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4-15 瑞樹の地、防衛戦


お昼休みに、有村(ありむら)君が知らせてくれた、陰陽師(おんみょうじ)の警告を聞いた後。


セイが、北関東の陰陽師(おんみょうじ)を倒してから龍脈移動した方が、後顧(こうこ)(うれい)いが無くていいんじゃないか? と言ってきたが、それは有村(ありむら)君に否定されてしまった。


何故(なぜ)なら、瑞樹千尋(みずきちひろ)が京に現れ、何らかの儀式……おそらく白虎(びゃっこ)の結界の事だろう、それを邪魔をしたならば、ゴーサインを出すとの事。


つまり僕が北関東に居る限り、襲撃どころか、姿を現さないって事なので、それでは瑞樹神社(ウチ)で待つだけ無駄である。


それに僕が行かないと、盟約主(めいやくぬし)変更の手続きが出来ないしね。


襲撃の事は、北関東に残った者達を信用するしかない。



僕達……龍族と香住(かすみ)巳緒(みお)は、日が落ちるのを待って、京にある松尾大社(まつおたいしゃ)へ、龍脈で移動していた。


なぜ松尾大社(まつおたいしゃ)かと言うと、例の不思議な力で、オロチである巳緒(みお)が地図を指差したからであり、それ以外の根拠は全くない。



だが、松尾大社(まつおたいしゃ)四神相応(ししんそうおう)の地に建てられた神社であり、全部が当てずっぽうという訳でもないのだ。


松尾大社(まつおたいしゃ)は、701年に建てられており、平安京(へいあんきょう)が出来る前の、平城京(へいじょうきょう)を造って遷都(せんと)を考えて居る時には、すでに京の地に建てられていた計算に成る程、京で最古の神社なのだ。


そのぐらい古く由緒ある神社なのだが……



「本当にこんな凄い氣の神社に、白虎(びゃっこ)が居るのか?」


セイが氣を感じながら、周りを見渡してそう言った。



「それは捜してみないと分からないよ。じゃあ、お(さら)いする。今回の討伐目標は白虎(びゃっこ)金氣(きんき)の属性を持っている為、弱点は火であるが……子狐ちゃんズが留守に回ったため、火氣(かき)が使えるモノは居ない」


襲撃の事を話したら、子狐ちゃんズは残って(やしろ)を護ると言ってくれたのだ。


そのかわり、京の結界が戻ったら、いの一番に伏見稲荷大社(ふしみいなりたいしゃ)へ連れて行くと、約束してある。


子狐達も決して弱くはないのだが、相手が元四神(ししん)白虎(びゃっこ)だと、子狐達では荷が重すぎだ。


そういう意味では、北関東に残って正解だったかもね。



千尋(ちひろ)ぉー。そのレクチャー何度目だ?」


「そうよ! 女は度胸! 出た処勝負よ」


お前ら……人が折角色々調べて来たって言うのに、セイだけでなく、香住(かすみ)まで……


僕が溜息をついたところで、周りの虫がの声が止まっている事に気が付いた。



御出(おいで)でなすったか!?」


千尋(ちひろ)さんは後ろを!」


通常サイズに成った。セイと赤城の龍神さんが前に出て、僕と香住(かすみ)を庇うような陣形を組む。


だが、出て来たのは白虎(びゃっこ)ではなく――――――


紙で出来た、人の形をした形代(かたしろ)だった。



今晩(こんばん)は、瑞樹(みずき)諸君(しょくん)。もう松尾大社(まつおたいしゃ)だと当たりを付けるなんて、さすが龍神ですね。しかし、これ以上我々の計画を邪魔されたくないのでね。一つ保険を掛けさせてもらった』


「保険? (おど)しの間違いじゃ?」


『ほう、誰から聞いたかは知らないが、話が早い。今すぐに北関東へ戻るなら何もしないが、我々の邪魔をしようと言うのなら……君たちの親しい人が、命を落とす事に成る』


「ふざけないで!! 私はねぇ、そうやって自分の手を(よご)さずに居る、あんたをぶん殴りに来たのよ」


『おやおや威勢のいいお嬢さんだ。高月香住(たかつきかすみ)君かな? 巻き込まれた御両親は、どう思うのかね?』


「くっ! あんたらが巻き込んで置いて……」


今にも形代(かたしろ)を粉々に破きそうな勢いの、香住(かすみ)を手で制して止めると――――――



「僕達は(おど)しには屈しません。その代わり、龍神に喧嘩(けんか)を売った代償は、払ってもらいますから」


『……交渉決裂(こうしょうけつれつ)か……まあ、関東の陰陽師(おんみょうじ)には、今から命を下すので、あなた方……龍神の龍脈移動なら、まだ間に合うかも知れませんよ。考えが変わったら急いで帰ってください。では……』



一方的に言い終わると、紙の形代(かたしろ)が急にポンっと(はじ)けて、紙吹雪(かみふぶき)に成って散った。


その紙吹雪(かみふぶき)を見ながら悔しそうに唇をかむ香住(かすみ)に――――――


香住(かすみ)……大丈夫? なんなら香住(かすみ)だけでも北関東へ……」


「大丈夫よ。向こうには先輩が居るもの……」


そうは言うものの、内心では両親を護りに行きたい筈なのだ。


だがそんな気持ちを押し殺し。香住(かすみ)は、親玉を(つぶ)す方が早いと、残る事を決めた。


そうと決まれば、早い処終わらせちゃった方が良い。


僕らは(はるか)か東の、瑞樹(みずき)の地に残った家族を想いながら、白虎(びゃっこ)捜索を開始するのだった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




ちょうどその頃、北関東では……


斎藤(さいとう)正哉(まさや)の家の周りに、黒装束の集団が集まっていた。


「京の本家からメールで、GOサインが出た」


「よし、まだ10代の少年で、可哀想ではあるが……仕方がない」


黒装束たちは、それぞれ(ふところ)から光物を出すと、正哉(まさや)の家に押し入ろうとして――――――



「その薄汚い足を、斎藤(さいとう)君の家の敷地に入れるのは、我慢なりませんわ」


その黒装束たち背後に、赤い酸漿(かがち)の眼をした鴻上千鶴(こうがみちづる)が立っていた。


「この娘! いつの間に!?」


「今夜は姿を(いつわ)る、カラーコンタクトも要りませんわね。だって……みんな死ぬのですから……」


そう言って瞬きをする間も与えずに、黒装束の2人を毒の爪で()き飛ばす。


直ぐ治療が出来る者が駆け付けるが――――――


「なんだこの毒!? 一向に回復しないぞ!!」


「馬鹿な!?」


鴻上千鶴(こうがみちづる)は、黒装束達を切り裂いた時に、爪へと付いた血を(なめ)めながら――――――


「簡単には殺しませんわ、じわじわと時間をかけて、斎藤(さいとう)君に手を出した事を後悔しながら死んで逝くと良い……ただし、今すぐ引いて病院へ駆けこむなら、助かるかも知れませんわね」


そう言って、慈悲(じひ)の心も見せる鴻上千鶴(こうがみちづる)


「この化け物め!!」


「接近戦はマズイ! 不動明王(ふどうみょうおう)の火炎術で遠巻きに焼き尽くせ!!」


全員が札と独鈷杵(どっこしょ)を出すと、不動明王(ふどうみょうおう)真言(しんごん)を唱え始めた。


南莫(ナウマク) 三満多(サンマンタ) 嚩日囉(バサラ)赧憾(タンカン)!!」


「「「「「「 ()!! 」」」」」」


札に乗った沢山の炎が、鴻上千鶴(こうがみちづる)を包み込むが、鴻上千鶴(こうがみちづる)本人は炎の中で笑みを浮かべていた。


「所詮人間の術では、この程度ですわね……」


鴻上千鶴(こうがみちづる)は、蛇の鱗で創った黒い服すら無傷のまま、炎の中からゆっくりと歩みを進め、足の爪先で地面をコンコンと叩くと、黒装束たちの真下の地面が直径十数センチの円錐(えんすい)状に持ちあがり、何十もの円錐(えんすい)の岩が黒装束たちを貫いた。


オロチの持つ土氣(どき)の術だ。


どれも、即死はしないよう、急所は外されてはいるが、はっきり言って生殺し状態である。


「だから引けって忠告しましたのに……」


鴻上千鶴(こうがみちづる)は、痛みに苦しむ黒装束を着た陰陽師(おんみょうじ)リーダー格の真横に(かがむ)むと、傷口に爪を立てて。


「痛い? ねえ、痛いですか? 神経が敏感になる毒もありますのよ……もっとも、この傷で神経を敏感にしたら、ショック死でしょうがね。では聞きますが、救急車を呼びますか?」


聞くまでも無く、見てからに重傷なのだが、わざわざ言わせようとする所が、さすが残忍(ざんにん)なオロチである。


そんな(すき)だらけの鴻上千鶴(こうがみちづる)の後ろで、独鈷杵(どっこしょ)を構えて突進してくる黒装束が一人いたのだが、そちらは急に現れたダンプカーに跳ね飛ばされて吹っ飛んで行った。


鴻上千鶴(こうがみちづる)が、正哉(まさや)の家の2階の窓を見上げると、窓の内側に張り付いた、ニヤリと笑う座敷童(ざしきわらし)の姿が見て取れた。


「ちっ! 余計な事を……」


本来なら、肉片も残さずに細かくして、行方不明で終わらせようと思っていたのに……


ダンプまで事故に遭ったのなら、通報しない訳に行ない。 何故なら車は細切(こまぎ)れにしても、土に()えすのは難しいからだ。


仕方なく応急手当をしてやり、警察と病院へ、匿名(とくめい)で電話を掛けるのだった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




一方……正哉(まさや)の家から、数百メートル程、街とは逆方向の山手方面へ行った場所……


高月香住(たかつきかすみ)の実家の前では――――――



「なんだあの小娘。俺達の使う真言(しんごん)より数段上だぞ」


「どうなってる!? くそ!! 我らの陰陽道(おんみょうどう)が負けるはずが無いだろう!!」


そんな事を口走る陰陽師(おんんみょうじ)達に、小鳥遊緑(たかなしみどり)は――――――


「あなた達、陰陽師(おんみょうじ)が古神道と密教の二足(にそく)草鞋(わらじ)()いている間に、こっちは密教(みっきょう)だけを重点的に修業できるのよ、同じ真言(しんごん)でも差が出て当然じゃないのよ!!」


そう言って、陰陽師(おんみょうじ)達が放った帝釈天(たいしゃくてん)の雷撃を、付与した(むち)で叩き落とす。


「こんな強い法術師が、瑞樹(みずき)側に居るなんて聞いてないぞ!!」


「京の情報部は何をやってる!?」



慌てふためく陰陽師(おんみょうじ)達に小鳥遊緑(たかなしみどり)は――――――


「ふんっ! 私を瑞樹(みずき)側の戦力から外すなんて、良い度胸じゃない! 良いわ……密教(みっきょう)神髄(しんずい)を見せてあげる」


小鳥遊緑(たかなしみどり)は、そう言って三鈷杵(さんこしょ)を取り出すと、ゆっくり先端から(てのひら)を横に動かしていく、まるで炎が生えたかのように、三鈷杵(さんこしょ)から炎の刃が出て来るではないか!?



「なんだアレ!?」


「いや、聞いた事がある。不動明王(ふどうみょうおう)が持つ炎の剣の事を……確か甘栗(あまくり)…………」


俱利伽羅剣(くりからけん)よ!! クリしか合ってないじゃないの!!」


律儀(りちぎ)にツッコミを入れてやるが、内心は仏道(ぶつどう)をないがしろにする陰陽師(おんみょうじ)にムカついていた。



「だったら火氣(かき)には水氣(すいき)!! 水天真言(すいてんしんごん)を……」


陰陽師(おんみょうじ)達は、水天真言(すいてんしんごん)を発動しようとして、失敗に終わっていたのだ。


「なぜ、水天真言(すいてんしんごん)が発動しない!?」


「当たり前でしょ、ここは水神(すいじん)の龍が()瑞樹(みずき)神佑地(しんゆうち)よ。その水神(すいじん)に喧嘩を売って置いて、水氣(すいき)の術が発動するわけ無いでしょ」


そう人間の使う術は、神や仏が使うモノと違い。力を借りて放っているに過ぎない。


力を貸してくれる神に喧嘩を売って置いて、力を貸してくれも何も、ある訳無いのだ。



「クソ!! ならば早九字(はやくじ)で……(りん)(ぴょう)(とう)……」


早九字(はやくじ)を唱え始めた陰陽師(おんみょうじ)の背中に回り、肩に手を置いて――――――


「させると思う? 私は小さい頃から(あやかし)が見えていてね。修行も実戦も、ずっとやって来ているのよ。臨機応変に対処する事なんか、手慣れたものなの」


修業の本当の理由は、行方不明に成った、ある人を助けたかった……ただ()れだけだけど……(かつ)て出来なかった歯痒(はがゆ)さを、後輩達に味合わせたくない。


だからこそ私は――――――この地を……あの子たちが帰って来る、この場所を護るのよ!



小鳥遊緑(たかなしみどり)は、陰陽師(おんみょうじ)の持っていた独鈷杵(どっこしょ)を、俱利伽羅剣(くりからけん)で溶かし斬ると――――――


「私の歳は若く見えても、貴方達とは実戦の場数が違うの……そんな私を戦力外? ふふっ、笑っちゃうわね。貴方達は今日という日を、一生忘れなくなるまで焼いてあげるわ、毛根まで綺麗にね」


優しく(ささや)くように(つぶ)くと、陰陽師(おんみょうじ)はガタガタと震えだした。


その後も、陰陽師(おんみょうじ)達の術を(ことごと)凌駕(りょうが)し、力の差を見せつけ、プライドをズタズタにした後。


一応人間を殺すのはマズイと思い。全員を弱の帝釈天(たいしゃくてん)の電撃で気絶させた。


そして服を全部燃やして、全裸にしてから、警察に電話する。



「痛みつけないだけ感謝しなさい。たぶん神社へ上った者は、もっと酷い目にあってるだろうから……」


そう言って、高月香住(たかつきかすみ)の実家の、目と鼻の先にある石段の上を見上げると、神社を照らすライトが消えて居るのが見て取れた。


「馬鹿ね……神社を護る人外相手に、電源を落として暗闇にした程度で、肝を冷やす訳などないのに……」


たぶん電源を落とすのは、何処(どこ)か外国の軍隊とかのセオリーなのだろうけど、それは人間に対して有効であって、人外に効くとは限らないのだ。逆に暗闇の方が、力が増す人外も居るのに……


こればかりは、(あやかし)との実戦経験がモノを言うわね。


まあ、約束通り高月(たかつき)さんの家は無事だし、私は帰って寝よっと。


そう独り言を(つぶや)いて、実家のお寺がある、山手の方へと歩いて行くのだった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




(ところ)変わって、瑞樹神社(みずきじんじゃ)境内(けいだい)では――――――


本日で一番多い、襲撃人数が(やしろ)へ押し寄せていたのだが、(すで)に倒れて治療中の陰陽師(おんみょうじ)は、二桁に成っていた。


満月には一歩(およ)ばない、月明かりの中で、腕だけ人化を解いた神使(しんし)桔梗(ききょう)が、5人ほど出て戦っていた。


「どうなってやがる!! 幻術かと思いきや、全部に実態があるぞ!!」


「クソ!! 誰でも良い、突破して瑞樹千尋(みずきちひろ)の祖母を拉致(らち)するんだ!!」



「そのような事を、(まも)りを(あず)かる神使(しんし)の私が、させる訳ないでしょう!!」


神使(しんし)桔梗(ききょう)、5人の内の1人が、瞬間移動したかのように消えて、強行突破しようとしている陰陽師(おんみょうじ)の前に現れると、そのまま(かに)(はさみ)を叩きつける。


叩きつけられた陰陽師(おんみょうじ)は、境内をすべる様に吹っ飛ぶと、他の陰陽師(おんみょうじ)に向かって桔梗(ききょう)が――――――――


(はさみ)()の部分を使わない様、言われた我が(あるじ)に感謝しなさい。さもなければ今ので仲間の胴体が二つに増えてましたよ……最も、切れずとも骨の数本が折れるのは、否めませんがね。さあ……痛い思いをしてみたい人間から前に出なさい!!」


桔梗(ききょう)は、そう言いながらも、真横一列の陣形のまま、ゆっくり歩み出る。



「あの(はさみ)……硬てぇ」


「さっき、早九字(はやくじ)も弾いたぞ!」



動揺(どうよう)が見える陰陽師(おんみょうじ)達に向かって桔梗(ききょう)は――――――


「私は帰れなんて言いませんよ。せっかく来て下さいましたのですから、精一杯の御もてなしは、させていただきます」


桔梗(ききょう)はそう言って、また一人の陰陽師へ、手厚い御もてなしをして、(はさみ)を叩き込み吹っ飛ばす。



すると直ぐに、陰陽師の治療が出来るモノが、吹っ飛ばされた仲間に、治療の術を掛けている。


「いったいどれが実態なんだ?」


「答えをお教えしましょうか? 正解は全部が実態(じったい)であり、全部が現身(うつしみ)です」


そう……(あるじ)である千尋(ちひろ)の幻術をヒントに、ここの神社に流れている沢山の川の水を使って、水の人形を創り出し、それに本物そっくりの姿を映したのである。


もちろん水で出来た人形は自在に動かす事が出来る為、実態はあるが、本物ではない。


7体は創れると思っていたのだが、やはり修業不足は(いな)めなかった。


自分の不甲斐無(ふがいな)さに、肩を(すぼ)めるて居ると、向かってくる陰陽師(おんみょうじ)に水人形が自動で迎撃(げいげき)に移るのだが、そこにもう一人の陰陽師(おんみょうじ)が札を出して――――――


因陀羅耶 莎訶(いんだらや そばか)!!」


水人形に帝釈天(たいしゃくてん)の雷撃を浴びせたのだ。


元々素材が水なので、そのまま地面にアースされて電撃が流れるだけで、ノーダメージである。


水人形なので痛みも感じませんしね。


そのまま、何事も無かったかのように、(はさみ)を叩きつける水人形。


「これで重傷者が、更に増えました。この神社を襲ったことを後悔なさい!」


そう言って歩みを進める桔梗(ききょう)の背後から――――――



「おい……電源を落としたのは……どいつじゃ?」


地の底から聞こえてくるようなドスの聞いた声で出て来たのは、神器(じんぎ)である海神の槍(かいじんのやり)を持った豊玉姫(とよたまひめ)であった。


豊玉(とよたま)様。お客様なのですから、中に居てくださいまし」


「電源を落としたのは、誰じゃと聞いて()る!! もう少しでゲームクリアじゃったものを……ネットが切れてしまったではないか!! もう(ゆる)せん!!」


そう言って、海神の槍(かいじんのやり)(かか)げると、此処(ここ)は内陸の海なし県の(はず)なのに、境内(けいだい)が突然、海水のドームに包まれたのだ。


もちろん海水の中でも、(かに)神使(しんし)である桔梗(ききょう)は無事であったが、人間である陰陽師(おんみょうじ)は、水中で呼吸出来ないので、同じにはいかない。


空気を求め、海面へ向かって上がって行くが、果たして息が続くでしょうか?


だが重い装備や、水を吸った衣服(いふく)のせいか、思ったより浮力(ふりょく)を得られずに、海面へ今一歩届かず、力尽き(おぼ)れて沈んで来る陰陽師(おんみょうじ)達。


海神(かいじん)として名高い、豊玉姫(とよたまひめ)様を怒らせれば、そうなるのは必至(ひっし)


豊玉姫(とよたまひめ)は、汚いモノでも見るかのような冷たい瞳で、溺れた陰陽師(おんみょうじ)達を(さげす)むと、そのままトイレの水を流すかの様に、鳥居(とりい)のある石段の方へ海水と一緒に陰陽師(おんみょうじ)達を押し流したのだ。


「ふうっ、これで境内(けいだい)は綺麗になったな。神使(しんし)桔梗(ききょう)殿。電源を直せるかや?」


「いえ、私には……あっ! でも、千尋(ちひろ)様の御祖母様なら直せると思います」


「そうか、では頼んでみよう」


そう言って、玄関の中へ入って行ってしまった。



これが古神(こしん)様の御力ですか……力の差を見せつけられてしまいましたね。


桔梗(ききょう)は髪から(したた)る水滴を指で弾くと、そのまま指先を舐める。


「塩辛い! 裏の畑は塩害(えんがい)で全滅かも知れません……」


町までは包み込んでなかったので、他の畑は大丈夫でしょうが……境内(けいだい)の周辺は塩害(えんがい)かも……千尋(ちひろ)様か淤加美神(おかみのかみ)様にでも浄化雨を頼んでみましょう。


本当は、もっと試したい(かに)(あわ)術とかあったのですが、術を使う相手が流された後では、試しようがありませんね。


神使(しんし)桔梗(ききょう)は、そう(つぶ)いてから、玄関へ入って行った。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




一方、裏の山から攻めてくる陰陽師(おんみょうじ)には、灰色狼(はいいろおおかみ)荒神(あらがみ)ことハロちゃんと、子狐ちゃんズのコンビが当たっていた。



『最近出番が無くてな、久しぶりに暴れられると思いきや、なんだこの弱い奴らは……』


火達磨(ひだるま)になって、地面を転がり回る陰陽師(おんみょうじ)達に向かい、大きく欠伸(あくび)をする。


「ハロ先生が強すぎるんですよ」


同じく狐火(きつねび)を出して、陰陽師(おんみょうじ)達を火達磨(ひだるま)にしている子狐ちゃんズ


ハロとは違い単発ではあるが、確実に火達磨(ひだるま)にしていた。



「なんだこの犬と狐は! 近づくと火達磨(ひだるま)にされるぞ」


「おい、こっちに水の術をくれ!!」


「それが……さっきから水の術が発動しないんだ」


「どう言う事だ? 手持ちの水筒はもう空なんだぞ!」



そう騒いでいる陰陽師(おんみょうじ)達にハロが――――――


『馬鹿な人間め。水神の怒りを買ったんだ、そんなお前達に、水が使える訳がなかろう……それに、我は犬では無い!! 狼の荒神(あらがみ)である!!』


そう怒鳴(どな)って、広範囲の炎のブレスを浴びせてやる。



「ぎゃああああ」


火を消したくて、地面を転がり回り、手の空いてる者が、服などで叩いて火を消している。


「このままじゃ、みんな焼け死にます。撤退を!!」


そうリーダー格の男に進言する、サブリーダー的存在。


「……仕方がない。撤退する!! 負傷者を(かつ)ぐ者を先頭にして、無傷の者は殿で追撃を防げ」


リーダー格はそう指示すると、負傷者を優先的に逃がすよう、一番先頭にして、撤退を開始した。



「ハロ先生、どうします?」


子狐達が狼のハロに指示を(あお)ぐと――――――


『放って置け……我々の目的は、千尋(ちひろ)殿の留守中に(やしろ)(まも)る事。敵の殲滅(せんめつ)が目的ではない』


そう子狐達に言って、裏の山中から(やしろ)に向かって、帰って行くのだった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




一方、瑞樹神社(みずきじんじゃ)の滝へ流れ込んでいる。頂上の龍神湖(りゅうじんこ)では……


黒装束(くろしょうぞく)の2人組が、陰陽師(おんみょうじ)達の襲撃(しゅうげき)が失敗した時用の、バックアッププランを進行中であった。



「この一度崩れて、崩壊寸前だった場所に、大量のプラスチック爆弾を仕掛ければ……」


(もろ)修復箇所(しゅうふくかしょ)ごと吹っ飛んで、下流域は全滅ですね!」


「そう言う事だ。俺達は痛い思いもせずに、此処(ここ)から水を流すだけで、手柄(てがら)を上げられるって寸法よ」


「さすが兄貴、何処(どこ)までも着いて行きますぜ」


「はっはっは! お前も悪よのぅ……て、さっきからエンジン音がうるせーな!!」


「兄貴!! ウシロ―!!」


「あん?」


振り返ると、一台のバイクのタイヤが目の前に迫っていた。


「あにきいいい!! 大丈夫っすか?」


顔にタイヤの跡がはっきりと着いた、黒装束(くろしょうぞく)陰陽師(おんみょうじ)がぐったりと気絶している処に――――――


「いや~済まない。人間が居るとは思わなくてさ」


ヘルメットを取ると……その眼は、鴻上千鶴(こうがみちづる)同様、赤く光る酸漿(かがち)の眼であった。



「兄貴に何て事をしやがるんだ!!」


そう叫ぶ人間を、更に赤みを増して光る酸漿(かがち)眼で(にら)むと――――――


「そういうお前は、何をしようとして居たんだ?」


「兄貴とオレっちは此処(ここ)を爆破して、下流域の瑞樹神社(みずきじんじゃ)ごと、町を土石流で崩壊させてやるのよ」


「町を崩壊ね……そいつは困るなぁ……寿司屋の親方や、大工の棟梁(とうりょう)には世話に成ってるし……何より自分たちは安全な場所から、高みの見物って言うのが気に食わねえ」


「お前は一体……」


「オレか? 下衆(げす)に名乗るのも勿体無(もったいな)いが、知りたいなら冥土(めいど)土産(みやげ)に聞かせてやる。俺の名は八俣壱郎(やまたいちろう)。北からやって来たオロチの片割(かたわれ)れさ」


名乗りながらバイクをスタンドで固定すると、皮のライダースーツ姿で陰陽師(おんみょうじ)の前に立つ。



「お、オロチだって? 馬鹿な……」


(ちな)みに、資格はガテン系の(ほとん)どを取得し、今は寿司屋でバイトをしながら握りの修業をしている」


「そんな八岐大蛇(やまたのおろち)が居るか!! 馬鹿にしやがって……オレっちが、このボタンを押すと、下流域は全滅だぞ!!」


「そんなに押したきゃ押してみるがいい」


(おど)しじゃないぞ!!」


「良いから押してみろ!!」


「くそ!! 押してやる!! あれ? あれ?」


ボタンをカチカチ何度も連射するが、ぜんぜん反応がないのだ。


「悪いな、さっきバイクではねた時に、信管(しんかん)は抜かせてもらったぜ」


オロチの壱郎(いちろう)はそう言って、抜いた信管(しんかん)を見せる。


「いつの間に!?」


「さっきも言ったが、ガテン系の資格は殆ど取ってるんでな、発破技士(はっぱぎし)も取得済みで、爆薬の(あつか)いもお手の物だ」


いざ取って見たら、土氣(どき)の術のが使えるので、壱郎(いちろう)にとっては名前だけの資格に成りつつあるのだが、人間と一緒に暮らすなら、色んな事が必要になって来る。



「くっ、ならばオレっちが、直接火をつけてやるよ!!」


そう叫び声をあげて、火を持って爆薬に突進しようとしたので、手に持ったヘルメットを投げて昏倒(こんとう)させた。


「火炎術も使えないなんて……かなり下っ端か? まぁ……馬鹿は何をやらかすか分からないので怖いぜ」


その気絶して伸びた二人を、龍神湖(りゅうじんこ)(ほとり)に縛り上げて、爆破魔です! と書いた紙を張りつけ放置し、壱郎(いちろう)はそのまま夜の街へと向かい、龍神湖(りゅうじんこ)をバイクで下って行ったのだった。



瑞樹(みずき)側の負傷者はゼロ。


陰陽師(おんみょうじ)側の負傷者82パーセント、他5パーセントが公然猥褻(こうぜんわいせつ)で逮捕。1パーセント未満が無許可の爆薬所持で逮捕。


負傷者の内、重傷者が52パーセントと成り、如何(いか)に神殺しならぬ、神脅(かみおど)しが大変かと言う事を物語った結果となった。


(さいわ)い、龍神の慈悲(じひ)もあったためか、死者は出ていない。




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