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龍神の花嫁 八俣遠呂智編(ヤマタノオロチ)  作者: 霜月 如(リハビリ中)
5章 常陸の大鯰(おおなまず) と 逆さハルカス
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5-04 麒麟の角

本来、東国三社と言われる様に、鹿島神宮と香取神宮の他、息栖神社という神社がございます。

しかしながら、今回の章の前半は、大鯰と建御雷神の話を主体に、物語を進めて居ますので、息栖神社は出て来ませんが、ご了承ください。



龍脈を出ると、平安神宮(へいあんじんぐう)は、入苑時間終了間際(まぎわ)だったため、人も(ほとん)()らず。


ダメ元で、管理している神職様に事情を話すと、(つの)尻尾(しっぽ)が見えたのか、龍神様ならば……と(こころよ)く入れてくれた。



中へ入ると――――――


とにかく広い!!



現地へ行けばすぐに()えると、簡単に考えて居たのだが……広すぎて片っ端に回るだけでも、数時間ではきかない広さだった。


「広れえなぁ。千尋(ちひろ)、待ち合わせ場所とかを、決めて置かなかったのかよ?」


「ん~直接連絡とった訳でなく、言伝(ことづて)だったからね。行けばわかるかなぁ程度に、考えて居たんだけど……少し甘かったわ」


「あの平安京(へいあんきょう)大内裏(だいだいり)を復元してますからね。広いはずです」


赤城(あかぎ)さんは、平安京(へいあんきょう)に行った事あるの?」


「昔、水龍の本元、貴船(きふね)に用事があって、何度か真上を飛んだ程度ですがね。直接歩いたのは、今回が初めてですよ」


実際歩いているのは僕だけどね。2龍は頭の上に乗ったままだし。



でもそうか、僕は龍脈移動しか出来ないけど、他の龍は風と雲を呼んで空が飛べるんだよね。その辺は、正直(うらや)ましい。


僕の場合、中に居る淤加美(おかみ)様と交代すれば、風を呼び飛ぶ事も出来るが、僕単体では風が呼べないのだ。

そのうち飛べるように成るさと言われたが、いつになる事やら……



さて、ここ平安神宮(へいあんじんぐう)は、敷地面積2万(つぼ)と言う広さであり。


地図を見て(もら)えば分かるが、現在の平安神宮(へいあんじんぐう)がある位置は、京の中心地から左京区である東へズレている。


その場所に、平安時代の天皇や皇族の寝所(しんじょ)である大内裏(だいだいり)を、皇紀2555年……西暦で言えば1895年の明治28年に、8分の5程度、縮小して復元したものが、現在の平安神宮(へいあんじんぐう)になるのだが……


思いっきり四方結界(しほうけっかい)の外にあるし。


本来なら、東側の青龍起点(せいりゅうきてん)がある八坂神社(やさかじんじゃ)の内側……つまり八坂神社(やさかじんじゃ)の西になければ意味が無いのに、結界の外へ飛び出してしまって居る為。今回の結界騒動が東にズレ、貴船神社(きふねじんじゃ)伏見稲荷大社(ふしみいなりたいしゃ)まで巻き込む騒ぎになり、僕ら龍神の目にとまったと言う事だ。


お陰で、陰陽師(おんみょうじ)達の(たくら)みは阻止(そし)できたので、結果オーライなんだけど……



これ……結界の意味無いな。



まぁ結界の外にあると言っても、現在の皇族は東京に()られて、京の大内裏(だいだいり)の復元である、平安神宮(へいあんじんぐう)には住まわれて()られない。


何より京の住民が無事で、本当に良かった。


結界はそのまま京を(まも)り続ければ良いのだから、京の中に対しては、全く意味のない結界と言う訳じゃ無いのだ。



さて、姿が見えれば声を掛けてくれるだろうと、彼方此方(あちこち)捜索(そうさく)をするが、なかなか知った顔に出会わない。


このままじゃ、宇迦之御霊(うかのみたま)様を待たせちゃう……そう思った時、セイが――――――


「おっ!? 猫が水吐いてる」


西の手水舎(ちょうずや)にある、水を吐いてる白虎(びゃっこ)の頭に乗りながら、ケラケラ笑って言うセイ。


「別に珍しくないだろ? 僕達水龍の像だって、手水舎(ちょうずや)で口から水吐いてるじゃないのさ」


それより白虎(びゃっこ)の頭から降りろ、罰当たりめ。


なかなか降りようとしない、セイを回収しようと手を伸ばすと――――――


「猫じゃねえ!! 白虎(びゃっこ)だって言ってるだろ!!」


横から現れた白虎(びゃっこ)君にセイが掴まれ、そのまま大空に向かってぶん投げられた。


「飛びましたね、千尋(ちひろ)さん。場外行くか?」


「いやいやいや、少し飛距離が足らないでしょう、赤城(あかぎ)さん」


赤城(あかぎ)さんと僕が、飛んで行ったセイを見ながら、解説(かいせつ)をする。



まぁ、そのうち戻って来るだろう。毎度の事なので、僕らも動じることは無い。



「こんばんは、新しい(あるじ)


「はい、こんばんは。ん? 白虎(びゃっこ)君、なんか変わった?」


「うん。主が変わったんで、着て居るものを現代風に合わせたんだ」



よく見ると、猫耳……もとい、白い虎耳なのは同じだが、短パンにTシャツと言う、小学生の高学年ぐらいかな? 男の子の格好が、幼めの顔にピッタリ合っていた。


このぐらいの年齢だと、2次性徴前だし。スカートを穿かせたら、男の娘として似合いそうではある。


いや、いかんいかん。強制はイカンな。


それに姿は幼くても、最低千年は生きてるんだし。僕よりずっと年上なのだ。


だいたい男の娘に萌えるなんて……僕は何を考えて……



白虎(びゃっこ)の像に頭を打ち付け、冷静さを取り戻そうとしていると――――――



「ち、千尋(ちひろ)さん……我の事……」


「ああああっ!! 頭の上の赤城(あかぎ)さんを忘れてた!! ごめん、大丈夫?」


僕の頭突きに潰れて、目を回す赤城(あかぎ)さんを慌てて介抱(かいほう)すると、いつの間にかギャラリーが増え――――――



「騒がしい(あるじ)様だな」


「こんなのが(あるじ)とか……考え直そうかな?」


「…………」


呆れて見ていた白虎(びゃっこ)君の隣に、3人の男の人が立っていたのだ。


白虎(びゃっこ)君ほどじゃないけど、幼顔の玄武(げんぶ)君……見た目は中学生ぐらいかな? 今回は亀の甲羅を背負っておらず、何処かの私立中学の制服といった、御堅い感じの服装をしていた。


その隣には、金髪の長髪でジーンズにタンクトップ、上着を指に引っ掛けて立っている20代中盤ぐらいのチャライお兄さんが……たぶん朱雀(すざく)だろう。


最後に無口だったのが、朱雀(すざく)と同じく20代中盤ぐらいの見た目で、長身で青っぽい短髪、伊達(だて)メガネを掛けた知的風の兄ちゃんが青龍(せいりゅう)だと思う、だって青龍(せいりゅう)の角があるし。



「みんな、こんばんは。結界の方はお疲れ様です」


「見に来るって言うから待ってたのに、なかなか来ないので、貴船(きふね)の龍の巫女へ連絡を頼みました」


玄武(げんぶ)君ごめんよぉ。急に用事が入っちゃって……これから(なまず)と一戦しなきゃならないんだ」


(なまず)? ですか?」


「うん、大きいヤツ……実は……」


これまでの経緯(いきさつ)を四聖獣に話すと――――――



「それで新しい(あるじ)を、麒麟(きりん)様が呼ばれた訳が分かりました」


「へ? そうなの?」


訳ってなんだろう……


終始はてなマークの付いた僕を、此方(こちら)に……と案内してくれる青龍(せいりゅう)



その後をついて移動しようとすると――――――


「俺を置いてい行くなぁ」


セイが走って追いかけて来て、そのまま僕によじ登り、頭の上の定位置に収まった。


「どこまで飛んだの?」


敷地(しきち)ギリギリで止まったから、ホームランは(まぬが)れたぞ」


息を切らせながら、頭の上にへたり込んだ。


「たまには自分で歩けば良いのに……」


「大丈夫。太らない体質だから」


「ダイエット知らずの女の子か!! また龍の身体が、ツチノコみたいになっても、知らないからな」



そんなアホな会話をしていると、案内してくれていた青龍(せいりゅう)が、大きな本殿の前で立ち止まる。


すると、その場所の地面のからヌラリと顔を出し、湧きだす様に麒麟(きりん)さんが(あら)われたのだ。



「よく来た。新しき結界の(あるじ)よ。今回は少し用事があって来て(もら)った」


「用事? あのぅ……今日はもう先約が……」


「その先約とやらにも、関係のある事だ」


麒麟(きりん)さんは、そう言って地面を(ひづめ)で叩くと、そこから一本の(つの)が現れた。


「これを持って行くがいい。雷を呼び寄せる(つの)だ。相手が土氣(どき)であるなら、効果は計り知れぬぞ」


「確かに土氣(どき)が相手なら、雷の木氣(もくき)相剋(そうこく)にあたりますし、効果抜群でしょうけど……これ、麒麟(きりん)さんの(つの)ですよね?」


よく見ると、麒麟(きりん)さんの頭に3本ある内の(ひたい)(つの)だけが、根元から折れて、左右2本だけに成っていた。


「お主との戦いで折れた(つの)だ。放って置けば()ちて行くだけだから、お主が使うといい」


「あわわ、ごめんなさい。すぐにコンビニで接着剤を……」


「おいおい、千尋(ちひろ)。接着剤でくっ付くのか?」


「くっ付くのは、くっ付く(はず)だけど……」



雷効果まで残るかは分からない。



「別に良い。無理にくっ付けようとしなくも、どうせ新しいのが生えてくるしな」


「そうなんだ……知らなかった」


「二度と生え替わらないタイプと、動物の鹿(しか)のように、()え替わるタイプと二種類居ますよ」


「じゃあさ、赤城(あかぎ)さん。僕ら龍族はどうなの?」


「まだ折れた事はありませんが、()え替わると聞いていますよ。ちなみに、雄の方が長くて太め。逆に雌は稍々(やや)短めで細いのです」


強度は多分、同じですけどねと続けた。



前に、一生懸命切ろうとした事があったが、()え替わるのでは無駄だったという事か……


あの時は、鉄ノコギリを使ったが、ノコ刃が全部飛んでしまったので、無理だと(あきら)めたけどね。



「では本当に頂戴(ちょうだい)しても、(よろ)しいのですか?」


「うむ、その為に呼んだのじゃからな。ただし、我が額にあった頃と違い、(つの)単体では1日に1発が限度だろう。全開で使うなら、2~3日は溜めた方が良い」



()を溜めるのに時間が掛かるのは、(つの)だけの状態だと、()が簡単に集まらんからと言っていた。


1日1発とはいえ、これから土氣(どき)大鯰(おおなまず)戦を考えると、とてもありがたい代物(しろもの)だ。


僕ら水龍には、基本水氣(すいき)しか操れないしね。



「ありがたく頂戴(ちょうだい)します」


「うむ、上手く用立ててくれ。用事と言うのはそれだけじゃ」


麒麟さんは、そう言うと傷が癒えるまで寝るわと、地面の底に沈んでいった。


雷を使うので忘れて居たが、麒麟さんの基本属性は土氣だったな。



「さて、麒麟様の話は終わったようなので、次はオレらの話よ」


朱雀が前に出てそう切り出した。


「何か必要なモノでも?」


「いや、そうじゃなくてよ……新しい契約内容はどうするんだ?」


「ん~別に縛ったりするのは無いし、京に住む人間に害する妖や悪霊なんかを退治してくれれば、何しても構わないよ。基本自由で良いから」


四聖獣の眼が点に成る。


「それだけ? もっとこう……鬼を見張れとか、そう言うのは無いのか?」


「無いね。そもそも、そう言う事は、この神佑地を管理する国津神がする事だし。京に入り込んだ妖だけ、何とかしてくれれば良いから。あとは人間に、四聖獣だと気が付かれない様、暮らして貰えば良いよ」


騒ぎにさえ成らなければ、基本どこに出かけても良いしね。



昔……と言っても、半年ほど前。


とある龍神が、盟約によって神社の敷地に縛られ、命を削られていた事があった。


その龍神の最後? を見て居た為。僕はもう盟約によって縛り付けられ、自由を奪うような事はしたくも無いし、見たくも無かったのだ。



「くっくっく、気に入ったぜ新しい主。これからも宜しくな」


朱雀が笑顔でそう言い、他の3聖獣も同意とばかりに頷く。


「こちらこそ、京の事はお願いね」


僕自身、北関東の国津神なので、京は離れてしまって居るが、人間を護りたいという気持ちは同じだから。


再契約も上手く行き、僕らは自由解散に成った処で、セイが――――――


「なあ、千尋。腹減らね?」


「昼は常陸牛のランチ食べたでしょ!」


「もう夕方だしぃ」


コノヤロウ……燃費悪すぎだぞ。



神格を失い、龍神としては終わったが、ただの龍として生き続けて居るのがコイツだ。


あれから食欲旺盛だし、死相も消えてるから大丈夫だと思うが……あの最後を看て居た僕としては、少し心配ではある。



「仕方ないなぁ。じゃあ、酒米運びを急いで片付けて、夕ご飯食べてから鹿島神宮へ行こう」


もう日も落ちて暗くなってしまったので、慌てて伏見稲荷大社の、宇迦之御霊様の御所へ龍脈移動をする。


宇迦之御霊様の御所へは、暗くなってから初めて入るが、狐火だろうか? そんな感じの炎が空中に浮いて漂っていた。



何とも言えない幻想的な風景に、見惚(みと)れて居ると――――――



「酒米の用意は出来ておるぞ」


平たい磐の上に腰を下ろす宇迦之御霊様が、隣に積み上げられた米俵を、手の平でポンポン叩きながら、笑顔でそう答えた。


遅れて来たので怒られると思ったのに、妙に上機嫌で居るのが、何だか逆に怖い。


「すみません。遅れてしまって……」


「それは気にして居らぬ。それより、あの稲荷寿司……御主の処の料理人が作ったそうじゃな?」


「えっと……作ったのは香住で間違いありませんが、料理人じゃなく、僕の幼馴染で素人なのですよ」


かなりの腕前だと思うけど、まだ学生だしね。


「その幼馴染。妾にくれぬか? 眷属でも良いぞ」


「ええっ!? こればかりは、本人に聞いてみないと……そもそも僕に所有権は無いし、香住の本業は学業ですからね。少なくも卒業までは無理だと思いますよ」


「そうかや……残念じゃのぅ」


この落胆の様子だと、かなりお気に入りの、味付けだったのだろう。


御機嫌ムードが一変して、お通夜ムードに突入した。


このままじゃ、酒米を持って行き辛いので――――――


「たまにで良ければ、香住に頼んで作って貰いましょうか?」


「なぬ!? 本当かや!?」


「はい。ただし、料理の無理強いはしませんよ。そう言うのも味に影響しますからね」


「なるほど、美味い方が良いからのぅ。それは了解した」



宇迦之御霊様の了承を得ると、早速僕らは瑞樹神社への龍脈を開き――――――


「さーて、雄龍達にも運んでもらうよ!」


「千尋一人じゃ、終わらないものな。仕方ねー」


「千尋さん任せてください! セイ龍より運んでやりますよ」


「ふははは、赤城ごときが……俺など3俵同時……あれ? 龍脈につっかえた」


「アホ~!! 一俵減らせよ!」


そうして、瑞樹神社の祭具がしまってある、倉庫に運び込み。数往復する頃には、倉庫がいっぱいい成って居た。


倉庫の外に出ると、香住が宇迦之御霊様に、稲荷寿司のお願いをされていた。


「宇迦之御霊様……結局着いて来ちゃったし……送って行く時間ありませんよ」


「いや、一晩泊めて貰おう。コンタとコンペイが、ほーむすてい? とか言うのを、やってる処とか見学させて貰う」


マジカ……


部屋は余っているけど、淤加美様と喧嘩するからなぁ。


『違うわい! 宇迦が突っ掛かって来るのじゃ!』


突然、淤加美様から念話が飛んでくる。


『宇迦之御霊様は、お客様なのですから、我慢してくださいね』


その後も、追い返せ! などガミガミ文句を言っていたが、時間が無いので聞かなかった事にしながら、宇迦之御霊様の案内を神使の桔梗さんに任せ、粛々と大鯰戦の用意をする。


ちょっと大き目のリュックに、潮が引いて水が無い事を考えて、いつもより大きい2リットルの水を3本入れ。龍玉2つと麒麟の角……それから着替えを詰めて、出来上がりだ。



そして香住が淵名さんの看病で、一緒に行けないからと、晩御飯の御握りを出してくれたので、それを食べてから香取神宮へと龍脈移動した。



「おい千尋。鹿島神宮じゃないのか?」


「ここ香取神宮にもね、大鯰を抑えてる要石があるんだよ」


「尻尾の方のヤツですね」


「そそ。その要石に、龍玉をセットして……と、これで良し。じゃあ鹿島神宮へ行くよ」


もう一度龍脈を開くと、直接に鹿島神宮の要石前に出る。


やはり、香取神宮と同じ様に、要石へ龍玉をセットすると、本殿へと向かう。



「おっ、龍神組が来たな」


「怖くて逃げたかと思ったぜ」


本殿前にて、万全の戦闘準備を終えた、天津麻羅様と尊さんがそう言ってくる。


「建御雷様と小鳥遊先輩は?」


「今、アンコウ汁を取りに行ってる。なんでも名物なんだとよ」


「出入りの業者が仕入れて来て、鍋にして煮てくれて居ったモノじゃ、作って居るところ見たら美味そうじゃったぞ」



「あちゃ~。時間的に、みんな夕ご飯済ませたと思って、御握り食べて来ちゃったよ」


「気にするな雨女、俺達も夕飯は済ませている。それとは別にアンコウ汁は、海底洞窟の中が寒いだろうから、温かいモノでも食べて行って欲しいと言う、宮司さんのお計らいだ」



そうなんだ。


昼間は温かいとはいえ10月だし、さすがに夜は冷えるからね。その御心遣いは感謝です。



「ちょっと質問なんですが……そのアンコウ汁を、()()小鳥遊先輩が取りに?」


僕の言葉に固まる尊さんと、何の事だか分からないと言った表情の天津麻羅様。


「ま、待て雨女……まさかそんな……料理するのじゃなく、取りに行っただけだぞ」


「その辺は、生まれて一番付き合いの長い、ご兄妹の尊さんが、よ~く分かってらっしゃるのでは?」


サーっと血の気が引いて行くのが見てわかるほど、尊さんの顔が真っ青になっていた。


「……ヤベエぞ! 雨女も来い!」


駆け出そうとした処で――――――


「何にもして無いわよ」


お盆に、アンコウ汁を装ったお椀をのせ、暗闇から姿を現す小鳥遊先輩がそう言った。


その後から、建御雷様と宮司さんが、お茶と御箸を持って現れる。



「ささ、皆様召しあがってください。夜の海底洞窟は冷えるでしょうから、地元の漁師さんから頂いたアンコウを煮込んだアンコウ汁で、身体を温めて行ってくださいね」



セイと赤城さんは大人サイズに戻ると、さっそくアンコウ汁を頂いて、ガツガツと凄い勢いで食べている、その姿を見た宮司さんが、目を丸くして驚いていた。



「すみません。行儀悪くて」


「いやはや、さすが龍神様。見事な食べっぷりですな。まだお代わりがありますから、持って来ましょう」


そう言ってお代わりを取りに行ってくれた。



巳緒も人型に戻って――――――


「美味しい。身体も温まる」


一定のリズムで、お椀の中身を掬い上げては、口の中へ放り込んでいる。


元が蛇なので、丸吞みなのか? 良く分からない。


「建よ、なんか……こう、一杯やりたくなるな」


「同感だ。だが呑むのは鯰を大人しくさせてからだぞ」


天津麻羅様と建御雷様が、御酒を呑みたそうに話している。良かった、建御雷様が良識ある方で。



その後、僕と先輩以外は、お代わりを続け、鍋が空になる頃にはみんな満腹に成って居た。



「まったく、腹八分目って言葉を、知らないんですか?」


「「「「「 知りませ~ん 」」」」」


駄目な神様達プラス尊さんが、声を揃えてそう言った。


これから戦闘で、走ったり跳ねたりするのに、腹いっぱいで大丈夫か?



宮司さんに、鍋を空にしてすみませんと謝ると、自分たちの分は別にとってあるので、心配は要りませんとの事。


ここまで支援して頂いたんだし、張り切らないとね。


僕らは一路、お昼に行った海辺の海底洞窟入口へ向かうと、既に潮が引いていて、今まで見えて居なかった入口がポッカリと口を開け、僕らを誘っていた。



「みんな用意は良い?」



僕の問いに、全員が頷いて答えて来た。まるで声を出したらマズイかの様に……


そんな緊張の中、僕達は大鯰の居る海底洞窟へと、踏み出すのだった。




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