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龍神の花嫁 八俣遠呂智編(ヤマタノオロチ)  作者: 霜月 如(リハビリ中)
5章 常陸の大鯰(おおなまず) と 逆さハルカス
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5-18 院内疾走

ここ3~4日間ぐらい、ルーターのエラーランプが出てしまい、ネット接続が出来ませんでした。

本当に申し訳ありません。



天若日子(あめのわかひこ)様と()いていた人間……身元不明人を布団に寝かせると、廊下にある固定電話へ向かい、O阪へ置いて来た西園寺(さいおんじ)さんへ電話を入れる。


時刻は21時に成ったばかりであり、まだ寝てはいない思うけど……


しかし、いつもなら数回の呼び出し音で、直ぐに出てくれるのに、今回は中々出て(もら)えないので、忙しいのかな? と受話器を置こうとしたら――――――


『はい、もしもーし。切れる前に、何とか間に合った……』


西園寺(さいおんじ)さんですよね? すみません。お忙しい様なら、かけ直した方が良いんでしょうか?」


『いやぁ、ごめんごめん。もう大丈夫だから……実は、先程まで病院の受付だったんですよ。今はもう外に出たから、電話を使っても問題ないですよ』


「病院って事は、被害にあった女生徒の搬送(はんそう)ですか?」


『えぇ。ホテルに宿泊(しゅくはく)している、担任(たんにん)教諭(きょうゆ)にも連絡して置きましたから、もう直ぐ来られるかと』


「だったら赤城(あかぎ)の龍の巫女(みこ)である、神木(かみき)先輩も一緒の方が良いですよね?」


『ん~そうですね……行方不明の女学生3人の内、1人だけが北関東で発見されるって訳には行かないでしょうし……しかし、もう憑依(ひょうい)解呪(かいじゅ)は終わったんですか?』


「僕が戻った時には終わってました」


『さすが古神様達。仕事が早いですね。今すぐに、女学生を連れて来てもらえれば、ボクが病院前に居ますから、同じ病室になるよう手続き出来ますよ』


「じゃあ、お話したい事もあるので、そちらで……えっと、場所をメモします……はい……はい……」



西園寺(さいおんじ)さんが話す病院の場所を、固定電話(わき)のメモ用紙に書き留めて行く。


メモ用紙と言っても、日付が過ぎて()ぎ取られたカレンダーの裏面を使った、エコ用紙である。


昔は新聞に挟まって来る、チラシの裏面へ書いたりしたのですが、今は裏面(まで)印刷されてしまっていて、メモ用紙には出来ない。その為、メモ帳にカレンダーの裏面を使っているのだ。


こういう細かい処が、実に幼馴染(おさななじみ)香住(かすみ)らしいのだけど、もう一枚プロレスのカレンダーは、写真の部分を切り取ってコレクションしているので、細かいのだか、(はげ)しいのが好みなのだか、良く分からない。



病院の場所をメモし終わり、受話器を置くと居間へと向かう。


みんな御通夜(つうや)モードかと思いきや、そこは――――――いつも通りの、(にぎ)やかな空間であった。


まぁそうだよね。神様達が、どうしよう……なんて狼狽(うろた)えたり、気持ちが(しず)んだりはしないよね。


それをするのは、神頼(かみだのみ)みをする人間と、元人間の僕ぐらいである。


神木(かみき)先輩を、O阪の病院まで送って来ますよ。ついでに淤加美(おかみ)様へ約束していた揚芋菓子(あげいもがし)も買って来ます」


「ついでとは何じゃ! ついでとは……」


淤加美(おかみ)様がゲーム機に夢中になりながら、そう声を(あら)げると、他の神様達もお土産(みやげ)要求(ようきゅう)をされる。


「時間的にお店の都合(つごう)もありますけど、出来るだけ御期待(ごきたい)にそうようなモノを買って来ます」


「ならば、我も行きます。志穂(しほ)赤城(あかぎ)の龍の巫女(みこ)ですから」


そう言いながら、赤城(あかぎ)の龍神さんが神木(かみき)先輩を背負(せおう)うと、セイが俺も行くと名乗りを上げた。


「俺も連れて行けよな! まだ約束の串カツを食べて無いし」


セイが小さく成って、僕の頭の上に陣取(じんど)る。


チッ、忘れて居なかったのか……


他に行く人が居ないか聞いてみたが、食べ物は土産(みやげ)で良いし、戦闘が無いなら興味が無いと、くつろぎモードに入ってしまった。



ちなみに、小鳥遊 緑(たかなし みどり)先輩の兄である(たける)さんは、大学へ提出(ていしゅつ)するレポートを別室で作成中であり、天神(てんじん)様と一緒に部屋へ(こも)っている。


来週、中間テストのある身としては、天神(てんじん)様……菅原道真(すがわらのみちざね)公の助力がものすごく(うらや)ましい。



天神(てんじん)様は、雷神(らいじん)学業(がくぎょう)の神様として有名であり。生前は実力で右大臣(うだいじん)にまで上り詰めた勤勉(きんべん)な方である。


その実力を妬んだ貴族達に、(いわ)れのない罪を着せられ。本人どころか、子供達まで流刑(るけい)にされたという。



(いわ)れの無い罪で流刑(るけい)とか……なんだか怨霊(おんりょう)になった、早良親王(さわらしんのう)様に似ているな……その怨念(おんねん)で、清涼殿(せいりょうでん)に集まった貴族たちの上へ、雷を落とすところなんか特に。


他にも病が流行(はや)ったとか……その所業(しょぎょう)も、道真(みちざね)公の怨念(おんねん)だと言う(うわさ)()えなかった為、鎮魂(ちんこん)として(まつ)り上げられたのが……天満大自在(てんまんだいじざい)天神(てんじん)。すなわち皆が知ってる天神(てんじん)様である。


神仏習合(しんぶつしゅうごう)で、色々な神様と混ざってるけどね。


特に清涼殿(せいりょうでん)落雷(らくらい)事件でついた神名は、火雷(ほのいかづち)神とか呼ばれたり等、沢山の神号を持つ御方である。


まぁ、(あやかし)悪霊(あくりょう)退(しり)ける(きょう)の千年結界も、空からの落雷(らくらい)流行(はやり)り病には、効果が無かったと言う事か。



そんな道真(みちざね)公は、11歳で漢詩を読むなど文章系に強く、幼少の頃から学業に対して、天才的な才能を発揮(はっき)した為。神として(まつら)られた後も、学業の神として(あが)められ、合格祈願(ごうかくきがん)の学生で、現代でも天満宮(てんまんぐう)は大入りだと言う。


瑞樹神社(うち)と違って、まさに(うらや)ましい事である。



(たける)さんの妹。小鳥遊(たかなし)先輩に(いた)っては、ウチのお風呂に入ってるとの事……長男の(たける)さんは兎も角(ともかく)、先輩は女の子なんですから、実家へ帰らないと、御父上の御住職(じゅうしょく)が心配しますよ。


小鳥遊(たかなし)先輩は、天狗(てんぐ)団扇(うちわ)を手に入れ、お(はら)いアイテムが増えたと喜んでいたが、今持ってる独鈷杵(どっこしょ)俱利伽羅剣(くりからけん)も御住職(じゅうしょく)のコレクションでしょうに……


本人(いわ)く。こう言った、力のあるアイテムは、出回ること自体が奇跡(きせき)であり、お金をいくら()んでも手に入らないモノだと(のたま)っていた。


何と言うか……僕の周りの女子って、普通じゃ無いよな……香住(かすみ)も、緋緋色金(ひひいろかね)出来(でき)たナックルで(よろこ)んでたし……まあ口に出すと、千尋(おまえ)が言うな! なんて突っ込まれそうだから、言わないけどね。



さて、他に行く人も居ないし。先輩のお風呂を待っていては遅くなるので、早速(さっそく)出かけようとすると、淤加美(おかみ)様が何やら袋の様な(かたまり)をを無造作(むぞうさ)に投げてくる。


そのクシャクシャになった(かたまり)を広げたら――――――


「エコバッグ?」


「うむ。その袋に一杯の揚芋菓子を頼むぞ」


「食べ過ぎですよ……先日ダンボールで(いただ)いた芋菓子(いもがし)は、どうしたんです?」


それもダンボール3箱……


「決まっておろう、食った!」


本当に食い過ぎだ。


揚芋菓子ばかりでなく、ちゃんと御飯を食べてくれれば良いのに……


まぁ若い龍神さん達が、普通の御飯は食べ()きたと言うぐらいだし、それよりも長く存在している古神様たちは、とっくの昔に食べ()きているのだろう。



そんな古神の淤加美(おかみ)様達が、夢中になってるゲームを横から(のぞ)き込むと、対戦系のゲームに夢中だった。



「もっと、なんちゃらの森とか言うのを、やってるのかと思いましたよ」


「あぁ、あれはのぅ……きゃらくたぁ? も可愛いし、面白いとは思うのじゃが……数千年も生きて人間を見ているとのぅ。つい50年ぐらい前までの人間は、開拓(かいたく)や虫を捕まえたり(など)、ゲームと同じ感じじゃからのぅ。現代では余り馴染(なじみ)みが無いので、ウケるのじゃろうて」


なるほど、見飽きているのね。


食事も純和風に食べ()きて、ファストフードとかを好む傾向があるけど、それと一緒であろう。


この前イタリア風に、ミートソースのパスタを作ってあげたら、面白い味のうどんだと言って食べていたっけ。


和食も洋食も、どちらに(かたよ)るとかに無く、両方万遍無(まんべんな)く食べてくれると、作る方も嬉しいんだけどね。



でも淤加美(おかみ)様……対戦ゲームばかりと言うのも、(あら)ぶりすぎですよ。


ゲームも食べず嫌いはやめて、色々やってください。



それにしても、荒魂(あらみたま)を持った神様が多い事で……


僕はどちらかと言うと、和魂(にぎたま)奇魂(くしたま)かな?



とりあえず、病院前の西園寺(さいおんじ)さんを待たせ過ぎるのも良くないので、僕とカチューシャとして首に巻き付いた巳緒(みお)、そして頭上に陣取(じんど)ったセイと、意識の無い神木(かみき)先輩を背負う為、大きいまま人化した赤城(あかぎ)さん。そんな5名で神社の境内に開けた龍脈(りゅうみゃく)を抜ける。


だが……ちょうど、M()県の北側を(かす)めるところで、龍脈に違和感(いわかん)を感じたのだ。


龍脈(りゅうみゃく)の中は、もの凄い速度なので、本当に一瞬の出来事であり、違和感(いわかん)を感じた時には、すでにO阪へ着いていた。



気のせいだろうと、メモに書き留めた、病院の場所に一番近い神社の境内(けいだい)へ、龍脈(りゅうみゃく)を開いてお邪魔する。これが本日2度目のO阪であった。



もうすでに21時を回っているのだが、さすがはO阪。街はまだまだ会社帰りのサラリーマンでごった返し。


最寄り駅は、その人々の群れを、次々に吐き出していた。


そんな雑多の中を歩くこと数分で、メモした病院が見えてくる。


すでに面会時間は終わっているので、正面の自動ドアはかたく閉じられていたが


病院の閉じられた正面から、反時計回りにぐるりと回り込むと、救急外来(きゅうきゅうがいらい)の入り口で、白衣姿の西園寺(さいおんじ)さんの姿を発見し、そこへ()け寄った。


何故(なぜ)、ドクターみたいに白衣?


まぁ、考えても仕方ないので、西園寺(さいおんじ)さんへ向かって――――――



「すみません。遅くなりました」


「大丈夫ですよ。まだ担任の教諭(きょうゆ)は着いて居ませんから」


西園寺(さいおんじ)さんがそう答えると同時に、数台のタクシーが病院の駐車場へ入って来た。


「ヤバ、あれ3年の先生達だ」


龍眼(りゅうがん)暗視望遠(あんしぼうえん)モードで、車から降りた人物の顔を確認し、そう声をあげる。



間一髪(かんいっぱつ)ですね。赤城(あかぎ)の龍神様、こちらのストレッチャーに、彼女を乗せてください」


「すとれ? あぁ……この細長い台の事だな?」


言われるままに、ストレッチャーへ神木(かみき)先輩を優しく寝かせると、西園寺(さいおんじ)さんが布を(かぶ)せる。


千尋(ちひろ)君はこの服を着て、赤城(あかぎ)の龍神様は、小さく成って千尋(あかぎ)君の頭の上に!」



テキパキと指示を下す、西園寺(さいおんじ)さんの言う通りに着替えると――――――


「これ、ナース服じゃないですか!」



そんな僕の姿を見てセイが――――――


千尋(ちひろ)。終わったらナース服を脱ぐ前に、写真を1枚撮らせて」



「そんなこと言ってる場合か! それより西園寺(さいおんじ)さん。変装(へんそう)なんかしなくても、大丈夫だと思いますけど!?」



「いえいえ、形から入るのが日本人です。それに似合ってますよ。さぁ、教諭(きょうゆ)達が来る前にストレッチャーを押してください。部屋まではボクが案内しますから」


西園寺(さいおんじ)さんはそう言いながら、ストレッチャーの(かじ)を取り、他の二人が寝ている病室を目指す。



前から少し変だと思って居たが、この人もやっぱり変な人だ。まったく……まともな人は居ないのか?


千尋(ちひろ)、類は友だな」


一番変な、セイが言うな!



ストレッチャーを押しながら、心の中でツッコミを入れると、背後で3年の先生方の声がする。


西園寺(さいおんじ)さん。追い付かれちゃいませんか?」


「大丈夫です。彼方(あちら)は、部屋の場所を聞いたりするのに、ナースステーションで足止めされる(はず)ですから」


「そんなの数分ですよ!」


僕が声を(あら)げると、ストレッチャーが廊下の突き当りを、速度を落とさずドリフトして曲がる。


遠心力で、ストレッチャーの上へ寝かされた、神木(かみき)先輩の足が外に振れるのを、僕は慌てて(おさ)え込み、外側の壁を蹴って遠心力を相殺(そうさい)し、ストレッチャーの方向を修正した。


本物のナースさんに、こんなの見られたら怒られるぞ!(※病院内は静かにしましょう)



西園寺(さいおんじ)さんは、何やら小さい丸い鉄球をポケットから取り出すと、そのままエレベーターの開閉(かいへい)ボタンへ飛ばし、僕らがエレベーター前へ付くと同時に、開いた扉の中へ滑り込んだ。


もう、何だか滅茶苦茶(めちゃくちゃ)である。



3階へ到着すると、そのまま暗い非常灯だけの廊下を、ストレッチャーを押して疾走(しっそう)するのだが、なんだか分からない黒い人影(ひとかげ)彷徨(さまよ)っていた。


だが此方(こちら)も龍神であり、国津神(くにつかみ)なのだ。横を通り過ぎるだけで、(あや)しい人影(ひとかげ)霧散(むさん)して消えて行く。



「ちょっ! 今の人間じゃ無かったよね?」


「よく頭脳は大人! みたいな推理モノのアニメに出てくる、黒い影一色の犯人だろ?」


それ……名探偵をいっぱい集めないと足らないぞ。


「だいたいオカシイだろ! 消えたじゃん! 音もなく消えたし!!」


「じゃあ、犯人が居なくなって、未解決で迷宮入りだな」


どうせなら迷宮(めいきゅう)彷徨(さまよ)っててください。


「そんな事より、こっちの黒い影を解決してよ!」



セイと馬鹿な事を言い合っていると、西園寺(さいおんじ)さんが――――――


「さすが龍神様。神氣(しんき)だけで成仏(じょうぶつ)……いや、神道(しんとう)だから黄泉送(よみおく)りかな?」


「やっぱり幽霊じゃん! もう帰るぅ!!」



僕が声をあげると、その咆哮(ほうこう)……叫び声とも、言うモノで、さらに3体の幽霊が消えて行った。



「お前本当に怖がりだな……あんな弱い霊なのに」


千尋(ちひろ)さんは元人間ですからね」


「怖いモノは怖いんだから仕方ないだろ……でも、ゾンビなら実態あるから平気だぞ」


余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)の2龍に、(ほほ)(ふく)らまして答える。


「しかし、無害な霊も、有害な霊も、等しく消してしまうとは、さすが浄化(じょうか)の雨と(めぐ)みの雨を降らせる龍水神(りゅうすいじん)です」


そう西園寺(さいおんじ)さんがフォローしてくれるが、雨は使ってないんですよね。



「さっきから結構な数の霊が消えましたけど、ちょっと多すぎません? ウチの学園でも霊なんて見ませんよ!」


「お前の学園は、千尋(ちひろ)の身体から出る神氣(しんき)(おび)えて、霊など入ってこれねーぞ」


「でも学園祭の時なんか、トイレに女の子の(あやかし)が居たし、赤紙青紙のオッサン(あやかし)も居たよ」


「あれは人間の有村(こぞう)(まね)き入れたからだろ。千尋(ちひろ)は成体の龍になり、国津神(くにつかみ)まで任命されたんだ。普通の霊なら学園の敷地へ入ろうとは思わんさ」



非常灯だけの薄暗い廊下を、ストレッチャーを押して疾走しながら、セイとそんな話をしていると、横から西園寺(さいおんじ)さんが――――――


千尋(ちひろ)君は便利な除霊グッズという訳ですか? 確かに神社は、(まつ)られた神を核にして、神域(しんいき)全体を神聖で(たも)ってますからね。その核になる千尋(ちひろ)君が、学園へ通学した時は、無意識に神域(しんいき)を張ってると言う事ですか……実に興味深い」


西園寺(さいおんじ)さんの言葉を聞いて妙に納得した。


クラスで、こっくりさんをやってる生徒が居たが、何度やっても降霊(こうれい)が出来なかったらしい。


神域(しんいき)化しているなら、悪い霊はやって来れないわな。


と言う事は、僕が学園を卒業した後、神域(しんいき)化が解除され変な霊が入り込んで、学園の七不思議みたいなのが出て来るのだろうか?


だからと言って、ずっと卒業しない訳にいかないし……まぁ強力な悪霊が出た場合は、僕か小鳥遊先輩が、除霊に(おもむ)けば良いだけの事だしね。



それに同じ事は学園だけでなく、神社仏閣(じんじゃぶっかく)にも言える。


僕が瑞樹神社(みずきじんじゃ)に居ない時は、神使(しんし)桔梗(ききょう)さんが代わりを務めてくれているし。その桔梗(ききょう)さんが買い物に出て居たとしても、淤加美(おかみ)様が居てくれるから、瑞樹神社(うち)は無神状態には成っていない。


だが(ぞく)に言う廃神社と言うヤツは、神域(しんいき)の核になる神様が居なくなり、そこの龍脈(りゅうみゃく)の氣を吸い上げたくて、良からぬモノが住み着いたりする。


そう言う輩は、龍脈の氣を吸って強化し、更に凶悪化もしており。手に負えなくなっている事が多い。


だからこそ、無神状態に成った廃神社は、心霊スポットとしては危険なのだ。



そんな事を考えて居ると、僕達龍神の神氣(しんき)に当てられて、更に5体の幽霊が消える。


先頭でストレッチャーの(かじ)を切る、西園寺(さいおんじ)さんも見えているので――――――


「しかし神氣(しんき)は凄いですね。千尋(ちひろ)君を各病院に、1柱づつ欲しいぐらいです。まぁ千尋(ちひろ)君はまだ若いから、病院とか縁遠(えんどお)い存在かも知れませんが、どこの病院も霊とか多いんですよ」


「そうなんですか!?」


「昔みたいに、畳の上で亡くなるって事も、少なくなりましたっからね。だいたいの人が病院で最期を(むか)えるので、身体から抜け出た霊魂(れいこん)が院内へ()まったりしますので」


なるほど、それで多くなるのか……



否、いかんいかん。考えると()って来るって言うし、頭を空っぽに……もう無我(むが)境地(きょうち)にでも入ったかの様に、ストレッチャーを押す。


廊下の一番奥にある大部屋(おおべや)へ到着すると、そのまま部屋の中へなだれ込んだ。


6人部屋なので、無関係な人も寝ている為。此処(ここ)ではゆっくりとストレッチャーを押していき、空いているベッドへ横付けると、僕と西園寺(さいおんじ)さんで神木(かみき)先輩を病院のベッドへ移す。


足元に畳んである布団を掛けると、枕元(まくらもと)赤城(あかぎ)の龍神さんが神木(かみき)先輩の表情を心配そうに見つめていた。


赤城(あかぎ)さん……心配なら残った方が……」


僕の言葉に、しばらく沈黙した後。


「いえ、志穂(しほ)には地元へ帰って来た時に、お帰りを言ってやらねば成りませんから」


赤城(あかぎ)さんは、(かぶり)を振ってから答えると、そのまま僕の頭の上へ戻ってしまった。赤城(あかぎ)さんの人間嫌い克服(こくふく)……もう一息だったのになぁ。


でも、かなり心は開いて来ている……はず。神木(かみき)先輩限定だけど……


それも仕方ないか……赤城(あかぎ)さんが人間だった時に、お家騒動で火を掛けられ命を落とし。今回も御堂(みどう)家が騒ぎを起こした発端(ほったん)は、密造銃工場が(さぐ)られた云々(うんぬん)と言ってはいたが、根幹(こんかん)安倍晴明(あべのせいめい)の名を欲しいとする、子孫達のお家騒動である。


人間の醜い部分を見て、益々人間が嫌いになってる可能性があるのだから、唯一心を許している神木(かみき)先輩には頑張って貰わないとね。



忘れ物はないかと確認した後、病室から出てくる僕らに向かって、廊下の様子を見ていた西園寺(さいおんじ)さんが小声で――――――


千尋(ちひろ)君、みなさん、お疲れ様」


「お疲れ様です。それにしても、部屋がだいぶ奥にあるんですね」


「急に入れて(もら)いましたからねぇ。ここの病院長は高校時代の後輩なんで、無理がきくんですよ」


そう言って、頭を()きながら笑っていた。糸目なので、表情はあまり変わらないが、結構顔が広い人である。



ストレッチャーを返しにナースステーションへ向かって行くと、丁度夜勤担当(やきんたんとう)の医師に連れられた教員たちが、此方(こちら)へ向かって来ていた。


ナースキャップは、(つの)が邪魔で(かぶ)れない為、僕の顔が丸見えである。



できるだけ下を向いて、西園寺(さいおんじ)さんの影に隠れる様に、ストレッチャーを押しながら横をすり抜けようとすると、あちらの会話が聞こえてきたのだ。


「他の患者(かんじゃ)さんも一緒の大部屋ですから、顔だけ見たら終わりですよ。事情が事情ですから今回は特別ですが、すでに面会時間は過ぎていますからね。くれぐれも御静(おしず)かに」


何やら夜勤担当の医師に注意事項を説明されているらしい。


「ご配慮(はいりょ)、痛み入ります。顔だけでも無事を確認して置かないと、親御さん達へ説明できませんから……」


そんな会話をしながら、僕と西園寺(さいおんじ)さんの横を、会釈(えしゃく)をしながらすり抜けて、病室へ向かって行く教員たち。


生徒の無事を確かめたくて、急いで居た為か、此方(こちら)へ注意が向かなかったようだ。


怖~、気付かれ無くて良かった。



ストレッチャーを返し、ナース服を……洗って返した方が良いのかな?


畳んだナース服を前に考えて居ると――――――


「その服は差し上げますよ。病院の備品ではなく、私物ですから」


「え!? 西園寺(さいおんじ)さん……いい歳してナース属性ですか?」


趣味趣向(しゅみしゅこう)(とし)は関係ありませんよ。それに、私物と言っただけで、ボクのとは言ってません」



じゃあ、いったい誰の……そう言い掛けた時。セイが――――――



「あー! それ俺のナース服!!」


「おまっ!! そういう趣味だったのか?」


「ちげーわ!! 俺が着るには小さすぎるだろ! 昔、千尋(ちひろ)が女体化した時に、着せようかと思って買って置いたナース服……いつの間に!?」


どうりで、僕にサイズが合うと思ったわ。


セイの問いに、西園寺(さいおんじ)さんは一言、内緒です。と言って病院の外へ歩いて行ってしまう。


そんな西園寺(さいおんじ)さんの背中を追って、薄暗い駐車場へと出て行くと、一台のワゴン車が止まっていた。


ワゴン車の側面のドアをスライドさせると、中には机が置いてあり、それを囲う様に椅子が並んでいたのだ。


まるで、移動する小さな会議室と言った具合である。


ドアを閉めると、ゆっくり走り出すワゴン車の中で、西園寺(さいおんじ)さんが椅子へ座る様に進めてきた。


窓は全面カーテンが引かれている為。電気をつけても外からは見えないようになっている。前方も運転席のすぐ後ろにカーテンが引かれ、運転手の目が(まぶ)しくないように配慮されていた。


そんなワゴン車の中で、西園寺(さいおんじ)さんが――――――



千尋(ちひろ)君。さきほど、電話で言っていた事って?」


神木(かみき)先輩の急ぎの搬送で、先延ばしに成っていた質問を聞いてくる。


「えっと……逆さハルカスで、スナイパー役をしていた天若日子(あめのわかひこ)様が、憑依(ひょうい)していた人間の身元が知りたいのです」


そう言って、セイのタブレット端末で撮った人間の写真を出そうとして、ある写真を前にして指が止まる。


其処(そこ)には、僕のナース服姿の写真がバッチリ写っていた。


「我ながら良く撮れている!」


「いつの間に……」


削除ボタンに指を伸ばすと、画像にパスワードロックが掛かっていた。


無駄に変な機能を使いこなしやがって……


仕方がなくナース写真を飛ばして、行方不明者の写真をスライドさせると、それを西園寺(さいおんじ)さんのスマホへ送る。


「確かに画像は預かりました。では身元が分かり次第、こちらから連絡を入れますね」


「すみません。お手数おかけします」


「いえいえ、異形(いぎょう)()ち国民を助けるのが我々の仕事ですから……身体を乗っ取られていた人の、捜索願(そうさくねがい)が出て居るなら、家族の元へ返してあげたいですしね」


そう言って、糸目で表情が分からない西園寺(さいおんじ)さんであったが、口元の(くちびる)(はし)から微笑(ほほえ)んでいるのだとやっと気が付いた。


本当に微妙な動きなので、よく見てないと分からない。



ワゴン車はそのまま賑わいのある繁華街の通りを前に停車すると、西園寺(さいおんじ)さんが――――――


千尋(ちひろ)君、これを淤加美神(おかみのかみ)様への供物(くもつ)として、お持ちください」


そう言って、ダンボール一杯の揚芋菓子……しかも、たこ焼き味を僕に渡して来る。


「え!? 凄く助かりますけど、良いんですか?」


「これから夜の街を探し回って、龍神様が補導されては大変ですからね。なので……ボクも串カツ店へ同席します」


何から何まで、すごい気配り。でも、助かりますよ。



セイや赤城(あかぎ)さんは、人化で大人に変身できても、身分証明は持ってないし。


それとは逆に、僕は身分証があっても、未成年だと言うので補導されてしまう。


と言う事で、22時半が限界の時刻かな? そう思っていたので、忙しく揚芋菓子を見付け、串カツを頬張り、強制に帰る! なんて強行をしようとして居たぐらいだ。


それを身分がしっかりした大人の西園寺(さいおんじ)さんが同伴(どうはん)なら、かなりゆっくり出来そうだった。



僕は御菓子をエコバッグに詰め替えてから、西園寺(さいおんじ)さんの御厚意(ごこうい)に甘えて同伴(どうはん)をお願いし、繁華街へと向かう。



まだ木曜の夜だと言うのに、()み客でごった返す街中を、西園寺(さいおんじ)さんの案内で通り抜ける。



「これから行く店は、ボクの先輩がやってる店なんですよ。なので、融通(ゆうず)が利くからか、あまり深くは詮索(せんさく)されません」


そう言って、メイン通りから一本通りをズレて、人通りも(まば)らな路地を抜けていくと、かなり年季の入ったお店の前で足を止める。



「おぉ……揚げ物の美味そうな匂いがしてる」


セイが鼻を鳴らして、早く入れとせがむので、西園寺(さいおんじ)さんを先頭に入店した。


「へい! いらっしゃ……」


西園寺(さいおんじ)さんの顔をみて、店主の掛け声が止まる。


「先輩、ご無沙汰(ぶさた)です」


「いやぁ、本当に久しいな! 今日は娘でも紹介(しょうかい)しに来たのかい?」


「違いますよ。ボクはまだ独身です」


「……なんだ。まだ高校時代に好きだった彼女を、忘れられないのかよ……仕方ねーな」


「まぁ、その話はまた今度で……今夜は、北関東から(たず)ねてくれた友人に、串カツを御馳走したいんですよ」


そう言って、御店主に僕達を紹介してくれたので、軽く会釈(えしゃく)をすると


「そうかい、北関東から……じゃあ、美味いもん食わせてやらにゃ。少し、待ってな」


御店主は、衣のついたカツを熱せられた油に放り込むと、油の弾ける音が店内に木霊(こだま)する。


そのカツを時折(ときおり)引っ繰り返しながら、西園寺(さいおんじ)さんとの昔話に興じていたが、長年染みついた料理人の感性で、絶妙なタイミングをもって油から引き上げた。


そのまま小さい油切りに乗せたまま、目の前に出される串カツ。


この、お皿に盛りつけ直さない処が、またオツである。


それをセイと赤城(あかぎ)さんと巳緒(みお)たちが、いただきますと同時に頬張のだけど、全員がシンクロした動きで冷たい烏龍茶へ手を伸ばす。


「熱! でも、(うま)い!!」


「そりゃあ、今揚がったばかりだもの……」


僕はセイ達と同じ(てつ)を踏まぬ様、粗熱を取ってから(かぶ)り付く。


上品な美味いと言う表現ではなく、素直に(うま)い!


そんな僕を横目に見ながらセイが――――――


千尋(ちひろ)、お前がつけてる、その黒い液体は?」


「これはソースだよ。関東だと、市販の長くて四角柱の容器に入ってるヤツ……ほら、主にコロッケとかメンチカツとかに使ってるの……知ってるでしょ? でも、O阪ではソースにも色々あって、甘口辛口……串カツ専用のソースとかもあるんだって。お店だと独自の配合だろうけど……忘れちゃいけないのは、2度漬け厳禁! だからね」


「そうなのか? 加減が難しいな……御店主、御代わりを頼む」


「兄さんイケルね。じゃあ、()れなんかどうよ」


御店主が、串カツとは違う、揚がったばかりのモノを油切りに置いた。


それを、息を吹きかけ粗熱(あらねつ)を取ってから口へ放り込むと――――――


「熱っ! これ……生姜(しょうが)!?」


「どうよ、(うま)いだろ?」


セイは食べるのに夢中で、御店主の問いに(うなず)きながら答えると、残り生姜(しょうが)も口の中へと放り込んだ。


そんなセイの食べっぷりに気を良くした店主が、()れはどうだ? と次々に変わり(だね)を投入してきて、みんな満足のいった食事を、心より楽しんだのだった。



帰りに――――――


セイと赤城(あかぎ)さんは、お腹をツチノコの様に(ふく)らまし、僕の頭の上で苦しそうにしていた。


巳緒(みお)(いた)っては、今チョーカーに変身すると中身が全部出そう……などと(のたま)い、小さく成ってエコバックの中へ入ってしまう。


みんな小さく成るのは平気なんだ……お腹の中の食べたモノも、小さく成っているのかな?


そんな摩訶不思議(まかふしぎ)な疑問も、人外相手では意味が無いと思い、すぐに考えるのを止める。


「すみません。西園寺(さいおんじ)さんに御馳走(ごちそう)して(もら)って……しかも、お土産まで」


僕は、ずっしりと袋一杯に入ったホルモンを持って、お礼を言う。


「いえいえ、北関東の龍神様達から加護(かご)(いただ)けるのなら、安いモノです」


少しお酒が入った為か、ほんのり頬の赤い西園寺(さいおんじ)さんが、そう言ってタクシーに乗り込んだ。


どうやら、今夜はビジネスホテルに一泊して、次の日は朝から報告書を提出に、O阪支部へ向かうらしい。


そんな西園寺(さいおんじ)さんを乗せたタクシーが見えなくなるまで見送ると、僕らは北関東への龍脈を開き、帰る事にするのだが……


時刻は23時を少し回った、北関東の瑞樹神社(うち)境内(けいだい)で、一人の少女を見付けて、思わず身構える。



「そう警戒(けいかい)するでない。(わらわ)の顔を見忘れたかや?」



少女……と言っても、巳緒(みお)より小さいので、小学校に上がったばかりか? 幼稚園の年長組か? そのぐらいの年頃であった。


でも、現代で(わらわ)なんて自分を呼ぶ方が、人間の(はず)がなく……どことなく見覚えのある、太陽を形どった髪飾(かみかざ)りをしていた


誰だろうか? 僕がそう思案(しあん)していると、少女が更に続け――――――



「まあ、(わらわ)の事を忘れるのも仕方がない。なにせ、御主の国津神(くにつかみ)就任の時に、()っただけじゃからな」


国津神就任(くにつかみしゅうにん)!?


姿が少女のままだったので分からなかったが、彼女の声と言葉を聞いてはっきりした。



天照大御神(あまてらすおおみかみ)様!?」



僕のあげた声に、正解じゃと一言発し、少女は微笑むのだが


まさか、もう高天ヶ原(たかまがはら)への出頭命令が来たのかと、天津神(あまつかみ)の無情さに涙するのであった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 串カツかあ〜串カツなら新世界かな? 串カツは玉ねぎがすき、れんこんも良き 生姜!? 生姜の串カツは食べな事ないから、今度作ってみよ。 それか久々に新世界行ってこよかな。
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