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龍神の花嫁 八俣遠呂智編(ヤマタノオロチ)  作者: 霜月 如(リハビリ中)
1章 夏休み クローンオロチ
12/328

11 ラジオ体操の朝

夏祭り当日


朝早くから境内を念入りに掃除する


祭りの出店が、数日前から遣っているところが多いせいか、祭りの本番は今日からだと言うのに、容器のゴミが結構多い。


毎年の事なんで、慣れちゃったけどね。



そこへ丁度、中型犬の大きさになった狼ハロが、容器のゴミを咥えて遣ってくる



『この容器、美味そうな臭いがするぞ……先日、千尋殿が作った鯛焼きみたいな、香ばしい臭いが……』


「あれはイタズラで、鯛焼き風お好み焼きだっただけで……本物は甘いんだからね」


一応間違った知識は、訂正して置かないと可哀想だ


此れは、本物を食べさせてあげないと、駄目かも分からんね。


僕は、ハロの咥えて来た容器を受け取ると、青海苔が付着しているのが見てとれた


焼きそば? もしくはお好み焼きかな?


そう考えて居るところに、味噌汁の良い匂いがしてきて、ハロと一緒にお腹の虫が鳴り響く



最近は、朝餉(あさげ)の支度を、神使の桔梗(ききょう)さんと交代で行っており


今朝は桔梗さんが、作って居るのだが━━━━


ようやく、ガスコンロやレンジの使い方を覚えてくれて、一安心な今日この頃。



『今朝は桔梗殿の飯か? 最初の頃は、真っ黒な魚だったり生焼けだったりしたが、最近の飯は美味いわな』


「彼女成りに、現代の生活に慣れようと、頑張ってるからね」


(かまど)を使って居た時代の人なので、ガスの火加減が分からないのも、仕方がない



『失敗作をだいぶ食わされたが……ここ数日で一気に美味くなった』


「先生が良いからね」


幼馴染みの香住(かすみ)が、ちゃんと生活出来ているか心配だと、部活前の朝だけ見に来てくれて、その時に桔梗(ききょう)さんへ色々レクチャーしてくれたのだ。



和食は、僕も婆ちゃん直伝で、それなりに出来るが


香住の作る料理は、更に上へ行っていた。


味噌汁1つに置いても、具材に合わせて赤味噌と白味噌の配合まで変えているから、敵う筈もない


新しい飲食店が出来ると、味を見に行くなど、研究にも余念がないのだから、美味しくない訳が無いわさ



「そう言えば……僕もよく、味見に付き合わされたっけか」


『それは、『でーと』と言う奴なんじゃ無いのか?』


「いやいやいや、断じて違う! 1人でお店に入りづらいからって仕方なく……て、デートなんてよく知ってるね?」


『逢い引きの事であろう? マイが教えてくれた』


「ちょっと、マイって誰ですか? 人間と喋っちゃ不味いでしょ」



狼のハロちゃんの話だと


マイちゃんは、昔ウチのお風呂が壊れた時に、銭湯に居たお嬢さんで


所謂(いわゆる)、『みえる』人と言う霊感の持ち主だった。


僕の尻尾も見えちゃったらしく、銭湯で掴ま……いや、捕まってしまい。尻尾に抱き着かれ、遊ばれてしまったのだ。


尻尾が見えない普通の人には、浮いて居るように見えるから、止めて貰いたかったが、だいぶお気に入りの御様子で……


相手が(セイ)なら尻尾振って、強引に吹っ飛ばせるが、人間の女の子にする訳にもいかず。結局銭湯を出るまで、ずっと付き纏われてた人間のお嬢さんだった



『尻尾のおねーさんを、ずっと捜して居たらしいぞ』


「本当なら、お風呂が直るまで銭湯通いだった筈だけど。あの後、宝剣探しで檀ノ浦行きだったからねぇ」


その宝剣も、(たける)さんが使って居るけどね。



『毎朝、境内で変な踊り遣ってるだろ?』


「踊り? あぁ、ラジオ体操ね」


『それそれ。その何とか体操に来て、普通の犬じゃ無いって見抜かれてしまってな』


接点はラジオ体操か……合点がいった。


その時間は、丁度朝餉(あさげ)の支度で、台所へ入ってしまうか、セイを叩き起こしているかだから


僕とは、入れ違いで逢わなかったのか……



ん? 今日は、念入りに裏手のゴミ拾いまで遣っていて、もう良い時間━━━━


朝餉(あさげ)の支度を、桔梗さんに任せているので、時間の事をすっかり忘れてたわ



「ああ!! 尻尾のおねーさん!!」


ゴミ袋を持った僕に、駆け寄る一人の少女


間違いない、銭湯で逢った女の子に違いない。


僕は、手前で止まるだろうと、高を括っていたら、そのままラグビー選手並みのタックルを貰ってしまったのだ。


「ぐほぉお!」


そのまま、くの字になって膝を折る僕を見て


『凄い声が出たな……』


ハロが、自分じゃなくて良かったと言う顔で、胸を撫で下ろす



「す……空きっ腹に効いた……」


此処で倒れたら、龍神の名折れ……尻尾で後ろへ倒れるのを支え、膝だけでどうにか留まった。



「マイね。ずっと、おねーさんを捜してたんだよ!」


「それは悪い事をしてしまった。急に用事が出来ちゃってね……遠い処へ行ってたんだ」


膝の埃を叩きながら立ち上がり、そう言って弁解した



『しかし、尻尾のおねーさんが見付かって、良かったではないか』


「うん! 最近ね。おねーさんみたいに、角の在る人を見掛けるんだ」


「角のある人?」


「尻尾は無いんだけど、角だけ在るの」


セイ? 淤加美様?


━━━━赤城の龍神さんとか、淵名の龍神さんかも?


よくよく考えたら、この地方……龍神多過ぎだな



「雄……いや、男の人だった? それとも、女の人かな?」


「男の人。お爺さんだったよ」


えっ!?


お爺さん? 僕の知ってる龍の雄は、みんな若い……20代中盤位の姿をして居た筈


まあ、『化け術』だから、お爺さんにも成れるだろうけどね。


実際銭湯で、セイと淵名さんが、若い女性に化けて女湯に入ってたし


でも、基本の姿は滅多に変えないんだよな


いったい誰だろう……


そう考えていたら、他の子供達も沢山集まってきた。



「わあ、ハロちゃん元気!?」


「クッキー食べるかな?」


━━━━大人気だなハロちゃん


と言うか、餌付けされとる……あーあ、お腹まで見せちゃって


野生はどうした野生は?


貴方、犬じゃ無くて『狼』ですよ。それも荒神の━━━━


「かわいい~、お腹ぷにぷに」


子供達に囲まれて、わしゃわしゃ撫でられて、『わふぅ』とか犬っぽく鳴いて見せるハロ


喋ら無いのは良いことだが、もう少し威厳を持った方が……


何だろう……神様達が、どんどん堕落していってる気がする



そこへ、携帯ゲーム機を持った、淤加美様が現れ━━━━


千尋(ちひろ)桔梗(ききょう)が、朝餉(あさげ)の支度が出来たと……」


「ちょっ!! 淤加美(おかみ)様!! 人前で飛ばないで下さいよ」


「ん? 大丈夫じゃ。子供達は皆、ハロを撫でるのに夢中になって居るからの」


「それは、たまたまです」


僕の中に、淤加美(おかみ)様の片割れが残ってるんだから。そっちで、直接念話をしてくれれば、済む話なのに……このお方と来たら……


浮いて居る淤加美(おかみ)様を、子供達に見付からない様に、背中を押して玄関の中へ追いやった。



「今の人も角があったね」

そう言うマイちゃんだけは、ハロに釣られず、僕の側に居たのだ



「うはぁ! ま……マイちゃんだっけ? みんなには内緒だよ」


「うん、言わないよ。変な事言うと、お母さんに怒られるし……」


どうやら、『みえる』のはマイちゃんだけなので、霊とか妖怪とか……そういうのが居ると言っても、信じて貰えないとの事。


最後は、あの子……大丈夫かしら……なんて心配までされてしまい。


最近では、要領を得たのか、見えても『見えない振り』をするように成ったとか


マイノリティー(少数派)は、大多数によって淘汰されるし、仕方がないよね



「今度、そう言う話がしたかったら、神社(ウチ)へおいでよ」


自分を押し込めてばかりじゃ可哀想なので、話し相手位には成ってあげるよと言ったら、すごく喜んで居た


まあ、僕も龍神になっちゃったし、此処で人間なのって、婆ちゃん位だもの



子供に混じって、大人達も現れ始める。


「ラジオ体操が始まるみたい、またね尻尾のおねーさん」


「あっ! 千尋だよ。僕の名前━━━━」


走っていく途中で振り返って


「分かった! またね千尋おねーさん」


言い直して走っていった。


本当は、『おにーさん』なんだけどね……説明すると女湯に入ったのも問われるので、言わ無いで置こう。


どうせ元には戻れないしね



さて、僕も桔梗さんのご飯を、冷めない内に頂きますか━━━━━━



その前に、セイを起こさねば……声を掛けないと、後々五月蝿いからな



僕は居間へ寄らずに、そのままセイの部屋へ行くが、(いびき)が聞こえるので、まだ寝ているようだった。


元龍神のセイは、昨日同人誌即売会へ行って、洗礼を受けてきたらしい


帰りは電車ではなく、龍脈移動で帰って来たので、余程疲れたのだろうな……


龍脈移動を人間に見られて無いかと心配をしたが、赤城の龍の巫女である神木(かみき)先輩も一緒だったし、その辺は大丈夫だろう。


ま、良い経験だったんじゃないかな……元々人間嫌いの赤城の龍神さんが、もっと嫌いにならなきゃ良いけど━━━━



龍って奴は、人間の『向上心』を好む


だから、龍に愛され憑かれた者は、大きく飛躍すると言われており


一代で築き上げた、某電気メーカーの創業者さんは、龍に愛された者とも言われ、本人も会社の中に龍神の社をつくって仕舞う程、龍神を信奉していたらしい。


他にも、浅草雷門の大きな提灯を寄贈するなど、経営に信奉を混ぜたと有名な人で


本社だけでなく、工場にも社を創ったとか━━━━


ま、戦後の経済高度成長期も、上手く重なったんだろうね


後は本人の手腕と向上心!! 向上心が無ければ、龍は憑きませんから。



今回の同人誌即売会も、電気メーカーさんと方向性は違えど、絵が上手く成りたいと言う、『向上心』は同じなので、その気迫に酔ったのだろう。


もしかしたら……急成長をした大手サークルさんの中には、龍に愛され憑かれた者も、居るかもしれませんね。



一応ノックをしてから、襖を開ける。


なんと言うか……昨日帰って来た時の姿で、ベッドへ倒れ込んで居た。


余程疲れたんだな……着てるものも、一応脱ごうとは、していたみたい


ジーンズが尻まで脱げた状態で、止まっているし



仕方がない━━━━━━耳元でに寄って


「大変だ! 台風速報でアニメ録画がズレそうだよ!」


「何だと!! L字テロップか!?」


そうか……最近はズレじゃなく、L字テロップなのか……


僕は、最近テレビでアニメ観ないからな、月額制のネット配信で観てるし


セイが眠そうに目を擦りながら、現状を把握しようとしている


「おい……雨の臭いがしないが……本当に台風来てんの?」


「来てないよ。龍なら分かるでしょ? 今のところ雲1つ無い快晴だもの」


二人共無言で睨み合う


「千尋……貴様……我が眠りを妨げ……」


「はいはい、悪ぅございました。朝食出来たそうだから、冷めない内に来なよ」


「ええ!? ノリが悪いな……」


「暇じゃねーっての! 今日祭り本番だから、早めに社務所開けたりで、忙しいんだってば」


そう言いながら、半分尻で止まってるセイのジーンズを引っ張る


「ぎゃー、エッチ! 痴女!」


「洗濯するんだから脱げってば!」


「待て待て待て。トランクスまで一緒に脱げてるから!」


「恥ずかしがらなくも、一寸前まで僕にも付いてて、見慣れてるから大丈夫だって」


「そう言う問題じゃねえ! お前は少し、女の慎みと言う奴をだな……って聞けー!」


普段風呂上がりに、暑いからと全裸で彷徨(うろつ)く奴に、慎みがどうとか言われたくないわ



僕は、全力で脱がしにかかり、セイが全力で抗う



そんな均衡状態に━━━━━━



「二人とも何遣ってるのよ……」


幼馴染みの香住(かすみ)が、溜め息をついて立っていた。


「やぁ、香住。久し振り」


「久し振り……じゃないでしょ。此処のところ、朝だけは寄ってるでしょ! まったく……朝御飯冷めちゃうわよ」


「そうは言うけど……御飯食べてる間に、洗濯機回して置きたいんだよ」


食べ終わって食器洗ってる内に洗濯終わるから、直ぐ干せるしね


「でも、元龍神様が嫌がってる様に見えるけど……」


「ほらな、人間の娘の言う通りだ。少しは労れ」


コノヤロウ……調子に乗りすぎだ。


「せーの!!」


掛け声と共に、此処一番の力を込めて引っ張ったら


脱げた!!


━━━━━━トランクスも一緒に……


「いやああああああ!!」


香住の悲鳴と打撃音が2つ木霊(こだま)した。



━━━━━━その後


僕は洗濯物を洗濯機に放り込みながら、赤く腫れた頬を擦る


その後ろで、同じく頬を赤く腫らしたセイが、青い袴を穿きながら


「まさか、平手打ちじゃなく、鉄拳(グー)が来ると思わなかった」


「あの香住だぞ! 凶器攻撃やプロレス技が来ないだけでも奇跡だわ」


そう言って、洗剤を投入しスイッチを入れた


しかし、そうか……お祭りの二日間は、巫女をしてくれるように頼んで居たのだ。


すっかり忘れてたわ。


香住に言うと、脚持って回されそうだから言わないけどね


水が洗濯機へ投入される音を聞きながら、マイちゃんの言葉を思い出す。


「お爺さんの姿をした龍か……」


僕の呟きに着替え中のセイが、何だそれ? と聞いてきたので、マイちゃんとのやり取りを説明してやった。


「ほう、あの時の少女が……懐かしいな」


「いや、マイちゃんじゃ無くて、お爺さんの話」



「もしかすると……『九頭龍(くずりゅう)』の爺さんかも知れん」


「九頭龍!?」


「うむ、確信は無いがな……俺が知ってる爺さん龍は、九頭龍以外に居らん」


まあ、実際見た訳じゃ無いから、絶対とは言えないがな、と言って脱衣場を出ていってしまった。


九頭龍神かぁ……


同じ龍族だし、敵じゃ無い……よね?


「千尋~、あんたのオカズ食われてるわよ」


そう香住の呼び声が掛かる



「ちょっ!! それは酷いんじゃないかな!」



僕は、考えを途中で掻き消して、居間へ向かうのだった。



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