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龍神の花嫁 八俣遠呂智編(ヤマタノオロチ)  作者: 霜月 如(リハビリ中)
5章 常陸の大鯰(おおなまず) と 逆さハルカス
123/328

5-14 挟撃


別館9階にて


普通なら、先行している西園寺(さいおんじ)さん達を追って居なければ成らないが、僕の妙案という言葉に、全員が耳を傾ける。


「で? 千尋(ちひろ)……その妙案って?」


「それには先ず確認させて。セイは、この上下逆さまの変な空間でも、龍に戻れるよね?」


「戻れるぞ。このフロアだと(せま)すぎて、(はさ)まりそうだけどな」


「じゃあ広い場所なら、龍に戻って飛べるよね?」


「千尋……お前の考えてることが、分かって来た。ここ別館屋上から、本館の屋上まで飛んで、そこから入る気だな?」


「正解っ! 帰りに串カツ買ってあげる」


やった! と(よろこ)ぶセイを他所(よそ)に、小鳥遊(たかなし)先輩が――――――


「ちょっと待って、侵入方法については、異論はないけど……千尋(ちひろ)ちゃんは水を全部使い切ったのに、どうやって補充(ほじゅう)するのよ」


「それも考えてあります。屋上には貯水槽(ちょすいそう)があるでしょ。たとえ上下逆だとしても、重力がある以上は最下層の屋上部分に、水が溜まっているはず」


最下層の屋上とか、普段なら絶対言わない単語を(しゃべ)っているが、間違っていないので誰も不思議に思わず使用している。今回が特殊(とくしゅ)ケースなので仕方がないけどね。



「じゃあ、元龍神様の背中に乗って本館の屋上へ降り、水を補給しながら展望台(てんぼうだい)へなだれ込むと?」


「そう言う事です。僕らは背後から奇襲(きしゅう)して、階段から来る西園寺(さいおんじ)さん達と、(はさ)みうつ作戦」


千尋(ちひろ)さんの作戦で行こう。志穂(しほ)の命が掛かっているんだ。早くて確実なのが好ましい」


赤城(あかぎ)の龍神さんも乗り気なのだが……肝心(かんじん)のセイが――――――


「え~、千尋(ちひろ)(はら)い屋の嬢ちゃんならまだしも、(おす)は乗せたくねえな」


「おまっ! この()(およ)んで……」


千尋(ちひろ)さん、待ってください。我も逆の立場なら、(オス)を乗せたくありません」


この駄目龍どもめ。


「少しは我慢しろ! すぐ隣のビルの屋上まで、数秒でしょうが!」


()()()!」


千尋(ちひろ)さん、セイ龍に無理強(むりじ)いしても、時間の無駄なので…………」


赤城(あかぎ)の龍神さんは、そこまで言うと急に背が縮み始め、代わりに胸やお尻が大きく成り、全体的に丸みを帯びた、女性の身体に変化したのだ。


赤城(あかぎ)さんが、女体化した!?」


「綺麗な人……」


小鳥遊(たかなし)先輩も、見惚(みほ)れるほどの女性に変身すると、此方(こちら)に向かってほほ笑んだ。


そう言えば、半年ほど前に行った銭湯の時に、性別変えて変身してたっけ? (メス)龍に成って一緒に女湯に入ってたんだよね。


あの時は、赤城(あかぎ)の龍神さんが、龍の巫女(みこ)である神木(かみき)先輩に回収されていたので、セイと淵名(ふちな)の龍神さんだけだったけどね。


龍はどっちの性別にも、自由になれるって話してたけど、改めて見ると何だか凄いな。


僕も本来なら、龍として性別変更出来る……らしいのだが、現状は尻尾(しっぽ)すら引っ込められない始末。


もう(あきら)めてるから、良いんだけどね。



そんな赤城(あかぎ)の龍神さんが、雌龍化(メスりゅうか)までして――――――


「ほら、(われ)(メス)龍になったぞ。早く背に乗せよ」


「……成ったと言っても、中身が赤城(あかぎ)じゃねえか!」


「もう、喧嘩(けんか)しないの。赤城(あかぎ)さんが此処(ここ)まで譲歩(じょうほ)したんだから、乗せてあげてよ。それとも、赤城(あかぎ)の龍神さんの背中に、(メス)龍化したセイが乗る?」


「セイ龍が(メス)龍になるなら、(われ)は構わぬぞ」


「…………ええいっ! 二度手間になるだけだ! さっさと乗れ!」


セイが、すごく嫌そうな顔をしながら、人化を解いて龍化すると、僕らを背中へ乗る様に仕向ける。


全員が乗ったのを確認すると、そのまま隣のビルの屋上へ飛んで行ったのだ。



「凄いわね! 私は龍の背中に乗るの初めてよ! 火吹(ひふ)き龍よりずっとはや……」


「先輩! そういう発言は、セイが調子に乗るので止めてくださいね」


なにせ、セイが調子に乗ると、大概(たいがい)(ひど)い目に合うのだから、心配にもなる。


あと先輩のその台詞(せりふ)は、お姫様へ恋心を寄せる、純粋(じゅんすい)な男性の心を(えぐ)るので、気を付けてくださいね。


だいたい火吹(ひふ)き龍なんて、乗った事ないでしょうに……



そんな先輩が(よろこ)ぶ飛行状態も、わずか十秒()らずで終わってしまうのだが、先輩はもっと乗っていたそうだった。


僕も元人間として先輩の気持ちは分かるが、こればかりは仕方ないわな。空を飛ぶことは人類の夢だったし、先輩もずっと飛んでいたいのだろう。



先輩の夢を壊さずに、言わずに止したのだが


実際には、空の上の寒さは半端(はんぱ)じゃないし、空気も(うす)いので意識も朦朧(もうろう)とするけどね。


すなわち飛行とは、人ではない龍だから()せる技。


だからこそ人間は、空へ(あこが)れるんだろうけどね。


そんな()そうなことを言う僕だって、自分だけでは飛べないので、淤加美(おかみ)様へ身体の主導権を渡して、飛ぶしかないのだ。


いつか、自分で飛べるように成ったら、先輩を背に乗せてあげよう。いつになるか分からないけど……


まぁ……どっちが先に乗るかで、香住と喧嘩する未来が、脳裏にチラついたけど、今は気にしないで置こう。



さて、本館の屋上だけど……逆さまになったヘリポートの脇に飛び移る。


ここで足を踏み外したら、奈落の底へ真っ逆さまだ。


全員が足場を確保しながら展望台へと向かうが、なんと展望台の殆どが、吹き抜けになっているではないか!?


なるほどね……58階~60階と表記されてるのは、中央部が吹き抜けで繋がっているからか……


確かに、オシャレなつくりなのだが、それは通常の場合においてであり、上下逆さまの逆さハルカスでは、吹き抜け部分がネックになり、奈落へ真っ逆さまなのだ。


「まったく、危ねー構造だな」


「仕方ないってば、本来とは天地が逆なんだもの」


水氣を探知して、貯水タンクを見付けると、龍の爪で小さい穴を開け、ペットボトルの補充に掛かる。


さて現状把握の為に、水を補充しながら周りを見渡すと


ここ展望台フロアの中央部分、屋根の無い吹き抜けになった処は、イベントなどをするように広くなっているらしい。


他に目を向けると、ヘリポートの真下は吹き抜けになって居らず、ちゃんと展望台としての役割を果たして居る様だった。



そんなヘリポートの真下部分にあたる、ガラス張りの展望台部分には、誰かが居る様な気配がするのだが、こんな上下逆さまの亜空間に居る人物と言えば……


「御堂さんかな?」


僕は、折角の奇襲が無駄にならぬ様、小声で呟く。


「ぺリポートの下に居るの? 私は霊体の氣は読めるけど、生身の人間は苦手なのよね」


そう言って肩を(すく)ませる小鳥遊先輩。


まぁ仕方がないでしょう。こちらは龍脈を管理すると言う立場上、龍脈の氣の流れを読み、何処に綻びがあるとかを感じ取り、直さなければ成りませんしね。だから氣を読むことに長けた龍族に、人間が勝てっこないですって。


「でもよ千尋。氣が4つあるぜ」


セイの言葉に氣を探ってみると……確かに4つある。


1つは御堂さんだろうし、祭壇の様なモノの上に寝ているのは神木先輩だろう……だいぶ氣が弱っていて、その身に降ろされた神によって、侵食されているようであった。


一体どんな神を降ろされたのやら……



となると、残りの2つは?


「水氣の強いモノが居ますね……それも、人間ではあり得ない程強い水氣」


「と言う事は、妖かな?」


しかし、もう一つの氣が読めない。


妖では無いようだが、人間でもない感じで……氣は神氣の様な感じなのである。


「神族?」


「もしくは赤城ん処の巫女の様に、神懸かりでも……」


「セイ!!」


「……すまん……まだ呑まれてないよな」


「いや、構わぬ。呑まれた場合、あの人間……簡単に死ぬより苦痛を与えてやる」


赤城の龍神さんが今は人型だから、髪が逆立っているだけで済んでいるが、龍の姿だったら(たてがみ)がエライ事になってそう。


「んで、千尋。いつ突入するよ?」


「西園寺さん達次第かな? 僕らの突入が早すぎても、遅延結界が無ければ、神木先輩を止められないしね。今回の作戦は敵の殲滅が目的ではなく、神木先輩を助け出す事だもの」


「それもそうか……千尋さんの言う通り、少し冷静になろう」


赤城さんの逆立っていた髪が元に戻り、冷静さを取り戻したようだ。


「冷静ついでに、赤城の龍神さんには、もう一つ。遅延結界が届いたら、それを使い神木先輩を抱きしめて、瑞樹神社へ運んでください」


「それは戦闘の途中でも?」


「ええ、完全な神懸(かみが)かりの前に、降ろされた神を分離させねばならないので、一刻を争います」


「おい千尋、運ぶなら京の大婆様の処の方が、良いんじゃねーか?」


「僕も最初はそう思ったんだけど、今ほぼ全部の属性の神……それも古神様達が瑞樹神社にいるだろ? それを考えたら、京の貴船神社より瑞樹神社の方が良いかもと、思ったのさ」


木氣(もくき)に関しては、宇迦之御霊(うかのみたま)様が()られるし、火氣(かき)に関しては、荒神狼のハロちゃん。


土氣(どき)に関しては、醸造(じょうぞう)と山の神である大山咋神(おおやまくいのかみ)様。金氣(きんき)に関しては、(たける)さんの草薙剣(くさなぎのつるぎ)がある。


水氣(すいき)に関しては言うまでも無く。淤加美(おかみ)様を始め、海神(かいじん)豊玉姫(とよたまひめ)様、その弟神である穂高見(ほだかみ)様など沢山の神様が居るのだ。


まぁ……火氣(かき)が心もと無いので、子狐ちゃんズに狐火(きつねび)でサポートして貰えば良い。


「成る程、全属性の神様が居られるのですね」


「だから、降ろされた神様がどんな神様でも、対処できるって訳なんです。なので赤城(あかぎ)さんは神木(かみき)先輩を連れて、先に瑞樹神社へ行ってください。連絡は僕の中に居る淤加美(おかみ)様にして置きますから」


『もう、聞いて居ったわ』


念話でそう言ってくる淤加美(おかみ)様。僕の中に顕現(けんげん)しているので、一心同体であり話が早い。


たまに聞かれたくない独り言まで、聞かれちゃうけどね。


『では淤加美(おかみ)様。そちらはお願いします』


『まったく、神遣(かみづか)いの荒い奴じゃ』


『そう言わず、たこ焼き味の揚芋菓子を買って帰りますから』


『うむ。任せて置くが良いぞ!』


淤加美(おかみ)様、本当に安く受けてくれるなぁ。


「という訳で、話は着いたので。赤城(あかぎ)さんは隙があったら、神木先輩を連れて出てください」


心得た、と頷く赤城さんを他所に、セイが――――――


「何が、という訳だよ。俺らは念話が聞こえていたけど、祓い屋の嬢ちゃんが不思議そうな顔してるぞ」


「いえ大丈夫です。赤城の龍神様が先に脱出するのは、話の流れで分かりました。私たちは敵の気を引きつければ良いんですね?」


「そうです。ペットボトルも満タンだし、後は西園寺(さいおんじ)さん達待ちかな?」


僕がそう小声で話すと、タイミングを計ったかの様に、西園寺さん達からメールが届いた。


「内容はね……返答が無ければ準備オッケーとみなし、今から3分後の19時半ジャストに突入するって」


「こちらは少し遅れて突入しますよ。御堂さん達が西園寺さん達へ向かって、空になった神木先輩の処へと赤城さんが入ったのを見計らい、挟撃します」


全員が無言で頷くと、やがて西園寺さん達が突入を開始する。



「やっと来たか! 龍神達が遅れている様だが……まあ良い。まずは突入してくる人間どもを蹴散らしてくれる。来い! アメノワカヒコよ!」


そう怒鳴りながら、迎撃(げいげき)に向かう御堂(みどう)さんの背後に、ライフルを持った男が付き従う。


「今、アメノワカヒコって……もしかして、神話に出てくる天若日子(あめのわかひこ)?」


「だとしたら、高天ヶ原(たかまがはら)を弓で射抜(いぬ)いた名手(めいしゅ)だな」


通りで……京のタワーから、4キロ以上ある狙撃(そげき)を行うだけはある。


人間には、到底無理な狙撃を可能にするからには、それだけの有名な、(あやかし)か神の仕業(しわざ)だと思ったが……神の御業(みわざ)だったか、ものすごく合点がいった。


だが、あの時の狙撃手なら、僕が呪弾の反射を行えると言うのを知っている。


「厄介だな……」


「今更(なげ)いてもどうにもなるまい。それより赤城(あかぎ)よ、今がチャンス……あれ?」


「元龍神様。赤城の龍神様なら、もう中へ入られましたよ」


「じゃあ、僕らも行きますかね。西園寺さんから遅延結界を貰わねば……」


「あと敵も引きつけないとね」


まずは、狙撃を行っている天若日子(あめのわかひこ)へ、背後から攻撃を仕掛ける。


貯水タンクから、余って垂れていた水を使い。予め創って置いた闇の薙刀で斬りかかるが――――――さすがに感が良いのか、転がって避けながら、ライフルの銃口を向けてくる。


なんて運動神経だ!


天若日子(あめのわかひこ)は、すぐに引き金を引き、それと同時に銃弾が僕へ向かて、銃口から飛び出して来る。


僕もすかさず、龍眼(りゅうがん)を使って動体視力を上げ、銃弾の形状を見ると――――――


マズイ! 呪弾じゃなく、通常弾!? これでは反射が発動しない!


しかも、近距離発射された為、避けて居る間がないのだ!


そのまま弾丸が僕の(ひたい)に命中すると、僕は反動で吹っ飛ばされる。


千尋(ちひろ)ちゃん!」


「千尋なら大丈夫だ、祓い屋の嬢ちゃん。何しろ……龍に通常兵器は通用しない」


セイの言う通りだったが……痛すぎる!


「おおぉぉ!! 痛~。ねぇ先輩、瘤になってない?」


「瘤にはなって無いけど、額が赤くなってわ」


「にゃろおお」


「本当に龍神って、人の物差しでは測れないわね……」


龍の硬さに、ちょっと引き気味な先輩がボヤく。


対する天若日子は、僕が無事な姿を見て、どうしようかと迷っている様だ。


それもその筈、唯一ダメージを与えられるはずの呪弾が、京で僕に反射されるのを見ているから、僕に対しての対抗できる武器が無いのだろう。



「くっ! 龍神達が背後から来るなんて聞いてねーぞ!!」


御堂さんは大きな貝の式神を出して、西園寺さん達と戦っているのだが。貝の硬さに呪弾すら跳ね返されている様だ。


どちらも、射撃系の武器が役に立っていない。


だが、天若日子がライフルを捨てると、背中に背負っていた弓を取り出した。


『いけない! あれは神器』


チョーカーになっている、巳緒から念話での警告。


『神器だって?』


『たぶん、天之真鹿児弓(あめのまかごのゆみ)


マジカ!


それって地上から、天津神が住まう高天ヶ原を射抜いた、神話の弓じゃないか!?


いくら僕でも、神器だけはどうにもならない。


だが、天若日子の狙いは僕では無かった。


そう……狙いは神木先輩を連れ出そうとしている、赤城の龍神さんだったのだ。


しまった! ライフルを捨て弓に持ち替えたので、ライフルのきかない僕を狙うモノだとばかり思って居たが、まさか狙いが赤城さんとは、迂闊だった!


ゆっくりと弓を引き絞っていく天若日子へと、射撃を阻止する為に、弓の弦を切ってしまおうと駆ける僕だが……


はたして……間に合うか!?



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