を授けてくださいますから」


御神徳(ごしんとく)?」


「はい。御利益(ごりやく)とも言います。これだけ沢山の神様から御神徳を頂ければ、1年間は商売繁盛、無病息災です」


「そんなに違うモノなのですか?」


「はい。かなり昔の事ですが、幕府の偉い方々に、長期で貸し切りをされてしまい。ウチの旅館で鬼ごっこの打ち上げが出来なかった事が、あったらしいのです。そうなると御神徳が貰えず、その日からの1年間は、酷い売り上げだったと聞いております。それ以来、神様の貸し切りは断るな! と言う家訓が出来たんですよ」


幕府って事は江戸時代かな? それとも鎌倉時代?


何はともあれ、鬼が暴れて居た平安時代から始まった行事だし。千年近く続いて居るんだから、長い間にはそう言う事もあったのだろう。


「御神徳か……どうやって授けるんだろ?」


「そればかりは、人間の私には……分かりかねます」


ですよね。


後で淤加美様に聞いてみよう。


伊織さんは御神徳が貰えると言っていたが、やはりタダ飯は悪い気がしてしまうので、せめて片付けだけでもと、空いているお皿を厨房へ運ぶと、香住が御皿を洗っていた。


「あら千尋、おそよう。今頃起きるなんて、(たる)んでいるわよ」


「誰のせいだ誰の……発見がもう少し遅ければ、水死体(どざえもん)で運ばれていたし」


「貴重な体験じゃないの、ポケットから便利道具出してよ」


「未来からきたロボットじゃないよ!! 水死体の方の土左衛門(どざえもん)だよ!!」


「はい。次のお皿置いて」


香住に言われるままに、シンクへ汚れたお皿を置く。どうやら僕のツッコミは、汚れ物と一緒に水に流された様だ。



「そう言えば、小鳥遊先輩は?」


「ん? ちょっと前に、鬼の一人と外へ行ったわよ」


鬼と? 何かあったのかな?


僕は他の皿を下げに宴会場へと戻ると、丁度外から戻って来た小鳥遊先輩と鬼に出会う。



「あら、千尋ちゃん。どこ行ってたのよ」


「話せば長くなりますよ。先輩こそどちらに?」


「私は、昨日ジャンケンで負けて、体力が有り余ってる金童子(かねどうじ)さんに、新技がどれだけ通用するか見て貰ってたの」


「新技って……あの炎の俱利伽羅剣(くりからけん)と、風の天狗(てんぐ)団扇(うちわ)を利用した。火災旋風(ファイアーストーム)!?」


「そそ。鹿島神宮(かしまじんぐう)(なまず)2号に使ったヤツ」


「2号って……弱って小型になってただけで、前回戦った時と同じ(なまず)ですよ」


「細かいことは良いわ、その火災旋風(ファイアーストーム)を金童子さんに受けて貰ったのよ」


「ちょっ! 受けた!? あの技を?」


よくみると、先輩の後ろにいる金童子の身体が、彼方此方少しだけ焦げていた。


アレを受けて、この程度で済んでるなんて……その方が信じられないわさ。



「さすが鬼よねぇ。全然ダメージが通らないし」


先輩はお手上げとばかりに、肩を竦めた。


「そうでも無いぞ。人間にしては中々の使い手であった。炎が我が(オーラ)を抜けて、この身を焦がすとは思わなかったしな」


そう言って、ガハハハハ!と大笑いをする金童子。


なるほど、あの水葉(みずは)の融ける闇をも防いだ、(オーラ)の防御か!? あれで全身を覆ったなら、先輩の炎を防いだのも納得だ。


服が焦げただけで、丸々残って居る処を見ると、服まで融かした水葉の闇の方が、少しだけ威力はあるようだった。


まぁ、闇の球体を受けた熊童子と、火災旋風を受けた金童子の戦闘力に、どれだけ差があるか分からないけどね。二人とも四天王なんて呼ばれてたし、それほど差は無いと思う。



片付けが終わり、時刻が10時になろうとしているので、さすがにチェックアウトしないと迷惑が掛かると思い。寝ている神様達を、どうにか起こして帰り支度をする。


「まったく千尋は、せっかちじゃのぅ」


「貴船の淤加美様は、社で寝てください。旅館から目と鼻の先でしょ」


「伏見までは遠いのじゃが……」


「宇迦之御霊様は、龍脈でお送りしますよ。大年神様はどうします? お送りしましょうか?」


「儂は自分で帰れるから心配は要らぬ。どっこいしょ」


掛け声と共に立ち上がると、背中を伸ばして痛てててと腰を擦っている。


本当に一人で大丈夫なんだろうか?



そんな中――――――


「儂は北関東まで着いて行くぞ。なにせ酒造りがまだだからな」


そう宣言したのは大山咋神様であった。


「分かりました。他に北関東まで龍脈をご利用の方は?」


そう僕が尋ねると、意外な人外たちが手を上げたのだ。


「私らも行きます! 片道で良いですよ」


元気よく声を上げる酒呑童子の末裔。


その隣には、もうどうにでもして、と言った顔の壱郎君が、げんなりした感じで立っていた。


「え!? 皆北関東に来るの?」


「ご先祖様が住まわれる町を見てみたいのです」


「そりゃあ、構わないけど……鬼は藤岡市の鬼石町以外では、忌み嫌われますよ」


「忌み嫌われるのは慣れいるけど、鬼石町は違うの?」


「ええ。あの町だけは節分に、福は内!! 鬼も内!! と鬼を招くんです」


「そんな楽園が!?」


「町ができた由来は、弘法大師に負けた鬼の投げた石が飛んできた、とか言うので鬼石町だそうですが……節分に豆をぶつけられ、日本中の家を追い出された良い鬼が可哀想だと、良い鬼を呼び寄せてあげてから。鬼がその地区を守護するようになったという話です。それ以来、鬼恋節分祭というお祭りが開催されています」

(※数は少ないですが、鬼を大切にする祭りは、全国にも何件かございます)


鬼だから悪いと決めつけるのではなく、鬼にも良い鬼が居るという、偏見のない人たちの優しさで始まった祭りですから。鬼も感激したのでしょう。


その加護も相当のモノだと聞きます。



「そこが良い! そこに住もう!」


「ただし、壱郎君が住んでいる瑞樹の地までは、かなり遠いですよ」


「なんと!? 勿体無い……ご先祖様が居らぬなら、諦めるしかないわ」


そう言ってうな(うなだ)れる、酒呑童子の末裔。


まぁ、普通にして居れば、龍族と同じく角は見えないので、見た目は人間と変わらないし、一緒に生活できると思う。


雄のマッチョ鬼の方は……身長が2メートル超えてるから、ちょっと目立つよね。


普段はスポーツジムを経営していて、インストラクターをしているらしい。


何と言うか……これ程マッチョな鬼に、合っている職業はないだろう。



「とりあえず、これ以上長居をすると、次のお客さんが入れないから、一度北関東へ帰りましょう」


そう僕が声を掛けると、香住が――――――


「私はここで、京料理習ってくから、先に帰ってて良いわよ」


「先にって……あぁ、淵名の龍神さんが居るのか」


小さくなって、香住の肩に乗る淵名の龍神さんが目にとまる。


「うむ。もう傷も癒えたし、龍脈を開けるぐらいなら、朝飯前だから大丈夫」


朝飯どころか、もうすぐ昼飯ですけどね。


そう言う事ならと、香住達を残して龍脈を開ける。そして伊織さんに一泊のお礼を言って、龍脈の中へ跳び込んだ。


時間が時間なので、参拝者に見られぬ様、神社の裏手へ龍脈を開ける。


「これが話に聞く、龍の抜け穴か?」


「鬼ごっこでコレを禁止して居なければ、我々鬼族に、勝ち目はありませんな」


確かに龍脈を上手く使えば、京の東から西まで、一瞬で移動できるしね。


神社の表に回ると、大工の棟梁が、ウチの婆ちゃんと御茶を飲んでいた。


「棟梁!? 午後じゃありませんでしたっけ?」


「おう! 暇なんでな。御茶を飲みついでに、図面を見に来たんだ」


そう言って、大山咋神様が描いた必要な道具の絵を見ながらお茶を啜る。


「何とかなりそうですか?」


「この(こしき)とか言う、大きな桶を造れば良いんだろ? まあ大丈夫だろう……ただし条件がある」


「何ですか?」


「オレにも呑ませてくれ」


あらら


それで良いならと、喜んでお願いし、(こしき)の作成をする事に成る。


鬼達が手伝ってくれるお陰で、大きな板も軽々と持ち上げて、お昼を回る頃には(こしき)の形がほぼ出来上がっていた。


壱郎(いちろう)君、バイト先から出前をお願いできるかな?」


「また寿司で良いのか?」


そう聞かれる壱郎君との会話に。セイからは、たまには寿司よりピザが良いと、横やりが入る。


お客様が優先だっちゅうに! 棟梁が昔の人だし、寿司の方が良いかなと思って居ると、意外と棟梁から――――――


「気を使わなくも、ピザで良いぞ」


「え? チーズいけるんですか?」


曾孫(ひまご)が好きでな、一緒に食べている内に好きになったわ」


なるほど。棟梁の言葉を聞いてピザを多めに注文し終わると、廊下の固定電話が鳴り出した。


「はい。瑞樹神社です」


『もしもし、千尋君? 西園寺です』


「西園寺さん。どうしたんですか?」


『どうしたって……今夜でしょ? 首無しライダーを何とかするの。地元警察へ、道路の封鎖をお願いしたり、しなければならないから』


そうだった……首無しライダーの件、すっかり忘れてたわ。


「身元不明人の素性が分かったのかと思いましたよ」


『そっちの件も含めて、一度北関東へ行きたいんだ。迎えを頼めるかな?』


「良いですよ。どちらへ行けば……はい……はい。分かりました。13時で良いんですか? 今すぐなら、ピザが着ますけど?」


『いや、それは別にどっちでも…………まぁ早い方が良いか……じゃあ直ぐに、お願いできるかな?』


「良いですよ。じゃあ言われた処で待ってます」


そう言って神社の裏手から龍脈で迎えに行く。


「千尋君、いやぁすまないね。電車だと半日は掛かってしまうから、龍脈様様ですよ」


相変わらず、目があいてるか分からない糸目の西園寺さんが、走って来たためか息を切らせながら、そう言った。



「こちらが頼んだことですから……御堂さんの方は、網に掛かりませんか?」


「監視カメラには、写って無いですね。地方だと予算の都合上、駅など公共の建物以外では、カメラの穴がありますから、死角をつかれたらどうしようも……」


なるほど……車をヒッチハイクなんかされたら、公共施設の監視カメラは役に立たないものね。


後はニュース画像で、通報が上がって来るのを、待つしかない。



「そうそう、千尋君に伝えて置くことが……御堂進の言っていた、呪弾と銃の工場が、何者かによって破壊されました」


「え!? それは工場を探す手間が省けたと言うか……何と言うか……やっぱり、晴明さんの仕業ですかね?」


「だと思いますよ。我々以外にそんな真似するのは、他に思いつきません」



なんだか、邪魔をしたり助けてくれたり、晴明さんの意図が良く分からないけど


思い切った動きを見せないのが、かえって不気味な感じがする。



そんな事を思いながら、北関東への龍脈を開くのであった。




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