表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍神の花嫁 八俣遠呂智編(ヤマタノオロチ)  作者: 霜月 如(リハビリ中)
5章 常陸の大鯰(おおなまず) と 逆さハルカス
115/328

5-06 大地震を抑えて


揺れがどんどん強くなる洞窟内で


大鯰(おおなまず)は今まで、何十年と溜めて来た土氣(どき)を解放していく。


セイと赤城(あかぎ)さんが水ブレスを吹掛(ふきか)け、術の集中を阻害(そがい)しようとするが、全く効いていない様子だった。



「駄目だ千尋(ちひろ)! 水氣(すいき)じゃ撃ち抜けねーぞ」


水氣(すいき)では土氣(どき)に歯が立ちませんね」


五行で土氣(どき)水氣(すいき)相剋(そうこく)だ。無理もない。



(たける)さん!! 大鯰(おおなまず)が大術である大地震(アースシェイク)を行使中で(すき)だらけです。今の内に奥義(おうぎ)は撃てませんか!?」


「ざけんな! ()れだけ()れてて、立っているのもやっとなのに、奥義集中が出来るかよ。適当に撃つ扇状拡散型ならできるがな」


「それはヤメテください。洞窟が崩れて、生き埋めに成りたくないし」


「雨女こそ、術反射はどうしたよ」


それこそ無茶な話だ。


術である限り、反射は出来るだろうが。地震の震源地が僕の真下から、数十メートル先の術者である(なまず)の真下に移動するだけで。大地震(アースシェイク)の範囲からは出られてないのだから、反射した処で意味がない。


それより問題は地上だ。


要石(かなめいし)の上にセットした龍玉(りゅうぎょく)が、地震の土氣(どき)エネルギーを吸ってくれていれば良いが……


間に合ってくれ! そう願いながら、大鯰(おおなまず)の真上に伸びている要石(かなめいし)の石柱を見上げる。



「見て千尋(ちひろ)ちゃん。(なまず)(ひげ)!」


小鳥遊(たかなし)先輩に言われて、大鯰(おおなまず)の口元を見ると、(ひげ)の再生が始まってるようだった。


「再生が早いな……」


「見るところは再生の早さじゃ無くて、左右のバランスよ! あの千切れた(ひげ)のせいで、上手く術が集中できていないみたい」


言われてみれば、バランスが取れていないせいか、術の発動に時間が掛かってるみたいだ。


もしかしたら、術の威力も大幅(おおはば)にダウンしているかも?



念のために、闇淤加美神(くらおかみのかみ)の闇水を用意しようとして居たら、建御雷(たけみかづち)様が念話で――――――


千尋(ちひろ)殿、待たれい。この大鯰(おおなまず)は、神話の時代からずっと討伐不可能なモノなのだ。恐らく今回も討伐しきるのは無理じゃろうて、そこで第一目標は何だったか覚えておるか?』


大鯰(おおなまず)に、大地震(アースシェイク)の術を使わせない為に、疲労させるですっけ? だから術を止めようと……』


『だが今回は、龍玉(りゅうぎょく)がある。それに吸わせている以上、地上はさほど()れて()らぬ(はず)


『理論上はそうですが……』


なにせ初めての事だし、龍玉(りゅうぎょく)は僕の咄嗟(とっさ)な思い付きだしね。


しかも、吸いきれずに溢れたてしまった(オーバーフロー)場合、そのエネルギーは関東全域に行ってしまうのだ。


小鳥遊(たかなし)先輩! 地上の状態は?」


ちょっと待ってね……と言いながらスマホを操作する。


こんな地中で、電波が入るのか……凄いなスマホは……


「あーもー、()れてて打ちづらい! あっ出たわ! 地震情報。地上は震度2弱だって」


そのぐらいなら許容範囲だろう。


ならば、建御雷(たけみかづち)様の案に乗って、全部使わせてしまった方が良いかも。


そう思い(しば)らく様子を見て居ると、大鯰(おおなまず)に疲れが出て来たのか、少しずつ()れが(おさ)まって行く。



どうにか龍玉(りゅうぎょく)(こら)えてくれたか……そう思った時――――――



「行くぜ(たけ)のオッサン! (しん)雷神剣草薙(らいじんけんくさなぎ)!!」


大地震(アースシェイク)という大術後の(すき)をついて、大技を放つ(たける)さん。絶妙(ぜつみょう)なタイミングだ。



だが――――――


敵もさるもの引っ()くもの。どこにその力が残っているのかと思うほど敏捷的(びんしょうてき)に、緋緋色金(ひひいろかね)岩盤(がんばん)を持ち上げる。



「儂を忘れて(もら)っては困るな!」


天津麻羅(あまつまら)様がその岩盤(がんばん)に向かい、大槌(おおづち)を投げて粉砕(ふんさい)した。


これでもう、大鯰(おおなまず)まで(さえぎ)るものは何もない。



其処(そこ)(さら)にもう一手……


「セイと赤城(あかぎ)さん!! 奥義へ水のブレス!!」


千尋(ちひろ)、良いのか?」 


「大丈夫。僕が責任を取るよ」


頭の上の2龍は、雷神剣草薙(らいじんけんくさなぎ)に向かって水ブレスを撃つと、(かみなり)(まと)った奥義(おうぎ)が、(さら)(かがや)きを増した。



そう、五行(ごぎょう)には苦手とする属性(ぞくせい)……相剋(そうこく)の他に、相生(そうしょう)と言うモノがある。


相生(そうしょう)とは、その名の通りに、相手を生かす属性であり。上手く使えば、その属性の威力を上げる事が出来るのだ。


雷の木氣(もくき)に対しての相生(そうしょう)は、水氣(すいき)になる為。雷を(まと)った奥義の威力が上がったという訳。



水氣(すいき)で、ブーストして駄目なら…………大鯰(おおなまず)を倒すのは、事実上不可能である。



水氣(すいき)で威力の上がった雷神剣草薙(らいじんけんくさなぎ)衝撃波(しょうげきは)は、大鯰(おおなまず)を飲み込んだ。



轟音(ごうおん)(まばゆ)雷光(らいこう)の中で、大鯰(おおなまず)は悲鳴を上げると――――――



そのまま石に成って行ったのだった。



「やった……のか?」


セイの言葉で、みんな石に成った大鯰(おおなまず)凝視(ぎょうし)するが、急に明るくなったり暗く成ったりで、目が()れて居ない。



だが時間が()つと、目が()れてくるので、はっきり石に成った大鯰(おおなまず)の姿が目に飛び込んできた。



「どうやら終わったようですね」


「なんだか(はら)い屋兄妹(きょうだい)に、大トリを持って行かれたな」


「もう二人とも、手柄(てがら)なんか、誰がとっても良いじゃない。みんな無事に終わったんだし」


僕は頭の上にいる2龍に、そう言った。



「俺はもう歩けねえぞ! 真の方の奥義を2発も打って、全部力を使い切ったからな」


「では、お兄様だけ置いて行きましょう。歩けないそうですし」


「おい待てや! (みどり)は少し、兄を(うやま)ったらどうだ?」


「お疲れの御様子だったので、休まれて()ったら? と申したのです」


「嘘だ!! もっと(とげ)があったぞ」


また喧嘩を始めた二人の間に入り――――――


「まあまあ。今回は(たける)さん頑張りましたし。洞窟内が潮で満ちる前までなら、休んでいっても構わないんじゃないでしょうか?」


僕ら水龍は水があっても平気だが、小鳥遊(たかなし)兄妹(きょうだい)は人間だもの、そうは行かないものね。


帰れなくなる前までなら、少し休んでも良いと思う。


だって先程から天津麻羅(あまつまら)様が、緋緋色金(ひひいろかね)の原石を、楽しそうに拾い集めて風呂敷(ふろしき)に包んでいるし。その邪魔をしたら怒られそうだもの。



僕も少し腰を下ろそうと、椅子に成りそうな岩を探していると、突然カチューシャに化けた巳緒(みお)が――――――


千尋(ちひろ)、マズイよ』


「ちょっと巳緒(みお)さん? あまり不穏(ふおん)な事は……」


『あの大鯰(おおなまず)が、避雷針(ひらいしん)に使った、千切れた(ひげ)を見て!』


巳緒(みお)に指摘され、地面に刺さっている避雷針の髭を見ると、なんだか大きくなっているのが見て取れた。


え? あんなに大きかったっけ?



「まさか爆発はしないよね?」


『分からない……でも、ウチが千尋なら即時撤退を指示する』


マズイ状況だって事だけは分かった。


とんだ鯰の置き土産である。



「みんな急いで外へ出て!! 千切れた大鯰の髭が、爆発するかもしれないから!!」



「雨女め。無茶言いやがる」


草薙剣を杖の様に地面に刺し、やっと立ち上がる尊さん。そこに妹である小鳥遊先輩が――――――


「ほら、私が肩を貸してあげるから」


「いいって! 妹に肩を借りるなんて恥ずかしい」


「こんな時に何言ってるのよ! それに……兄が死んだら、此処までお経を上げに来なくちゃならないでしょ!」


「…………やっぱり、お前なんか嫌いだ」


「嬉しいわ」



本当に仲が良いんだか悪いんだか……



「ちょっと! 天津麻羅様!? 風呂敷いっぱいですよ。早く脱出を……」


「うむ。待たれよ、あと一つっと……お主はどうするのじゃ?」


「僕は緋緋色金の岩盤が無い処まで行けば、龍脈が使えますから大丈夫です」


それに、もし爆発するなら、それも止めないと……


髭だけの爆発なので、関東全域までは行かないにせよ。真上の鹿島神宮は一溜まりも無いだろう。


そうなれば、大鯰の頭を抑えている要石も外れ、次に暴れた時。止めようが無くなるのだ。


全員が来た道を戻っていく中。僕はリュックを開けて最後の水を取り出すと、手持ちで武器にした水と合わせる。


「おいおい千尋。髭だけとはいえ、土氣の鯰の一部なんだぞ。水なんか弾かれちまうだろ」


「失礼ですが千尋さんでも、水で土氣は……」


「確かに普通の水なら、歯が立たないよね……でも、僕には此れがある!」


そう言って、水を闇淤加美神(くらおかみのかみ)の闇水に変えて行く。


触れたものを、融かし存在を消してしまう闇の水である。


普通なら術者も此れに触れれば、融けて闇の一部になってしまうのだが、僕の場合は身体が術反射で覆われている為。触れていても融けることは無いのだ。


淤加美様曰く、そんな使い方するのは千尋ぐらいだと言われたが、まさに術反射持ちの僕にしか出来ないオリジナルの術である。


「なるほど、そいつで斬るのではなく、融かしちまうって訳か」


「そういう事! お二人さんは頭上に居るけど、振りかぶった時に闇に触れないでよ。融けて存在事無くなるからね」


「「 了解 」」


僕は闇水の塊を持ったまま髭に向かって駆ける。


そのまま間合いを見計らい跳び上がると、大鯰の髭に向かって闇の塊を叩きつけた。


闇はそのまま音もなく髭を包み込むと、ゆっくり地面に向かい降りて行く。


完全に地面に降りる頃には、髭の存在そのものが消えて居たのだ。



「碓氷でも見たけど、おっかねえ術だな……」


「だねぇ。自分で使って置いて何だけど、存在が融けるとか怖すぎ」


「千尋さん。闇淤加美神(くらおかみのかみ)の力ですか?」


「借りてるのはそうですよ。ただ、淤加美様は自分自身だけでは、再現できないと言ってましたが……」


僕の身体を借りなきゃ無理だってね。


完全に融けたのを確認した後、闇水を解いて水に戻す。


たぶんこの水の中に、融けたモノも一緒に入ってるんだろう……


鯰の髭も融けるんだし、本体も融かしちゃえばって思うかも知れないが、それだけ大量の水を用意するのが、そのそも無理なのだ。


海水では闇水は創れないしね。闇水のいわれは、山間の暗い谷間から出る水って言うのが、闇淤加美神(くらおかみのかみ)所以(ゆえん)ですから。


ここが大きい湖やダムなどで、真水が大量にあれば話は別だけどね。



僕らは、最後に石に成った大鯰を見上げてから、洞窟を後にする。


願わくば、もう地震など起こさずに、眠り続けて欲しいと――――――



「おおっ! 龍神様達もお戻りで!」


外に出ると、宮司さんが待って居てくれたらしく、喜びの声を上げる。


「只今戻りました。結局用意したモノは全て使い切って、余裕が一切ありませんでしたよ」


「だが見返りは、ふんだんにあったぞ」


天津麻羅様がホクホク顔で、緋緋色金の原石が入った風呂敷を叩く。


結局得したのは、天津麻羅様だけか……



僕らも、龍玉を回収しに、仕掛けた要石の処へ行くと、龍玉は満タンに成って居て、七色に光り輝いていた。


「完全に、一杯一杯ですね」


「ギリギリで溢れる手前だった訳か……剣呑(けんのん)剣呑(けんのん)


暢気に語っている2龍だが、本当に危うかった事を目の当たりにし、僕は背筋に冷や汗をかいた。


その後、同じ状態まで溜まった香取神宮の龍玉も回収し、もう一度鹿島神宮へ戻ると


僕達は宮司さんの計らいで、少し休ませて貰う事に成った。


宮司さんに、泊まって行けばいいと言われたのだが、翌日も学園があるしね。


例の瑞樹神社、襲撃事件の事で、たまたま休みを貰っただけだし。さすがに明日は学園に行かないと……



その辺の事情を、宮司さんに話すと――――――



「なんと!? 龍神様が学園に通われているのですか!?」


驚かれるのも無理もないが、元々が人間で学生でしたからね。


「はい。なので、北関東の自分の神佑地へ帰ります」


「そうですか……何かお礼をと思ったのですが……」

 

「その辺は、建御雷(たけみかづち)様に色々と助けてもらってますから、お互い様と言う事で」



兎に角、日付が変わる前に帰って、少しは日常的な事がしたい。


「僕は帰りますが、他の皆はどうします?」


「儂らは、天津麻羅と呑み明かす約束があるから、残らせて貰うぞ。なーに、また尊の顔を見に行くからのう」


「ちょっと! 2柱で呑み明かすって……天津麻羅(あまつまら)様は、どうやって関西へ帰るんですか!?」


「その辺は心配ない。鍛冶弟子の信一(しんいち)に、軽トラックで迎えに来て貰う。まだ緋緋色金(ひひいろかね)が取れそうだしな。トラックに詰めるだけ詰んで、西へ戻るから心配は要らぬぞ」


どうでも良いけど、過積載で捕まらないようにね。天津麻羅(あまつまら)様だけでも重いんだし……



「えっと、じゃあ小鳥遊(たかなし)先輩は帰りますよね。明日学園だし」


勿論(もちろん)よ。今日サボったから、明日は出なくちゃね」


「サボリ!? 先輩ちゃんと連絡入れなかったんですか?」


「だって、面倒だし。どうせ仮病だろって信じて貰えないもの」


それは日ごろの行いが、悪過ぎるせいですよ。



(たける)さんは……」


「俺も帰るぜ。と言っても雨女の神社までだけどな」


「ほへ? 瑞樹神社(うち)に泊まると? まあ、部屋はあるので構いませんけど……たまには御実家に帰られた方が……」


「兄は、見合いが怖くて、帰れないんですよね」


「てめぇ(みどり)! 図星つくんじゃねえっ! あと見合いが怖いんじゃなく、男と見合いさせられるのが、嫌なんだ!!」


あ~、例の男達の見合い写真か……まだやってるんだ。


まあ、他所様の家庭事情に口出すのも何だけど、今回の事は(たける)さんの自業自得だし。


頑張って(わだかま)りを解いて貰うしかない。


そう言う事で、建御雷(たけみかづち)様と天津麻羅(あまつまら)様を、鹿島神宮(かしまじんぐう)へ残し、僕らは瑞樹神社へ龍脈移動する。



もう夜中なので、参拝者の心配もなく、境内の真ん中に龍脈を開けると、荒神(あらがみ)狼のハロちゃんが――――――


『おお、千尋(ちひろ)殿。無事に帰ったか』


「ただいま。ハロちゃん、こっちも少し揺れた?」


『ん? 地震の事か? 揺れたのか……な? 体感できる様なのは、無かったと思うが……』


「それなら良いんだ」


震源地が、2弱なら数百キロ北の瑞樹神社(みずきじんじゃ)では、さすがに揺れないわな。



僕は小鳥遊(たかなし)先輩に、遅いから送って行くと言ったのだが、夜は祓い屋の得意とする活動時間だから大丈夫だと、断られてしまった。


それよりも数日前、頭に岩が直撃してたのだし、兄の様子を見ていて欲しいって……


やっぱり兄である尊さんが心配なのね。先輩も素直じゃないだけで、本当は仲が良いんじゃないですか。


言うと照れ隠しで、鞭打たれそうだし……言わぬが花だわ。



先輩が帰るのを見送った後、玄関を開けると――――――何時もより一層に騒がしい。


そうか……宇迦之御霊(うかのみたま)様が、子狐ちゃんズの視察に来てるんでした。


「ただいま~」


「お帰りなさいまし、千尋(ちひろ)様」


桔梗(ききょう)さん、すみません。神様達の相手させちゃって……大変でしょ?」


「もう、慣れましたから」


桔梗(ききょう)さん、すげえな。慣れるもんなんだ……


まぁ……最近は騒がしい方が、帰って来たと言う感じがするし。


婆ちゃんと二人きりだった頃が、(はる)か昔の様だ。



さて、桔梗(ききょう)さんばかりに負担を掛けさせられないので、僕も騒がしい居間へ乗り込むのであった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ