12 九頭龍大神
すみません、PCの調子が悪く急に電源が落ちて、2000文字位保存できずに飛んだので、おかしいかも知れません
千尋達が朝食を終え、夏祭りを開始した頃の
K都府某所━━━━━━
オロチの肆頭目が捕またとの報告を最後に、スマホが凍り付いた。
外との連絡手段が無くなってしまい、本格的にマズイ状況だ。
屋敷の此処彼処が凍り付いて、扉も窓も開かずにいる
あの窓の向こうは、40度を超える酷暑だと言うのに、内側はマイナス40度の世界だった。
「もう嫌です!! 里に帰らせていただきます!!」
そう叫びながら、狐巫女が『狐火』を出して、凍った窓を破ろうとするが━━━━
狐火は、窓へ当たる前に、熱を奪われ消えてしまった
「そ……そんな……」
絶望で膝を折る狐巫女
「お玉さんの狐火でも駄目か……此れは、いよいよ……」
「晴明様! どうにかして下さいまし」
狐巫女が主人にすがり付く━━━━━
「どうにかして遣りたいのは、山山なんだけど……」
凍った札を取り出すと、火の術を発動させる━━━━筈が、不発に終わった。
「晴明様……何も起きませんが?」
「札が凍みて使えん」
「━━━━━━いやああああああ!! 出して!! この極寒地獄から出してよぉ」
狐巫女の泣く涙が忽ちに氷粒へと変化する
本気でマズイ。
まさか、本当に真夏に凍死する事に成るとは━━━━━━
そんな時、電気ストーブが異音を発し止まってしまう
「最後の暖房が……終わった。こんな事で、計画が頓挫してしまうなんて……」
晴明は力尽きた
「ちょっと! 本気で逝くんですか!? 駄目ですってば! 寝たら終わりですよ!!」
狐巫女のお玉さんが、晴明の頬を往復ビンタする。
「痛いわぁぁ!! もっと優しく起こせんのか!」
「良かった。レンジの解凍も使えそうになかったし、どうしようかと……」
「使えたら、突っ込むつもりだったのか? 絶対遣るなよ」
本当に遣られる前に釘を刺しておく
レンジでチンされるぐらいなら、寧ろ凍ったままの方が良いわ
「それは、押すな押すな的な意味ですか?」
「断じて違う! と言うか、お玉さん余裕あるな」
「余裕なんて、あるわけ無いですよ。何かしてないと凍り付きそうで……」
「じゃあ温かく成りそうなギャグを……」
「やめてください! 晴明様のギャグを聞いたら、更に5度ぐらい気温が落ちそうです」
「……………………布団が吹っ……もが!」
晴明の口を、悴んだ手で塞ぐ狐巫女
「言ってる傍から、言おうとしないで下さいよ」
「せっかく温かく成るようにと思ったのに」
「そんな事に気を使うなら、火之迦具土神を還して下さい! 火の神召喚して、凍えるとかギャグですか!」
確かに火の神なのに、熱く成らないのは、おかしく思えるだろうが
父神である伊邪那岐命によってバラバラにされた為
自分自身で炎を生成できないのだ
身体を維持するのに、周りの熱を取り込むため、屋敷が冷凍庫と化している
こんな事なら、最初から裏口を、開けっ放しにして置くんだったと後悔したが
時すでに遅し、後の祭り状態である
「火之迦具土神を還せって、どれだけ代償を払ったか、お玉さん知ってる?」
「代償が何ですか! 凍死よりマシです」
二人で言い合いをしていると━━━━━━
突然屋敷が揺れて、壁に穴が開く
「御二人ともご無事ですか?」
執事服の男が、工事用ヘルメットを被って現れる。
「「セルジュ!!」」
晴明とお玉の二人が同時に叫ぶ
どうやら執事のセルジュが、何処かで借りてきた大型重機バックホーで、分厚く凍った壁をぶち抜いて助けたらしい。
「どうにか間に合いましたね。突然、晴明様のスマホが繋がらなくなったので、もしやと思い。伍頭目のオロチ捜査を中断して来てしまいました。申し訳ありません」
「いや、処分どころか、英断だ!」
隣でお玉さんが、首が取れるんじゃないかと思うほど、うんうんと頷いている。
「もう少しで、真夏の氷像が出来上がってたよ」
「うむ。大義であ……た……」
立ち上がろうとして、そのまま倒れる晴明
「きゃあああ。晴明様が!」
いかん! と直ぐに救急車を呼ぶ、執事のセルジュ━━━━━━
『はい、こちら119です。熱中症ですか?』
「……いえ。その逆で、低体温症かと……」
セルジュがそう説明する
『━━━━標高の高い山に登ったのなら、高山病も有り得ますよ』
「標高は、別に高く無いですよ。K都府ですし」
『……取り敢えず、症状を診てみない事には……』
セルジュは、悪戯電話と思われたか心配だったが、住所を教えて待つことに
無理もない。酷暑なのに熱中症でなく、低体温症って……
自分が救急受付なら、悪戯だと真っ先に疑うし
だが、その心配も杞憂に終わる
ちゃんと救急車が到着して、晴明は病院へ運ばれていったのだ。
サイレンを鳴らし去っていく救急車を見送りながら
「じゃあ、私は晴明様の着替えを持って、病院へ行きますね」
そう言って、重機で開けた穴から屋敷へ入ろうとして、また閉じ込められるんじゃ無いかと躊躇するお玉さん
そのお玉さんに
「晴明様の事、よろしくお願いしますね。此方は引き続き、伍頭目の封印を探しに行ってきます」
そう言い残すと、音もなく消えるセルジュ
━━━━━━セルジュ……私1人でも、助けてくれるかな?
そう呟くと、恐る恐る極寒の屋敷へ脚を踏み入れるのだった。
◇◇◇◇
処代わって、北関東の瑞樹神社。
普段よりは参拝者が多いものの、やはり暑すぎて外へ出たくないのか
そこまで大忙しと言うほどでも無い。
今年は、幼馴染みの香住に加え、神使の桔梗さんまで居るのだから
かなり楽に回っている。
「やっぱり本番は、夕方日が落ちて、涼しく成ってからかもね」
そう社務所で呟く香住
普段なら17時には閉めてしまう社務所だが
祭りの日は、防犯も兼ねて21時まで遣っている。
防犯と言うのは、祭りの雰囲気に浮かれて、女の子をしつこくナンパする輩が、必ず現れるのだ
警察官さんにも巡回して貰っては居るが、見回り箇所が神社だけじゃないので、巡回の穴が出来てしまう。
そんな時、我々の出番って訳。
まぁ、毎年。そう言う輩は、香住のプロレス技の餌食になって、逃げていくのがパターン化している
たまに、懲りない輩が、仲間を引き連れて戻って来る時もあったが
相手がナイフでも出さない限り、香住の勝ちは揺るがない。
まぁ、ナイフ出したときは、婆ちゃんがキレて、古武術でボコボコにしてたし
この神社の巫女は、怒らせるな! 危ないぞと直ぐに広まるので、暫くは平和なんだけど……
翌年に成ると、新しい輩が事を起こす。
毎年、その繰り返しなので、今年も現れるだろうな━━━━━━
取り敢えず、夕方までは、それほど忙しく無いので、香住と桔梗さんに、夕食の買い出しを頼んだ。
と言うのも、食材の搬入業者さんが、お盆休みに入ってしまったし。
何より、桔梗さんが現代のスーパーで、買い物出来るよう。香住にレクチャーをして貰った方が良いと、判断したからだ。
桔梗さんも、香住の料理の腕前は知っているので、師匠! と呼びながら、買い物へ出掛けていった
さて、婆ちゃんと二人きりに成ったし、少しは忙しいかな
参拝者さんに、絵馬とか御朱印を捌いて行く
1番出るのは、おみくじだった。
やっぱり200円と言う低価格が、気楽に引いて貰えるみたい。
引いた人の表情で、クジの内容がだいたい分かってしまう
どんな運勢でも、気の持ちようですよ
悪い内容だとしても、それ以下は無いのだから、此れからは上がると考えられるしね
参拝者の表情を見て、あれこれ予想していると
町内会会長さんが現れて━━━━
「やあ、お二人さん。今年も大盛況だね」
「お蔭様で、大入りですじゃ」
「こんにちは、会長さん。今日も暑いですね」
「こんにちは。あ、良かったらコレ皆で食べて」
そう言って、沢山の鯛焼きが入った袋を渡された
「こんなに沢山……ありがとうございます。僕、お茶を入れてきますね」
会長さんの相手を婆ちゃんにお願いして、僕はお湯を沸かしに台所へ行く
こんなに暑い日は、冷たい麦茶が良いと思いきや
昔から、二人とも温かいお茶派なので。わざわざお湯を沸かさねば成らない
まあ、冷えた飲み物ばかりだと、お腹壊してしまうから、温かい方が胃腸には優しいんだけどね
小皿に頂いた鯛焼きを小分けすると、お茶と一緒に、お二人の元へ持っていく
婆ちゃんも会長さんも、世間話に花が咲き、盛り上がって居るので、邪魔しちゃ悪いと思い、休憩中の札を出して居間へ戻った。
丁度3時休みだし。休憩にしようとしていると、買出し組みが戻ってくる
ナイスタイミングだ━━━━━━が
「じゃ~ん! 露店で、おやつ買ってきたわよ」
鯛焼きが増えた……
ま、良いか。どうせ大食らいのセイや香住が、平らげてしまうだろうし。
僕はコッソリ玄関を開けて、狼ハロを呼んでやる。
ハロの脚を拭ってやって、居間へあげてやると、鯛焼きをお裾分けしてあげた。
『ほう。これが千尋殿の言う、本物の鯛焼きか……確かに甘い餡が入ってるな』
「でしょ? この間のは違うからね」
『あれはあれで、芳ばしくて美味かったぞ』
「だから、それはお好み焼き……て、香住? どうしたの?」
「い……犬が……犬が喋ってる!」
今更か!
「正確には、狼じゃぞ」
そう言いながら、配管工メーカー2に夢中な淤加美様
揚げ芋菓子を食べながらゲームして居るので、ゲームが油まみれだ
「淤加美様は、鯛焼き食べないんですか?」
「妾は、揚げ芋があれば、他は何も要らぬ」
淤加美様、本当に芋菓子好きだな
偏食神にも困ったものだ。
そんな時、玄関から呼び声が掛かる
「何方か、ご在宅ではありませんかな?」
「はーい。どちらさ……え?」
玄関に居たのは、姿こそ御老人ではあるが、その眼光は鋭く、頭に龍の角がある。
マイちゃんの言っていた、件の九頭龍神の姿がそこにあった。
「そなたがこの間、碓井で戦っていた若き龍神じゃな? 儂は、戸隠の九頭龍神じゃ」
九頭龍大神
祀って居る神社は各地にあるが、関東甲信越地方で有名な処は
N県戸隠神社とK県箱根神社である
西日本も入れると、滅茶苦茶多く成るんですけどね。
それは、国産みが、西日本から始まったので、自然と神様も西日本から発生し
同時に奉る神社も、西日本に多くなると言う感じです。
まあ、大昔は、邪馬台国然り、人の営みも西日本から発生していますから、東日本の開拓はかなり後ですもの
徳川家康が関東に手を入れなければ、今こそ大都会で首都となっているT京都も、超ド田舎だったんだしね
話がそれましたので、戻します
他にも、九頭龍伝承が各地にありますが、前にも話しました通り『分霊』と言うので、増えるんですよ、神道の神様は……
古龍としては、淤加美神や御津羽神の姉妹龍神に一歩譲るモノの
力強さでは、龍神最強と謳われるほどの龍種である
属性は毒龍であるが、毒を食らい浄化すると言われており
土地の守護、歯痛、治水のご利益があり
淤加美神と共通しているのは、『恵みの雨』と『豊穣』と言うところです。
やはり龍神は、『雨』とか『水』に関係しているのが多いんですね。
「えっと、九頭龍様がどうして此方に?」
「実はな、大和武尊との、古き盟約を果たしに参った」
「古き盟約ですか?」
「うむ。碓井で、草薙剣を持った者が居ったじゃろう?」
「ええ、小鳥遊 尊さんって人が、持ってますよ」
「ならば、その者を呼んで貰えんか?」
盟約ってなに? 尊さん食われるの?
「ぼ、僕は構いませんけど、スマホが『漆黒』に融けちゃって、番号が分からないんですよね」
「なんじゃ? その『すまほ』とか言う奴は……」
まあ、早い話。言葉を遠距離で飛ばせる装置だと説明してあげるが
どうも、しっくり来ないご様子。
やっぱり、実物が無いと説明しにくいので、実物が欲しい処だ
そう、考えていると、玄関が開けられて西園寺さんが現れる
「やあ、千尋君。今日も暑いね。これ、お土産の鯛焼き、良かったら食……なんで、残念な顔してるんです?」
━━━━また鯛焼きが増えたああぁぁ
どうして鯛焼きばかり、被るかな……
其れはそうと
「丁度良かった、此方は九頭龍大神で、尊さんに用があるそうです」
僕のスマホは融けちゃって、番号分からないんです、と西園寺にお願いした
「えっと、ご用件は?」
西園寺さんが、スマホを取り出しながら尋ねると
「大和武尊との古き盟約で、神器を持つ者は自分の子孫だから、稽古をつけてやって欲しいと言われていてな」
「ほう、修行ですか? それは願ったり叶ったりです」
西園寺さんは、本人の承諾も聞いてないのに、やる気満々だ
どうやら、オロチ戦で1度も良いところ無しなので、どんな事をしても勝ち星をあげたいのだろう
「良いなぁ、最強の龍神様に修行して貰えて」
僕がそう呟くと
「御主の中にはもっと凄い龍神が居るではないか」
そう言われてしまう。
淤加美様かぁ、容赦無いんだものな━━━━
龍神に就任してから2ヶ月、龍神湖の水の上を、対岸まで歩いて渡る修行をさせられた事を、思い出した。
まあ、龍だから水中で息できるので、力尽きて沈んでも死ぬことはないが
淤加美様は、ただ単に水上を渡るだけでなく、大岩を担いで渡るように言って来るし
途中で落としたら、大岩を湖底へ拾いに行けと言う鬼コーチっぷり
━━━━━━思い出しただけで、頭が痛くなって来た。
やっぱり考え直して、修行は自分のペースでやります。
そう、ヘタレる千尋であった。