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4-18 早良親王


とりあえず、華千院重道(かせんいんしげみち)を追って行った二人を待つことにして、淵名(ふちな)の龍神さんの治療を最優先して居たら、松尾大社(まつおたいしゃ)の駐車場に入ってくる(あかり)が一つ。


もしかして、銃声がしたとかで、警察を呼ばれちゃったかな?


警察官さんだとすると、血が付いた巫女装束(みこしょうぞく)は非常にマズイ。



どう言い訳するか考えて居ると――――――


「龍神様! 御無事ですか!?」


自転車を停めて、駆け寄って来るウチの学園の制服を着た女子1名……


巡回の警察官さんに、女子高生の制服を着る趣味が無ければ、あれはウチの学園の3年生。


只今、京を修学旅行中である、赤城の龍の巫女(みこ)神木志穂(かみきしほ)先輩であった。



神木(かみき)先輩じゃないですか!? どうしたんですか? こんな時間に」


千尋(ちひろ)様も御無事で……本当に良かったです」


様はヤメテって言うのに、やっぱりヤメテくれないのね……



「しかし先輩、良くここが分かりましたね」


「実は……昨晩と同じく、今夜も龍神様の御無事を確認しようと、瑞樹神社(みずきじんじゃ)へ電話したのですが……電話が一向に繋がらず。緊急用に教えて頂いた神使(しんし)桔梗(ききょう)さんへの、スマホに電話した処。襲撃があって固定電話が不通だった事を聞きまして……」


「それで心配になって、赤城(あかぎ)さんの事を聞いたわけですか?」


「はい。そうしたら、今松尾大社(まつおたいしゃ)に居ると言う事なので、ホテルの自転車を借りて駆け付けました」


宿泊先のホテルは、直ぐ近くなんですよ。と笑顔で答える神木(かみき)先輩に赤城(あかぎ)の龍神さんは――――――


(たわ)け! 下手をすれば、お前も巻き込まれるではないか! 弱い人間の(くせ)に、(われ)の心配をしようなど100年早いわ!」


「人間には寿命があるので、100年は(こま)ります……10年にまけて貰らえませんか?」


「まけてやらん! だから御主は大人しく、100年(われ)(まも)られて居れば良い」


「……はい」


何この……プロポーズみたいな……ちょっと良い雰囲気な展開。



僕はわざとらしく(せき)き込んでから――――――


「良い雰囲気な処……申し訳ないけど、一応怪我人……いや、怪我龍が居るんですよ」


「え? あっ!! 淵名(ふちな)の龍神様ではないですか!! この傷どうやって!?」


「えっと……話せば長くなるので……そもそも、この傷をつくった呪弾(じゅだん)のせいで、回復に苦労していますが、山は越えたので大丈夫でしょう」



あとは水氣(すいき)の強い場所に寝かせてやれば、朝には支障(ししょう)なく動き回れるぐらいに、回復していると思う。


神木(かみき)先輩は、僕の創った水の揺り籠(ゆりかご)を覗いていたが、急に何かを思い出した様に視線を上げると――――――


「そうだっ! 忘れる所でした!! 神使(しんし)桔梗(ききょう)さんから言伝(ことづて)が……こちらは全て片付きました。ですって……そう伝えて貰えれば、分かると言ってました……」


どうせ襲撃(しゅうげき)の事だろうけど、人間相手に負ける訳ないと思ってましたから。



神使(しんし)は、主人が不在の時、(やしろ)神佑地(しんゆうち)(まも)る際に限り、主人と同等の力を行使できる。


桔梗(ききょう)さんは、水龍と同じ水氣(すいき)(かに)ですからね。同じ水で相性もばっちりです。



保険……と言っては何だけど、海神(かいじん)豊玉姫(とよたまひめ)様と、その弟神の穂高見(ほだかみ)様も()られましたし。



()ずあの布陣で、瑞樹神社(みずきじんじゃ)陥落(かんらく)するとは思えない。(むし)ろ、攻めて来た人間の方に、黄泉(よみ)行が出ていないかの方が心配だ。



桔梗(ききょう)さんからの言伝(ことづて)は、確かに(うけたまわ)りました。それより神木(かみき)先輩。ロープとか持ってませんよね?」


「ロープは……残念ながらありませんね……お茶とコンビニの袋と懐中電灯ならありますけど」


それは先輩が宿泊先へ帰る時に、夜道を照らしてください。



「ん? コンビニの袋? 先輩、それ貰えませんか?」


「構いませんよ。来る途中のコンビニで、トイレを借りた時に、飲み物を買っただけですから」



「では、早速ですみませんが、赤城(あかぎ)さんに袋を渡してもらえますか? 僕は淵名(ふちな)の龍神さんを抱えて居て、手が離せないので」


「しかと受け取りましたが……千尋(ちひろ)さんこれで何を?」


「その袋に、呪弾(じゅだん)の撃てる銃を全部回収してください。一度、西園寺(さいおんじ)さんに見て貰わねばなりませんから、北関東へ持ち帰りです」


「分かりました。しかし、この人間どもはどうします?」


「投降者達は、(しばる)る物も無いですし、好きに帰って頂きましょう」


「このまま(とが)めも無く、帰すのですか?」



赤城(あかぎ)さんとしては、このまま帰すのが面白くないのだろう。何せ撃たれたのは、元姉の淵名(ふちな)さんなのだから。



赤城(あかぎ)さんの気持ちは分かりますが、末端(まったん)を潰しても意味ありませんから。しかし必ず(つぐな)いはさせます。黒幕は、龍神に手を出した事を後悔するでしょう」



出来れば、黒幕の華千院本家(かせんいんほんけ)へ行って暴れても良いのだが、そんな事をしても出雲(いずも)神議(かむはか)りに掛けられるだけだしね。



やるなら分からぬ様に……そして、最大限の効果を出すやり方でないとね。


そう……龍神には龍神のやり方があるのだ。



家を潰すだけなら簡単。龍脈を閉じればいい。



龍脈に流れる、()の流れって言うのは、何も生命エネルギーだけではないのだ。



運気も一気に落ち、食べ物は腐りやすく、庭の植木(うえき)は枯れ、池の鯉は全部死に()える。作物も育たないだろうね。勿論(もちろん)、自然の()が無くなるので、風水(ふうすい)と密接な関係の陰陽術(おんみょうじゅつ)も発動しなくなるだろう。


その地に居る全てのモノの寿命が、一気に落ちて無くなる。ありとあらゆるモノに氣が回らなくなり、死地と化す……ある意味最強のライフラインである。



夏休みに淤加美(おかみ)様の修業で、砂漠へ放置された時。龍脈を引いて緑化(りょくか)をし、その地に雨を降らせた。死地を生地にかえたわけだが、その逆をやってしまえば、簡単に死地へと化すのだ。



『あのな……千尋(ちひろ)。お主は簡単にやってのけて居るが、一度死地と化した土地を緑化(りょくか)し再生するのは、生半可(なまはんか)では無いのじゃぞ』


『僕に言わせれば、淤加美(おかみ)様達……古神様の方が、大雨による洪水など、天変地異(てんぺんちい)を起こすので、その方が何倍も凄いと思いますけど?』


『はぁぁ……まったく、この希少種(きしょうしゅ)め……(わらわ)の子孫ながら恐ろしい奴じゃ』


淤加美(おかみ)様に、念話で溜息をつかれてしまった。


水も(ろく)に無い貴船(きふね)山中で、大渦潮(メイルシュトローム)を発生させるような(かた)に言われたくありません。



だいたい僕の場合、自分で水を生成(せいせい)出来ないので、大量の水なんかは、どっかから持って来なくちゃならないし。そんな状態で洪水なんて、僕には到底無理ですからね。


その代わり、ペットボトルの少量の水を使い、色々小細工を(ろう)している内に、淤加美(おかみ)様達……古神とは別のベクトルで、危険極(きけんきわ)まりない術が、いくつも出来上がっている。


とても対人戦では、危なくて使えないわな。



話は戻るが、龍脈を閉じれば間違いなく数年。早ければ今年中には、更地(さらち)に成るだろう。それが龍の怒りを買うと言うものだ。



(いくら)ら貸店舗の経営者が変わっても、必ず潰れる様な店は、もしかしたら龍脈が閉じているのかも知れません。



まあ店舗とは違い、普通の家なら引っ越せば済むが、千年近くもその地で繁栄してきた華千院(かせんいん)家が、そう簡単に引っ越しなど出来ようか? いやできる筈はずが無い。


栄光を築いた土地と、一緒に没落(ぼつらく)するのも良し。死地を捨て、他の地でやり直すのも良い。



やり直す場合、他に()(あふ)れる様な土地があればの話だが……そういう()充実(じゅじつ)した所は、(すで)神社仏閣(じんじゃぶっかく)が建ってるので、無理だろうけどね。


これでも神話時代の神罰(しんばつ)を見て居れば、優しいモノだと思うよ。洪水(こうずい)だの、山津波(やまつなみ)(土石流)だの、地震(じしん)だの、噴火(ふんか)だの、そんな大それたモノだと、大勢が被害に()うし。


龍脈の閉鎖(へいさ)なら、ピンポイントで一軒だけに(しぼ)れるしね。



銃を回収した後。末端(まったん)で、ただ命令に(したが)っただけの投降(とうこう)者達に、邪魔だから帰って良いと言ったら、何もされない事に拍子抜(ひょうしぬ)けな顔で、(しば)らくポカンとしていた。


その後、(ようや)く自分たちが(ゆる)された事を知り、仲間同士で顔を見合わせて居たが、少しずつ後づ去りして、背中を気にしながら闇の中へ消えて行った。


そんなに気にしなくも、背中から(おそ)わないってば……


(はな)から逃がす気がなければ、帰れなんて言う前に、黄泉(よみ)行だったわさ。



とりあえず、人間達を帰した事を、セイ達へ伝えようと念話回線を開けると――――――


『セイ? そっちの様子はどう? 香住(かすみ)は無事?』


『…………千尋(ちひろ)か? いや……それがな……香住(かすみ)嬢ちゃんは無事なんだが……何て言ったら……』


『なんだよセイ、奥歯(おくば)に物が(はさ)まったような言い方だな』


『まあ、その……なんだ……とりあえず合流するわ』


『だったら、白虎(びゃっこ)の居る庭園の方へ来てよ、そろそろ酔いも()めるだろうから』



庭園で逢う約束をして、セイとの念話を切り。赤城(あかぎ)さん達はどうするか聞いてみた――――――


志穂(しほ)のヤツを、宿まで送って行きたいのですが……」


赤城(あかぎ)さんは、顔を(しか)(なが)ら、街の方へ視線を送る。


「あ~、絶賛(ぜっさん)暴走中(ぼうそうちゅう)四方結界(しほうけっかい)かぁ。(ゆる)めるまでは、人間じゃ無ければ街へは入れませんものね」



先輩を一人で帰して、先程逃がしたばかりの黒装束(くろしょうぞく)達に捕まっても困るので、盟約主(めいやくぬし)変更手続きまでは一緒に居ようと言う事になり、一緒に庭園の方へ移動すると――――――



「おお、やっと来たか。猫の小僧が暴れ回りおっての」


「猫じゃねええ!! 虎だと何度言ったら分かりやがる!!」


怒鳴り散らす白虎(びゃっこ)だが、そこは大山咋神(おおやまくいのかみ)様。簡単に押さえつけているではないか。


さすが山の神であり、農耕(のうこう)醸造(じょうぞう)の神でもある為、腕っぷしが強い。


白虎(びゃっこ)を押さえて貰って居るのは良いのですが、肝心(かんじん)盟約主(めいやくぬし)変更の陣が書ける千平(せんだいら)さんが見当たらない。


「あれ? 大山咋神(おおやまくいのかみ)様。千平(せんだいら)さんを見ませんでしたか?」


「ん? あの人間なら(くわや)へ行くとか言って()ったぞ」


何だトイレか……戻ってきたら直ぐにでも盟約主(めいやくぬし)を変更してもらおう。怪我をしている淵名(ふちな)さんを、出来るだけ早く水氣(すいき)の強い場所で休ませてあげたいし。



「おい! 山神(やまがみ)のオッサン! 逃げないから、いい加減押さえるのはやめてくれよ」


白虎(びゃっこ)懇願(こんがん)に、大山咋神(おおやまくいのかみ)様がどうするか? と視線を送って来るので、放してあげてくださいと(うなず)く。



「さすがの白虎(びゃっこ)君も、大山咋神(おおやまくいのかみ)様には敵わないか」


僕の言葉を聞いて、首を擦りながら白虎(びゃっこ)が立ち上がると――――――


「だいたい、まだお前を認めたわけじゃ無いからな。こんな(だま)()ちみたいな事をして……納得できねーっての!」


マズイな……千平(せんだいら)さんの話だと、納得がいかない場合は、クーリングオフされるって言ってたし。途中で契約破棄されて、結界が壊れたりしたら、張り直しがきかないし。


今じゃ失われた呪法(じゅほう)だって話だものね。



「成る程……じゃあ、白虎(びゃっこ)君はどうしたら納得する?」


「そうだなぁ……また追いかけっこと言うのも……図体がデカイだけの、龍に勝ち目は無いだろうし」


フェアな状態で戦って負けたなら、納得がいくって訳か。



「ねえ、僕と腕相撲してみる?」


「はぁ? 龍と腕力勝負で、勝てるわけ無いだろ!」


「でもほら……僕は(おす)と違って(めす)だからさ、力も(おす)龍ほど無いだろうし。それに元々運動は苦手なんだ……その辺を考慮すれば、良い勝負になると思うんだけどなぁ」


そう言いながら、チラチラ横目で白虎(びゃっこ)を見ると――――――


「そこまで言うなら、良いぜ! だが、後々文句言うのは無しだ! 1回限りの大勝負だ!!」


白虎(びゃっこ)は、平らな(いわ)を見つけて肘を置くと、僕が反対側へ来るのを待つ。



「ちょっ! 千尋(ちひろ)さん大丈夫なんですか? (いく)ら龍神でも千尋(ちひろ)さんは成り立てだし、可憐(かれん)(めす)龍なんですよ!」


(あわ)てている赤城(あかぎ)の龍神さんに、淵名(ふちな)さんが寝ている、水の揺り籠(ゆりかご)(たく)すと――――――


「大丈夫です。成る様になりますから」


そう答えて、白虎(びゃっこ)(こぶし)を組む。



ならば、(わし)審判(しんぱん)をしてやろう。と大山咋神(おおやまくいのかみ)様が、組んだ(こぶし)の上に手を乗せて――――――


「開始の合図はどうする? 3、2、1で開始で良いか?」


「じゃあ、それで良いです」


レディ・ゴーなんて舶来語(はくらいご)は知らないだろうしね。



「おい! ちょっと待て、1と同時か? 1を言った後か?」


慌てて開始を止める白虎(びゃっこ)だが、どっちでも変わらないってば……


「僕は、どっちでも良いし……ん~それじゃ、1と同時で」



そしてカウントダウンが始まり…………1と同時に凄い力が僕の(こぶし)に掛かるが、さすが若いとはいえ白虎(びゃっこ)である。


凄い腕力だ。


でも、どうしてだか……どうも、力が抜けたり入ったり、不安定な感じになっている。


そんな白虎(びゃっこ)の顔を見てみると、白虎(びゃっこ)の視線が組み合った(こぶし)に行ってなくて、他の部分に行っているのだ。


この視線……僕の胸を見ているな?


悲しい(おす)(さが)ってヤツだ。


お陰で(すき)だらけであり、力が(ゆる)んだ瞬間を狙って、一気に(こぶし)を押し倒した。


「ああああ!! 今の無し!! 余所見(よそみ)をして居たんだから、もう一回だ!!」


どこ見てたんだよ、エロ白虎(びゃっこ)め。


無効試合だと騒ぎ立てる白虎(びゃっこ)に、大山咋神(おおやまくいのかみ)様が――――――


小僧(こぞう)……文句なしの一回限りだと言ったよな? それを反故(ほご)にするとは、男らしくないぞ」


「え? いや……その……」


大山咋神(おおやまくいのかみ)様に正論で攻められて、(ちぢ)こまる白虎(びゃっこ)に――――――


白虎(びゃっこ)君、良いから鼻血を()いて、ほらポケットティッシュあげるから」


僕に言われて、初めて自分が鼻血を出している事に、気が付いたらしい。


こればかりは、(おす)なら仕方ないわな。まだ見た目が若いしね。



本当はティッシュを鼻へ捻じ込まず、寝かせるのが良いってテレビでやってたけど。何か()めて置かないと、これから儀式するのに、服に鼻血が付いちゃうもの。


術で止血しても良いけど、白虎(びゃっこ)君が()れだけ純情では、また直ぐに鼻血が出ちゃうだろうし、それを思えば詰めティッシュの方が良いよね。


僕は、(いわ)に座らせた白虎(びゃっこ)君の鼻の穴へ、丸めたティッシュを()める。



「ごめんね白虎(びゃっこ)君。僕と契約するなんて嫌だよね……」


ティッシュを()める手を休めずに、そう言うと――――――


「…………別に……嫌じゃねーし」


「本当? 良かったぁ。(ことわ)られたら、どうしようかと思っちゃった」



嬉しくて笑顔で答えたら、恥ずかしそうに、指で頬を掻きながら横を向く白虎(びゃっこ)君。


急に横を向かれたので、ティッシュがちゃん鼻に入ったかを確認する為に、前かがみになったら……白虎(びゃっこ)君の反対側の鼻からも、鼻血が出てしまったのだ。



え? まさかどっか(やぶ)れて、肌が剥き出しになってるとか……無いよね?


(あわ)てて巫女装束(みこしょうぞく)を確認するが、どこも(やぶ)れていなかった。


それもその(はず)。今回は呪弾(じゅだん)を跳ね返しただけで、まともに戦闘してないし。



肌が露出してないのに、谷間だけで鼻血だなんて……


白虎(びゃっこ)君……キミ純情(じゅんじょう)すぎるよ。


でもまぁ、セイ辺りは。千尋(ちひろ)……お前、分かってねーなぁ。とか言いそうだ……彼奴(あいつ)エロ龍だし。



仕方がない……両方の鼻の穴が、ティッシュで埋まってしまうけど、(しば)らくは口呼吸をして貰おう。


そんな純情な白虎(びゃっこ)君の両方の鼻に、ティッシュを()じ込んでいると、拍手(はくしゅ)をしながら現れる千平(せんだいら)さん。


タイミング良すぎだっちゅうの。



「さすが龍神様ですね。これで白虎(びゃっこ)も文句無しに、盟約主(めいやくぬし)変更へ応じるでしょう」


千平(せんだいら)さんこそ長いトイレですね。さぞ弥生(やよい)さんも心配されるでしょう?」


弥生(やよい)? 誰ですかそれ?」


引っ掛からんか……声からして、千平(せんだいら)さんの正体が、神農原真(かのはらまこと)さんかと思ったんだけどなぁ。婚約者の名前……霧積弥生(きりづみやよい)さんに反応するかと、(かま)をかけてみたのだが……上手く行かなかったようだ。



いつもの様に、千平(せんだいら)さんが地面に描いた陰陽五芒(おんみょうごぼう)の陣に血を一滴たらすと、盟約主(めいやくぬし)変更は(とどこお)りなく終了した。


「お疲れさまでした。すべて終わりましたので、四聖獣に結界の緩和(かんわ)を命令をしてみてください」


僕は念話で四聖獣に呼び掛けて、結界を徐々に緩和(かんわ)するようにと命令した。



「昔の状態まで(ゆる)まるのに、どのくらい掛かるんでしょうか?」


「やっぱり半日は掛かりそうですよね。こればかりは仕方ありません。さて、そろそろ私も帰りますね」


そう言って身体を(ほぐ)す為に、関節(かんせつ)()ばしている千平(せんだいら)さんに――――――



貴方(あなた)の目的は一体? 何のメリットがあるんですか?」


「……メリットですか? ん~そうですねぇ。一時的に目的が一致(いっち)したので、手を御貸(おか)しただけです」


「一致した目的って……」


「それは内緒ですよ。此処(ここ)で教えたら、折角(せっかく)どちらにもメリットがあって、平和に終わる(はず)なのが、台無しになってしまいますからね」


千平(せんだいら)さんはそう言ってウィンクをする。


このウィンク……どこか……あっ! 有村(ありむら)君にそっくりだ! やっぱり有村(ありむら)君の叔父(おじ)である、神農原(かのはら)(まこと)さんなんじゃ!?


そう思った時には、また逢いましょうと台詞(せりふ)を残し、闇の中へ走り去ってしまった。



僕が千平(せんだいら)さんが消えた闇の空間を凝視(ぎょうし)していると、入れ違いで誰かがやって来た。



「あれ? セイじゃないのさ? 今まで何……を……え?」


セイは背中に担いだ荷物を、目の前の地面に放り出すと――――――


「これが念話で上手く言えなかったモノだ」


そう言って、パンツ一枚に衣服(いふく)()かれた華千院(かせんいん)重道(しげみち)が、ロープで(かめ)甲羅(こうら)を見立てた様な……特殊(とくしゅ)(しば)り方をされて(ころ)がされていた。


その後ろで、顔を赤くして視線を()らす香住(かすみ)が居る。


何と言うか……とても貴重(きちょう)な顔だ。もう一生見られないかも?



「セイ……やり過ぎだぞ!」


「いやいやいや、俺じゃねー。着いた時にはこの状態で、竹林(ちくりん)の中に転がされてたんだ」


「まぁ……香住(かすみ)が、こんなマニアックな(しば)り方しないだろうし」


「当たり前でしょ!! 一発ぶん殴ってやろうと思ったら、もうこの状態だったのよ」


じゃあいったい誰が? 犯人を考えていると、華千院(かせんいん)重道(しげみち)が何か言いたそうに、ウーウー(うな)っているので、猿轡(さるぐつわ)()いてやると――――――


「ぷはぁ! 今のが神農原(かのはら)(まこと)だ!!」


「今のって、お前を(かつ)いでいる時に、俺達とすれ違った野郎か?」


「そうだっ!! あの偽安倍(あべの)晴明(せいめい)め! 不意打ちとは卑怯(ひきょう)な!! いきなり背後から襲われて、(しば)られたんだぞ!! (ゆる)せん!!」


華千院(かせんいん)重道(しげみち)の言葉を聞いて、疑念(ぎねん)確信(かくしん)に変わる。


「やっぱり神農原真(かのはらまこと)……晴明(はるあき)さんだったか……」


「どうすんだ千尋(ちひろ)? 追うか?」


「……いや、盟約主(めいやくぬし)変更とか、色々()りが出来たからね。今回は見逃してチャラにするさ」


セイにそう言ってから、次に逢う時は(てき)同士ですよ。と心の中で(つぶ)いた。



やっと京の(けん)が全部片付いたと、安堵(あんど)溜息(ためいき)をつくが――――――


突然、強烈(きょうれつ)なプレッシャーに包まれる。


此処(ここ)だけじゃない! 京の街全体が(ふる)え、もの凄い霊気を放っていた。


「ちょっと! 白虎(びゃっこ)君! どうなってるの?」


盟約主(めいやくぬし)変更が終わって、青年から少年に姿を戻した白虎(びゃっこ)君に、事の次第(しだい)を聞いてみた。


「鼻が(ふさ)がってて、匂いが分からないけど……これは結界のせいじゃないよ。でも……この霊気……覚えがある」



そこへ口を(はさ)むように、華千院重道(かせんいんしげみち)が――――――


「そりゃあ、四聖獣(しせいじゅう)は覚えがあるだろうさ。何せこの霊気の主を、京に入れない為に、四方結界(しほうけっかい)を張られたのだからな」


「この霊気の主って……いったい……」


「知りたければ教えてやろう。霊気の主は……日本で最恐(さいきょう)怨霊(おんりょう)と言われ、800年には富士山を噴火させ、大勢の大和(やまと)の民を死なせた……その名を」



―――――――――― 早 良 親 王(さわらしんのう) ――――――――――



冗談じゃないぞ……何で次から次へと……



京の東のはずれから、空へ向かって、黒い何かが上がっているのが見え。



それは、これから起こる(わざわ)いの前兆(ぜんちょう)であるかのように、僕達に見せつけて居る様であった。




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